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新年の朝はすっかり晴れ渡ったうららかさです。
人数にも入らぬ身分の者の垣根の内にさえ雪の間に若草が色づき始め、
春を待ちかねて漂う霞に木の芽もけむり、自ずと人の心も伸びやかに見えます。
まして六条院の玉のようなお邸は、お庭から始まり何から何までが見事で、
その上きれいに磨きあげられたおん方々のお住いのご様子は、
とても言葉に表せないほどです。
春の御殿のお庭は格別見事で、梅の香りが御簾の内の薫物の匂いに混じって、
まるでこの世の浄土のようです。
紫の上は源氏の大殿の北の方でいらっしゃいますので、
さすがに打ち解けて、ゆったりと暮らしていらっしゃいます。
若くきれいな女房たちを明石の姫君附きにとお選びになりましたので、
お傍にお仕えするのは少し年嵩の者たちばかりなのですが、
それが反って奥ゆかしいのです。
衣装や立ち居振る舞いの感じが良いのがあちらこちらに集まって、
長寿のお祝いをしています。
その上鏡餅まで取り寄せて、千歳の繁栄の祝い事をして戯れていますところへ、
源氏の大殿がお部屋をお覗きになりましたので、
女房たちは慌てて懐手を引き出して行儀を整えながら、
「まあ、みっともないところを」
と、互いにきまり悪がっています。
「自分たちの祝いごとにしてはたいそう大袈裟だね。
皆それぞれ思う所があるのだろう。少し教えてくれないか。私が祝ってあげるから」
とお笑いになるご様子を、年の初めの栄えと拝見します。
女房たちの中で『我こそは』とうぬぼれている中将の君が、
「我が君の千歳の繁栄は『かねてぞ見ゆる』と、鏡餅に話していたのでございます。
私どもの願い事など、とんでもございません」
と申し上げます。