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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2011年08月08日
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(リフィアン、夕飯の支度、もうしてしまった?)

夫から心話が届いたのは、もう外も暗くなった夜六時前。
定時に仕事を終わって買い物をしながら家に帰り着いたところだったリフィアは、ちょうどこれからだと答えた。

(そう、よかった。あのね、明日は二人とも休みだし今日はあと1時間くらいで上がれるから、ドライブに行かないかい。連れて行きたいところがあるんだよ)
(じゃあ夕飯はサンドイッチか何かの方がいい?)
(うん、それだと助かる。簡単でいいから、すぐに出られるようにしておいてくれるかい? それから厚手の毛布を二枚。冷えるからね)

言葉通りアルディアスは、帰宅すると着替えただけですぐにリフィアを車に乗せて出発した。どこへ向かうのか尋ねても笑うだけで答えないが、ハイウェイに乗って西北を目指しているようだ。

道は空いていて、ドライブは快適だった。
見慣れた街の夜景から、だんだんと暗闇の濃い山地へと入ってゆく。

つい先日の乗用車爆破事件、あの衝撃がまだ完全に去ってはいなかった。

「アルディ、まだ遠いの?」

ハイウェイの途中、すでに初めての土地の休憩所で一休みしながら聞いた彼女は、道程がまだ半分ほどだと言われて目を丸くした。

「高速はそろそろ降りるけどね。後はずっと山道だから、寝られるようなら寝ておいで」

そうは言われてもまだそれほど遅い時間ではなく、寝るつもりはなかったのだが、灯りのまばらな田舎道を走っている間にいつのまにかうとうとしていたらしい。

声をかけられて目をあけると、停まった車のフロントガラスの向こうに満天の星空がひろがっていた。
あわてて掛けてあった毛布をたたみ、シートベルトを外してドアをあける。

「寒くない?」

トランクから軍用の背嚢を出したアルディアスが、慣れた手つきで二枚の毛布を紐でゆわえつけていった。そういえば空気はぴんと冷えていて、リフィアは少し身震いする。
銀髪の男は自分の上着を妻に着せかけると、一応ライトがいるかな、と丸い光で足元を照らした。

降るような星空。


「星谷、というんだよ。ここは」
「そのままね」

手をつないで下草を踏み歩きながらくすりと笑う。
しかし切り立った岩山に近づいたとき、自分達の背後からぶわりと何かが巻きあがってリフィアは息を呑んだ。

星の光を集めたような風が二人を取り巻いている。思わず長身の腕に抱きついた彼女の前で、それは徐々にかたちをとっていった。



二人を包むように出現したのは、淡く金色に透ける大きな竜だった。
顔だけでもリフィアが抱えるほどはあるだろうか。アルディアスの声に反応するように、喉をならして気持ちよさそうにクォオ…ンと鳴く。その声も実際の音のようなそうでないような、確かに鼓膜を震わせているようなのにうるさくはないのだった。

(竜の棲む谷へようこそ、わがあるじと奥方よ)

ゆったりと落ち着いた声が直接心に響く。
じっと見つめてくる輝く大きな目は、大祭で見たような黎明の光、そして年経た賢者の瞳を思わせた。この大きな存在が、アルディアスが言っていた彼の守護竜だろうか。

「は…、はじめまし、て」

リフィアの挨拶に、竜は目元を和らげたように見えた。

(はじめまして、奥方。実際は大祭で会っているし、普段から見守ってはいるがね)
「まあアルディ、そうなの?」
「ああ。でも普段はこんなにはっきりした形をとることはないし、大祭のときもそうだったから、普通はわからないんじゃないかと思うよ」
「ドラゴンにもいろいろあるのね……」

希少ながら軍にもドラゴン部隊があるから、そういう生き物がいるのだということを知ってはいる。
けれど実物はめったに見る機会がなかったし、まして実態のあるものとないものとあるとは思ってもいなかった。

