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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年12月16日
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通勤用の白いAラインの膝丈コートを着たリフィアは、やっぱり変に色気を狙わなくて正解だった、とほっと息を吐いた。

「すみません。待たれましたか?」
「いいえ、私も今着いたんですよ。ウォーキングシューズを履いてきてくださってありがとう」

リフィアの足元に目を留めて、ふっとアルディアスは微笑んだ。素っ気無い軍用品を身に纏っているのに、ちっとも軍人らしく見えないという人も珍しい。

「歩くのがお好きなんですか?」

並んで歩き出しながらリフィアは尋ねた。

「ええ。ただ、他の方とはどうも距離が違うようでしてね。一度友人と歩いて怒られたことがあるんです」
「なんて?」
「お前にはついていけないって。今日も、足が痛くなったり疲れたりなさったら、すぐにおっしゃってくださいね。遠慮はいりませんから」

銀髪の男は冗談めかして笑った。歩くのが好きという割に歩調がゆっくりなのは、リフィアに合わせてくれているかららしい。

彼の案内で最初に入ったのは、大通りを渡って右に曲がったところにある宗教系の専門店だった。

「アル、久しぶりじゃないか。いい本入ってるぞ」

毛糸の帽子に眼鏡をかけた店主らしき小さな老人が、アルディアスを見て気安く声をかけてくる。隣のリフィアの姿をみとめて、老人は感心したような顔をした。

「おお、別嬪さんだな。やるじゃないか、この」
「こんにちは、おやじさん。こちらは軍の支援担当の方ですよ。若いお嬢さんなんですから、変な噂立てないでくださいよ」
「なんだ、お前のコレじゃないのか、アル」
「残念ながらね」

アルディアスが微笑んだので、リフィアは思わずどきっとした。しかし挨拶はすぐに終了したらしく、二人はすでに分厚い本を前にして話し始めている。

店の中で、オパレッセンスのような白い光が彼を丸く取り巻いていることにリフィアは気づいた。オーラが見えているのだろうか。
それにしても、熱心にページをめくる軍コート姿が、どうにも怪しい古書店の雰囲気にはそぐわなくてつい笑ってしまう。待ち合わせ場所では際立って素敵に見えたのに。

(いけない、仕事仕事)

リフィアは笑いを抑えると手帳を取り出して、店の名前と場所、それに取り扱い内容を書き留めた。店内を見回して、見つけた連絡先番号も書いておく。これで今後アルディアスから要望があっても応えられるだろう。

アルディアスはそこで二冊の分厚い本を買い求めた。会計をすませて店を出ると、両手で本を胸の前に持ち、ふっと持ち上げる動作をする。次の瞬間には手の中には何もない。
いきなり手品を見せられたようで、リフィアは目をぱちくりさせた。

「……どこへ?」
「泊まっている短期宿泊所の机の上へ」

アルディアスは片目を閉じてみせる。自分ひとりなら大きくて重い本を何冊持ち歩いてもどうということはないが、彼女と一緒ではさすがに気を使わせるだろうと思ってのことだった。

二人は次に、古書店街でも有名な書店にむかった。一階はリフィアも来たことがあったが、アルディアスが向かったのは細い階段を上った二階の希少本コーナーだ。

中央のガラスケースに、手書きらしい古い本や図録が入れられて美術館のように陳列されている。
リフィアは目をすがめて手書き本を見つめた。全体でひとつのオブジェとするととても美しいから、おそらく書き手は字が上手いのだろうと思う。思うのだが、リフィアにはちっとも読めない、というよりも字にすら見えなかった。

「……ミミズの寝言みたい」

ほんの小さな声で呟いたつもりだったが、すぐ隣で同じ本を見ていたアルディアスには聞こえたらしい。おかしそうにくすりと笑う声が聞こえた。

「たしかにそうですね。……これはね、私たちの文明のはるか前にあったと言われる、古代語で書かれているんです。タイトルはここ、『契約と召喚の魔法について』」
「これが読めるんですか?」

心底びっくりしてリフィアは背の高い男を見直した。ええ、神殿で習いましたから、とこともなげに彼は微笑む。
そして店主の中年女性を呼ぶと、その本を出してもらってページを繰り始めた。その真剣な様子から、本当に読めているらしいとリフィアは思った。
こんな古代語の、それも手書きの希少本ならば高いはずだ。魔法系の専門書は軍の支出対象になるが、アルディアスが私費で払ったのを見て彼女は不思議に思った。

「いくらなんでも、古代語までは軍で教えることはないでしょう。これはいずれ神殿の後輩に読ませますよ」

尋ねるとそういう答えが返ってきた。
彼はその本もふいと手品のように消して、今度は裏通りから表に向かって歩き出した。先ほどとは違う宗教書専門店。ここでは何冊かぱらぱらと見ただけで何も買わなかったが、リフィアはしっかり店名等のチェックをしておいた。

気づけば陽がそろそろ中天にさしかかる。眩しそうに空を見上げ、腕の時計を確認してアルディアスが言った。

「そろそろ昼にしましょうか。何か食べたいものはおありですか?」
「いえ、このへんのお店でいいです。ええと……あそこのオープンカフェとか」

リフィアは適当に目についたカフェを指さした。街路に出ているテーブルに席を占める。寒くはありませんか、と聞かれて彼女は首を横に振った。空気はキリッと冷えていたが、たくさん歩いたからか寒くはない。
そこでバケットサンドイッチと暖かい飲み物の軽食をとってひと休みし、二人はまた歩き出した。

