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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年06月30日
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なぜ緑の少女があれほど羽を怖がるのか、彼は知りすぎるほど知っていた。
今思えば、あの偶然の重なりは必然だったのかもしれない。
けれども当時、彼はずいぶんと自分を責めた。彼女を想う気持ちと一緒に、その辛さは今も残る。
自分のことに関しては、後悔も痛みもなにもない。本体も今まで気づかなかったくらいだ。残っているのは、彼女が抱えるトラウマに関しての痛み、それだけだった。

明るい庭で、白い花がさわさわと風に揺れる。
深い想いと混ざりあった辛さは手放すのが難しいが、それでももういいんだよ、と言われている気がした。

窓辺によりかかって銀髪を風になぶらせ、ぼんやりと可憐な花をながめながら記憶をたどる。
それはもうずっと昔、彼女がまだルシオラと呼ばれているころの物語だった。




ばりっ、と背中で音がした。
折り取った自分の白い大きな翼を、大きな布を広げた床の上にばさりと落とす。
傷口からぽたぽたと血が流れたが、痛みはなかった。


お前まで羽を折らなくていいのだぞ。
枚数に上下はないが、今の仕事ができなくなるぞ。
お前が今までしてきたことが続けられなくなるのだぞ。

そういった周囲の声を、彼はすべて聞き流した。

かまわない。
私は彼女の守護天使でさえあれればいい。



道具も方法も知っていた。
元々霊的医療の専門家であり、彼女が赤子だったときに、羽を減らしたのは彼だったから。

波動を落とし、やがて戦士になるため。
めぐりくる彼女の運命に備えるため。

それを選んだのは生まれる前の彼女自身であると知ってはいても、彼の心は痛んだ。
知りたいと望んだことを体感するまでに、彼女はいったいどれほど傷つくのだろう?

また小さな羽を折った自分が、そのままで生きていけようはずもない。
すべて承知の上で選んだことだ。
闇の底を知ろうと進む彼女についてゆくならば、必ずどこかの時点で、彼自身の波動も同じように調整しておかねばならないのだから。

メスで切り込みを入れ、折りとる。彼女のオペの時のように、すべてきれいにメスで切り取るには届かないし、同じ丁寧さなど持つはずもない。機械的に手を動かすと、ばりっ、また音がした。

今日ここの時間と場所を用意するためには、細心の注意を払った。
ツインであるがゆえの共振をぎりぎりまで避けるために、痛覚は遮断してある。

彼女の手術をした罪を思えば、羽を失う心の痛みなどは無視することができた。
けれど折り取った羽をすぐに光に還元してしまうこともまた、できなかった。
彼女について戦場へゆくために波動を落としたとしても、世界が変わるわけではない。それでもその翼は、かつての同胞たちとの思い出の象徴のような気がして、消してしまう気になれずにいた。

未来へはもってゆけない。
過去は思い切ることに決めた。

やり場のない思いそのままを形にしたような折れた翼は、どこへもゆくあてがない。
大切だけれど持ち運べない想いの結晶は、今は床の上に、そして落ち着いたら過去と未来のはざまに、そっと包んで置いておくほかはなさそうだった。


己の意思で決めたことに後悔はない。
愛を表現するためだけに自分の翼を差し出せるか、と問われれば、できなくはないと思う。
しかし今回はそれだけではなかった。ただの憐憫や自己満足で自分を傷つけているわけではなく、もっとも生きたい未来を選んだ結果だ。

たとえ地獄の底であっても、できるかぎり近くに。
それが彼の望み。


小さなルシオラは、念には念をいれて今日はフレデリカに連れ出してもらっている。だが古い友人にも、彼は理由を告げることができなかった。
彼女が悲しんでくれることがわかっていたから。


自分は悪魔かもしれない。
三枚目の羽を自ら折りながら彼は考えた。

大切な、なにより大切な彼の宝石。
けれどこれから彼女が背負う大きな苦しみのほぼすべてに、彼は手を下すことになるだろう。
それでもこの役目を、他の誰かに渡すことはできなかった。

彼女のためなら、彼女が経験することを望むならば、必要な悪魔になることも厭いはしない。
しかしルースにとって、自分は長くトラウマの象徴になるのかもしれない。そう思うと、唇の端にかすかな自嘲がひらめいた。


