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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2010年04月12日
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門柱にあるインターホンに来意を告げると、軽い音をたてて大きな門扉が開かれた。


雨上がりの初夏の空気はすがすがしく、緑の匂いがする。しかしひとめで旧い領主の館とわかる実家に近づくにつれ、恋人の口数が少なくなってゆくことにリフィアは気づいていた。
彼の家族の話を聞いたばかりだったから、さもありなんと思いこそすれ、なんと声をかけていいのかわからない。
沈黙を漂わせたまま、二人は応接間に通された。

初老の執事が姿を消した後まわりを見ると、色あせ始めた壁紙にいくつものポートレートがかけてあった。
写真も、昔風の肖像画もある。

「これ、アルディ、あなたね?」

小さな銀髪の男の子が笑っている写真をみつけて、ふとリフィアは微笑んだ。

ストレートな銀髪と人懐こい笑顔がよく似た、幸せそうな家族の肖像。

「そうだよ、これが母で……」

アルディアスが長い指で写真の女性を指したときだった。

「触るな!」

震えた声がして部屋の入り口を振り返ると、執事の押す車椅子に乗った銀髪の男性がこちらを睨んでいた。
しかしすぐに表情を消してうつむく。

「……すまない、その…大事なものだから」

「…いえ。こちらこそ、不用意に失礼しました」

指を引き戻してアルディアスは呟いた。
なんて会話なの、とリフィアがはらはらと二人を見守る。

ポートレートが大事なのは、それが家族の肖像だからで。

それは恋人に自分の家族を紹介したかったからで。

お互いに大事に思っているはずなのに、どうしてすれ違ってしまうのだろう。
四半世紀をまたいだ再会は、互いの記憶の姿からはあまりに離れてしまったのだろうか。

父にとっては、まだ五歳だった息子は自分を越えるほど大きくなって。
子にとっては、大きかった父はこんなにも老い、小さくなったのかと。


ブルームーンを思わせる青みのある銀髪と深い藍の瞳とその顔立ち、広い肩幅。こんなにも二人はよく似ているのに。

大人と子供、二人の女性の形をした溝は深くて遠くて、どちらも手を伸ばせないかのようだった。

「元気で、やっているのか」

「はい。……おかげさまで」

「そうか」

一言ずつに微妙な間の挟まる、雨だれのような会話。
執事の淹れてくれたお茶はとても香りがよかったけれど、砂を飲んでいるような気がしたのは隣に座る銀髪の恋人に共振しているのかもしれなかった。

アルディアスは紅茶のカップで視線を隠しながら相手を見やった。
車椅子に乗っているのは、足が不自由になってしまったのだろうか。
記憶にある父はとても大きくて頑丈で、しかし母を亡くした後は、やるせない瞳で自分を見ていて。
そうしながらその瞳は息子ではない誰かを見ていて、ごめんなさいと何度も泣きながら謝った言葉は、届いていないように当時の彼には思えた。

いや、届いていたとしても、父もまた妻と娘の死という大きなショックに見舞われて、返事をする余裕がなかっただけなのだ。
しかもその原因が息子だったとあっては、あれだけ家族を愛していた父にとっても、受け止めるのは非常に難しいことだったのだ。

仕方がないことなのだ。
今のアルディアスにはそう思える。

しかし何度もそう言おうとしては、口は重く閉ざされた。
老いて病を得た父親に、癒しの技のために触れさせてほしいと心が思う一方で、手は吸いついたようにカップを持ち続けていた。

理性は自分の不甲斐なさを呪い、感情はもっと認めて抱きしめてほしかったのだと泣く。
おそらくそういうことなのだと、さらに自分のどこかは言っている。

しかしその葛藤を、この弱った父にそのままぶつけることは、できない。


「……父さん」

長い長い沈黙の後で、カップをテーブルにおろしてアルディアスは呼びかけた。今までのすべての気持ちを、その一言に乗せるかのように。

彼にとってはたった一人の家族が顔を上げる。血族の印になるだろう深い青い瞳。

「この人と、結婚します」

恋人の肩に片手をそえて、はっきりと彼は言った。その手がかすかに震えていることに気づいたのは、おそらくリフィアだけだったろう。

青い瞳があらためて彼女を見る。
そこにあるのは強い理性と慈愛の色だ。アルディアスの性質は間違いなく両親から受け継いだものであり、私はそれに感謝しているのですと……伝えられたらどんなにいいかと、リフィアは思う。

「……そうか」

それだけを、主は答えた。



翌日、アルディアスは午後から他の親族と広間でずっと話し合いをしていた。結婚と同時に、いままで曖昧にしてきた相続をほぼすべて放棄すると聞いていたから、そのためだったのだろう。

アルディアスにとって家はどこもかしこも昔通りのようだったけれど、必要最低限の場所以外に行こうとはしなかった。
かつての彼の部屋も、どこかにはあるのだろう。

しかし昔日の記憶のままに残っていても、まったく違う部屋になっていても、どちらの結果でも目にすれば辛いのかもしれない。
それだけでなく、自分はもうすでに他人になりすぎていて、我が物顔に歩く気にはなれないのだ……そう思っているように感じられた。

