私訳・源氏物語

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佐久耶此花4989

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March 20, 2019
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カテゴリ: 源氏物語
薫中将はそれを不思議な、まるで夢の中の話か、
あるいは巫女のような者が問わず語りでもしているように感じました。

しかし昔からずっと知りたいと思っていたことなので、
ぜひ聞きたいのですが、周囲には人目も多く、
また出し抜けに昔話に係わって夜を明かしてしまいますのも大げさですので、

「それと思い当たるふしもありませんが、
わが身のこととなれば身にしみじみと感ずるものがございます。

この次には、必ず詳しくお聞かせください。

霧が晴れて参ります、心残りではございますが、
姫君達にみすぼらしい姿を見咎められる前に帰りとう存じます」

とてお立ちになります。

折しも八宮の籠っていらっしゃる寺の鐘の音がかすかに聞こえてきます。
霧はたいそう深く立ちわたっています。

峰の八重雲に隔てられて、宮はさぞ寂しかろうとお気の毒に思うにつけても、
この姫君たちのお気持ちを思いやりますと可哀そうで、

『どんなに孤独でいらっしゃることか。引き籠りがちなのもお道理というものだ』

と、同情なさいます。

「朝ぼらけ 家路も見えず尋ねこし 槙の尾山は 霧こめてけり

(夜が明けていくけれども帰る家路は見えず、
遥々たずねてきた槙の尾山にも霧が立ち込めている)
 どうしたものか」

と、ためらっていらっしゃるご様子は、
高貴な人を見慣れた都人でさえ格別に目を引くものですが、
ましてこのような田舎者には目を見張るお姿なのです。

若い女房がお返事を取り次ぎにくそうにしていますので、
大君がひどく遠慮がちにほのかなお声で、

「雲のゐる 嶺のかけぢを秋霧の いとゞへだつる 頃にもあるかな

(雲だけでなく秋霧まで深く立ち込めております。
父君のお帰りはどんなに侘しくおわすことでしょう)」。

小さくため息をおつきになるご様子は、しみじみ心を打つのでした。





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最終更新日  March 20, 2019 06:19:20 PM
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