書評日記  パペッティア通信

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Feb 23, 2007
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テーマ: ニュース(100198)
カテゴリ: 経済





▼   こんなひどい教養番組になるとは、思わなかったわ。 


▼   むろん、『その時歴史が動いた  鉄は国家なり ~技術立国 日本のあけぼの~』のことよ。 本編見ながら、笑い転げた挙げ句、表情が凍り付いてしまったわ。 まさか、まさか。  まさか、こんな結末で、「歴史が動いた」ことにされてしまうなんて…  まったく予想だにしなかった。 さすが、NHK。  一昨日の予想 をさらに上をいく、すさまじい番組。 よくも、これ、放映できたものね。 恥を知らないとはこのことだわ。



▼   日露戦争のとき、野呂景義が八幡製鉄所を再開させたお話は、まだ良かったわ。 高炉内の仕組は、とても分かりやすかった。 野呂が、きちんと高炉の設計上の問題と、コークスの弱さを指摘したことが描かれていたし。 本当は、1880年代の工部省釜石製鉄所における、在来たたら製鉄と近代製鉄の技術選択に苦悩したことこそ、伝えて欲しかった。 また、官営八幡製鉄所の「溶鉱炉」を再開させたところで、質の低い銑鉄しか出てこなかったことも抜けおちているんだけど、まあ良しとしましょ。



▼   問題はそれ以降なのよ!!! 全体として、「技術立国日本のあけぼの」でもないことは、一昨日のをみれば分かってくれたと思う。 もう忘れかけているけど、あまりにひどかったので、5点ばかり指摘させていただくわ。



▼    問題の所在を勘違いしている、佐木隆三の発言


    だいたい、鉄の技術者・野呂景義は、現場の技術を取り入れて、なんて事実はどこにもないわ。 近代技術と科学的思考にもとづいて、 前近代的職人的熟練を排除して、標準化された大量生産技術を確立していく過程こそが、工業化 であり、そのシンボルが「官営八幡製鉄所」でしょうが!!!! 高炉設計やコークスの改善のどこに現場が入り込む余地があるのよ。 失敗しかしていないのよ?。 いったい、この人、どうして連れてきたのかしら? これでは、日本の工業化過程が、完全に誤解されてしまうわ。 教養番組にまったくならないじゃない!


無意味な八幡製鉄所の研究員たちのインタビュー


    元八幡製鉄所の研究員で、鉄道レールの国産化に邁進した人物と面識のある、90歳代の生き残りのお爺ちゃんにインタビューしていたわね。 番組では、オリジナル性が研究で求められたことを言わせてる。 結局、何がオリジナルなものだったのか、技術に関する説明がとうとうなかったことをあわせると、「 おじいちゃんの技術開発部署における雰囲気の証言→日本オリジナル技術」と誤解させたい のかしら。  本当に悲惨な番組よね。 人をなめないで欲しいわ!!!ぷんぷん!


▼    番組のウソ 野呂景義は、鉄道レールの破損の原因を



   この番組は、1923年、野呂景義が関東大震災で死んだので、1922年前後、鉄道レールが破損する事件相次いだ原因の解明は、弟子に委ねられた、とされているわ。 そして、弟子はレールが壊れた地域を回って、詳細に分析。 イギリス製のレール鋼材が壊れていないこと、寒冷地でレールが壊れていることを発見。 イギリス製のレールを切断したら、日本製レールとちがい、粒子が均一だった。 そこで、粒子を均一化される技術をみがき …… という筋書きになっていたわ。 真実なら、お涙頂戴ものかもしれない。


   しかしね。 1919年、官営八幡製鉄所が「低珪素銑・塩基性平炉鋼」生産を始めるまで、官営八幡製鉄所の鉄道レール生産は、「低燐銑・酸性転炉鋼」を素材にしていたのよ。 しかも、 大量に燐をふくむ、中国の大冶鉄山から入手した鉄鉱石を使い、おまけに燐除去技術がまったく不十分 なままでね。 


   ところが、燐が0.1%以上含まれると、酸性鋼は脆くなってしまうわ。 寒い地域では、「冷間脆性」によって、レール折損することが広く知られていたのね。 ところが、当時の鉄道省のレール規格では、燐含有量は0.12%までOK。 八幡製鉄も、基準ギリギリのレール鋼材しか、作れなかった。  野呂景義は、しばしば燐分が0.15%にもなる鉄道レールが、とんでもない代物で、早急に生産の改善が行われなければならないことを語っているのよ 。 1919年、八幡製鉄所では、「低珪素銑・塩基性平炉鋼」生産が始まった。 そして、1927年、酸性転炉鋼(ベッセマー転炉)生産が打ち切られた。 これは、とうとう、八幡の技術者が燐除去技術を開発できなかったのね。 なにがオリジナルよ。 


