私訳・源氏物語

私訳・源氏物語

PR

プロフィール

佐久耶此花4989

佐久耶此花4989

カレンダー

バックナンバー

November , 2025
October , 2025
September , 2025
August , 2025
July , 2025
June , 2025
May , 2025
April , 2025
March , 2025
February , 2025

キーワードサーチ

▼キーワード検索

February 19, 2012
XML
カテゴリ: 源氏物語

明石入道は、今まで願っていたことが何とか叶ったような心地がして、
胸がすっきりしました。

源氏の君は翌日の昼、岡辺に居る明石入道の娘に御文を遣ります。

入道の話によると、こちらが気恥かしいほどの奥ゆかしい様子ですので
『都あたりよりもこのような田舎の人目に付かぬ隅にこそ、
思いがけぬ女人がひっそり籠っているのかもしれぬ』と気遣いなさって、
高麗の胡桃色の紙にひどく注意して、

「をちこちも 知らぬ雲井にながめわび かすめし宿の 木ずゑをぞとふ

(都を遠く離れ、あちらもこちらも未来さえも分からぬまま物思いに沈んでおります私の
もとに、父君があなたさまのことを話してくださいましたので、御文を差し上げます)

とても堪え切れずに」

とだけ書いてあったようです。

入道は岡辺の家に来て、密かに娘への御文を待っていましたので、
予想が的中したことを喜び御文の御使を酔わせるほど歓待します。

ところが娘からの御返事はなかなかありません。
入道が催促してみるのですが、言う事を聞かないのです。

源氏の君からの御文は気後れするほどの有様で、御返事しようにも
気恥かしく遠慮されて、ただ自分との隔たりばかりが大きく感じられます。

娘は「気分が悪くて」と、物に寄り伏してしまいました。
入道もどうしたものかと困りはて、自分で御返事を書いてしまいます。

「あなたさまからの御文をこのような田舎びた袂に包むには、
余りあるほどたいそう勿体ない事でございまする。
今まで見た事もない畏れ多さに、どうも拝見いたしかねまして。

ながむらむ 同じ雲井をながむるは 思ひもおなじ 思ひなるらん

(あなたさまがご覧になる空を、娘も同じ思いで眺めていることと存じまする)

と、私は拝見いたしまする。
出家の身でありながらこのような御返事を書きますのは、
ひどく好き好きしいことでございましょうか」

と、御返事申し上げました。

無粋な陸奥国紙に、ひどく古めかしい筆跡で書いてあるのですが、
それもどこか由緒ありげなのです。

『なるほど、色めいていることよ』と、源氏の君はたいしたものだとお思いになります。

入道からは御文の御使いに、すばらしい裳などを掛け与えたのでした。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  March 5, 2017 10:25:19 PM
[源氏物語] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: