のんびり、やさしく。

のんびり、やさしく。

PR

プロフィール

さつきのひかり

さつきのひかり

カレンダー

コメント新着

かずみ@ Re:☆ゲリラ開催☆ 1/10~1/15 はじまりのひかり&ロシレムヒーリング(01/10) かなりお久しぶりになります。 当時は、お…
悪女6814 @ Re:ブログお引越しのお知らせ(01/14) 「お気に入り登録」させていただきました…
ユウリ@ Re:【銀月物語 28】 消えない十字架(04/22) 私も。 必要であれば自分自身を斬れます。…
確かに。@ Re:【銀月物語 26】 哨戒空域(04/18) 必要ではない、というかその時ではないと…
Ving@ Re:天使夜話 ~暁の星~ 1(03/10) さつきのひかりさんへ 今日から天使夜話…
くまたろう@ Re:☆ゲリラ開催☆ 1/10~1/15 はじまりのひかり&ロシレムヒーリング(01/10) いつもありがとうございます。 どうぞよ…

お気に入りブログ

アシスタント吉田の… ヒーリングセミナー bulan・batuさん
天使と住む楽園 楽園に住む私♪さん
ぷち・すぴ ぴ子さん
なにが見えてる? umisora1897さん
おだやかに。 aki-☆さん
ミカエルブレイズ たんたん4531さん
虹をつかもう 双光 持元さん
神社☆エール!頑張れ… 瑚☆月さん

サイド自由欄

nmcard_128128.gif
トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年02月04日
XML
(今日はテラスハウスで待っててね)

リフィアにむけてその心話を送ったとき、アルディアスは九日間の作戦から基地に帰還したばかりだった。
残務処理も早めに済んで、司令部から出ると晩秋の陽がちょうど傾き始めたところだ。

確かめるように内ポケットを軽くたたいて道を急ぐ。
司令部から官舎街にいたる途中に、小さな店がいくつか集まっている区画があり、そのうちの一軒に彼は足を運んだ。

「いらっしゃいませ」
「ええと、青い花で花束を作っていただきたいのですが」
「かしこまりました。贈り物ですね?」

花屋の女性店主はにっこりと微笑んだ。


「青でしたら、これなどいかがでしょう。花の女神、という名前なんですよ」

慣れた手つきで、たくさんの水瓶の中から淡い青をした可憐な花を何本か抜き出した。八重にかさなる花弁が優しい。

「お相手様は青い花がお好きでいらっしゃいますの?」
「え、ええ、そう言っていたので」
「そう、お客様の瞳と同じ色ですわね」

店主はにこやかに笑って、まだ数本の花を軽く客にむかって掲げてみせた。

「は……」

アルディアスは目をしばたたいた。
いや、言われてみれば確かにそうなのだが、リフィアがいつか言っていたことを覚えていただけで、自分の目の色と共通性があると考えたことはない。

しかし中年の店主はわかっていますよと言わんばかりにうなずいて、他の水瓶を手で指した。

「青だけだと寂しい印象になりがちですのでね、さし色を入れるといいんですよ。ちょっと失礼して……お客様の瞳に合わせて同じ花で紫の濃いめ薄めと、あと白いかすみ草などいかがでしょう。淡いピンクなんかも可愛いらしいですね」



「お任せします」

アルディアスは微笑んだ。自分の目の色との関係はともかくとして、青系統でまとめられたバランスのいい優しい色合いが、リフィアによく似合いそうだ。

大きな花束を片手に、紅葉の美しい並木道を歩く。
ななめに輝く金色の陽射しの中、黄色く染まった葉が何枚もひらひらと舞い落ちていた。

落ち葉を踏んで歩く足が知らず知らずのうちに速まり、最後は大股で半分走るようにしてテラスハウスの玄関についた。


明るい声とともにリフィアが迎えると、アルディアスは広い背中に花束を隠したまま、後ろ手にドアを閉めた。
お帰りなさい、という笑顔をしばし抱きしめた後、おもむろに花束を渡す。

「リン、あの……今日は、お願いというか、伝えたいことがあるんだ」

驚いて見開かれたペリドットの瞳を見つめ、一度息を吸って続ける。

「まだ例の事件も片付いてないし、待たせてしまうことになるけど…でも伝えたくて。……私と、ずっとパートナーでいてください」

ひと息で彼は言った。

一緒にいて、どうかそばに。
わきあがる万感の想いは、言葉に濾すととてもシンプルなものにしかできなかった。
どこまで伝えられるだろうかと思いつつ、いやきっと彼女ならば。

しかしリフィアは黙ったまま、うつむいて花束に顔を埋めている。

「あの……リン?」

実際は数秒かもしれないが、沈黙がひどく長く感じられて、徐々に不安になってくる。
自分にとっては疑いもなく、彼女はかけがえがなくて、必要で大事な人だけれど、彼女にとってはどうだろう。
注いでくれるあふれるばかりの愛に、もしや甘えすぎていただろうか?

一瞬本気で心配しかけたとき、彼女はぱっと顔をあげた。
その瞳からぽろぽろと涙がこぼれている。

泣き笑いの表情でリフィアは花束から藍色の花を一本抜くと、黙ったままそれをアルディアスの襟元に挿した。
驚きと嬉しさと感動と、口を開いたら泣いてしまいそうだったから。

アルディアスはそれ以上問いただしたりはしなかった。
ただ微笑んで、花を挿してくれた細い手と、そして赤い唇へと口づけた。

「それからね、これ」

リフィアがダイニングのテーブルに花束を置いて花瓶を取りに行こうとしたとき、アルディアスは胸ポケットから小さな包みを出して彼女に渡した。
可愛らしいリボンのかかったそれは、市場に行ったとき求めたものだ。
包みを開けたリフィアの顔がぱっと輝く。

「リンの瞳の色にそっくりだと思って。気に入ってもらえるといいけど」

にこにこと言う。結婚を約束するとき、求婚者は何らかのアクセサリーを相手に贈る習慣があるのだった。

「ありがとう……とっても素敵」

リフィアは指先でそっとペンダントをつまみ、うっとりと明かりに透かしてみた。透明な金緑のトップはもとより、小さな飾り石までがきらきらと輝いている。
時を忘れて眺めていられそうだった。


「アルディ、私の好きな花を覚えててくれたの」

部屋にある一番大きな花瓶にもらった花を生けながら、リフィアはテーブルについている恋人を振り向いた。彼女の白いハイネックセーターの胸元には先程のペンダントが、瞳に映えてやわらかく輝いている。
彼の上着の襟元に挿した花も、枯れないようにすでに一輪挿しに生けてあった。

「うん、いつだったか青い花が好きだって言っていたなと思って」

アルディアスは微笑んだ。
半年ほど前だったか、定期メンテナンス以外は放りっぱなしで、よくいえば野趣あふれる官舎の裏庭に花の種を蒔いてもいいかと聞かれたとき、確かそう言っていたと思う。

「ちらっと言っただけなのに……ありがとう」
「どういたしまして。合っててよかった」
「ねえ、花言葉は知っていたの?」

くすくすと笑いがもれる。
彼の瞳と同じ色の花だわと思った時しっかり調べたから、リフィアは青い女神の花言葉を知っていた。
意味まで含めていつか欲しいと思っていたその花が、実はあまりプロポーズ向けではないことも。

「花……言葉? いや、色で頼んだから。なにか悪い意味でもあった?」

案の定、アルディアスは少し不安げな顔になった。あわてて両手を振ってそれを打ち消す。

「ちがうの。ずっと欲しいと思ってたの、ほんとよ。悪い意味なんてないんだけど、でもあのね」

可笑しさがこみあげてきて、つい笑い出してしまう。

「花言葉は『静謐』なの。心の平安、穏やかさ、繭に包まれたような心地よさ……同じ花の色違いで花束にすると『共に育てた静謐』という意味になって、長く連れ添った仲良し夫婦が送りあうんですって」
「……それは知らなかったなあ」
「あやかりたいな、とか思ってたら、先行で貰っちゃったから驚いたの」

きっとあなた、妻帯者と間違われたのよ、とリフィアは笑った。結婚後の最初のイベントとか。

「うーん、あんまり今日むけじゃなかったか」

アルディアスが腕を組んで苦笑する。そこまで考えている余裕はなかったから仕方ないが。
花をきれいに生けおわったリフィアがそばにきて、銀髪のかかる肩に笑いながら手をおいた。

「でも、私は他の花より一番嬉しかったもの。意味も含めてよ。……いつか何十年も経って、お互いに贈りあえたら素敵ね」
「そうだね」

アルディアスは細い身体を抱き寄せた。
二人の視線の先で、青紫の花の女神が微笑んでいる。
柔らかな花びらのかさなりに、これから育む未来を包んで。












【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次



立春の朝に。

物語の季節は秋ですけど、おめでたい話だし 笑
最近暗いのが続きましたからね。

市場でのプレゼントはここで渡したのでした。



拍手がわりに→ ブログランキング
webコンテンツ・ファンタジー小説部門に登録してみました♪→





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2010年02月04日 08時46分59秒
コメント(20) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: