姐さん0122さん

 おっと、寺山ネタ、やはり食いつきましたね!

本書のどこかに、こういう趣旨のことが書いてありました。なぜ母親のことを書くのかと(母親から)問われた寺山さんが答えて曰く、この世には「男女の愛」と「親子の愛」の二種類の愛があり、両方とも真実のものなのだが、「男女の愛」の方には多少なりともエゴイスティックな側面がある。他方、「親子の愛」にはそれがなく、自分としてはそちらの方が理解し易いので、そちらを好んで書くのである、と。

 そういう意味で、寺山さんのマザコンぶりには、彼の文学なり人なりを理解する鍵があるんじゃないでしょうか。ぜひご一読を! (April 1, 2009 11:48:40 PM)

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April 1, 2009
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カテゴリ: 教授の読書日記

 ちょっと前に新聞の広告欄で見かけた『寺山修司のいる風景』(中公文庫)という本、寺山さんのお母さんが書かれた寺山さんの一種の伝記と聞いて、ぜひ読んでみたいと思っていたのですが、どういうわけかどの本屋さんでも売ってなくて、今日、ようやく町田の有隣堂で買い求めることができました。それも平積み最後の一冊。よほど売れているのでしょうか。

 で、そいつをさっき読み終わったのですが、寺山修司が生まれた時から、どんな幼少期を過ごしたのか、少年時代はどんな少年で、長じてからはどんな青年になったのか、そういうことが母親の視点から愛情深く綴られていて、なかなか面白かったです。

 特に、夫を戦争で亡くしてから、細腕一つで寺山さんの学費を捻出すべく、幽霊のような姿になるまで働いたというはつさんの苦労、そしてその苦労に応えるように優しくも有能な青年に育っていく修司の姿など、ますます寺山修司という人に対して好感が湧くような感じ。

 そして早稲田大学在学中から詩や演劇の方面での活躍が始った寺山修司から「一緒に住もう」と言い出され、長年の苦労がついに実ったと思う母親・はつさんの誇らしげな喜びが綴られているあたりは、良かったですねえ、と思わず読んでいるこちらも頬が緩んでしまうほど。

 しかし、その喜びもつかの間、修司の結婚を機に、妻と母のどちらを選ぶかという問題に直面した修司が、母ではなく妻を選んだところから、二人の間に亀裂が入り・・・ということになるのですが、それでも母を捨て切れない修司が、母との関係修復のために時折見せる優しさに、はつさんも満足するようになっていく。ま、所詮、母親と息子なんてそういつまでも一緒にいられるわけもないので、このあたりが修司なりに精いっぱい母親に見せた感謝と信愛の情というところなのでしょう。

 が、そこで一旦和解した二人の関係はもう一度途切れることになる。無論、修司の突然の死によって。本書は、「二日したら帰るよ」と言ったまま永遠に旅立った息子の帰りをいまだ待ち望む母によって書かれた息子・寺山修司へのラブレターなのであります。


 というわけで、それなりに感銘を受けつつ本書を読み終わったワタクシなのでありますが・・・。




 本書を読んだ後、ちょこちょこっと調べたのですが、どうもこの寺山はつさんという人と寺山修司との関係は、この本に描かれているような牧歌的なものでは必ずしもないようなんですな。

 本書にも遠まわしに描かれているように、一方で寺山修司は、愛情の裏返しなんだかどうなんだか、自分の母親を冒とくするような言説を盛んに作品に盛り込むんだそうですね。その点、通常の意味で「優しい孝行息子」とはとても言えないようなところがあった。他方、寺山はつさんの方も、女手一つで息子を育てるためもあったのかも知れませんが、表沙汰にできないようなこともしてきたようなところもあるらしく・・・。で、嫁・姑のいさかいに端を発した修司とはつさんの反目とやらも、常軌を逸した種類のものだったらしい・・・。要するにこの母と子の壮絶な関係というのは、とても綺麗事ではなかったようなんですな。その辺のことは、この本を読んだだけでは、とても想像できませんが。

 つまり、どうも『寺山修司のいる風景』というのは、真実のある一面、きれいな方の一面だけを描いているようなところがあるらしいんです。だから、この本を読んで、ああ、寺山修司って優しい人だったんだな、はつさんもいい息子を持ったな、という読後感を抱くのは、ある意味、危険なことなのではないかと。

 そういう意味で、この本の評価は、多分、寺山修司と母・はつさんの関係を第三者の目から描いている本、たとえば田中未知さんの『寺山修司と生きて』などを読んだ後で、あらためて下すべきなんじゃないかと思うのであります。私も早速、この本を注文しましたが。

 ま、そうは言っても、たとえば本当に幼かった時の寺山修司が、どんな時にどんなことを言ったりやったりしたかということは、母親であるはつさんしか書けないことでしょうから、本書を読む意味というのはもちろんあるわけで、そういう点では十分おススメしますけれど、この本を読んだだけで、寺山修司とはつさんとの関係がすべてわかるというものでもないらしい、ということは、自戒の意味も込めまして、記しておきたいと思います。


 寺山修司という人は、そういう意味でも、一筋縄ではいかない人なんですな。



これこれ!
 ↓ 

寺山修司のいる風景



寺山修司と生きて





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Last updated  April 2, 2009 10:39:44 AM
コメント(8) | コメントを書く
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知らなかったです☆  
おおーっ!
是非読んでみたいです!