「もともとドラゴンの生態はあまり知られていないからね。縁を結べるのは運だと言われているし、お互い不可侵のような暗黙の了解があって、踏み込んだ研究もないし」

アルディアス自身、竜と初めて出会ったのは十三歳で次代の大神官資格を得たときだ。
奥院の「上」の世界でクリスタルにホログラムを彫りつけたとき、祝福の声をくれたのがトリスだった。
それからは存在はつねに感じるものの、リアルな触れる生き物として近くにいたわけではない。
たとえばエル・フィンのところのシェーンとは存在のしかたが違うのだが、それは竜自身が選択するものであるらしかった。

「こんなふうに、ここで姿を見たことも一度だけあるよ。士官学校を卒業した年にね」

苦笑とともに彼が語ったのは、さすがに士官学校の卒業を実家に報告しようかと、車のステアリングを握ったときの話。
しかしハイウェイには乗ったものの、どうしても領地の南西に向かうことができずにいた。
それなら星谷に来るがいいと言ったトリスの言葉を聞いて、ついハンドルを北に切ってしまったのらしい。

「さあ、リンはここから通れると思うよ。ライトで照らしてはいるけど、足元に気をつけて」

目前にそびえたつ巨大な岩盤が丸い光に浮かび上がる。暗闇の中ではあるが、たしかに女性一人ならなんとか通れそうな隙間があいていた。

「距離はそれほどじゃない。十歩も歩けば開けた場所に出たと思う。私はここはちょっと無理だから、あそこからね。昔来たときは、ぎりぎり下から入れたんだけど」

苦笑しながらライトを動かすと、身長三人分くらい上方に、もっと広く口をあけている場所があった。しかしそこまではほとんど垂直の岩盤を登らなくてはならない。

「まあ、大丈夫なの?」

リフィアが心配げに眉根をよせる。おそらくできるだろうことは容易に想像がつくのだが、それでも心配になってしまうのが人情というものだ。

「大丈夫。彼らの住居に足を踏み入れるのに、テレポートという無粋を犯すわけにはいかないしね。トリス、リンを頼むよ」
(承知)

妻の頬に軽く唇を触れて促す。アルディアスが腕を伸ばして上方から照らしてくれるライトの光と、金色の竜の不思議な感触に包まれながら、リフィアは身体を斜めにして隙間に潜っていった。

夫の言うとおり、そろそろと足元を確かめながら歩いてゆくと、ふんわりと光の満ちる開けた場所に出た。
やわらかな光の霧が満ちているようなそこは、はっきりとは見えないが濃厚な気配に満ちている。壁に手をついて立ちすくむリフィアの耳に、間もなく背後にアルディアスが岩盤から飛び降りてくる音がした。

「星谷……竜の、谷?」
「そうだよ」

肩を抱いて微笑む銀髪の姿も、ほんのりと浮かび上がるこの光源はなんだろう。ぼんやりとそんなことを考えていると、アルディアスはいたずらっぽい瞳でふと巨大な竜を振り向いた。

「いいお相手が見つかるといいね。星降る翼に祝福を、トリス」
(星の冴える新月の夜。ご配慮に痛み入る)

おもしろそうな声が返ってくる。
新月の晩は竜がつがいを探す繁殖期なのだとリフィアが聞いたのは、竜たちの場を遠巻きにして少しはずれた場所まで夫と歩いて来てからだ。
トリスの相手はたぶん君の守護についてくれるだろうと言われ、リフィアはびっくりして目をあげた。

「でも私は資格とか何もないし……」
「ん? 守護竜を得るのに資格はいらないんだよ」

そういって振り返りアルディアスは微笑んだ。
竜が人を護ってくれるのは、竜自身がそうしたいと望んでくれたとき。それは資格などとは何の関係もない。

下草の生えた丘陵地を見つけると、二人は毛布をかけて仰向けになった。

巨大な岩山によって完全に人界とは隔絶された空を満たす、音がしそうなほどの満点の星空。
遠く周囲をかこむ黒い影が、どんなに広くてもここが山の間の谷だと教えてくれる。

