私の人生論 (思考が運命になる)

私の人生論 (思考が運命になる)

2019年06月10日
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カテゴリ: 千の朝



 文学は翻譯で讀み、音楽はレコードで聞き、繪は複製で見る。

 誰も彼もが、さうして来たのだ、
 少くとも、凡そ近代藝術に関する僕等の最初の開眼は、
 さういふ経験に頼つてなされたのである。

 翻譯文化といふ軽蔑的な言葉が屡々人の口に上る。

 尤もな言ひ分であるが、尤もも過ぎれば嘘になる。

 近代の日本文化が翻譯文化であるといふ事と、
 僕等の喜びも悲しみもその中にしかあり得なかつたし、


 どの様な事態であれ、文化の現實の事態といふものは、
 僕等にとつて問題であり課題であるより先きに、
 僕等が生きる爲に、
 あれこれの退つ引きならぬ形で興へられた食糧である。

 誰も、或る一種名状し難いものを糧として生きて来たのであつて、
 翻譯文化といふ様な一觀念を食つて生きて来たわけではない。

 當り前な事だが、
 この方は當り前過ぎて嘘になる様な事は決してないのである。

 この當り前な事を當り前に考へれば考へる程、
 翻譯文化などといふ脆弱な言葉は、
 凡庸な文明批評家の脆弱な精神のなかに、


 愛情のない批判者ほど間違ふ者はない。

 現に食べてゐる食物を何故ひたすらまづいと考へるのか。

 まづいと思へば消化不良になるだらう。

「ゴッホ」 小林秀雄全集10巻 新潮社





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最終更新日  2019年06月10日 05時32分35秒
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