私訳・源氏物語

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March 19, 2019
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カテゴリ: 源氏物語
年とともに涙もろくなるのはご存知でしたが、
あまりに悲しんでいますので事情を知りたくなって、

「私がこちらに参るようになってずいぶん経ちますけれども、
そなたのように人の情けを分かってくれる人がいないまま、
霧深い道中を一人寂しく濡れて帰ったものでした。

しかしこんな嬉しい言葉をいただきましたので、
そのついでに、昔の物語とやらを詳しくお聞かせくださいませんか」

と仰せになります。

「このような機会は二度とございますまい。

また、あったとしましても、明日とも知れぬ私の命でございます。

さらば、こんな老いぼれでも、
まだ生き長らえておりますことをご承知おきくださいまし。

さてさて、
三条の宮邸であなたさまの母宮にお仕えした小侍従が亡くなりましたことは、
私も耳にいたしました。

その時分親しくしておりました同年の人々も、
近頃は亡くなった者が多いようでございますが、
私は遠い田舎から縁故を頼りに、五、六年前から、
こちらの宮さまのお邸にお仕え申しております。

近頃籐大納言と申し上げる御方の兄君で、
お亡くなりあそばされた衛門督と申し上げるおん方がおいでになりましたが、
お身の上話として聞し召していらっしゃいましょうか。

お隠れになられましてから、
まだそれほど年月が過ぎていないようにも思われますし、
悲しさも癒えず、袖の涙もまだ乾くことがございませぬ。

それにつけましても、あなたさまの御年を数えますれば、こ
のようにご立派にご成人なされたことが夢のようでございます。

故・衛門督の御乳母だったのは私の母でございました。

私も朝夕衛門督にお仕えいたしまして、
人数にも入らぬ身ではございますが、折につけお心一つに包みかねる秘密を、
それとなくお話しくださいました。

今わの際になり給いしご病気の末には、
私をお召しになってご遺言をお託しになったのでございます。

ぜひあなたさまのお耳にお入れ申さねばならぬことが一つございますが、
あらためてゆっくりと申し上げましょう。

こちらの若い女房たちが『出過ぎたことを』とつつき合っておりますので」

とて、さすがにこれ以上は言い出しませんでした。





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最終更新日  March 19, 2019 07:06:54 PM
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