裏 バロッコな日々

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昼ドラHolic ~美し… rei@昼ドラHolicさん

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cocoTan

cocoTan

Mar 9, 2007
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ーその1―

―それにしてもあの男たちは、だれ...?
目的は、何...?恨み?
不破じゃあるまいし、槐は誰かに恨まれるようなことをしているの...?

翌日、東京のマンションに戻った類子は、すっかり自分を取り戻し、気丈に振る舞っていた。が、ふとした瞬間、心の片隅に追いやった筈の小さな胸の疼きが、類子の手を止めさせ、思いを巡らせる。


―目的は、何だ...?
書類を目にしていても字面だけを追っていることに気付いた槐は、諦めて書類を投げ出すと、デスクに肘をつき目の下で指を組んで考えを巡らせた。
類子をマンションに送り届け、百香の安全を確認すると、その足でオフィスに向かい、会社にも何も起こってないことを確認した。
―俺をおびき出すのが目的かとも思ったが...。
類子に暴行を加えることだけが目的なら、ご丁寧に場所を知らせてきたりはしないだろう。
まるで、見つけてくれと言わんばかりに...。
俺に発見させるためか?類子の姿を見せつけるのが目的なのか...?

「ちょっと出てくる。」
自ら法務局へ向かい、事件のあったビルの土地と建物の登記簿謄本の写しを請求した。

しばらくして窓口で渡された書類を目にして槐は驚いた。所有者の欄には柳原開発の子会社の名が記載されていた。
―まさか、草太...?!


「こちらですわ。およびだてして申し訳ありません。」
そんな折も折、槐の許に、沙織から会いたいとの申し入れがあった。
時間通りに行くと、ホテルのラウンジの奥まった席で、すでに沙織が待っていた。
「突然のことで驚かれたでしょう。」
「いえ、ご無沙汰しています。先だっては妻をご招待下さってありがとうございました。
皆様、お元気そうで何よりです。」
挨拶を済ませると、槐は沙織の向かいの席に腰掛けた。
「それで、きょうは何か...?」
「沢木さん...。」
沙織は思いつめたような面持ちで、一度は槐を見つめたが、何も言い出せないまま、目を逸らした。
うつむき加減で、外の景色に目をやりながら、
「突然こんな話をするのは何なんですけど...。」
言い難そうに口を開いた。
「沢木さん...、ご存知でした...?
奥様とうちの主人とのこと...。」
「えっ...?」
沙織は槐の方に向き直ると、訴えかけるような目で槐を見上げ、そして、意を決したかのように口を開いた。
「奥様とうちの主人が今も深い関係にあるということを...!」

「今も...、ですか?」
「わたくし、知ってしまいましたの...。主人が、不破さんの生きてらっしゃるときから奥様とそういう関係にあったということを...。」
沙織はハンカチを握り締めると更に続けた。
「知ってしまったときはショックでしたわ。でも、結婚してからは会ってはいないと信じてたんです。類子さんも沢木さんとご結婚されてとてもお幸せそうでしたし...。」
沙織は目からポロポロと大粒の涙を流すと、濡れたまなざしを槐に向け、唇を結んで震わせた。

「柳原さん、ちょっと外へ出ませんか。」
槐は目立たないよう庭に誘うと、ハンカチを口に当て嗚咽のとまらない沙織をかばうようにして歩調を合わせた。
ひと気のない木立の陰で立ち止まると、
「沢木さん...、私どうしたら...!」
沙織は堰を切ったかのように、槐の胸に突っ伏し、泣きじゃくった。
掛ける言葉が見つからず当惑気味に立ち尽くしている槐のことはお構いなしに、沙織は槐の胸に顔をうずめ、嗚咽を漏らし続ける。

