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2007.05.16

２００６年５月３０日　講談社より。
ミステリーランド書き下ろし作品。

※「ミステリーランド」とは講談社より刊行されているミステリレーベルで、
　本の復権を願い「かつてこどもだったあなたと少年少女のための」を合言葉に、
　主に新本格で活躍している作家が子供向けの作品を書き下ろしで刊行しているもの。

※「新本格」とは、現在では島田荘司の推薦をうけデビューした綾辻行人、法月綸太郎、
　歌野晶午、我孫子武丸など綾辻行人以降にデビューした本格ミステリの作家たちを指す。

というわけで、児童書のスタイルを取ったミステリーです。
ひらがな多用、漢字には全部ルビ。

主人公リンツは戦争で故郷を失った移民の子で、年齢はハッキリ出ていませんが、
小学生くらいの男の子。
世間では、希少な宝物ばかりを盗む怪盗ゴディバが連続事件を起こしており、
それを追う探偵ロイズがヒーローとして民衆の注目を集めている状態。
リンツは怪盗ゴディバが描いたと思われる宝の地図を手に入れ、ロイズに連絡、
ゴディバ逮捕を掲げたヒーロー・ロイズに協力する・・・・という話が前半。

ここまでだと、普通の冒険小説なんですけど、ここからの展開がスゴい。
予想もできませんでしたよ。

以下、ネタバレになるので詳細は伏せておきます。

彼はリンツより年上、町でも評判の不良少年で、貴族の血を引いているという噂のある差別主義者。
リンツの事も移民という事で差別します。
彼が通りすがりの老人を気にくわないと言って暴力を振るっている所を、
リンツと友人とで老人を助けたため、リンツはドゥバイヨルの恨みを買って報復されてしまう、
という経緯があります。

リンツとロイズとは捜査の途中で宝の地図を盗まれてしまい、当然リンツはドゥバイヨルを
疑う。
ところが、地図が盗まれたというのは実はロイズの狂言で、ロイズは宝の独り占めを
もくろんでいたんですよ。
それを、唯一見抜くのがドゥバイヨル。

ロイズは警察ともグルで、地図について問い詰めたドゥバイヨルとリンツは、一緒にいた警視に
殺されかけさえします。
２人は一緒に町から逃げ、地図と宝を取り戻すためにロイズを追っていきます。

この時点で、実はドゥバイヨルはいいヤツで、何かワケありで悪ぶっているのか？と、思いました。
だってね、ドゥバイヨルの容姿ってのが、金髪で気品のある顔立ち。
それも生粋の差別主義者らしいと言えばらしいんですが、小説だし、実は善ということもあるかと
私は思ったんですが、違った。(^^;

ドゥバイヨルはあくまでも宝が欲しい利己主義の乱暴者で、人を殺すことにもためらいがない。
そのスタンスは最後まで変わらない。
ただ、リンツよりも強敵であるロイズを追うために、リンツと協力関係に見えるような
行動を取っているに過ぎないんです。

で、ロイズの方もただの悪い探偵じゃないんです。

そもそも、怪盗ゴディバは世間から大悪党みたいに思われているんですが、実は戦争で儲けた
武器商人からしか宝を盗んでいない。
しかし、それが公になると怪盗がもてはやされ、戦争を起こした国が悪いとなるので、
それを恐れた政府が、悪と戦うヒーロー・ロイズのイメージを作り上げていたんです。
うわー、情報操作だ。

ロイズは自分の役目を知っており、ゴディバを捕まえることが自分の仕事ではあるけど、
いざ捕まえてしまったら自分は用無しで捨てられてしまうであろうことも予感している。
だから、ここで宝を奪って、国から逃げてしまおうと考えたわけです。

うーん、深い。
人間なんて誰でも多面性を持っているんだから、善と悪にきっぱり分かれているわけではない。
ただ、それをこんなふうにハッキリ描いた児童書って、今まであまり読んだことがなかったので
けっこう驚きました。

ラスト近くで、負傷したドゥバイヨルが激流にのまれかけるところがあるんですよ。
それをリンツが助けるんですが、
「こいつはひどいヤツだ。自分も差別された。こんなヤツはいない方がいい。今こそ
　これまでのお返しをする時だ」
と考えるんですが、それでも自分の命を危険にさらして、彼を助ける。
善人だから助けて悪人だから助けないではなく、人としてそれは当然の行為なんだけど、
いいなあ、と思いました。

そして最後に、リンツの優しいお母さんが、さりげなく怖かったです。
善意の行動と見えて、実は自分の大切なものを守るためには殺人も辞さない、という激しさ。

最後まで、どんでん返しの続く１冊でした。