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冬になるにつれ大井川のほとりの邸は心細さがつのり、
頼りなく不安な気持ちのまま毎日を過ごしています。源氏の大臣も、
「これ以上ここで過ごすわけにはいくまい。二条院の東院へ移る決心をなさい」
とお勧めになるのですが、あちらへ行って冷たいお仕打ちを受け、
辛い思いをしたからといって「いかに言いてか(泣く事もできないわ)」と、
決心がつきません。
「私には思うところがあるのだから、
姫君をいつまでも大井に留め置くのはもったいないのです。
対の人が以前から姫君の噂を聞いて逢いたがっていますから、
しばらく預けて、袴着の儀式なども盛大に行いたいと思うのですよ」
と、真剣にお話しになります。
明石の女君は、いつかはそうなる事と覚悟していたのですが、
胸のつぶれる思いがしました。
『養女として貴い身分になったとしても、身分の低い生母のことを人が漏れ聞いたならば、
きっとお困りになるのでございましょう』
と思うと、姫君を手放し難いのです。それは道理ではあるのですが、
「『継子扱いされて辛い思いをするのでは』とお疑いになってはいけませんよ。
あなたより年上ですが可愛い子もなくて寂しく思っていますので、
あまりお歳の違わない前の斎宮女御さえ、自分の養女になさったほどです。
ましてこのように幼く可愛らしい姫君ではありませんか。
ほんとうに子ども好きな人なのですよ」
と、紫の女君が理想的な母親であることをお話しになります。