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August 4, 2006
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カテゴリ: 教授の読書日記

このところ仕事の合間や寝る前などの半端な時間を使ってずっと読んでいた『マージョリー・モーニングスター(Marjorie Morningstar)』という小説を読了しました。『ケイン号の反乱』などの作品でも知られるハーマン・ウォークというアメリカ作家が書いた、大判565ページという電話帳みたいな本ですけど、1955年、アメリカで大ベストセラーとなった小説です。

内容は、と言いますと、うーん、ま、一応「恋愛小説」なんだろうなぁ・・・。でもある意味、強烈な「アンチ・ロマンス」でもありますね。とにかくその内容に、ワタクシ、仰天しました・・・。ちなみにこの小説、かつて大久保康雄訳で翻訳されたことがあるらしいですが、当然絶版ですし、今頃こんな長編恋愛小説を読む人がいるとは思えないので、以下、筋書きを言ってしまいますね。

主人公のマージョリーは、ロマンスの定石通り、最初はハイティーンの設定です。若く、美しく、希望に満ちあふれ、自分の目の前には輝かしい未来が開けているような気がしている。そして彼女の将来の夢とは、ずばり、女優になること。そしてその時には、「モーゲンスターン」なんていうユダヤ人っぽい名前ではなく、「モーニングスター」という芸名を使う予定。「マージョリー・モーニングスター」なんて、いささか気恥ずかしいような芸名ですが、フレッシュな新進のスターにはぴったりかも知れません。

でまた、マージョリーがそんな大それた夢を見るのは、無理もないんです。というのも、輸入業を営む彼女の父親の仕事がそれなりに順調で、一家は庶民的なブロンクスのアパートを引き払い、マンハッタンはセントラル・パークを見下ろす高級アパートに引っ越したばかり。ま、彼女自身は学費の安い公立の短大みたいなところに通うことになりましたが、それにしたって彼女ほどの美貌であれば、コロンビア大学などのアイヴィーリーグに通うイイトコの坊ちゃんたちが放っておくはずがない。また上昇志向のあるマージョリーの母親も、娘がイイトコのボンボンと付き合うことにまったく異議なし、と来ているのですから、マージョリーが数多のボーイフレンドにチヤホヤされ、いささか大それた夢を見たとしても不思議ではありません。それに、大学の演劇祭で主役を務めたマージョリーは、今や花形です。

ま、そんな彼女がブロンクス時代からつきあっていた年上のボーイフレンドからの求婚を反故にしたのも、親父さんの経営するガススタンドでバイトする貧しい青年では、彼女の青雲の志に釣り合わないと判断したからだったんですな。その辺は若さゆえの残酷さと言いましょうか。

しかし、そんな彼女に、ついに「運命の人」が登場します。演劇の勉強をしがてら、バイトに行ったサマーキャンプで、演劇関連総合プロデュースをしていた9歳年上のノエル・エアマン。劇作家志望で、作曲もし、既に何曲かのヒット曲も持っているこの青年、背は高く、ブロンドで、魅力的な顔立ちであることはもちろん、ピアノはうまいし、ダンスもうまい。そして当意即妙、才気煥発の人を逸らさぬ話しぶり。ただ一点、片腕に若干の障害を持つものの、マージョリーからすれば「大人の男の魅力」のすべてを持ち合わせているようなノエルの出現に、彼女は一発でノックアウトされてしまいます。

と言えば、もちろん誰にも想像がつくように、『マージョリー・モーニングスター』という小説は、マージョリーとノエルとの大恋愛のお話なんですな。でありますから、ここから先はまさに恋の駆け引き。嬉し、楽しい状況です。

しかし、そんな恋する二人の間にも、それなりに障害物があります。たとえばマージョリーの家は敬虔なユダヤ教徒ですが、一方のノエルの家は、同じくユダヤ系とは言え、宗教とは無縁のモダンな生活ぶりです。またノエルの父親は有名な裁判官で、バックグラウンドの点では文句はないものの、ノエル自身は名門大学を中途退学して「劇作家」などというあやふやなものを目指しており、堅実さを尊ぶマージョリーの親(特に母親)の目から見ると、娘にふさわしい相手とは思えないところがある。