しばらくして沙織が落ち着きを取り戻すと、槐は近くのベンチに沙織を座らせた。
「あの、お茶会の日...、主人と奥様は離れの一室で会ってたんです。」
「しかし、それだけでは...。」
「いだきあっているのを見たものがおりますわ。」
「...。」
「もう、私どうしたらいいのかわからなくて...。主人のことは信じたい。信じたいんです。でも...。」
再び沙織は肩を震わせ、しばらくの間うつむいていた。
涙で濡れた顔を上げると、沙織はぎゅっと下唇をかみ締め、上目遣いに槐を見つめた。
「どうかしてるってお思いかもしれませんが、沢木さんの他に相談できる人がいなくって...。」
潤んだ瞳が槐を捉える。
「これからも相談に乗っていただけますか...?」
「...私でお役に立てるなら。」
槐の手が沙織の手をそっと包んだ。

別れ際、沙織は思い出したかのように、包みを取り出した。
「これ、奥様の忘れ物です。」
「何なんです?」
「足袋です。お渡し下さいますでしょうか。」
「足袋...ですか...?」
「また、お会い下さいますわね...。」


夕食後、ダイニングの片付けを終えた類子の傍らで、槐はコーヒーを飲みながら話しかけた。
「きょう、柳原の若奥様に会ったよ」
「沙織さんに?」
「茶会の時の忘れ物、渡してくれるよう頼まれた。」
「―忘れ物?」
類子が包みを広げると、出てきたのは真新しい足袋だった。
「私、足袋なんて忘れないわ。それにこの前は野点だったし、履き替えることも...、!!」
類子の、はっと何かに気付いたかのようなかすかな動揺を、槐は見逃さなかった。
「この前の茶会、草太に会ったのか?」
「この前...?この前は女性ばかりの集まりだったから。
...でも、会ったわ。」
「類子、思い出したくない話かもしれないが...。あの、例の廃業したホテルは柳原開発のグループ会社の所有物件だったよ。」
「柳原開発...?まさか草太が...?草太があの一件に関わっているとでも...?」
「何か心当たりでもあるのか?」
「い、いえ...。」
「こんな新品、忘れ物だなんて、柳原さんも何か勘違いされたんだろう。俺から返しておくよ。」
槐は類子の手から足袋を受け取ると包みに戻した。

―どうしたものか...。
自室に戻りデスクの前に座ると、槐はいつものようにパソコンを起動させた。
が、少しばかりキーボードをたたいたかと思うと、画面の先に視線を移して、漠とした面持ちで思案した。


その数日後、同じホテルの庭園で、再び沙織と槐は会っていた。
「試したんですか?私たちを...。」
槐は厳しい眼差しを沙織に向けた。
「類子は足袋なんか忘れていないと言っている。それにあの足袋はまだ新品だった。」
「ごめんなさい、沢木さん。
私、どうしてもあの二人が潔白だという証が欲しかったんです。それで、類子さんが弁明してくれたら、と思って...。」
「弁明?足袋でですか?」
「だれかが抱き合ってるのを見た、というのは嘘なんです。」
沙織は槐から顔を背け、肩を震わせた。
「私...、類子さんが部屋で着物を着直しているところを...、主人に足袋を履かせてもらっているのを見たんです...!」
「あなたが?」
「類子さんは何もおっしゃらなかったんですね?どうしてそんなことになっていたのか何も、何も...。」
沙織はこうべを垂れ、槐に寄りかかってきた。
「ああ、私、気が狂いそうなくらい、毎日辛くて辛くて...。」
槐は暫くの間、優しく沙織の肩を抱いて撫でさすってやっていた。
やがて、沙織は目に一杯涙を溜めて槐を見上げると、怯えるような表情で訴えた。
「沢木さん、私を助けて...。」
「柳原さん...。」
「沙織って、呼んで下さい。今の私には頼れるのはあなただけ...。」
槐は少し驚いた風だったが、沙織の目を見つめて言った。
「沙織さん...、ホテルに部屋を取ってあります。今夜あなたさえよければ、もっと詳しくお話をお伺いしますが...。」
「沢木さん...。」
「待っていてくれますか?」
手に部屋のカードキーを握らすと、沙織の口元が少し緩んだ。

「腹いせに俺を落とそうというのか...?」一旦、沙織と別れると槐は草太のオフィスに向かった。









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Last updated  Mar 10, 2007 07:34:17 AM


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