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2010.04.29

訳：木原　悦子
１９９７年１０月　（株）原書房より

モードレッドの王座は安泰、グィネビィアはアーサーの子を身ごもり、ランスロットは
カイヌインと結婚することになっている。春がきたらサクソン人討伐に軍を進め、
これを最後に戦乱の時代は去り、永遠の平和という夢が実現しつつあった。
しかし、再び暗雲がたちこめる気配を見せていた。それを予感させるように、
トリスタンとイゾルデの悲劇が・・・。
（表紙裏紹介文より）

この巻で書かれているのは、カイヌインの結婚と、マーリンのクラズノ・アイジンの大釜探しの旅、
アーサーと２人のサクソン人（エレとサーディック）との戦いの話です。
紹介にあるトリスタンとイゾルデの悲劇の話はなし。
それは下巻になるのかな？

これ以降は話の内容に触れるためネタバレとなりますので、ご注意ください。

カイヌイン姫はポウイスの故ゴルヴァジド王の娘で、新王キネグラスの妹。
アーサーはカイヌインをランスロットを結婚させ、ランスロットをシルリアの王にする計画です。

ランスロットは国（アニス・トレベス）を失った王子だから。
この婚姻により同盟関係を強固にして、次にはサクソン人討伐を果たす心積もり。

でも実はダーヴェルはカイヌイン姫に恋い焦がれています。
身分違いと諦めてはいますが、犬猿の仲であるランスロットとカイヌインが
結婚するかと思うと無念でならない。
そこへ付け込むマーリン。
マーリンはブリタニアの１３の秘宝の１つであるクラズノ・アイジンの大釜を探しに行きたくて、
そのためにアーサーに１００人の槍兵を要求しましたが、サクソン人討伐を予定する
アーサーは拒絶。
そこでマーリンはダーヴェルに豚の骨を渡し、その骨を折ればカイヌインとランスロットの
結婚は壊れる、その代わりダーヴェルは大釜探しの旅に随従しなければならない、

カイヌインとランスロットの婚約式。
ずっとダーヴェルは骨を折るか折るまいか迷い続けています。
折らないでいて欲しい、と思いながら読んでいました。
大釜探しは危険な旅だし、ダーヴェルには真っ正直でいて欲しかったから。
しかしカイヌインが会場に入ってきて、その美しさに周囲がどよめき、

するとランスロットに向けて歩いていたカイヌインが立ち止まり、そこへニムエが登場。
カイヌインの手を取って、ダーヴェルの下へと連れてくる。
カイヌインは持っていた馬の端綱（これを女性から男性に渡すのが婚約の儀式。本来は
ランスロットに渡すはずのもの）をダーヴェルに差し出す。
「いつか誓ってくださいましたわね、私を守ると」
「はい、姫」
というわけで、２人は結ばれるのです。
ランスロットに思いっきり赤っ恥をかかせて。（←ザマーミロ！(^^)v）

豚の骨、別にマーリンの魔法じゃないです。(笑)
カイヌインはアーサーに婚約破棄された後、２人の王子と婚約しましたが、いずれも破談。
姫として生まれた自分は、ただの政治の道具でしかないと絶望していました。
自分の意思で生きたいと願っていた所へ、マーリンから大釜探しを手伝ったら
婚約しないですむように手を貸す、と持ちかけられていたんです。

ダーヴェルもカイヌインも互いの愛情を試された形ですね。
豚の骨はただの合図で、ダーヴェルが豚の骨を折らなければニムエは現れない。
カイヌインが足を止めなければ、やはりニムエは現れない。
両方が決意しなければ、この婚約式は止まらないことになっていたんでしょうね。

後でカイヌインが告白するんですが、ダーヴェルが迷っていたように、婚約式の会場で
カイヌインもランスロットを拒む勇気が出るか迷っていたそうです。
が、婚約式の会場で得意満面のグィネビアを見た時に決心が固まったというので、
ちょっと笑った。
言うなればグィネビアが２人の恋のキューピッド？
皮肉な話です。

クム・イサブという小さな谷で、２人は２０人のダーヴェルの部下と暮らしていると、
後日アーサーが１人でやってきます。
ダーヴェルが謝ると、アーサーは全然怒っていなくて、小さい声で「よくやった」と。
そうか、アーサーもカイヌインはランスロットにはもったいないと思っていたか。(笑)
でも、ダーヴェルがマーリンの大釜探しに付いていくことには大不満。
アーサーは現実主義者で、どんな神々も重要視していないので大釜探しは無駄だと
思っているからです。。
迷信や呪いも信じていないし、キリスト教の救いもどうでもいいという珍しいタイプ。
でも必ず帰ってこいと言ってくれました。
ダーヴェルのことを大好きで信頼しているアーサーって好き♪

もう１つ嬉しかったのは、カイヌイン姫の兄・キネグラス王が頻繁にクム・イサブを
訪れてくれたこと。
キネグラスは妹の幸せを喜び、ダーヴェルと親しい友人同士になります。
平和主義ではあるけれど、キネグラスも戦場に立つ人だし、ランスロットより
ダーヴェルの方が好きなんでしょうね、まあ当然だけど。
そう言えば、ラグ谷の戦いで、ダーヴェルが死を覚悟した小さな盾の壁を作った時、
キネグラスは無駄に命を落とさないように心から降伏を呼びかけてくれたっけなあ。
いい人だ♪