ま、そんなこともあったりして、マージョリーとノエルの恋は進展と後退を繰り返します。片方が押せば、片方は逃げる。片方が他人行儀を決め込めば、もう一方がやきもきする、という展開で、ある時はノエルがマージョリーを捨て、ある時はマージョリーがノエルを袖にし、そんなことが延々と繰り返されるわけ。たとえばマージョリーと結婚するため、ちゃんとした仕事に就こうと、ノエルは広告エージェントの仕事などを始めたりするのですが、やはり演劇への野望を捨てきれず、このままマージョリーと結婚してしまったら自分の才能が潰されると感じて、彼女のもとから出奔したりする・・・ま、そんなことの繰り返しです。



しかし、そんな別れと再会を繰り返している時、ついにノエルのオリジナル戯曲がブロードウェイで上演されることになります。その開幕の直前、ノエルとの再会を果たしたマージョリーは、栄光を手にしようとしているノエルのオーラに圧倒されるように、ついに彼と一夜を共にしてしまう・・・。なーんて言うと大袈裟に聞こえますが、なにせ設定が1930年代末ですから、結婚前の女性が男性とことに至るというのは、それこそ清水の舞台から飛び下りるようなものなんですね。ですから、この時点でマージョリーはノエルとの結婚を確信したと言っていい。

ところが。ノエルの劇は3日で打ち切りになるという大失敗、彼のブロードウェイ・デビューは惨憺たるものになります。(ええ!? それまで読者はノエルのきらめく才能について嫌というほど聞かされていたのにぃ?) で、これに衝撃を受けたノエルは、マージョリーと演劇を捨て、パリに行ってしまうんです。

しかし捨てられたマージョリーはますますノエルの愛を信じ、1年間働いてお金を貯め、ノエルを最終的に射止めるために彼の後を追ってパリに行きます。パリ行きの船の中で、ナチス支配下のドイツからユダヤ人を逃亡させる裏家業に携わっているマイク・イーデンという年長の人物と出会い、彼の過去、そして現在の生き方に強く惹かれるものはあったのですが、やはりノエルには替え難いと知ったマージョリーは、パリでついにノエルを見つけ出すんです。

そして1年前には残酷な言葉と共にマージョリーを捨てたはずのノエルも、この再会でついに心を決めることになります。ついに、ついに、彼の口から求婚の言葉が! ほぼ500ページにわたって延々と述べられてきたマージョリーとノエルの恋は、ついにここに至って成就の瞬間を迎えた!

・・・はずなのに!! ワタクシが仰天するのはここですわ。なんと、なんとですよ、なんと、マージョリーはノエルのプロポーズをすげなく拒絶するんです。19歳の時から5年間、この日、この時を待ち続けたマージョリーにして、求婚の言葉がノエルの口からこぼれた瞬間、「ノー」という答えが確信として心に浮かんだってんですから・・・。

ちょっと! ちょっと、ちょっと!

意味不明。

で、帰国したマージョリーはほどなく堅実な、しかし平凡な法律家と結婚。ニューヨーク郊外に家を構え、4人の子供に恵まれ、地元の主婦連の間のリーダー的存在にはなるものの、どこにでもいる主婦となります。彼女の夫となったミルトン・シュワルツとマージョリーの仲は、結婚の時にマージョリーが処女ではなかったということがきっかけで、当初期待されたような熱烈なものではなくなってしまったものの、ごく平凡な夫と妻という関係を築き上げることには成功する。

小説の最後は、マージョリーの讃美者にして、今ではブロードウェイで成功を納めたワリー・ロンケンの視点から見たマージョリーの姿で締めくくられます。マージョリーの結婚から15年経った頃、偶然、ワリーはマージョリーと再会するんですね。

