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January 27, 2014
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カテゴリ: 教授の追悼記
 今日、研究室でメールを開けてビックリ。二年ほど前に大学を去られたM先生の訃報が、大学当局から回ってきていたのです。M先生は、定年前に辞められたので、多分、62、3歳ではなかったかと。

 M先生はもともとドイツ文学の先生でしたが、やがてナチズムへの批判、さらには戦争というもの全般への強い批判が先生のお仕事の大半を占めるようになり、M先生といえば戦争反対、M先生といえば戦争許すまじ、という連想が思い浮かぶほど、全体主義や戦争といった人類の愚行への批判者として己を侍していらしたような気がします。

 しかもその度合いがまた甚だしいものであったので、例えば卒論の主査・副査といった立場でM先生とご一緒するようなことがある時、私はしばしば、先生と対立せざるを得ないことになったのでした。

 例えば私の指導ゼミ生が、アメリカの航空産業、なかでもボーイング社について調べた卒論を書いた時、副査として審査にあたられたM先生は、開口一番、「ボーイング社の仕事の半分は戦闘機の開発など、軍事目的のものであるが、あなたはそれをどう考えるのか」と、私のゼミ生を詰問された。

 私のゼミ生は、もちろんボーイング社の軍事目的の業績についても調べてはいたのですが、「そういう仕事もやっている」という事実を述べただけで、「だからこの会社は最低最悪、人でなしの会社だ」とは書かなかった。しかし、M先生にしてみれば、軍事目的の仕事を請け負っている会社を強く批判していない卒論は絶対に許せなかったのです。

 そこで私は、ゼミ生を擁護する意味もあって、M先生と対立しなくてはならなくなる。「そんなことを言ったら、鉄を生産する会社はどうなりますか。ひょっとしたら、その会社で作った鉄が回りまわって戦闘機や戦車や爆弾の材料になるかもしれない。繊維会社はどうですか。その会社で作った布が軍服や野営のテントの材料になるかもしれない。チョコレート会社はどうですか。その会社で作ったチョコレートが兵隊の糧食になるかもしれない。そんなことを言っていたら、何も作れなくなるじゃないですか。戦争を起こすのは、モノではない。人でしょう。その人の責任を問わず、モノのメーカーを批判したって意味ないじゃないですか。」

 私からすれば、なんでもかんでも戦争反対というM先生の論点があまりにもナイーブなものに見えましたし、M先生からすれば、私の論点はあまりにも無責任に見えたでしょう。二人の論争は、いつもこんな感じで平行線をたどるのが常でした。

 またこんなこともありました。

 数年前、私がサバティカル(研究休暇)を取得しようとした時、同時にM先生も申請を出そうとされた。ところが、同じ科からは同時に二人の申請は出せないので、私とM先生のどちらかに絞らなくてはならなくなった。



 M先生曰く、「あなたは大学の仕事で忙しかったというが、忙しさというのは人それぞれである。私は私で自分の仕事に忙しく従事していたのだから、おあいこではないか」。そこで私が「自分のやりたいことをやって忙しかったというのと、大学から任された仕事をして忙しかったのでは意味が違います!」と反論し、また大喧嘩となったことは言うまでもありません。私がその時、「この人はなんと自分勝手なことを言うのか」とあきれ果てたことを今でも鮮明に覚えています。

 この時は結局、M先生がご自分の主張を引っ込め、私がサバティカルを取ることになりました。

 しかし、今、私はこの時のことを後悔しています。

 ひょっとして、M先生は既にあの時、癌に冒されていたのではなかったか? それで、自分の寿命が長くないことを知り、サバティカルを取って治療に専念するとか、どうしてもまとめておきたい仕事をまとめようとされたのではなかったか?

 M先生が定年を待たずに大学を辞められた、その一年ほど前の卒業式の日、謝恩会の場でM先生は「この頃になって私は、学生のことが可愛くて仕方なくなった」という趣旨のスピーチをされました。その時は、私を含め、同僚一同、「この人、何を言っているの?」という怪訝な表情をしていたのですが、今にして思うと、あと何年生きられるか、ということを踏まえての感慨だったのかなと思います。

 そんなことがあれこれ去来しましてね。私はひょっとして、M先生のことを色々な点で誤解していたのではないかと。

 正直に言って、M先生と私は「親しい同僚」という関係にはなれませんでした。しかし、二十年近くを同僚として過ごし、少なくとも互いに利害関係がない時には、もちろん気易く会話をした時も多々あったわけですから、その先生がこんなに早く亡くなられたとなると、さすがに衝撃があります。

 今日はM先生のお通夜があるのだそうです。私も帰りがけにお別れのご挨拶をしてきましょう。そのぐらいの義理は、M先生に対して負っているような気がしますし。

 戦争を憎み、戦争に関わる人を許せなかったM先生の魂の、今は安らかでありますように。合掌。





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Last updated  January 27, 2014 03:27:52 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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