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近頃世間の笑い草として「内大臣殿の近江の姫君」の事が折に触れて噂されますのを、
源氏の大臣が聞し召し、
「理由はどうあれ、人目に触れるはずのない田舎に引き籠っていた女子を、
確たる証拠もなしに引きとり、人前に出して噂の種にされるなど、
私には理解できませんね。
内大臣は何事もはっきりと白黒をお付けになる性格でいらっしゃるあまりに、
深い事情を探らないまま表沙汰にして、
気に入らぬとなるとこうして中途半端なお扱いをなさるのであろう。
何事も扱い方次第で穏便にすむものなのに」
と、近江の姫を気の毒がっていらっしゃいます。
それにつけても玉鬘の姫君は、
『私は本当に幸運だったのね。
実の親とは申し上げてもご性格も存知あげないのだから、
そのままお傍に参上したら、恥をかきに行くようなものだもの』
と思い知りますので、右近も源氏の大殿のご厚意をたいそう詳しくお教え申すのでした。
鬱陶しい恋心こそ困りものではありますが、
そうかといって強引なお振る舞いはなさらず、
以前にも増して深いご愛情が感じられますので、
姫君もしだいに心を開き、打ち解けなさいます。
秋になりました。
初風が涼しく吹き出して「せこが衣」もうら寂しい心地がなさいますので、
堪え切れずに頻々と姫君のお部屋にお渡りになり、
御琴をお教えになりながら日が暮れるまでお過ごしになります。
五日六日の月は早くに西の山に入りますので、
少し曇った空の気色や荻の葉のそよぐ音も、趣のある時節になりました。
源氏の大殿は御琴を枕にして玉鬘の姫君とご一緒に横になっていらっしゃいます。
『ただ添い臥しているだけの男女の仲というものが、世の中にあるものやら』
と、ため息をおつきになりながら夜更かしなさるのですが、
人目をお考えになって帰ろうとなさいます。
お庭の篝火が少し消えかかっているのにお気付きになり、
右近の大夫を召して灯をつけさせなさいます。