裏 バロッコな日々

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昼ドラHolic ~美し… rei@昼ドラHolicさん

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cocoTan

cocoTan

Mar 19, 2007
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縮小写真00277.jpg

―その2―



「お珍しい。あなたがお越し下さるとは...。用がありましたら、私の方から参りましたのに。」
すっかり柳原開発の重役の顔が板についてきた草太は、オフィスの応接室の一つで槐を迎えた。
「個人的な用件で申し訳ないんだが」
促されて革張りのソファーに腰掛けると、槐は包みをテーブルの上に出した。
「君の奥さんからことづかったよ。
類子に渡してくれと。」
「何なんです?」
「忘れ物だそうだ。」
包みを開けた草太もまた、一瞬動き止め、目を見張った。
「が、類子はそんな忘れ物をした憶えはないと言う。」
言葉を返せないでいる草太を、槐はじっと見守った。 

「奥さんは、君と類子の仲を疑っている―。」
「沢木さん...!」「説明してくれないか。どういうことなんだ?」
槐は責めるのではなく、諭すように弁明を求めると、草太の言葉を待った。

草太は槐を背にして窓際に立つと、外に向かって頭を下げた。
「...、許してください。槐さん...。」
真一文字に結ばれた草太の口から最初に漏れたのは謝罪の言葉だった。
「あの日、柳原開発の茶会の日...、僕は類子さんに関係を迫りました。」
槐は驚いたように顔を上げ、草太の背中を注視した。
「でも、でも、それだけなんです。僕は...、あの人を抱けなかった...!」
草太は肩を震わせ窓枠に手をついてうな垂れた。
「僕はまりも興産の件であなたが資金繰りに困っていることを知っていた...。それで、銀行融資の保証人になることか柳原開発からの直接融資を引き換えに、類子さんに...!」
槐の心臓が早鐘のように鳴った。
「追い詰められた類子さんは決心して一旦は御自分で帯を解かれました。でも、僕は抱けなかった。あの人との思い出を自分で踏みにじるような卑劣な真似をしていることに気付いたんです...!」
槐はぐっと震える拳を握り締めた。
「わかった、草太...。」
苦渋の表情でそれだけ言うと、納得したかのようにもうそれ以上類子のことで草太を問い詰めようとはしなかった。

シンとした部屋に、時折草太の眼下を走行する車の音だけが響く。
槐は足袋の包みに目をやりながら、もう類子のことには触れずに草太夫婦の問題に話を移した。「君たち夫婦の間がどうだろうと、知ったことではないが...。
だが、こちらまで火の粉をかぶるのはごめんだ。」 

「奥さんはかなり参っておられるようだが...。」
「...。」
「奥さんとの仲は続けたいと思っているんだろう?」
「それは...、勿論です。別れるつもりはありません。けど...。」

「仲直りしてもらわないと、俺も困る―。」


その夜遅く、槐は沙織の待つホテルの部屋を訪れた。
「待っていてくれたんですね。」
「きっと来てくださると信じてましたわ。」
ソファーに腰掛けると槐は沙織の手を取った。
「辛い日々をお送りなんですね。」
「沢木さんにお話をきいてもらってどれ程楽になったか...。」
「沙織さん...。」
沙織は目を閉じると、やや顎を突き出すようにして槐の方を向いた。
手を握り合ったまま、槐は沙織の気持ちに呼応するかのように、そっと唇を重ねた。
「私を...ふしだらな女とお思いにならないで下さいましね。
忘れたいんです。辛いこと、何もかも...。」
一度唇を離して、沙織は潤ませた目で槐を見つめて呟くと、その胸に体を預けた。

