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2013.10.18

２０１３年０７月　文藝春秋より

以前読んだ『死神の精度』に続く２冊目。

主人公は死神です。
死神の仕事は「情報部」からの要請を受けて人間界におもむき、
死ぬ予定の人間の調査をすること。
調査期間は１週間。
死神が「可」の報告書を出せば、その翌日予定通りにその人間は死を迎え、
「見送り」の報告書を出せば今回は死なない、ということになります。
死神は人間に化けて調査者に近付き、生活を観察したり、話をしたりして調査をします。

ろくに調査をせず１週間ふらふらとしているだけで「可」の報告書を出す死神達が多い中、
千葉は「仕事はまじめにやるべき」とせっせと調査対象者に接触します。

しかし死神だから人間とはそもそも常識が違うし、長く生きているから時間の感覚も違うため
人間との会話で常にズレが生じ、「千葉さんって変わっている」と言われることが多い。
その会話がおもしろいかったです。

以下、粗筋と感想になります。ネタバレに注意。

千葉が調査対象としたのは、山野辺。
サイコパスという良心を持たない男・本城に娘を殺されて、妻とともに復讐を企てる男です。

サイコパスというのは、Wikipediaによると

　感情の欠如、結果至上主義が主な特徴で、良心や他人に対する思いやりに全く欠けており、
　罪悪感も後悔の念もなく、社会の規範を犯し、人の期待を裏切り、
　自分勝手に欲しいものを取り、好きなように振る舞う。
　その大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者である。
　北米には少なくとも200万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると、
　犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは統計的に見積っている。
そうです。

本城は他人を苦しめることをゲームのように楽しみ、そのためだけに山野辺の娘を連れ去り
毒殺し、娘に毒を注射するシーンを録画して山野辺に送りつける。

自分が無罪となった事を知った山野辺の苦しみや怒りを見て満足感を覚える、という人物。

大切な娘を奪われ、感情を弄ばれた山野辺夫妻は、本城を行政の処分には任せないと決意、
誘拐や監禁の計画を立てて本城を追います。
しかし、頭のいい本城は山野辺夫妻の一歩先を進み、山野辺夫妻が苦しむように絶望するように
いろいろな罠を仕掛けてくる。

次々とすり抜けていきます。

千葉は死神だから、夫妻を助けようと思っているわけではない。
たんに思ったこと、気付いたことを口に出しているだけなのですが、
常人には聞こえない小さな声が聞こえたり、遠くが見えたり、死神なので痛みも感じない
不死身の体であったり、更には自転車で本城の車に追い付いたりするので、
本城の予測を超えた動きになるのです。

山野辺夫妻は人としてまっとうで優しい人達。
どうして本城はこんなことができるのか、良心を持たぬ相手に良心を持つ人間はどう対すべきか
など考えながら、本城を追っていきます。

千葉には同僚が多数いて、香川という女性の死神に会い、彼女の調査対象者が
本城だと知る。
他の多くの死神と同様、香川も簡単に調査対象者に接触し「可」とすることが多い。
しかし今回、情報部が、今までミスによりどうも人間を多く死なせすぎたかもしれない、
ちょっと死ぬ数を減らして調整しようと考えて、寿命を２０年延ばす『返還キャンペーン』を
始めるのです。
千葉にも「無理に可にしなくてもいいぞ」と言ったり。
千葉はそういう不真面目な仕事は嫌いなので「可」で報告書を出すのですが、
香川はせっかくのキャンペーンだから使ってみようと、「可。ただし２０年延命保証」とする。

山野辺と本城の戦いはクライマックス。
ダムに青酸カリをまいて、その罪を山野辺に着せようとする本城と、
それを止めようとする山野辺。
山野辺は青酸カリの入ったバッグを抱えて、本城の運転する車から飛び降りる。
本城は車でダムに落ちていく。
「本城は死んだよ」と妻に報告し、千葉に礼を言う山野辺。
まるで正義が勝ったかのような最後なんですが、本城が死なないことは決まっており、
翌日に山野辺が死ぬことも決まっている。
どうなるのかと思ったら。

敵討ちを遂げて満足した山野辺は、翌日、車に轢かれそうになった子供を助けて死亡。
ダムに落ちた本城は、腕を骨折、割れたガラスが深く腰に刺さった状態で水底に沈んだまま、
２０年間の生存保証のために死なずに痛みと呼吸困難で苦しみながら生き続けるのです。
因果応報。
私の予想では、有罪になった上に、事故などで全身麻痺になって動けない、しゃべれないで
他人に対して何もできない状態で生き続けたりするかなと思っていましたが、
人に自分を覚えさせておきたいという欲望が強い本城にはこの方がいいですね。
水底は誰からも顧みられることなく、１人だもの。

ラストは５０代になった山野辺の妻・美樹が幼稚園で働いており、そこへ別の調査で
通りかかった千葉が山野辺を思い出すシーンで終わります。
美樹とおなじ幼稚園で働く同僚が、作家だった山野辺の本を読みかけており
「初期の作品がよかったそうですね」と言うと
千葉が「そうらしいな。だが晩年もよかった」と答えて終わる。
山野辺の本なんか読んでいない。
晩年の山野辺、つまり一緒に過ごした７日間の山野辺について言っているのでしょう。

ハッピーエンドではなく、ちょっと切なさも残る話でしたが、面白く読みました。

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