私の人生論 (思考が運命になる)

私の人生論 (思考が運命になる)

2017年10月13日
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カテゴリ: 千の朝


 波瀾万丈のストーリーがあるかといえば、
 そんなものは何もない。

 貧乏な人人がいるかというと、
 それもあまり出てきません。

 大体明治末期から大正初期にかけての
 日本の知的中産階級の男女が登場して、
 心理的なシチュエーションのなかで
 いろいろな行動をするというだけなのですが、

 そこに展開される人間のドラマがまことに面白い。

 なるほど人間というのはこういうものかもしれないなあ、
 と思わせるところがある。

 私は、なぜこういう作家が生れたのだろうと、
 首をかしげたのです。

 われわれは、
 漱石の描いているような世界の中で現に生きているのに、
 そういう世界を小説に表現できたのは、漱石しかいない。

 なぜ漱石だけがそういうことができて、
 それ以前にもそれ以後にもあまり


 日本の小説は、
 むしろ漱石の衣鉢を継ぐようなところにこそ
 その進路を求めなければならないのではないだろうか。

 なぜそれができないだろうか
 というようなことを考えはじめますと、

 どういう思想に触れ、なにを感じ、
 どうしてそれを表現するに至ったかを、
 文字どおり事こまかに調べなければ
 気が済まなくなってきたのであります。

 これは文学に限りませんが、
 およそ学問の根抵にはつとめて正確に認識し、
 つとめて正確に記述するという
 作業があるはずであります。

 そのころ私は学問に対して
 それほど自覚的な方法意識を
 持っていたわけではありませんけれども、
 おそらく、
 慶応の先生方のいい影響を受けておりましたために、
 直観的にそれが大切であることを
 知っていたに違いありません。

「利と義と」 江藤淳 TBSブリタニカ





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最終更新日  2017年10月24日 07時53分18秒
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