私訳・源氏物語

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September 12, 2014
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カテゴリ: 源氏物語

それを聞し召した春宮は、明石女御を通して女三宮にお話しになりましたので、
猫を春宮にさし上げられたのでした。

「ほんに、たいそうかわいらしい猫ですこと」

と、女房たちが興じますので、衛門の督は

『さては春宮が猫を所望なさったのだな』

と見て取り、数日の後に参上なさいました。

衛門の督が幼少の折から、朱雀院がとりわけ目をおかけになって
お使いでいらっしゃいましたので、御山籠りなさいましてからは
こちらの春宮にも親しくお仕え申し上げているのでした。

今日も和琴などをお教え申し上げるとて参上なさって、

「たくさんの御猫が集まっていますね。六条院で見かけたあの猫は、
どこにいるでしょうか」

と探してお見つけになりますと、たいそう愛らしいのでかき撫でています。
春宮も、

「ほんにこの猫は可愛らしい様子をしているね。
私に懐かないのは、人見知りしているからであろうか。
ここにいる猫たちも、特に見劣りすることはありませんが」

と仰せですので、

「猫はめったに人見知りをしないものですが、
利口な猫は思慮があるのでございましょう。
よい猫たちがおそばにいるようですから、
この猫はしばらく私がお預かりいたしましょう」

と申し上げながらも一方では
『我ながらずいぶん馬鹿げた振る舞いをするものだ』と、
思いもするのです。

さて、ついに念願の猫を手に入れまして、夜も近いところでお寝みになります。

夜が明けますと撫でたりさすったりして、猫の世話なさいます。

そうしているうちに、人に懐かなかった唐猫もたいそうよく馴れてきて、
ともすれば衣の裾にまつわり付き、一緒に眠るようになりましたので
心底可愛らしいと思うのです。

ひどく物思いに耽って、お庭に近いところで横になっていらっしゃいますと、
そばに寄ってきて「ねう、ねう(寝よう、寝よう)」と可愛らしく啼きますので、
かき撫でて、

「『寝よう』なんて、お前はずいぶん積極的だね」

と、にっこりなさいます。

「恋わぶる 人のかたみと手ならせば なれよなにとて なく音なるらむ
(恋しい宮様の代わりにと手懐けた猫なのに、「寝よう」と啼くのは、
私の気持ちを知っているからなのかい)

お前との仲も、前世からの因縁があってのことかしらん」

と、猫の顔を見ながら仰せになりますとますます可愛らしげに啼きますので、
懐に抱き取って見ていらっしゃいます。

年嵩の女房たちは、

「急に猫をご寵愛になるなんて、妙ですわね」

「猫なんか、見向きもなさらなかったのに」

と、不思議がるのでした。

東宮から猫を返すようにとのご催促があってもお返事なさらず、
手元に置いて話し相手にしていらっしゃるのでした。






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最終更新日  August 19, 2018 08:44:58 PM
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