そこでワリーが見たものは、40歳を前にしてすっかりオバアサンになってしまった白髪のマージョリーだったんです。あの生き生きとした、輝くばかりの美しさでワリーを子供扱いし続けたマージョリーは、かすかにその面影を残すばかりになってしまっています。

で、ワリーは若干の復讐心から、自分のブロードウェイでの成功を印象づけつつ、ノエルのその後を知らせます。ノエルは、今や三流のテレビドラマ作家としてハリウッドで落ちぶれた暮らしをし、横暴な妻に養われている状態。しかし、そうしたことも、今のマージョリーにはもはや意味を持たなくなっている様子なんですな。結局、「マージョリー・モーニングスター」という華々しい存在は、実在することのないまま、ごく平凡な「マージョリー・モーゲンスターン」の中に、いや、「ミセス・ミルトン・シュワルツ」の中に消えてしまった。あれはやっぱり、遠い夢だったんだ、というところでこの小説は終わります。



しかし、びっくりし、脱力はしましたけど、ある意味、リアリティある小説ではありましたね。時代背景、状況描写、それぞれの人物造形など、どれをとってもしっかりしていたし。特に物語の主筋とは直接関係ないけれど、マージョリーと彼女の母親との関係、なんてのも、よく書けていると思いました。娘と母親の関係って、こうだよなーと思わせるところが大いにありましたからね。それにストーリー展開にしたって、たとえば「無限の夢を抱いていたけど、実現はしなかった」とか、「惚れた男の才能を過信したけど、実際は大したことなかった」なんてことは、現実にいくらでもあることであって、そういうふうに物語を展開させた方が、確かに現実的ではあるわけですよ。

結局、現実ってのはそうなんだよなぁ・・・と思わせつつ、「色々あったけど・・・いい時もあったじゃない・・・」と、読者にまで深い感慨に陥らせるところが、この『マージョリー・モーニングスター』のベストセラーたる所以なんでしょうな。

ということで、昨夜は20世紀半ばの一大恋愛叙事詩を読み終わって、いささか途方に暮れたワタクシだったのでした。


さて、私の「アメリカ大衆小説を読み続ける」試み、次はぐっと現代になりまして、ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』を読んでみるつもりです。この間映画版を見ていま一つだったので、原作は面白いのかな、と。また読み終わったら、読後感などお知らせするつもりです。それでは、また!





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Last updated  August 4, 2006 03:25:48 PM
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ノエルのプロポーズ  
パリまで会いに行って、求婚されたとたん、No! と言ってしまったマージョリーは、賢明な女性だったんだと思います。彼女の本能がノーといわせたんでしょう。ノエルとの未来に危ういものを直感したのではないでしょうか。

しかし・・・  
釈迦楽  さん
Mike23さん

賢明過ぎて冒険しないのも、女性の幸せとしてどうなのかと・・・。

それにしても、現実問題として私の回りを見渡しても、若い頃に遊び回っていた女の子たちが、いざ結婚するとなると、まあ人畜無害な安全パイを選ぶんですよね。「恋愛と結婚は別」なんてのは、単なるフレーズかと思いきや、結構現実を表しているんだなあと思うことが多いです。女の人って、そんな結婚して、満足しているんですかね?

その点、冒険を選んだ我が家内は、大したものだと言わざるを得ません。ジェーンさんも、ね! (August 4, 2006 07:13:40 PM)

Re:『初恋』というタイトルで映画を観ました(08/04)  
釈迦楽  さん
まじかなかじまさん

 こちらこそはじめまして。

 映画『初恋』って、ナタリー・ウッドの出た奴ですね。しかし、渋い映画をご存じですね。長編小説を映画化するとなると、ところどころはしょらないといけないわけですが、小説版の方は、結構、インパクトありますよ!

 本ブログでは、映画の話題もちょこちょこ出ますので、また贔屓にしてやってください。今後ともよろしくお願いします。 (May 19, 2012 04:50:52 PM)

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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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