   1922年~23年頃、頻発したという、破損事故。 1918年まで続けられていた、多燐の酸性鋼鉄道レール生産。 始まって3~4年の塩基性平炉鋼レール生産。  塩基性平炉鋼レールによる破損事故と、酸性転炉鋼レールによる破損事故。 いったい、どちらが多いのか、考えてみたら誰だってわかるはず じゃない。 前者の事故原因なんて、とっくに知られていたわよ!!!


▼    結局、何がオリジナル技術なのか、さっぱり分からない番組構成


炭素を浸透させて、硬度を高めることを行ったはず。 だけど、浸炭技術がいまいちで、圧延工程も未成熟 。 そのため、粒子が均一になる鉄道用レールを作ることができず、破損事故が相次いだのね!!


   ところが、そのとき「歴史が動いた」って言いながら、どんなことをやって乗りこえたのか、まるで語らないのよ!!!! いったい、何なの?これ。 どうみても、番組として成立していないじゃない! 


   何がオリジナルなのよー!!!!!! 
   キー!!!


▼    1929年の鉄道省の新レール規格の施行が、「そのとき」???


   そんで、いきなり、番組最後で持ち出されるのが「鉄道省の新レール規格」。  「そのとき」は、1930年1月とされているが、どのようなことが起きての「そのとき」なのか。 最後までとうとう説明されない !!!!! …… いったい何よ、これ。 この日付は、レール規格の施行日な訳?  呆れ果てて言葉を失ったわ。 


   番組によれば、世界最高品質のレールを日本が作れて、国産化達成できてメデタシメデタシらしいわ。 たしかにこの頃の重軌条(レール)生産は、八幡製鉄がほぼ独占していたけど、特殊軌道のレールは、海外から輸入していたわ。 ナレーションは、若干不正確ね。 おまけに日本には、「低珪素銑」を作る技術も後れていたし、「低珪素銑」は、インドを中心に、相変わらず、海外依存していたわ。 本当にいい鋼材を作るなら、良い原料銑はかかせない。  鉄道レール国産化を言いたいなら、良質な鉄道レールを作るのに、官営八幡製鉄所がインド銑鉄に依存していなかったことを証明しないといけない んじゃないかしら? むろん、番組はなにも語ってくれない。 


▼    フィナーレ
    「技術後進国日本」をわざわざ宣伝する爆笑モノの映像ナレーション



   この番組、「そのとき」の解説のあと、ナレーションが続くわ。 戦争のあと生き残った八幡製鉄所は、戦車などの軍需兵器を溶かして、平和に役立て戦後復興を支えた……。


   鉄製品を溶かしている映像が出て、私は笑いが引きつってしまった。 
   結局、スタッフは、何も製鉄のことを分からずに作っているらしい。


   だって、このシーンは、 日本最新鋭の「銑鋼一貫生産」を誇ったはずの八幡製鉄所が、実は銑鉄設備が不十分で、「銑鉄・屑鉄」を海外に依存していたことを赤裸々に 言っているんですもの。 実際、八幡製鉄所は、膨大な銑鉄・屑鉄を蓄積するための区画が、敷地内に設けられていたわ。 戦車にしても、武器にしても、そこに集められ、平炉の中に入れられたんでしょうね。 敗戦直後、銑鉄生産量と鋼鉄生産量は、「1:2」を上回り、「1:4」の年さえあったわ。 たしかに、最新鋭を誇っていた八幡製鉄所が、熱経済の面で圧倒的に優位な、「銑鋼一貫生産」を完成できなかったのは、歴然たる事実かもね。 


   でもさ、こんなナレーションと映像を流して、どこが「技術立国 日本のあけぼの」なのよ?  ウソをつくんなら、最後までつき通しなさいよ。  「技術後進国 日本のシンボル」として、八幡製鉄所の遅れていた部分をわざわざ宣伝して終了 。 いったい何なのよ、これ。 八幡製鉄所、さらしもの? ノータリンというか、最後で破綻しているじゃない。 いったい、だれが監修したのさ。 責任者でてこーい。 


   もはや処置なし。
   もうNHKには、絶対、受信料を払ってはいけないようね。







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Last updated  Feb 23, 2007 11:37:08 PM
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