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2017.03.02

口入屋用心棒「雨上がりの宮」　鈴木英治

テーマ：最近、読んだ本を教えて！(24304)

カテゴリ：読んだ本

２００８年０３月　双葉文庫より

一年ほど前に刑死したはずの増左右衛門が生きていた真相を探っていく中、
直之進は新たな刺客に襲われる。
一方、何者かの奸計に嵌り、町方に追われる身となった佐之助にも
刺客の影が迫っていた。
次第に明らかになっていく腐米汚職の実態とその黒幕の正体とは・・・・。
好評書き下ろし長編時代小説、シリーズ第10弾。
（裏表紙紹介文より）

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以下、粗筋と感想になります。ネタバレに注意。

今回こそは島岡真之丞に迫るのかと思いきや、敵の逆襲はまだ続く。
しかも更に強い敵が出てきてしまいました。

冒頭は、誰かが警戒が厳重な誰かの屋敷から逃げ出すところからスタート。
夜目が利かないとか、直之進のように気配が探れるわけでもないところからして
それほどの剣の達人というわけではなさそう。
途中で警備に気付かれて追われ、命からがら運良く逃げ出せた、という感じ。

札差の的場屋登兵衛の調査により、土崎周蔵の兄・緒加屋増左右衛門の本名は

殿中で刃傷沙汰を起こして処刑されたことになっているが、商人として密かに
生かされていた。
幕府の中でも相当権力がなければできないことを、誰が指図したのか。
登兵衛は引き続き調査を進めると言う。
そして直之進に引き合わせたい人がいると、誰かの元へ連れていく。
誰かは不明ですが、登兵衛の屋敷の奥で待っていて、しかも御簾の向こう。
登兵衛は自分はただの札差（商人）と名乗っていますが、本人も和四郎も
武家であるのは明白です。
恐らく、誰かに命じられて幕府の米問題について調べているんだと思う。
とすると、この誰かさんは登兵衛に米の調査を命じた人かな？
直之進は「ドスのきいた声」という印象ですが、場合によっては将軍ということも

直之進と和四郎は土崎家のあった近辺の道場で周吾について聞き込みを開始。
その帰りに刺客に襲われる。
斬りかかられるまで直之進が気配に気付けず、しかも体勢を立て直すことが
なかなかできずに背後を取られっぱなし。
ようやく刀を構えてまともに向き合った時には敵は消え失せていて

ちょっと強過ぎじゃない？

佐之助が千勢の所へ行くと、千勢から奈良蔵からの手紙を預かったと渡される。
料永を売った2000両の件で話があるから来て欲しい、とのこと。
佐之助は奈良蔵に名を知られていないはず、この呼び出しは怪しいと思いつつ、
利八殺しの手掛かりを求めて奈良蔵の家へ向かう。
しかし既に奈良蔵は殺されていて、家に入る前に３人の町人に顔を見られた佐之助は
罠であったことを悟る。

富士太郎に２件の殺人事件が舞い込む。
１件目はお雅という女が殺されたもの。
お雅は、土崎周蔵に誘拐された３人の蔵奉行の内の１人である高築平次郎の妾。
手口は背中から刃物で滅多刺しという素人っぽいもの。
２件目は奈良蔵殺し。
一刀のもとに斬り殺された鮮やかな手口から、プロの殺し屋によるものと考える。
犯行時刻頃に奈良蔵の家の前で不審人物を見たという目撃者達に、
佐之助の人相書きを見せてみると、この男だったと証言を得る。
これにより佐之助は町方に追われることになる。

佐之助は千勢を訪れて事情を話し、奈良蔵からの呼び出しの手紙を渡し
迷惑をかけることになるだろうと告げて去る。
その言葉通り、千勢は殺し屋をかくまっていた罪で捕らえられ、牢に入れられてしまう。
佐之助は密かに牢へ会いに行き、遂に千勢を抱きしめる。
おぉ！とうとう！
ここ最近はほとんど恋人同士のような２人。
お咲希が千勢のことを「おっかさん」と呼び始めていて、
佐之助もお咲希を可愛がり、お先にも懐かれて幸せな家族っぽい感じでした。
よかったよかった。
千勢は大した罪ではないので、すぐに解放されました。
お咲希を心配して走って長屋に帰ってくるんだけど、長屋に人の気配がなくて
すごく不安になる。
すると、皆が「おかえり～」と一斉に笑顔で出てくる。
千勢は町人の暖かみに感動して涙ぐむんだけど、私的にはえっ!?と思った。
帰ってくると知って驚かせようと思った、というんだけど、この状況で
そんなサプライズ仕掛ける神経がすごくイヤだ。
もともとサプライズって好きじゃないけど、異常事態にサプライズで不安を煽るって
頭おかしいんじゃないのかって思う。

