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2007.10.16

２００１年８月　講談社より単行本
２００４年８月　講談社より文庫

犯行時刻の記憶を喪失した死刑囚・木原亮。
その木原亮の冤罪を晴らすため、刑務官の南郷と、傷害致死罪で懲役２年の実刑判決を受け
服役後に出所した三上純一が無罪の証拠を探す。

冤罪を晴らす仕事は、ある依頼人が杉浦弁護士に依頼、その仕事を南郷が引き受け、
純一を誘った。
純一の傷害致死事件は、飲食店で絡んできた佐村恭介とケンカになり、それから逃れるために
体当たりをしたところ、転倒した相手が後頭部を打撲、頭蓋骨骨折と脳挫傷で死んでしまった、

犯行後も逃亡することなく、服役中の態度もよかったので、仮釈放で保護観察処分となった。
そこを南郷に見込まれて、二人で冤罪事件の真相を追う、という話。

けっこう重いテーマが盛り込まれた内容です。

南郷は、刑務官としての仕事の１つとして、死刑の執行を行ったことがあります。
法の下に人を殺す執行官の苦悩。死刑制度の是非。

ケンカの弾みで人を殺してしまった純一。
言うなれば事故のようなものですが、それでも殺人犯になるわけです。
加害者の社会復帰を妨げる社会環境。
加害者の家族が負う経済的・精神的負担。

逆に、被害者の家族の恨み、悲しみ、犯罪者に対して抱く強い報復感情。

という具合に、作者が投げかける問題は大きいんですが、それらを全部内包しつつも

終盤に畳みかけるような、事件の驚くべき展開。
クライマックスに明らかになる純一の真実。
とてもスリリングでした。

詳細、思い切りネタバレになるので、以下に伏せておきます。

冤罪の証明を弁護士に依頼したのは、なんと佐村恭介の父親でした。
しかも、冤罪の証明を目的とするのではなく、そこにでっちあげの証拠を用意して、
真犯人は木原亮でなく三上純一だ、と純一を陥れるための依頼だったのです。
すべては愛する息子を奪われた純一への恨みを、司法の場で晴らすため。
被害者家族の報復感情の凄まじさ。

しかし、ここでも恐るべき事実が。

純一の犯した傷害致死事件。
純一はケンカに巻き込まれたはずみの、むしろ被害者的な加害者だと思っていたんですが、
一番最後で違うことがはっきりします。

純一は高校時代に佐村恭介に会っていて、その時に恋人を佐村恭介に強姦されていたんです。
その時は、強姦罪を立証するための捜査や裁判で受けるであろう恋人の心の傷を慮って
結局は泣き寝入り。
その事件のせいで恋人との関係は破綻してしまいます。
純一は今でも彼女を大切に思っているし、彼女も純一を嫌ったわけではないのですが、
心の壊れてしまった彼女は今でも自殺未遂を繰り返す状態。

その純一と佐村恭介が、大人になってから再会。
純一は明確な殺意をもってナイフを買う。
が、その後偶然に飲食店で出会った時に、後ろめたさのあった佐村恭介から純一に絡んでいき、
そのあげくの、結果的に事故のように見える傷害致死。

たぶん、この事件がなかったら、純一は傷害致死罪ではなく殺人罪になっていたと思う。
でも、これって本当の被害者は誰なんだろう？
佐村恭介、因果応報の感があるんですよね。

でも、佐村恭介の父親から見たら、純一は憎い敵でしかない。
そういう憎しみって解る気がする。
大切な人を奪われたら、相手を許せないし、報復したいと思ってしまうだろうと思うんですよ。

被害者の報復感情をそのまま報復の形で返したら、果てしない憎しみの連鎖に落ちてしまう、
という純一の述懐が印象的です。

だからこその司法の場。
でも、その司法が正常に作用しなかった場合はどうなるのか？
佐村恭介の強姦罪が告訴さえされなかったように。

誤った判決で、法の下に命を失うことになったらどうなるのか？
木原亮のように。

制度は人間が作ったもの。完璧はあり得ない。

衝撃的でした。

この本、会社の上司に借りたんですが、その上司が言った
「結局、犯罪っていうのは巻き込まれたら加害者でも被害者でも終わりなんだと思った」
という一言が印象的で。

私は、ただ幸運の上に毎日を生きているんだ・・・・と思いました。

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