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June 8, 2006
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カテゴリ: 教授の読書日記



 で、ル・コルビュジェが両親のために作った家にまつわる思い出を、コルビュジェ本人が綴った本が邦訳されていることを知ったわけですよ。それがこの本、『小さな家』(ル・コルビュジェ著・森田一敏訳・集文社刊・1575円)でございます。

 さて、この本、わずか85ページほどの本で、コルビュジェが描いた手書きのスケッチや家の見取り図、さらにその家の写真が沢山含まれているので、1時間もあれば読み終わってしまうようなものです。しかし、その内容はなかなか面白かった。

 そもそもコルビュジェが両親のために建てた家というのが、本当にコンパクトな家で、南北4メートル、東西16メートルの細長い長方形をした建物なんですね。延べ床面積は54平方メートルといいますから、日本の2LDKくらいのマンションほどの大きさと言えるでしょうか。ま、庭を含めた敷地は300平方メートルあると言いますから、そこはちょっと羨ましいのですが、でも家自体としてはごく質素なものです。

 でも、ル・コルビュジェの手書きのラフな見取り図や、実際の家の写真を見る限り、間取りが実によく考えられているんですね。何しろこの限られた空間の中に、居間・主寝室・客用居間兼寝室・収納庫(乾燥室を兼ねる)・洗濯室・クローク・キッチン・バスルームなどが配置されているのに、その配置の仕方が実に機能的かつよく考えられているので、54平方メートルの家とは思えないほどの広さ感が演出されているんです。また東西に細長い構造であるため、レ・マン湖を見下ろす南向きの居間の窓は長さが11メートルもあって、眺めも良く、室内も明るそうです。

 でまた、この家屋は平屋建てなんですが、屋上には若干の土が盛られていて、そこに雑草が生い茂るよう、設計されている。つまり、この土と植物が天然の断熱材になっているんですな。最近、この種の建物緑化計画があちこちで話題になっていますが、ル・コルビュジェは1920年代の初期に、既に両親の家の設計で実行しているわけ。やはり優れた建築家というのは、時代を遙かに先取りしているもんです。 

 しかし、この本を読んでいて、私が一番「ほう!」と思ったのは、ル・コルビュジェの景観に関する概念でした。彼は、景観というものは、ある程度抑制され、区切られていた方が、そのスケールを体感できる、という考え方の持ち主なんですね。

 先にも言いましたように、この家はレ・マン湖のほとりに建っていて、それを見下ろす11メートルの窓がある。ですから、普通であれば、南向きの窓には何の障害物も置かず、バーンと目の前にレ・マン湖の景色が見えるようにしたくなるじゃないですか。ところが、コルビュジェは、そうしないんですな。彼曰く、「四方八方に蔓延する景色というものは圧倒的で、焦点をかき、長い間にはかえって退屈なものになってしまう。このような情況では、もはや“私たち”は風景を“眺める”ことができないのではなかろうか。景色を望むには、むしろそれを限定しなければならない。思い切った判断によって選別しなければならないのだ。すなわち、まず壁を建てることによって視界を遮り、つぎに連らなる壁面を要所要所取り払い、そこに水平線の広がりを求めるのである」(22-24ページ)と言うわけ。



 いやー。この考え方、すごいじゃないですか。実は今私が住んでいる家はマンションの9階で、眺めはすごくいいんです。しかし長年ここに住んでいると、その眺めの良さに逆に飽きるところがある。せっかくいい眺めなのに、何で飽きるのだろうと、私は常々疑問に思っていたのですが、ル・コルビュジェのこの一文を読んで、大いに納得するところがありましたよ。多分コルビュジェは、「人間は景色に飽きる」という事実に思い至り、それを解決するためにはどうすればいいか、熟考したのでしょう。

 私はこの種の、人間の実感・実体験を踏まえた上で作り上げられ、練り上げられた英知というものに、惜しみない賞賛を与えるものであります。

 また、もう一つこの本に関して私が感心するのは、この家の設計上の失敗点についても、コルビュジェが正直に綴っているところです。実はこの家には一部地下室が存在するのですが、その地下室がレ・マン湖の地下水位の影響で押し上げられてしまい、その圧力のために家が歪んで一部に皹が入ってしまった、というのですね。これは湖のほとりという立地条件のなせるものですが、まあ、失敗は失敗であるわけで、コルビュジェはそのことをちゃんと認めている。それもなかなか潔くていいじゃないですか。

 とまぁそんな感じで、この本を読むと、小さいながらも住み易くて、しかも体感的に広々と使える家をどうやって設計するか、ということを考える上で、ヒントになるようなことが沢山あります。強いて言えば、掲載してある写真がもう少し良ければもっといいのですが、何しろ今から半世紀以上も前に出た本が元になっているのですから、そこまで要求するのは酷というものでしょう。

 ということで、この「小さな家」にまつわる小さな本、教授のおすすめ!です。家を建てることに興味がある方、是非一度覗いてみて下さい。家を「住む機械」と定義し、無味乾燥なモダン建築を生みだした悪の元凶みたいに言われることもあるル・コルビュジェの、また別な側面が見えてくるかも知れませんよ!


これこれ!
  ↓
小さな家
小さな家








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Last updated  June 8, 2006 05:26:03 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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