今回、千勢の長屋に佐之助が来るだろうと読んで、捕り物の手配をしたのは富士太郎。
でも富士太郎は、結果として止められなかったけど千勢の捕縛には反対したし、
そもそも佐之助は奈良蔵を殺してないのではと考えてくれているんですよね。
なかなか洞察力がある。

そんなこんなで、ぐっと距離の縮まった千勢と佐之助。
とは言え、佐之助は千勢の長屋を訪ねることができなくなったので、
どこかの寺で会う約束をする。
しかし、ここで佐之助も刺客に襲われる。
佐之助も防戦一方。
千勢も佐之助も刺客の顔を覚えようとしていたのに、途中で突然顔が変わってしまう。
ちょっと状況が理解できないけど、何か不思議なトリックでもあるのかな？

佐之助は、お咲希から利八の長年の友人・誠七の名を聞き、訪ねて話を聞く。
誠七は料理屋・鶴銀の先代主。
利八は死ぬ直前に誠七を訪ねて、50年前の腐り米事件の話を聞いていた。
腐り米事件というのは、幕府の米倉から腐ったことにして米を横流しした事件。
その事件は清廉潔白の士・蔵役人の高築平兵衛の働きによって明るみに出て解決した。
平兵衛は高築平次郎の父で先代の蔵役人。
利八は誠七の家を出てから高築平次郎を訪ねたが、平次郎は米事件に荷担していたので
口封じをされてしまったらしい。
事件とは直接関係ないけど、利八と誠七の親友としての付き合いを見た佐之助が、
そういうのをちょっと羨ましく思っていて、ふと直之進を思い浮かべていました。
恵太郎の仇とそんなことには断じてならない、と思い直していましたが、
以前ほどの憎しみはないようで、仲良くなればいいのにと思います。

直之進は調査の進んだ登兵衛から、米の安売りに関わっている大物は
老中首座の堀田備中守正朝だと知らされる。
探索しようにも手を出しにくくなった直之進と和四郎。
すると佐之助が２人を待ち伏せしていて、情報交換をしようと赤提灯へ誘う。
佐之助は50年前の米の横流し事件の話を、直之進は老中が噛んでいる件を話す。
直之進も、違った出会い方をしていれば友人になれたかもしれないのに、
と思っていました。

富士太郎はお雅殺しの調査が行き詰まったため、米事件とは切り離して考える事にして
異性の交友関係を調査。
最近お雅が交際していた商家の次男から、デート中にお雅が偶然出会った侍を見て
ひどく驚いていた、と話す。
その侍は高築平次郎であることが判明。
誘拐されて死んだと思われていた平次郎が生きていた。
ということは冒頭の、どこかの屋敷から逃げ出したのは平次郎か。
平次郎は追っ手から自分の足取りを隠すため、お雅の口封じをしたらしい。
富士太郎は平次郎が目撃された上野界隈を探索し、平次郎の隠れ家を突き止め、
直之進にも来てくれるように連絡を寄越して踏み込む。

直之進が駆け付けた時は捕り物は既に始まっており、しかも平次郎の口封じのために
暗殺者も来ていた。
珠吉と２人がかりで何とか身を守っている富士太郎。
直之進が暗殺者と対峙するが、攻め手が見つからない。
そこへ佐之助が「俺に任せろ！」と飛び込んでくる。
この時の佐之助、すごく元気でやる気まんまんで可愛かった。
前回襲われた時に道中差し（刀より短い）しか持っていなくて、受け身な立ち回り
だったことがよほど悔しかったらしい。
もちろん直之進も加勢。
２対１になった暗殺者は、不利を悟って舌打ちして逃走。
「おまえが余計な手出しをするからだ」と文句を言いながら立ち去る佐之助ですが、
去り際に振り向いて「楽しかったぞ」と言うのが可愛い。
直之進も楽しかったと感じていたので、この２人は友達になれそう。
ただ佐之助の過去の殺し屋の実績があるから、仲良く江戸では暮らせそうもないけど。

今回はここまで。
平次郎を生きて捕らえることができたので、そこからの証言で進展すると思われます。

島岡が老中・堀田備中守正朝に対面するシーンがあったんだけど、
それまで周蔵や緒加屋を怖れさせていた島岡が、びくびくしていて堀田の凶悪さが
強調されていました。
主人公が悪と戦うシリーズって、だんだん敵が強大になっていくものだけど、
この話も例に漏れず、刺客も黒幕も強さのインフレが起きているなあと
しみじみ思いました。

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