このあたりが、ダーヴェルの一番幸せな時期かもしれないです。
理解ある人々に囲まれた、カイヌインとのささやかな暮らし。
しかし、マーリンが迎えに来て、大釜探しの旅に出ます。

マーリンはブリタニアの１３の秘宝の内の１０を手に入れていて、これが１１個目。
全てがそろうと、かつての神々の力を蘇らせ、神々に守られた素晴らしいブリタニアを
取り戻すことができる、というもの。
中でも大釜は強い力を持った宝なんですが、大釜があるのはディウルナハの治める
フーリン国のモン島。
ディウルナハは強大で残虐なアイルランド人で、その国へ行ったら生きて戻れないと
言われています。

そこへマーリンとニムエとカイヌインとダーヴェル（と２０人の部下）が行くのです。
途中ギャラハッドが１６人の兵（ダーヴェルの元部下）を連れて合流。
ディウルナハは大釜を横取りしようと兵を引き連れてやってきて、
ダーヴェル達は包囲されて進退窮まったかに見えますが、霧に紛れて脱出。
無事に大釜を持ち帰り、以降「大釜の戦士」と称えられます。

この辺を読んでいて思ったけど、この物語に魔法はないと思っていたけど、
見方によってはあるのかも。
マーリンが大釜探しには犠牲が必要だからと、自分の命を捧げる誓いをたてたんです。
大釜探しの旅を始めたら命が少しずつ減っていって、大釜を探し出すことができなければ
命を落としてしまうというもの。
旅の途中からマーリンは衰弱していき、大釜を見つけた時には仮死状態。
それを大釜の中に入れておいたら元気に生き返り、魔法で起こした霧に紛れて脱出、
というわけなんですが。
科学的に説明するなら、マーリンの衰弱は自己暗示、霧は出やすい季節だった、
霧の中でディウルナハの兵士に見つからず逃げおおせたのは、マーリンの魔法を恐れた
兵士達が探索を怠ったからと言えるけど。
現代でも科学で説明しきれない偶然の積み重なりを奇跡と呼ぶことがあるのだから、
それが魔法という言葉に置き換わっているだけかもしれないと思いました。

無事に戻ったダーヴェルは、アーサーの下でサクソン人との戦に参加します。
サクソン人勢力は、エレとサーディックの２勢力があって牽制しあう形。
アーサーはより強大なエレを倒し、その後にサーディックを倒すつもりでした。
計画通りエレとの戦には勝ちますが、なんと戦いが終わった戦場に、
勝手にサーディックと和平を結んだランスロットがサーディックを連れて来てしまう。
本当だったらランスロットがサーディックの兵力の半数を引き付けている内に、
アーサーが本隊を攻め取るはずだったのに。
兵力が集結してしまったサーディックと、エレとの戦直後のアーサーは戦う力がなく
仕方なく和平を結びます。

和平の条件としてアーサーはベルガエという領地を要求します。
ベルガエはサクソン人の侵攻を防ぐための戦の要衝地となる都市。
サーディックはベルガエを渡す代わりに、ランスロットをその国の王とするよう要求。
ずる賢いランスロットはサーディックと密約を結んでいたんです！
他にどうしよもないので、アーサーは条件を飲んで和平成立。

ランスロットが暗躍によって勢力を拡大してきていて、もうすごくイヤ。(-_-#
２人のドルイドを連れていて、それはギンドライスに仕えていたドルイド（タナビアス）の孫達。
タナビアスを倒したダーヴェルを恨んでいます。
グィネビアと組んでいて、グィネビアはキリスト教徒代表のサンスム司教と協力体勢、
キリスト教徒はアーサーを憎み嫌っている。
タナビアスの孫達（ディナスとラヴァイン）は、ランスロットの密約があるから
サーディックにも協力し、そのためにマーリンは１２番目の秘宝を奪われてしまいます。
おまけにサーディックにヒゲを切られて、ディナス達に取られてしまう。
ヒゲとか髪とかがあると呪いをかけ放題なので、マーリンの弱点を握ったことになるわけです。
マーリンは大釜を始めとして、１１個の秘宝を手にしているから大丈夫と言いますが、
この遠征から帰る途中でマーリンの館は落雷で焼け落ち、秘宝は全て消失。
もっとも大釜が焼けたとは思えないから、どさくさに紛れて誰かが盗んだんだと思うけど。
もしかして、それはアーサーの姉のモーガンの仕業なのでは？
モーガンは巫女としてマーリンの館を治めているわけだし、最近はサンスム司教と近づいていて、
ニムエを憎み、自分をかえりみないマーリンを恨み始めていてもおかしくないし。

こうしてアーサー包囲網が強くなっていって、おまけにマーリンは弱体化。
この先は楽しくない展開になっていきそうな予感でいっぱいです。(T_T)