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2005.02.22

変な客

(2)

カテゴリ：人間模様

オフィスに入っても黒いサングラスを外さない。外も曇りだってーのに。
売りたい家があると言う。そして、海の近くのアパートを探してると。
そこまでは普通だ。が、全てを内密に。。。と。
有名人とか超金持ち客とかが、時々そんなことを言うが、彼女どちらでもない。
クリスが接客してたんだけど、聞き耳立てまくる私。
旦那から逃げてるのだと。暴力を振るわれていて、
裁判沙汰になって云々。でも彼は諦めなくて、何所までも追ってくる云々。
ん～、確かに虐待される女性独特の雰囲気はある。
旦那は彼女に近付く事を禁止されているが、他の人を使って云々。
とても怖い。とても怯えていると。
段々気の毒になってきた。あぁ、なんて世の中だろう。
で、普通そんな事決してしないのだが
クリスったら彼女の個人データーもらわぬまま、
海辺のアパート見せる約束してしまった。同情したらしい。
「ちょっと変だけど、何か気の毒だよね。」
「暴力振るわれてたら、変にもなるよね。」
バカお人好し丸出しの我々であった。
それからまた彼女が来た。アパートを見る約束の日の前日である。
そこでまた、暴力を振るわれて...と話し始める。
旦那は酷い奴だから、私が家を売ったらその金を横取りするだろうと言う。
私がアパートを買うのも妨害するだろう、彼は私を殺すだろう。
私はとても怯えているの、だって本当に恐ろしい思いをしたから。
彼にボコボコニされて、鼻の骨も折れて、整形する羽目になったの。
だからお願い、誰にも私が来たと言わないで。

翌日、クリスが溜息つきながら私に言った。
「あぁ、アパート見せに行きたくない。」
うん、分かる。
「彼女と二人きりになりたくない。」
うん、分かる。
「やっぱり変だよ、何所まで本当で何所まで作り話か分からない。」
うん、ちょっとってより、かなり変。
「誰も居ないアパートなんかに二人きりで入ったら、後で何言い出すか分からない。」
「襲われたとか言うかもね。」「それなんだよ、心配なのは。」
さすがクリス、用心深い転ばぬ先の心配。
「あぁ、気が重い。。。」

彼女はたいそうめかし込んで、約束の時間に30分も遅れてやって来た。
今迄の、やつれた疲れた虐待被害者とは思えない程弾んでいた。
コイツ絶対デートかなんかのつもりだぜ～。
賢いクリスは彼女の遅刻を利用して、
次の約束があるから15分しか時間が無いと、駆け足見学宣告。
30分後帰って来て「どうだった？」と聞くと、
「またしても虐待被害人生を語って止まないから、
お気の毒ですが、それは私達には無関係な話です...って言ったよ。」
でも、他に見たい物件は無さそうだし、
多分買う気も無いだろうし、これで一件落着。
と、バカお幸せ丸出しな我々の元に、再び彼女は現れた。
「先日見たアパートを買いたいの。」
服でも買いに来たみたいだ。
「では、弁護士の下でプライベート契約を交わして、XX％の...」
「それは出来ないわ。言ったでしょ、追われてる私の立場としては、
個人情報はいっさい提供出来ないって。でも絶対買うから予約したいの。」
やっぱ服のつもりだ。
当たり前過ぎる程当たり前の事を説明するクリスと、被虐待者心理を語る彼女の、
馬鹿馬鹿しい程ラチの明かない会話は、ここでは省くよ。
しかし、話題が彼女の売家に移った時、クリスが逃げ道を見つけた。
「あぁ、その地域の事ならミゲルが詳しいから、彼と話すといい。
僕は全然分からないんだ、その辺。」
間髪入れずにミゲルに電話して宜しく頼むクリス。
誰よりも何所の事も知ってるくせに。
「じゃ、コレがミゲルの電話番号だから、今後は彼に。」
「そのミゲルは、私の事情分かってくれるかしら、
私が私を虐待する旦那から逃げてるって立場を云々...
だって私はとても怯えているのよ、酷い目に遭ったのよ、
彼は私の人生を滅茶苦茶にするわ、云々...」
あぁ、結局また同じ話を繰り返し聞かされた。

それから彼女はミゲルの客に転身し、
我がポジェンサ港オフィスは穏やかな日々を送っていた
...と思ったら、超お洒落して彼女出現。
「あれ、ミゲルはここには居ないよ？」と、とぼけるクリス。
「売家の件じゃなく、買うアパートの話だから。」
ん～、結構やり手かもしれない。
でもね、会話はこの前と同じなのよ、予約してくれとかって。
かと思ったら、今度はクリスの個人情報引き出そうとしてるじゃないですか。
それも、恋する女性独特の、楽しそうに積極的なあの方法で。
「あっちゃ～」、クリスの心の叫びが空気振動で伝わって来た。
どうしようもなくなって、「君の客がここに居るんだけど」と、
ミゲルに電話入れてたけど、ミゲルだってどーも出来ないよなぁ。
やっと彼女が去った。
ち「彼女、また来ますぜ。」
ク「ん...」
ち「彼女、家買うかね？」　
ク「ん～...」
ち「彼女の目的アナタだね。」
ク「んんん...」
ち「彼女、ミゲルに惚れてくれるといいね。」
ク「ん。」

クリスよ、前世で一体何やらかしたんだ？

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