槐は沙織の肩を抱くと、ベッドにいざない、優しく横たわらせた。
見つめあい、優しくキスを交わす。
「沢木さん...。」
沙織の胸のボタンを一つずつ外しながらキスを繰り返す槐の背に沙織の腕が絡みついた。
目を閉じて、沙織がささやく。
「お願い、忘れさせて...。」
槐の手が沙織の足を伝い、スカートのファスナーを下ろしにかかったとき―、
テーブルの上に置かれていた槐の携帯電話のバイブレーターが着信を告げた。
「失礼。」
槐は電話をとると、カードキーをドア横のキーボックスから抜き取って、廊下に出た。
暗闇の中に沙織は放置される格好となった。
「済みません―。」
大して時間を置かずにドアが開いて槐の声がした。
カードキーをボックスに差し込まず、そのまま沙織の許まで来ると、真っ暗な中で沙織を掻き抱いた。


草太と沙織の仲は相変わらずのまま、数週間が過ぎようとしていた。
沙織は憔悴しきったような表情で日々を送っていたが、あの日以来、槐を呼び出すこともなかった。
「若旦那さま...。」
沙織を小さい頃から母親代わりのように慈しみ手塩にかけて育ててきたばあやのお喜久が、見るに見かねた表情で草太に声をかけた。
「こんなことを私が申し上げるのは僭越かと存じますが...。」
「お喜久さん。」
「お嬢様は...若奥様は、若旦那様だけを愛していらっしゃいます。沙織様には若旦那様だけしかいらっしゃらないんです。」
「わかってるよ、お喜久さん。」
「どうか、沙織さまに優しくなさってあげて下さいませ。」
草太はお喜久に軽く微笑みながら頷いた。
いつもとは何か違うお喜久の執拗さを感じながらも行こうとする草太のスーツの袖を、お喜久の細い指が掴んだ。
「お待ちください...!
お嬢様の...月のものが、遅れています...。」
「えっ...?」

同じ頃、類子は沙織から、槐と密会したホテルの庭園に呼び出されていた。
「沙織さん、どうなさったの。急にこんなところへ...。」
「類子さん...。」
どんよりとした寒空の下、沙織は類子を伴って少し庭園を歩いた。
「私、赤ちゃんができましたの。」
「まあ、それは...。」
おめでとうと言いかけた類子の言葉を遮った。
「沢木さんの子です。」
「えっ?」
二人は足を止めて対峙した。

「沢木の...?」
「そう、この子の父親は沢木さんです。
私、二ヶ月前、ここのホテルの一室で沢木さんに抱かれましたの。間違いなく沢木さんの子です。」
「ご主人は...。」
「あの人とはそういう関係にありませんでしたもの。少なくともあのお茶会の日以降は。」
「沙織さん...!」
沙織から呼び出しの連絡があったとき、類子はそのことに触れられずいることは出来ないであろうと予感していた。槐が足袋を忘れ物だと託された日から、いつか沙織から茶会の日のことについて問い質される時がくると覚悟していた。
沙織は必死の形相で類子に訴えかけた。
「類子さん、私、あのお茶会の日、旅館の離れの間で何があったか知りたいんです!」
「沙織さん...。」

「...ごめんなさい、沙織さん。」
類子は少しの間言いよどんでいたが、心を決めると何もかも正直に包み隠さず沙織に告げた。「私、沢木の会社のことしか考えていなかったわ。
一番傷ついたのはあなただったのに。」

「ご主人との関係は、わざわざ自分から言い出すことでもないから黙っていたけれど...。本当にあなた方には幸せになって欲しかったの。」

「沙織さん...?」
沙織は無言のまま、辛うじて立っている風だったが、二、三度前後に上体を揺らすと、そのまま芝生に倒れこんだ。
「沙織さん?沙織さん!沙織さん!」
真っ青な顔をして目を閉じ、類子の呼びかけにも応じない。
沙織の白いコートの下の方にじんわりと赤い染みが広がって行く。
「沙織さん!しっかりして!沙織さん!!」

                                          ~後編~その3 へ続く






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Last updated  Mar 26, 2007 09:53:39 AM


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