私訳・源氏物語

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June 8, 2012
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カテゴリ: 源氏物語

藤壺入道は、前の斎宮の入内について熱心にご催促なさいます。

入内のための細かなお世話をなさる御後見もなく、
源氏の大臣は『どうしたものやら』とお思いになります。

朱雀院が前の斎宮をご所望あそばされたことに遠慮なさって、
斎宮を二条院にお引き取り申すことも思いとどまり、
ひたすら知らぬ顔をしていらっしゃるのですが、
入内のお支度のほとんどは親代わりに源氏の大臣がなさいます。

院はたいそう残念にお思いあそばされて、
世間体もありますので御文なども絶えていたのですが、
入内当日になって言うに言われぬご立派な御装束の数々、御櫛の箱、乱れ箱、
香壺の箱など、どれもこれもみごとな品々ばかりをお贈りになります。

種々の御薫香では特に薫衣香、百歩以上匂いそうな百歩香を、
心を籠めて調えさせておいででした。

『源氏の内大臣がこれらの品々をご覧になるかもしれぬから』
と、かねてから熟慮のうえでお調えになられたのでしょう。
いかにもわざとらしく仰々しいのです。

ちょうど源氏の殿も斎宮邸にお渡りでしたので、
女別当が「このような品々が」とお目にかけます。

御櫛の箱の一方をご覧になると、限りなく精巧でうつくしく、珍しい作りです。

差櫛の箱の造花には、

「わかれ路に 添へし小櫛をかことにて はるけき中と 神やいさめし

(あなたさまが伊勢に下向なさった折、「再び都には帰り給うな」と
御髪に挿し添えた小櫛のせいで、神は私たちの仲をお禁めになったのでしょうか)」

と書いてありました。

源氏の大臣は、朱雀院の御心をひどくもったいなく、お気の毒にお思いになります。

ままならぬ恋にはついむきになっておしまいになるご自分の身に引き替えて
考えてみますと、

『かつて斎宮が伊勢にお下りになった折には、
朱雀院が御心内で斎宮を愛おしくお思いでいらっしゃった。

そうして年月が経って斎宮が帰京なさり、
ご自分の思いを遂げられる日がやってきたのに遂げられぬとは、
いかにお思いであろうか。

御位を去り、平穏に暮らしていらしては、さぞかし世を恨めしくお思いであろう』

そして、もしご自分が同じ立場なら『きっと気持が動揺することであろう』と
お思い続けになると、ひどくお気の毒で、

『どうして私は朱雀院から斎宮を取り上げて入内させるというひどい事を思いついて、
院を悩ませるのだろうか。

須磨に下った折には、朱雀院を恨めしく思ったものだが、
一方では慕わしく柔和なご性質でいらっしゃるのに』

などあれこれ思い悩み、暫くはじっと考え込んでいらっしゃるのでした。






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最終更新日  March 5, 2017 09:52:16 PM
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