彼は四枚めの羽に手をかけた。
元々背にあったのは六枚。上の四枚はもう必要がない。

本当は、彼女が数を覚える前に、自分と彼の羽に気がつく前に折りとってしまいたかった。
それができなかったのは、どうしても代わりのいない仕事を任されてしまったからだ。
彼女の前では極力羽を隠して生活してきたが、いくらまだ小さいとはいえ、そろそろ疑問が出てきてもおかしくないころだった。


「たーいま!」

舌っ足らずな幼い声とともにドアが開け放たれたのは、四枚めの羽を折りとった、まさにその瞬間だった。
彼に抱きつこうと、部屋に駆け込んできた小さな笑顔が凍りつく。


目の前に落ちる、血にまみれた白い羽。
大好きな彼の背を流れる何本もの赤い線。
銀髪に半ば隠れた、えぐれた生え際。

ぞおっと悪寒が背を駆けのぼる。

こわい。いたい。こわい。いたい。
はねをさわってるのはだれ。
しろいはね。なのにあかい。ぽたぽた。
なぜとれているの。
こわいよ。こわい。
いなくなっちゃうの?
おいていっちゃうの?
せなかいたいいたいいたい……

痛み。恐怖。……死。
急に世界がぐるぐる回って暗転する。

甲高い絶叫が部屋に響いた。
ずきんと彼の背が痛む。

「ルース!」

小さな身体に駆け寄って抱きしめながら、彼の脳裏に疑問がわきおこった。

扉には何重にも封印をかけておいた。なぜだ? なぜ開いたのだ。
それもなぜこんなに早く帰ってきた?
開け放たれた扉の向こうに、口を押さえて小さく悲鳴をあげるフレデリカの姿が見える。しかし彼女では、彼の全力をかけた結界は破れないはずだった。

そしてこの痛み。
神経網を確認すると、痛覚はまだ間違いなく遮断されていた。
とするとこれは彼ではなく、ルシオラの痛みだ。

彼女の手術時には、慎重な準備のもとに麻酔をかけていた。だから痛みそのものは知らないはずだ。
だが、今ここで目にしてしまった光景と、隠していた彼の心の痛み、傷口を見てあれでは痛いはず、という感覚。それらをすべて一度に受け取ってしまった結果、感じていなかったはずの痛みを身体が思い出してしまったということだろうか。

そして、彼の傷を目の当たりにしてしまったことによるショック。
今は親代わりでもある彼が死んでしまうかも、ひとり残されてしまうかも……息が詰まるような不安と恐怖を感じてしまっただろう。


ずきん、ずきん、と走る痛みは、背だけではない。胸が苦しい。
意識を失った小さな身体を抱きしめる。

もみじのような手が、可愛いらしい素朴な白い花を握っていた。
……ああ。
彼女は、これを彼に届けるために家路を急いだのだ。

彼は天を仰いだ。

この痛みも、彼女が背負わなければならないというのだろうか。
私は私の望みを叶えているだけで、彼女には何の責任もない。
だからこそ心の傷にならないようにと最大限の心くばりをしてきたのに、それすらも許されないというのだろうか。

絶対に置いていきはしない。
その約束を伝える前に、巨大な爪痕がやわらかな心に残ってしまった。
いったい彼女は、いくつの傷を抱えてゆけばいいのだ。

閉じられたエメラルドの瞳を見下ろす彼の目から、ひとすじの涙が柔らかな白い頬に落ちた。

ひとりにはしないよ。
いつだってそばにいる。
不安があなたの心に根づいてしまったなら、その根が枯れるまでずっと。
……あらためてここに誓うよ。

それは、彼の最後の涙だった。




















*************

>>【銀の月のものがたり】  目次1  ・  目次 2

>> 登場人物紹介(随時更新)



「羽ばたいて」前話が書きあがったのはだいぶ前ですが、
これが書きあがったのは、ついさっきです(笑)
このタイミングでなければ書くことはできなかったんでしょう。

骨格が見えて書いたのは土曜日ですが、それから書き足し書き足し、
気づけば倍近い長さになりました。



関連するじぇいど♪さんの話もぜひご一緒に読んでみてくださいね^^
「羽はね恐怖症」(1~6話まであります)
http://plaza.rakuten.co.jp/californiajade/diary/200906280000/


コメントやメールにて、ご感想どうもありがとうございます!
おひとりずつにお返事できず、本当に申し訳ございません。
どれも大切に嬉しく拝見しております♪
続きを書く原動力になるので、ぜひぜひよろしくお願いいたします♪


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最終更新日  2009年07月01日 12時01分10秒
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