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こんなふうに多くの絵を集めていらっしゃるとお聞きになった権中納言は、
軸、表紙、紐の飾りなどの意匠や細工に工夫を凝らします。
三月の十日ころですので、空はうららかで人の気持ちもゆったりと良い季節な上に、
宮中での節会もなく暇ですので、御二方の女御はこのような事をなさって
過ごしていらっしゃいます。
源氏の大臣は、
『同じように絵を競うなら、帝がお楽しみになれるような形でお目にかけたいものだ』
とお思いつきになって、たいそう多くの絵巻物を集めて斎宮の女御の御許へ参じました。
斎宮の女御、弘徽殿女御とそれぞれに多くの絵が集まりました。
絵物語は繊細で人の心を惹きつけるところが勝っていますが、
梅壺にお住いの斎宮の女御は、
古物語の中でも有名で由緒ある物ばかりを集めていらっしゃいます。
弘徽殿女御は、
当世に目新しくおもしろそうなものだけを選んで描かせていらっしゃいますので、
見た目の当世風な華やかさではたいそう勝っているのです。
帝にお仕えする女房たちも教養のある趣味人はみな、
「これは、あれは」と絵の品定めをし合って過ごしています。
藤壺中宮も内裏にいらっしゃるころでしたので、あれこれ絵をご覧になると心惹かれて、
仏道の御行いも疎かにおなりです。
藤壺中宮は女房たちがそれぞれに絵を論評するのを聞し召して、
女房たちを左右にお分けになります。
左の梅壺の御方には平内侍のすけ、侍従の内侍、少将の命婦、
右の弘徽殿方には大貮の内侍のすけ、中将の命婦、兵衛の命婦というふうに、
いずれもみな奥ゆかしい物識りたちですので、
それぞれの言い分を面白くお聞きになります。
先ず右方は物語の元祖である「竹取物語」に対して、
左方は「宇津保物語」の俊蔭を合せて、絵の優劣を争います。
左の梅壺方は、
「なよ竹の物語はすでに見古されてしまったお話で、
今さら興味深いところもありませんが、かぐや姫はこの世の濁りにも汚されず、
帝からのお召しにも応じずに遠く月の世界に上った宿縁には気高いものがあります。
もともとは神世の話ですから、
教養のない女が見てもこの絵の良さは分からぬことでしょう」
と言います。