彼の文章って、母がいつもどこかに隠れている気がします。
そういう作家を私はマザコン作家(悪い意味ではなく)と呼ぶのですが、
そのお母さんが書いた本となるととても興味深いです。

そういえば、つい最近彼氏に「何かいい本あったら貸してくれ」と言われて、
『誰が故郷を思わざる』を渡しました。
早くも彼の部屋のインテリアの一つとなりそうな気配です(笑) (April 1, 2009 10:59:11 PM)

Re:知らなかったです☆(04/01)  
釈迦楽  さん

う~~ん。。。  
藍毘尼 さん
私も夫も、親兄弟もみんな、どちらかの最期まで夫婦は添い遂げるタイプなので、女手一つでというのは実感がわきません。
知り合いの女性が、女手一つで3人の子供を育ててこられたんですが、「ごめんなさい」が素直に言えない人でした。そこが、残念なところだと、みんなで言ったものです。
一筋縄ではいかない苦労というものが親にも子にもあるんでしょうね。

(April 2, 2009 08:05:28 AM)

Re:う~~ん。。。(04/01)  
釈迦楽  さん
藍毘尼さん

ま、寺山はつさんの場合は、夫が戦死してしまったので、仕方がないわけですけど、そうやって母ひとり子ひとりで苦労して育てれば、それだけ子供に対する期待というのも当然増えるわけで、それが子供からすれば嬉しくもあり、また時に重荷にもなり・・・というところがあったのかも知れませんね。

 ま、寺山修司の場合、そういったものを残酷なまでに肥やしにして自らの文学を育てていったわけですから、いい、悪い、ということでもないんですけどね。 (April 2, 2009 10:38:17 AM)

Re:寺山はつ著『寺山修司のいる風景』(04/01)  
monikamama さん
寺山さんの本はいつか読みたいと思っているのですが、まだ読んだことがありません。でも故郷の八戸?でしたっけ、には行きました。お母さんから見た一面が「真実のある一面、きれいな面」だけだったとしても、たしかに子供には一瞬でも、「母が自分を愛してくれた」という思い出が残ればいいなあと、ダメ母は時々思います。 (April 2, 2009 09:09:37 PM)

Re[1]:寺山はつ著『寺山修司のいる風景』(04/01)  
釈迦楽  さん
monikamamaさん

 寺山修司と言う人は、それこそ元祖マルチタレントで、様々なジャンルで才能を発揮した人ですが、僕なんかが思うに、やっぱりこの人の才能は、短歌の形でもっともよく発揮されたのではないかと。彼の短歌は、すごくいいですよ。

 というわけで、『書を捨てよ、町へ出よう』的なエッセイから入るのもいいですが、彼の短歌集か詩集あたりから寺山ワールドに入るのがいいのではないかと思いますよ。 (April 2, 2009 11:37:57 PM)

Re:寺山はつ著『寺山修司のいる風景』(04/01)  
杉山巡  さん
30数年前、渋谷・宇田川町に住んでいました。新聞配達をしていたのですが、ある日、同僚から近所のオジサンが「のぞき」で逮捕されたと聞きました。

そのオジサン、寺山修司という名前の人で、神山町の木造モルタルの安アパートに住んでいる居ました。

春の小川に歌われた渋谷川が暗渠になっている横です。この近くには226の慰霊碑もあるし、国木田独歩が若い頃住んでいた事もありました。

寺山は荻窪近くの病院でひっそりと亡くなります。

加賀まり子は女子高生の頃、寺山から路上でスカウトされたとか、川端のイメージに合う人を探していたそうです。

(April 3, 2009 02:00:43 AM)

Re[1]:寺山はつ著『寺山修司のいる風景』(04/01)  
釈迦楽  さん
杉山巡さん

そうそう、覗き事件ってありましたね。ま、あれは結局何だったのか。80年代に入って寺山が失速したことの象徴だった、なんて言う人もいるようですが。

 それはともかく、何だか最近寺山に興味が出てきたので、ちょっとまとめて読もうかな、と思っているところです。 (April 3, 2009 08:01:58 PM)

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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…
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