大まかな案内と敷地の説明をしてくれた後アルディアスが戻ると、暇をもてあましたリフィアはひとりで散策とはいえないような散策をした。

昨日はわからなかったけれど、よく見ると庭はなんだか荒れている。
新芽の少ない枯れかけた薔薇が、館の主の容態を心配しているように見えて、どうにも間を取り持てない無力さが悲しかった。

黙りがちな夜をすぎて翌朝もまた、出立時間のぎりぎりまで話し合いは続けられていた。
親族が彼を留めようとしていたのかもしれない。

昼前、同じく話合いに加わっていたはずの主が、車椅子に乗ってリフィアのいる居間にやってきた。

慌てて立とうとしたリフィアを制し、なにか言いたげにしている。
長い時間そうしていたが、とうとう言葉にならなかったようだった。

やがて、伝えられることがあるならば余さず聞こうと、ペリドットの瞳に祈りをこめるようにしていたリフィアの前で、館の主は執事の介助を得つつ車椅子から立ち上がった。

その大儀そうなゆっくりした動きは、足がかなり弱っていることを感じさせる。
主は立ち上がり、執事に手を離させると、同じく立ち上がったリフィアをまっすぐに見た。
その背丈は息子とほとんど変わらない。

「息子を、よろしくお願いします」

それもけじめと思ったのだろうか。自分の足で立って、主は彼女に頭を下げた。
窓辺から射しこむ明るい光が、その銀髪を照らしている。

あの人の折り目正しさも、父親から受け継いだものなのだ。
ちらりとそう感じつつ、こちらこそどうぞよろしくお願いいたしますと言いながらリフィアは義父になる人に駆け寄った。
深く頭を下げる姿が、負荷に耐えかねたようにぐらりと揺れたから。

執事と二人で車椅子にまた座らせると、主は大きな息をついた。

「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんな。あれとの……間も」
「いいえ。……いいえ」

唇をかみ、首を横に振るのがリフィアには精一杯だった。
父にも息子にも、とてもとてもたくさんの伝えたいことが、季節はずれの雪のように降りつんでいるのがわかる。

それは長い時の間に押されて固くなってしまったのだろうか。触れれば指のほうが痛くなるほどに冷えてしまい、なかなか溶けようとはしない。

アルディアスは話し合いを急いでいるようだった。
昨晩もリフィアがいなければ、無理して夜中までかかっても終わらせて、片道数時間かかる中央の家に帰りたいように見えた。

久しぶりに帰った実家なのに、季節を計りそこねた雪が舞う。
互いに降りつむ想いの雪は、初夏の館のここだけを真冬のままに留めおく。
窓辺には明るい光が満ちているというのに、灰色にたれこめた重い雪雲が、二人の間にはかかって見えるようだ。

その凍りついた寒さも哀しみも、すべてこの陽射しに溶けていったらいいのに。
生命が喜びを歌う季節が、外気と同じく彼らの心にも訪れたらいいのに。

挨拶の後部屋を出てゆく車椅子の後姿を見ながらリフィアは祈った。














<Lifia - Summer snow clouds ->
http://blog.goo.ne.jp/hadaly2501/e/f16e6fa94adb33cf3ca457d44c73d9b1







【銀の月のものがたり】 道案内

【第二部 陽の雫】 目次


昨日の「てなんごう」の記事なんですが。
魂同士の信頼はあるのかも、と書きましたが、
だからといって三次元で起きたことをただそのまま許すかっていうと、そういうことではありません。

辛いのは辛いし、やってはいけないことはやっぱりやってはいけない。
三次元のその生の間で罰を受けたり償ったりは、当然ながらすべきだろうと思います。
それはもう、言うまでもなく当たり前の感覚です、私にとっては。

ただ、もしも生まれてくる前に、人生の計画を一度全部知って、というか
自分自身で計画して生まれてくるのだとしたら、
その生にとって重い役割を担う登場人物については、赤の他人ではなくて
見知った関係の信頼の置ける魂であったり、何度も色々な生でお互い繰り返してやりとりするような魂にお願いするのではないかと……
ああ、そういうのをソウルグループっていうんですかね。(いまさら


まあ、そう思ってみたからといって、自分でそれが消化できてるかっていうと、それはそれでまた全然別問題だったりするわけですが 爆

たとえばアルディアスの家族。
父親とはこの時点で二十五年の間、ずっとすれ違っています。
この先どうなるかは伏せますけれど、長い長い間しこりはあり続けました。
母親と妹の命を奪ってしまったことへの悔恨も、アルディアスはずっと持ち続けました。

それは消せないことです。
転生のしくみというか、中間生というものを知って、ならばそういった信頼があってのことかもしれないと思い至りはしましたが、
それでも悔恨も哀しみも、なかったことにはならないのです。

もしかしたら、三人は今生でもどこかにいるかもしれない、そう思います。
けれど、会うのはまだ少し怖いのです。

その怖さもまた、認めて抱きしめてゆきたいと思っています。




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4/13 一斉ヒーリング ~見守ってくれる存在と






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最終更新日  2010年04月12日 14時45分12秒
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