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『今日から議員様!?』


プロローグ


1-1 出会い


1-2 移動中のおさらい


1-3 執務室初日


1-4 バーゲニング演習


1-5 首相代行候補選出


1-6 元カノ、そしてレイナ


1-7 選挙議院について


1-8 EL取締法予備審議1


1-9 EL取締法予備審議2


1-10 任命式典と指輪


1-11 休養日のDinner


1-12 法案説明会1


1-13 法案説明会2


1-14 法案説明会3


1-15 みゆきの決断


1-16 アイスベルト


1-17 150億対75億


1-18 再審議前日1


1-19 再審議前日2


1-20 結審


2-1 陛下からの依頼


2-2 絶望の理由


2-3 みゆきからの依頼


2-4 亡命騒動


2-5 二人の過去


2-6 浮気の余波


2-7 律子の告白


2-8 ビリオンズ


2-9 予想外の波紋


2-10 皇居にて


2-11 再審議


2-12 新談話発表後


3-1 LV3の始まり


3-2 和久達の結婚式の後で


3-3 望(ノゾム)


3-4 イワオ、おじさん、光子さん


『今日から議員様!?』設定等


背景世界年表


MR大政変


抽選議院について


選挙議院について


国体維持関連3法案要旨


『今日から議員様!?』サイドストーリー


ss1:内海愛の場合


ss2:奈良橋悠の場合


本の感想など


『しあわせの理由』 グレッグ・イーガン


『ぼくを探しに』『ビッグ・オー』


『イラクの中心で、バカと叫ぶ』


『エンダーのゲーム』


自分で書いた物


2004/4/19の日記


ずれまくり(2004/4/12)


ジョン・トーレ監督


重し


日経社説『前途険しい安保理拡大』を読んで 


同『郵政民営化を真の改革にするために』


私という人


私の心に残っている一言


私は・・・ (その1)


私は・・・ (その2)


私は・・・ (その3)


私は・・・ (その4)


私は・・・ (その5)


詩みたいなもの


残り香


繰り返されない風景


私が気に入ってる漫画リスト


家の子猫画像


看板など


過去記事のサルベージ


無税金政府・地域/共同通貨


国家財政などについて


人口減少について


増税では人口減少も財政赤字も解決できない


2004.10.02 イチロー


映画の感想やお勧めランキング


「紳氏協定」


「無伴奏シャコンヌ」


「フルメタルジャケット」


お勧め映画リスト


私の好きな本や作家のリスト


『今日から議員様!?』特別読み切り編


その1.進路


ニュースクリップ集 その1


その2.始まりの1週間を終えて


その3.押しかけ秘書


その4.双子島への訪問


その5.難民達


その6.瑞姫の母親と


ニュースクリップ集 その2


プロローグ的なもの


ニュースクリップ その0


人口集約法要旨


浜辺にて


2004.11.01
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カテゴリ: 書き物的なモノ
エピソード1:「今日こそ」続き( 、)


時計の短針が文字版の11を指した頃、風呂場で誰かが
立ち上がる音が聞こえた。

ザアアアッ、とお湯が湯船からこぼれる音がして、
びちゃ、びちゃ、と音を立てて誰かが浴室に立った。

そのまま放っておこうかとも思った。
お湯に玉を投げ込んでから45分ほど経っていた。


ユニットバスから出てこなかった。

ひょっとして、このまま放っておいたら、風邪を引く
んじゃないかと思った時、風呂場の扉越しにくしゃみ
が聞こえた。

あいつそっくりの、くしゃみだった。

気がついた時には、ぼくは立ち上がって風呂場へと向
かっていた。

6時間後にはどうせ消え去るとは、その時のぼくの頭に
浮かばなかった。ただ、乾いたバスタオルを手にして
風呂場の扉を開けて、そこにいた人影に向かって投げた。

見るまいと思ったが、そこにいたのは、やはりあいつ

裸身。バスタオルが中途半端に頭からかかって乳房や
足の付け根の合間は隠されていたが、自分の目の高さ
にあったあいつの目に、どきりとさせられた。

はらりとバスタオルが落ちて、全てが見えた。

ぼくは考えるより先に濡れた床に落ちたバスタオルを

ただかすかに震えていた。

ぼくは腕を上げさせて脇の下まで拭いたり、脚を広げ
させて内腿の間まで拭いた。胸や腹は大雑把に拭いて
バスタオルを胴に巻きつけて、ようやっとあいつの顔
と向き合えた。

良く知っている筈なのに、初対面な人が目の前にいた。

「よう。」といつも通り、待ち合わせの時かけていた
ように声をかけても、あいつは何も言い返さなかった。


インスタント人間は、言葉を解さない。
インスタント人間は、言葉を返さない。
インスタント人間と、会話は、できない。

そんな三原則を思い出した途端、コレはアイツではない
のだ、とようやく実感が沸いて、あいつの筈の誰かを、
ぼくは強く抱き締めて、泣いた。

良くわからなかったけど、ぼくは濡れた風呂場の床に
両膝をつきながら、あいつの下腹に頭を押しつけるよう
にして、しばらく泣いた。泣き続けた。

だけど、あいつの筈の誰かがぼくに何かを言うことは
無かった。

泣きじゃくるぼくの頭に、そっと手を添えてくれること
さえも、無かった。

それで、さらに泣けた。


ぼくがようやく泣き止んで、バスタオルを巻いたまま
立ち尽くしていたあいつの手を引いて、ベッドまで連れ
て行った時、時計の短針は1と2の中間にあった。

ベッドの端にあいつもどきを座らせ、隣に座り、ぼくは
当初の予定を思い返した。

あいつを忘れる為に、最期の何回かをしてみて、それ
でもまだ足りなければ、自分を捨てたあいつを恨んで
るようであれば、あいつもどきを殺してみようと、そ
んな計画を立てていた。

部屋の明りを落とし、ベッドサイドの小さなランプを
灯し、ぼくはあいつと唇を重ねてみた。ぎこちなく、
あいつもどきからも唇を押し付けるような反応があった。

インスタント人間の目的で「性交」を最初から選んで
おけば、相手の反応の敏感さやテクニックや積極性など
まで細かく設定することが出来るというのは聞いていた。

が、ぼくが選んだのは、殺人でも性交でもない「その他」。

殺人の方は、ほとんど性的に無反応だという。
その他は両者の中間。
どっちつかずというのは聞いていた。以前利用した友人
からは、セックス目的なら、迷わず「性交」を選べと言
われていた。当人では無いにしろ、姿形は当人のままで、
違うテイストが味わえる。その違いを楽しむ事に没頭す
ればいいとも聞いていた。

ただし、再生した元の当人を求める事だけはするな。

そう言われていたのに、ぼくはそうしていた。
そうではないあいつもどきの反応に、ぼくは苛立った。

舌を差し入れて絡めた時の反応も、乳房を揉みながら
その先端を口に含んで転がした時の反応も、いつもな
ら、あいつならくすぐったがって笑い始めた筈のおへそ
の周りを舐め回しても、アイツの様には反応しなかった。
くすりとも笑わなかった。

ぼくは頭に来て、突然、あいつもどきの頬を張った。
バチン、という音が響いた。
それまでかすかな呻き声を上げていたあいつもどきは
驚いたような表情をしていた。

いまいましいことに、アイツそっくりの驚いた顔だった。

アイツを殴ったことなど無かったのに。
だけど、ぼくはあいつもどきの頬を2度ほど張った。
2回目は、1回目ほど強くなかったけど、あいつもどきの
筈の存在は、アイツとそっくりの驚いた顔をした。
3回目は、その驚いた顔を崩したくなくて、音が立たな
いほどそっと叩いた。

