ユウ君パパのJAZZ三昧日記

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syoukopapa

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2006.12.03
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カテゴリ: 私の小説集
  僕はその日も日課として公園の近くのvending machineで買ったコーヒーを飲んでいた。一応モカではあったが、とても薄くてお世辞にもおいしいと言える代物ではなかった。それでも、公園で暖を取るにはこのコーヒーを飲むぐらいのものだ。冷え込みの厳しさが僕の顔を刺す。寒さよりも堪えるのは、本当にあの少女に逢えるのかという不安な気持ちであった。そんなとき、とても暖かそうな白い手編みのセーターにピンクのロングスカートをはいた少女。髪は黒いが、日本人ではないようだ。彫りの深さと目の感じから、スペインの血が流れているように思った。僕は彼女が鞄の中のバレーシューズの持ち主であったことを直感した。なんの裏付けや証拠もなかったけれど。僕は思い切って少女に声をかける。

  「変なこと聞くようだけれど、このバレーシューズは君の?」

  かなりびっくりした様子。

  「たぶんそうですけど。でも、そのバレーシューズ捨てたはずだわ。そう、この公園のゴミ箱に。」

  こんな寒い所で話すこともないので、僕らは公園の近くの喫茶店に入った。喫茶店の中にたちこめる、ココアの甘い香り。クリスマス用にさりげなく飾られたポインセチアの赤と緑のコントラスト。静かに流れるレゲエのクリスマスソング。大げさな言い方になるが、僕は本当に生き返ったような気持ちであった。彼女に名前を聞く。アンジェリーナ。僕の予想通り、母親がメキシコ人のハーフ。彼女の黒い瞳の美しさに思わず、僕は息を飲む。ちょっと丁寧すぎるところがあるが、彼女の日本語は正確だ。「君のバレーシューズを捨てるしぐさが何か変で、気になって。別に物を拾って、帰るような趣味はないんだけど。」僕のジョークに微笑む、アンジェリーナ。笑顔の彼女はたまらなく、キュート。僕もとても幸せな気分になる。

  「そうなんですか? バレーシューズを捨てるようになった経緯は・・・。」

  彼女はためらって、言い淀んだ。    

  「ちょっと暗い話になるんですけど・・・。」つらい話だということは、彼女の声のトーンからすぐに分かった。「私、4才のころからバレーやっていて。そう、もう12年。私にとって、バレーはいつも生活の中心にあって、全てを打ち込んでいました。半年くらい前なんですけど、何か足のバランスがうまくとれなくなってしまったんです。よくある練習の疲れかなと思っていたんですけど、だんだん痛くなってきて、医者にいったんです。膝のこのあたりです。」

  そう言いながら、アンジェリーナはピンクのロングスカートをたくし上げて、問題となっている足を僕に見せた。その美しさといったら、文句のつけようのない芸術品のそれであった。鍛えられたその足は、僕の目の前で輝いていた。この足が悪いだなんて。神様も残酷なことをするものだ。



  「そこで思い切って手術を受けるために、君はこの公園にバレーシュ ーズを捨てに来た。」

  「その通りです。次の日、手術を受けました。明日、この足を医者に見せるんです。大体、その時の術後経過でもう1度バレーができるのかどうか分かるそうです。正直言って、とても恐いんです。」

  アンジェリーナの不安は見ていられないほどのものだった。カタカタと微かに震えていた。思わず抱きしめて、絶対大丈夫だよと囁やきたい僕がいた。でも、この不安な気持ちは彼女自身が乗り越えなければならないものだ。





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最終更新日  2006.12.25 12:12:35


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