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たいそう涼しげな鑓水のほとりに、
地面に這うように枝を広げた趣ある檀の木があります。
その下に小さく篝火を置いてお部屋から遠ざけましたので、たいそう涼しくなりました。
風情のある篝火の明かりに玉鬘の姫君をご覧になりますと
たいそううつくしく、見ごたえがあるのです。
御髪の手触りはひんやりと品の良い感じで、
打ち解けず恥ずかしげな様子はとても可愛らしいので、
お帰りになり難くぐずぐずしていらしゃいます。
「誰か番をして、篝火の火を絶やすなよ。
月のない残暑のころは、庭に明かりがないと暗くて気味が悪いからね」
と、お供の者にお命じになります。
「篝火に たちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬ ほのほなりけれ
(篝火と一緒に立ち上る煙こそ、私の想い。篝火は消えたとしても、
世の限りいつまでも消えないあなたへの恋の炎なのです)
いつまで耐え忍べというのでしょう。蚊遣のようにくすぶるならまだしも、
人目を忍ぶ恋は苦しいものですね」
と申し上げます。
姫君が、
「行へなき 空に消ちてよ篝火の たよりにたぐふ けぶりとならば
(あなたさまの御心があの篝火の煙とおっしゃるならば、
行方も知れない空に、どうか消えてくださいませ)
人に怪しまれますもの」
と困惑していらっしゃいますので、
「それでは帰るとするか」
とお出ましになりますと、
東の対から筝の琴に吹き合わせて面白い笛の音が聞こえてきました。
「中将がいつもの仲間と遊んでいるようですね。
笛は内大臣の子息・頭中将でしょうか。たいそう技巧的な音色ですな」
と、立ち留まって聞いていらっしゃいます。