広島刑務所の見学
いったいどういう感覚をしているのだろう?忖度などとは無縁の行事が海上保安大学校ではあった。
警察権力を見せつけたいのかそれとも無知なのか、おそらく後者のほうだとは思うが K 教官の計らいで広島刑務所を見学することになった。
紺のダブルに金の六つボタンの第二種制服を身にまとった 18 歳の若造が広島刑務所の囚人が服役で家具を作る作業場の横を列なして見学したのだ、もちろん塀などの境のない作業場で一人の囚人がつぶやいた。「おい、俺たちは見世物じゃないんだぞ!」そしてその声はみるまに作業場に蔓延し声はどんどん大きくなった。
広島刑務所といえば殺人などの凶悪犯が収容されている刑務所だ、しかも彼らはノミやハンマーを持っている。
僕たちは震えた、先導する教官も少し足早になり学生も逃げるようにその場を立ち去った。
いったいあれは何だったのだろう?
あんな授業はもう行われてはいないと思うが理解に苦しんだ。
こんなこともあった、遠洋航海でホノルルに寄港した時だ、全身白い制服(第一種制服)で金線を巻いた士官の帽子をかぶった、アメリカ人から見たらどう見ても日本海軍にしか見えない僕たちがアリゾナ記念館に見学に行かされたのだ。
遠洋航海の目的は「国際感覚を身に着ける」ことだった。
にもかかわらずリメンバーパールハーバーを噛みしめながら訪れるアメリカ人たちが来て奇襲攻撃で何千人という人が亡くなった慰霊碑に手を合わせる場を見学させるとはいったいどういう了見か?
当然のことながら彼らからは白い目でジロジロと見られたのをよく覚えている。
時代が古かったでは済まされない国際感覚のかけらもない見学ではあった。
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