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とはいえ男踏歌は、高巾子(こうこじ)の世離れした恰好や騒がしく馬鹿馬鹿しい寿詞、
それを勿体ぶって執り行うもので、とても面白いものではありません。
踏歌の人々は、恒例の綿を祝儀に頂戴して退出しました。
すっかり夜が明けてしまいましたので、おん方々もお部屋にお帰りになりました。
源氏の大殿は少しお寝みになって、昼頃お起きになります。
「中将の声は、辨の少将になかなか負けてはいませんね。
今は不思議なほど芸能の名手たちが輩出する時世なのでしょうか。
昔の人は、学問の面では当世より勝っていたようですが、
風流な趣味という点では勝っているとは言えないでしょうね。
私は中将を『生真面目な朝廷人にしよう。私のような愚かしい遊び好きにはするまい』
と思いましたが、やはり心のどこかには、いくらか遊び心を持つべきでしょうね。
表向き取り澄まして生真面目一方なだけでは、心が狭いように思います」
と、たいそう満足にお思いなのです。
「万春楽(ばんすらく)」をお謡いになって、
「女君達がこちらにお集まりになったこの機会に、
楽器の音色を合わせたいものですね。私的な小宴を開きましょう」
と仰せになり、うつくしい袋の中に仕舞っておかれた弦楽器の数々をみな引き出して、
ご自身で塵を押し拭い、緩んだ絃を整えさせなどなさいます。
おん方々はそのお積りで心の用意をなさりながら、
緊張していらっしゃるようでございます。