今度は占星術や運命学の専門古書店へ向かう。黒い布をしいた棚に、水晶球やカード類の道具もたくさん並べられてあった。本物かしら、とリフィアが見ていたのがわかったのだろう。全部本物ですよ、とアルディアスがささやいた。

「アルディアスさまも占いをなさることがあるんですか?」

神殿の神官たちが占いもするのを思い出してリフィアは聞いてみた。

「頼まれればやることもありますが……。自分ではあまりやりませんね」

それほど未来を見たいとも思いませんので、と意味深げな瞳で彼は笑った。その意味を尋ねるのもはばかられて、リフィアは曖昧にうなずいて棚に目を戻した。
一番高いところに、綺麗なステンドグラスの図録を見つけて手を伸ばす。しかし爪先立ちになっても、本の下端にちょっと触れるくらいでどうしても届かない。

「これですか?」

足台を探して左右を見る前に、アルディアスが背後からその本を取ってくれた。戻すときにはご遠慮なく、と笑う彼に礼を言ってページを繰ってみる。色とりどりのステンドグラスがフルカラーでたくさん収録されており、とても美しい。
ほくほくした気分で、リフィアはその本を買い求めた。

店を出てから、持ち手なしの薄い紙袋に入れられたその大きな図録が自分の鞄に入らないことに、リフィアは改めて気づいた。小脇に抱えるにも重いし、悩んだあげく両手で胸に抱くようにして持つしかないかと思っていると、横から黒革の手袋をした大きな手が伸びてきてひょいとその荷物をとりあげた。

「お持ちしましょう」
「いえ、そんな、申し訳ないですから」
「重いものは慣れていますからご心配なく。私は手ぶらですし、こういうものは時間が経つほど重くなってきますからね」

自分の本は例のごとく消したらしいアルディアスが微笑む。すみません、と恐縮するリフィアに、彼はもう一度微笑んで言った。

「そろそろ足も痛むでしょうから、お茶でも飲みましょう」

どうやら彼女が、待っている間に足の爪先を上げたり下ろしたりしていたのに気づいていたらしい。大通りに出てすぐにあったオープンカフェで、外でいいと言うリフィアにうなずくと、椅子をひいて座らせてくれた。

暖かな紅茶とちょっとした甘い物をはさんで、しばらく雑談して小休止する。アルディアスは人の話を聞くのがうまくて、一緒にいても楽しかった。

小さなケーキを食べ終わった後、リフィアは口紅を直しに少し席を外した。
鏡を使いながら、なんだか大変な人よねえ、と思い、大変の意味もいろいろよね、と鏡の中の自分に笑ってしまう。
全部が神秘的なのではなくて、本心がわかりにくいだけなのだろう。

席に戻ると、アルディアスは椅子の背によりかかり、ぼんやりと風でも見ているようだった。横を通り過ぎた女子達が、きゃ、という感じで互いにつつきあって振り返っている。
早春の風が長い銀髪をなびかせ、こういう風情でいれば彼女たちの反応自然よねえ、とリフィアはしみじみ思った。古書店では周辺状況が怪しすぎるのだ。

お疲れでしょう、もう帰りますか、と言われて彼女は首を横に振った。アルディアスは明日には任地に戻るのだから、ぎりぎりまで色々回りたいに違いないと思ったからだ。

しかし、五軒目の心理・精神医学・魔法系の絶版書を扱う書店、六軒目の自然科学系の学術書専門店ときて、リフィアの体力も限界になった。
見れば外はもう暗い。おそらくお礼とお詫びのつもりなのだろうが、物柔らかな夕食の申し出を、アンナの顔を思い浮かべてリフィアは辞退した。

アルディアスは嫌な顔をするでもなく、リフィアの家のある地域を聞くと手をあげてタクシーを止めた。運転手に何か話してカードを出し、先に会計をすませる。
座席におさまった彼女にステンドグラスの図録を返して、今日はどうもありがとう、お疲れ様でした、と彼は微笑んだ。その銀髪に月光がきらめいて、今夜も満月だったのだと知る。

「こちらこそ稀有な体験で楽しかったです。これからは、ご本の注文が来てもタイトルが読める物なら受けられますわ」
「そうですね、お願いすると思います。ではどうぞお気をつけて」
「アルディアスさまも」

早春の夜風が彼の髪をなびかせるのを後に、タクシーが走り出す。しんと冷えた空気の中に立つ彼は、やっぱり際立って素敵に見えるとリフィアは思った。


それから時折、彼女はアルディアスの担当として本の発注と受取をするようになった。





















【銀の月のものがたり】 道案内
http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/diary/200911230000/


【第二部 陽の雫】 目次
http://plaza.rakuten.co.jp/satukinohikari/diary/200911240000/


実は私、学生時代にほぼこれと同じルートで神田の古書店めぐりをしたことが・・・。
もちろん貧乏学生でしたので、稀少本コーナーとかは行きませんで一般古書でしたがw
心理学だのなんだの専門の怪しい本屋さんは行ってましたねえ。ひとりで。ほんとに丸一日歩き倒して。

なので、リフィアさん本体さんに話を聞いたときは吹きました。
昔も今も同じことやってんのね・・・(遠い目


ご感想をくださる皆様、本当にありがとうございます!!

次書こう~♪ってなりますので(←単純w
ぜひぜひがんがんコメントしてやってください♪


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最終更新日  2009年12月16日 12時02分59秒
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