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年が改まり、藤壺の宮の一周忌も過ぎました。
喪服の色も改まり、衣更えの季節ということもあって華やかなのですが、
それにもまして賀茂の祭りの頃になると空の気色が気持よく、
朝顔の姫宮は亡き父・桃園式部卿の宮を偲び、所在なくお庭を眺めていらっしゃいます。
御前の桂の下風がゆかしいにつけても、若い女房たちは
姫宮が斎院でいらした頃のことを思い出していますと、
ちょうど折よく源氏の大殿(おおいとの)より、
「今年の御禊の日は、のどかにお過ごしかと存じますが」
と御消息文が届きました。そして、
「御禊の今日は、
かけきやは 川瀬の波もたちかへり 君が御禊の ふぢのやつれを
(あなたさまが賀茂の斎院となられたときは、父宮が薨去なすって喪に服すことなど、
思いもかけないことでございました)」
と、紫の紙に、恋文ではなく普通の書状のように書いて、藤の花につけてあります。
折も折でしたので、朝顔の姫宮はお返事をなさいます。
「ふぢ衣 着しは昨日と思ふまに 今日はみそぎの 瀬にかはる世を
(父宮の薨去で喪服を着ましたのは昨日とばかり思っておりましたが、
今日はもう除服のみそぎをする日になってしまいました。
時の移り変わりは、速いものでございます)
はかなく」
とだけ書いてありますのを、いつものようにじっと見ていらっしゃいます。
除服の際にも女房の宣旨のもとに『朝顔の姫宮のおん為に』と、
置き所のないほどたくさんの御衣装をお贈りになります。朝顔の姫宮は
「まるで深い関係があるようで、何だかとてもみっともないわ」
とおっしゃるのですが、
『気を引くような懸想文などがこの御衣装に添えられてあったなら、
何とかしてお召料をお返しもしようけれど、
今までも表向きのお見舞いとしてはいつも差し上げてきたのですもの。
真面目な御文に対して、どういう口実でお返ししたらいいのかしら』
と、宣旨は困っているようなのです。