愛ことば･心の散歩路

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2016/07/25

^-^◆　「長時間人を待つ」って……自分が試される[1]

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テーマ：自分らしい生き方・お仕事(37642)

カテゴリ：人を８時間待った話

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^-^◆　「長時間人を待つ」って……自分が試される[1]

「あなた達の関係……一体どうなってるんですか！！(>_<)」

　初めて会ったのに……、その黒ブチのメガネの女性は、
本当に仰天したという顔で、怒ったようにそう言い放った。
私に向かって、目を大きく見開いて……叫んだのだ。

　目の前に、すぅーーーと止まった軽四輪トラック……。
地味な事務服姿の女性が降りて、つかつかと私に近づいてきた。

「失礼ですけど村井さんですか？」と問われたので、
「ハイ……」と応えた直後のことだ………。
私としては、思いもかけない言葉が返ってきたわけだ。

　そんな事言われても「……どうも……」としか応え様がない。

　時刻は午後８時を少し回った頃……ネオンが花盛りだった。

　時は、昭和３８年……。東京オリンピックを来年に控えた年、
北九州市の八幡中央町、福岡相互銀行の前での出来事だ……。
その、初対面の彼女は呆れたように、こっちの姿を足元から
頭まで、一往復、シゲシゲと不躾に眺めて……、

「江藤の会社の者です。先ほど、江藤から電話が入りまして、
　お迎えに参りました。
　……でも………………」

　軽四輪トラックのボデイに山崎材木店と書いてあったので、
期待はしていた………。

「やっぱりそうだったか。あ～～～……よかった…………」

ホントに嬉しくて……にっこり笑うと、

「取りあえず事務所にご案内しますから車に乗って下さい。
　車の中で説明します……」

……と言うこと……。

　ほっとして……ホントに安心して車に乗り込んだ。
……発車してすぐ大きくＵターン……。
女性とはいえ、なかなか手慣れた運転だ……。

「村井……さん、私ですね……。生まれてからこんなに
　びっくりした事はありません。……ホント、初めてです」

ハンドルを握って前方を向いたまま、その坂東と名乗る女性が
話し始めた。

「あのう……江藤は、一体どうしたんでしょうか……？」

「あっ、そうでした……すみません。
　まだ熊本に居まして、こちらに向かっている所です」

「えっ？……まだ熊本……？……そうですか……(-.-)」

　朝からトラックで、熊本に材木の搬出に出かけている事は
聞いていたので知ってはいたが…………それにしても……。

「下山の途中、山の中腹で他店のトラックの満載横転事故に
　遭遇してしまいまして……どうにも身動きの取れない状況に
　なっていた様です」

「えっ！ケガは？……大丈夫ですか？」

「大丈夫です。ケガはありません」

「そうですか……良かった……」……ほっとした。

「公衆電話も無い山中でしたからね……。やっと、８時前に
　下山できて、街の公衆から連絡して来ました。
　結局……物凄く長い距離を迂回したようですよ……」

「あーあ、そういうことでしたか…………」

「午後から何の連絡も無いし、帰って来ないので、私たちも
　みんな心配して、事務所で待機していたんです。
　事故とかじゃ無くて、ホント……ほっとしました。
　……１１時頃には、こちらに戻って来ると思いますよ」

　携帯電話も、高速道路も、今のようには整備されていない
時代の話である。

「でも……電話で、江藤さんが中央町の福岡相互銀行の前に、
　急いで行ってくれと言った時には、何の事だかさっぱり
　分かりませんでしたよ……」

「……」

「……だって、午後２時半には帰ってくる予定だったのが、
　電話が掛かってきたのは、８時前でしょう……？
　……何事かと聞きましたら、村井さんが待っているから、
　事務所まで連れてきて、事務所で待ってもらってくれって、
　言うじゃありませんか……」

「…………」

「何時に待ち合わせたのかって聞きましたら、午後３時って
　言うじゃないですか……？
　笑っちゃいましたよ……冗談じゃないですよ……。
　５時間も経っているのに、居られるわけ無いでしょうって、
　怒鳴ってやりましたよ……ホント」

「……」

「……そしたら、その三倍くらいの声で怒鳴られましてね。
　必ず居るから早く行ってくれって……叫ぶんですよ……。
　受話器の向こうで……もう……」

「……」

　……この話は嬉しかった……今思い出しても……嬉しい。
ホント……しみじみと嬉しかった…………。
待っていて良かったぁ…………と、しみじみ思った……。

「私ですね……、半信半疑どころか、全くの無駄足だと確信を
　持って、渋々来たんですよ……」

「…………すみません」

「いえ……、で……、来てみたらですよ……。
　村井さん、ちゃんと居られるじゃないですか……。
　あなた達の関係って、一体、どうなってるんですか……？」

先ほど、初対面のときの彼女の叫びが、又……飛んで来た。

　　　　　　　＜続く＞

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