「……君にも守護が居て欲しいと思ってね」

星を眺めたまま、低く呟かれた言葉。

自分が望み、そばに居てほしいと思うほど、リフィアには負担をかけているような気がする。
平凡で幸せだったはずの彼女の毎日を、留守居の心配と寂しさという色で塗りつぶしているのは自分。
そうしながら軍務と神殿仕事に追い回されてどうしても不在がちなうえ、休みすらなかなか取ることもできない。

ありのままのアルディアスを認め、愛してくれるリフィアがいるから、彼は彼でいることができる。
時折ほどけそうになる意志の束ねをしっかりと締めなおして、彼女の元に帰ろうと目指すことができる。

しかし、彼女は?

彼女にとって自分は、迷惑な障り以外の何ものでもないのではなかろうか。
その愛に甘え、彼女の人生をただ振り回しているのではないだろうか。

そんな思いが胸に去来すると、どうしても留めることができないのだ。

そうして振り回したあげく、もしも彼女が喪われたら。
いまやアルディアスにとって、安心と安らぎの象徴のようになった彼女がもしも去ってしまったら。

彼女と出会う前までのように一人で立っていられる自信が、彼にはもうなかった。
いやセラフィトの言を借りれば、かつての彼は相当危なっかしくも見えていたようだ。だからその時点に戻るのはいいことではないのかもしれない。

しかし今のように、安定した状態で立っていられる自信はさらに皆無だった。

おそらくは甘えすぎているのだろうと思う。
依存という名で括られるようなことなのかもしれない。
お互いがそれぞれに一人で立ち、そして手を伸ばしあうのが理想なのだろうとわかってはいる。

それでも。
一人ではどうしようもない衝動を抱えるとき、人はどうしたらいいのだろう。
甘えることとと依存することの、その違いの線はどこで引いたらいいのだろう。

どうかそばに居てほしいと望むことは、どこまで許されるのだろう……。

「アルディ?」
「ああ……いや。ほら、トリスが相手を見つけたようだよ」

そっと上半身を起こしてみれば、遠くゆらめく二つの大きな影。
ひとつは金色の、そしてもうひとつは落ち着いた赤色の。赤い方は金よりも少し小さく、二つの影はとても仲よく寄り添っているように見えた。

パズルのピースのように足りないところを埋めあって、ぴたりと合うこと。
完全であるはずのない人なれば、それはとても幸運なことなのだろう。
幸運で、幸せで、だからこそ危険であるのかもしれなかった。

けれども在り方をうまく覚えられたならきっと、一人よりもずっと豊かなのだろう。
揺らめきあう波紋がそれぞれを刺激してさらに波を強めてゆくように、片翼よりもずっと遠くはるかな地まで、飛んでゆくことができるのだろう。

互いを弱めるのではなく、強める位置に。
一人よりも二人でいたいと望むのだから、互いにも周囲にも、それが善い方へと働くように。

そうであれたらいいと、ありたいと、強く願う。

手を離すことはできないのだから。
どうしようもなく惹かれてしまうのは止められないのだから。

だから、繋いだ手が善き前兆でいられるように。
そのために払える努力はなんだってする。アルディアスは強く心に決めた。


降るほどの星々が、北極星を中心にゆっくりと天を三分の一ほどめぐってゆく。
いつのまにか眠っていたらしく、リフィアが気づいたときには暁闇に黎明の光がさすところだった。
赤い一頭のドラゴンがリフィアの前に立ち、深く輝く金色の目でじっと彼女を見ている。

(リフィア。私はあなたをわがあるじと認める。伴侶のトリスとともに、あなたがたを護ることを誓う)

それから名乗られた名は、まっすぐにリフィアの心に届いた。
答えた真名におごそかに竜がうなずく。

その鱗が、最初の朝陽にレインボーガーネットのようにきらきらときらめいていた。





















【第二部 陽の雫】 目次







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最終更新日  2011年08月08日 18時07分27秒
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