ユウ君パパのJAZZ三昧日記

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syoukopapa

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2006.12.02
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カテゴリ: 私の小説集
  僕は部屋に大事にピンクのバレーシューズを持って帰った。僕の住んでいるアパートはかなり安普請で、この時期になると寒さが身に堪える。ちょっと木枯しが吹くと、まるで冷蔵庫にブチ込まれた感じ。それでも大部住み馴れたことと、僕が引越しのような面倒なことがいやだったこと、そしてなによりも家賃が安いので、このアパートを出ていくことは当分ないと思う。それにしても、殺風景な部屋だ。小型のテレビとシャカシャカした音しか出ないラジカセしかない。(なんとビデオさえ僕の部屋にはないのだ。)

  ピンクのバレーシューズを机の上に置くと、そこだけ小さな灯りがついたようで、なんとなく安らいだ気分になった。小さな灯りがついただけではなく、心地よい音楽が流れているようにも思えた。RONNY JORDANの「Tinsel Town」が。勿論、小さな灯りも心地よい音楽も僕にしか感じることは出来なかったはずだが。僕はこのピンクのバレーシューズを捨てた少女に一度だけでもいいから、会って話しをしてみたかった。でも、どうやって彼女と連絡したらよいのか僕にはさっぱり見当がつかなかった。とりあえず、彼女を見た公園に毎日通ってみるぐらいのことしか思い付かなかった。 仕事は毎日4時には切り上げる。冬至も近くなって、それぐらいの時間に公園に行かないと彼女を見つけることはできない。なにしろ、ちらっと見ただけだから、雰囲気から察するしかない。今から思うと、よくもまあこんな途方もないことを始めたものだと思う。

  それでも、僕は彼女を見つける予感があったし、楽しんでいたともいえる。仕事の同僚からは、「毎日、随分早く帰るね。」 と言われても、「そうだね。まあね。」 と曖昧に答えるしかなかった。本当に「まあね」と言う以外に表現できない、つまり、他人からは理解できない状況であった。僕は必ずバレーシューズを鞄の中に入れて、公園に行き、ベンチに座る。バレーシューズは彼女を見つけるための、お守りみたいなものだった。お守りを鞄から出すことはなかったけれど。  このような当てのない生活を始めて、もう2週間ぐらいたったであろうか。そう、12月も半ばを過ぎていた。粘り強い僕もこのころには、さすがに諦めかけていた。彼女を見たことは幻想ではなかったのかとさえ思い始めていた。しかし、お守り-ピンクのバレーシューズは手元に確かにあるのだし、もう1週間は頑張ろうと思い直した。そんな僕の祈るような願いが叶うのは、さらに3日たったとても寒い夜のことだった。





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最終更新日  2006.12.25 12:06:43


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