あいつもどきが、ぼくの張った頬に触れて、不思議な
表情をした。怒っているのでもなく、悲しんでいるの
でもなく、ただ、痛みという感覚に驚いているような、
そんな不思議な顔。

インスタント人間には知識も言葉も感情も無く、感覚
があるだけ。だから殺されようとしていても逃げない
し、抵抗もしない。そうでないと、「本来の目的」の役
には立たない。

そんな知識は、だけど、ぼくの役には立ってくれなかった。


ぼくが逃げるようにベッドから離れた時、時計の短針は、
3を指そうとしていた。

たいして広くもないリビングをうろつきながら、ベッドの
上のアイツもどきを見ると、もう驚いた表情はしていなかっ
た。頬に手をあててもいなかった。

アイツそっくりの別人が、ぼつんとベッドの上に座って、
ぼくの方を見るともなく見ていた。

何も期待していない瞳だった。


それで、ぼくは何故か安心した。
ぼくは、ぼくとアイツが使っていたマグカップを取り出し、
お湯を沸かして、コーヒーを入れた。
自分のはブラック。アイツのは、クリープと2杯の砂糖入り。

ベッドに戻り、あいつもどきにアイツのカップを渡した。
ベッドサイドテーブルに自分のカップを置いて、アイツも
着てたことのあるぼくのシャツをあいつもどきの肩にかけた。

そしてぼくはあいつもどきの傍らに座り、その腰に手を
回して、時々コーヒーをすすりながら、語りかけた。

二人が別れてからあった、とりとめもない出来事を、
次から次へと。

もしヨリが戻ったら、そんな事があったとしたら、話そ
うと思ってた事を。

あいつもどきは、一度もカップに口を付けなかった。
インスタント人間は飲食できない。
ぼくは気にせず、語り続けた。

時計の短針が4を過ぎた頃、腰に回した手に、ふやけた
ような柔らか過ぎる何かが触れた。

驚いて指先でまさぐると、指がのめり込んだ。

あいつもどきの手から、アイツのカップが落ちて、
あいつもどきの足とベッドの上にコーヒーがこぼれた。

熱っ!
とは叫ばなかったが、
あいつもどきはまた、アイツそっくりな驚いた時の表情をした。

顔の形は輪郭がぼやけたように、あまりそっくりでは
無くなっていたが、それでもまだ、似ていた。

ぼくはそれで、ふやけ始めたあいつもどきを風呂場に
連れて行き、シャツを肩から外し、脚にかかっていた
コーヒーをシャワーで洗い流し、それから、生温い湯船
にあいつを戻した。

あいつはおそらく再生した時のように、ひとりでに
湯船に膝を抱えて座り込み、そのまま身じろぎしなく
なった。

見ている内にもどんどん顔かたちが変わるので、ぼくは
友人から聞いていた通り、シャワーをあいつもどきに
かけながら、浴室から出た。

インスタント人間の細胞は再生から6時間後に崩壊し始め
るよう遺伝子操作されている。お湯につけて再生したよう
に、崩壊時もお湯につけてふやかし、そのまま残り湯を
捨てる感覚で、かつて人間であった筈のものを流し捨てる。

それで、インスタント人間の一回の人生が終わる。

ぼくは、そんな事を想いだしながらも、扉を閉めた向こう
で溶けているだろうあいつもどきに話しかけ続けていた。

時計の短針が6を指しても、7を指しても。
短針が8を指し、会社に遅刻が確定しても、ぼくは話し続けた。

湯船の水が溢れて排水口からごぼごぼと音を立てて吸い込
まれていく音が、ぼくの話し声に相槌を打ち続けた。






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Last updated  2004.11.02 02:29:59
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マイコ3703 @ スゴイですね☆コレはビックリ(^^ゞ 私もBinaryとか色んな事を書いてるんです…
バーバリー 財布@ nxhahel@gmail.com 今日は よろしくお願いしますね^^すごい…
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