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2007.05.24

２０００年７月　講談社より。
２００４年１月　文庫化。

シリーズもので、先日読んだ「黄昏の百合の骨」より前の話になります。

主人公は同じ水野理瀬。
ただ、「黄昏の～」に出てくる理瀬とは、ずいぶん印象が違います。
「黄昏の～」の理瀬は自信があって、己の運命とまっすぐに向き合っている感じでしたが、
「麦の～」の理瀬は、夢見がちで傷つきやすい普通の女の子、という印象。
まあ、その違いがこの話の中での大きなポイントとなっているわけですが。

舞台は北の地に建てられた学園。

全寮制で、学園の生徒達は手紙を出す以外の通信手段を禁止され、学園からの外出もできない。
学園内には成績優秀な生徒が揃い、本人が望めば特別な指導者を呼び寄せての個人レッスンも
受けられる贅沢な環境。
設備も充実、学校行事のパーティーなども盛ん。
しかし、一部の生徒達はここが牢獄で、自分たちは囚人であると自覚する。

生徒達は自分達を、『ゆりかご』『養成所』『墓場』と分類する。
『ゆりかご』はとにかく過保護で、環境の整った上品な学校に入れたいと願った親に送り込まれた
生徒。
『養成所』何か特殊な職業（芸術家やスポーツ、技術系）につきたくて、ここに来た生徒。
そんな生徒は恵まれた環境下で、それぞれ家庭教師をつけて専門教育を受ける。
そして『墓場』。

公にはできない、しかし身近に存在させておくわけにもいかない子供を、大富豪などが体よく
追い払ったりしたパターン。

この閉鎖的で特殊な学校で起きる行方不明や殺人といった事件。
その謎を追う形で、ストーリーが展開していきます。

おもしろいです。

そのくせ、残りのページ数が少なくなっていくのが惜しくて。(*^_^*)

今回、「黄昏の～」の中で理瀬の婚約者として出てきたヨハンが登場。
２人の出会いが見られるのね～。
どんなキャラなのかも、気になっていたし。
なんとなく暗くて、支配者的なイメージを持っていたんですが、全然違った。
天使の笑顔を持った音楽少年。
でも、その笑顔の使い方を十二分に心得ているのが、彼の真骨頂という感じでした。
いやん、絶対敵にしたくないタイプ。(^^;

その他詳しい感想は伏せで。

次は「麦の～」の前日談にあたる『睡蓮』、後日談にあたる『水晶の朝、翡翠の夜』を読む予定です。

でも恋愛感情で結ばれた２人ではなく、共犯者としての２人、というのが「黄昏の～」の時から
気になっていました。
だって「黄昏の～」の最後では、理瀬はヨハンのライバルの回し者に命を奪われかけたんですよ。
ヨハンって何者？
その彼と共犯の理瀬って一体？

今回、その謎が判明。
ヨハンはユーロマフィアの跡継ぎ候補の一人でした。
他の候補者であるライバル達を蹴落として、後継者にならなければならない立場。
天使のようににっこり微笑みながら、人を殺せる少年です。

対する理瀬は、学園の校長の娘で、これも数多い後継者候補の中の一人。
今回の最大のキーポイントは、理瀬が記憶を失っていて、学園のことも父である校長のことも
わからない、というところ。

で、両者が手を組むことで互いに勢力拡大というわけで共犯者、というところらしいです。
ただ、どうもヨハンと理瀬ではバランスが取れていない感があるんですよね。
まあ、ユーロマフィアの後継者として、幼い頃から命をかけたやりとりを生き抜いてきただろうから
ヨハンは鍛え上げられていて当然なのかもしれないけど。
何というか、理瀬はワキが甘い感じ。
記憶喪失になった原因も、他の後継者候補に殺されかけた事件のせい。
「黄昏の～」の最後でも一服盛られて動けずにいるところを、危うく助けられているし。

幼い頃からの理瀬の特技として
『どんな女の子でも演じることができて、周囲の大人達をダマしてきた』
というのがあるんですよ。
周囲の大人っていうのが、学園の校長であったり、理瀬の祖母であったりという、
一筋縄ではいかないやり手の人達。
そういうのをダマすわけだから、スゴい才能なんだと思うんですが、私が読んだ２冊では
まだそういう活躍シーンが出てこない。
さびしいですね。

次の話でそういうところが見られるといいな。
楽しみです。