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ハンガリーのオルバーン・ビクトル首相が11月28日にモスクワを訪問した。バラク・オバマ政権が2014年2月にキエフでネオ・ナチを使ったクーデターを成功させてから始まったヨーロッパのエネルギー危機を議題にする可能性が高い。 ロシア産の安い天然ガスを入手できなくなったドイツでは基幹産業である自動車ビジネスが窮地に陥り、経済崩壊はヨーロッパ全域に広がっている。そうした状況を生み出した欧州委員会の政策に異を唱えている国のひとつがハンガリーにほかならない。 歴史的にロシアとの関係が深いセルビアではアレクサンダル・ブチッチ大統領はNATO側へ傾いているが、スロバキアのロベルト・フィツォ首相はモスクワで5月9日に開催された戦勝80周年を祝う式典へ出席している。 ロシアとの戦争を推進しているウルズラ・フォン・デア・ライエンが率いる欧州委員会は5月6日、EU域内におけるエネルギー供給をロシアに依存している状況から脱するための行程表を発表したが、ハンガリーやスロバキアはこうしたEUの計画に反対している。12月1日からチェコの首相を務めるアンドレイ・バビシュもロシアとの関係を重視する立場だとされている。西ヨーロッパでも一般国民は欧州委員会の政策に反対している。 フォン・デア・ライエンたちが自滅的な政策を推進、ロシアとの戦争を継続させようとしているのは、彼らの計画がロシアを短期間に屈服させられるという前提で成り立っているからだ。ロシアの肥沃な大地、豊富な資源、蓄積された富を略奪できると考え、莫大な資金を投入している。ウクライナ人とロシア人を戦わせることでロシアを疲弊させ、崩壊させて利権を手にしようとしているのだ。欧州委員会を動かしている勢力はウクライナでの戦争を長引かせ、少しでもロシアを疲弊させようとしている。 しかし、ロシア軍の勝利は決定的で、しかも同軍はこれまで慎重な戦い方をしてきた。疲労の色は見えない。それに対し、ウクライナ軍が崩壊状態になってからイギリス、フランス、ポーランドなどは戦闘部隊をウクライナへ派遣、ロシア軍と戦わせているが、少なからぬ戦死者が出ているようだ。 そうした中、ドナルド・トランプ政権は28項目の「和平計画」を作成したとAxiosが伝えた。スティーブ・ウィトコフによると、Axiosの執筆者は計画案を「Kから入手した」という。 アメリカの有力メディアはこの「K」をロシアのキリル・ドミトリエフ特使だと宣伝したが、その可能性は小さく、ウクライナ特使を務めるキース・ケロッグだろうとされている。ケロッグはネオコンの一員で、ロシア嫌いとしても有名。ネオコンが描いているシナリオを「事実」として主張していた。Axiosへのリークがあった翌日、そのケロッグが来年1月に退任すると伝えられた。 この計画についてウラジミル・プーチン露大統領は11月27日、交渉の出発点となるかもしれないとしたものの、戦闘を停止するにはウクライナ側の主要な譲歩が必要だと強調した。プーチン大統領は以前からウクライナにおける戦争の目的として、ウクライナを非軍事化、非ナチ化、中立化したうえで西側諸国が凍結したロシア資産を返還させ、領土の「現実」を認めさせることだとしている。 西ヨーロッパの「エリート」が現実を認めない以上、ロシアは戦場で決着させるしかない。NATO諸国は停戦合意、いわゆる2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」を利用し、8年かけてクーデター体制の戦力を増強、ロシアと戦争できるように戦力を増強した。ロシア政府は同じ失敗を繰り返さないだろう。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.29
【キエフで英国人将校が戦死との情報】 ウクライナ軍はロシアのクラスノダールとロストフを約250機の攻撃用ドローンで攻撃、3名が死亡、数十人が負傷したと伝えられている。ロストフでは航空機工場が被害を受け、エンジンや装置類が取り外されていた地上訓練用に使われていたIl-76輸送機とA-60実験機が破壊されたようだ。 それに対し、ロシア軍は11月26日、オデッサとキエフの軍事施設をドローンなどで報復攻撃したが、キエフでは3機のSu57戦闘機から亜音速のKH-69巡航ミサイルを発射、兵器庫やパトリオット防空システム、そして「意思決定センター」を破壊したのだが、ロシア軍の発表によると、前日のクラスノダールやロストフに対する攻撃を指揮したのはそのセンターで、そこには15名のウクライナ人将校と7名のイギリス人将校がいた。全員が死亡したとされている。【ロシア軍と戦っているのはNATO軍】 本ブログでも繰り返し書いてきたが、ウクライナ軍が崩壊状態になってからNATO軍、特にイギリス軍やフランス軍が前線で戦うようになっている。例えば、ウクライナ東部の都市で兵站の要衝としても知られているポクロフスクではロシア軍に包囲されたウクライナ軍部隊の中にNATO軍将校、あるいはCIAの幹部工作員が含まれていたという。 包囲されつつあったポクロフスクでウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)は特殊部隊をUH-60Aブラックホークで運び、無謀な救出作戦を強行して失敗している。10月28日にはGURの特殊部隊員11名がヘリコプターから降りたところをロシア軍に殲滅される様子をロシア軍の偵察ドローンが撮影した映像が公開された。10月30日には2機のブラックホークで約20名から24名の特殊部隊員を送り込まれ、同じように殲滅されている。 また、今年8月2日にはロシアのスペツナズ(特殊部隊)がオデッサに近いオチャコフでイギリス陸軍のエドワード・ブレイク大佐とリチャード・キャロル中佐、そしてMI6の工作員ひとりを拘束した。ロシア深奥部に対するミサイル攻撃やテロ攻撃はMI6がオデッサから指揮していると言われている。ロシアのSVR(対外情報局)は、フランスがウクライナに約2000人の部隊を秘密裏に派遣する準備を進め、兵士をポーランドで訓練を行っているともしていた。 イギリスやフランスだけでなく、ほかのNATO加盟国も戦闘員をウクライナへ送り込んでいる可能性が高い。アメリカ軍の退役将校やCIAの元分析官など西側の軍事や情報の専門家もウクライナでロシア軍が戦っている相手はNATO軍だと指摘している。これは理屈の上からも明らかなことである。戦闘員が数千人単位で戦場に現れ、いなくなるというのは部隊として動いているからだとも指摘されている。中でも戦死者が多いとされているのはイギリスやフランスで、こうした国の政府はそうした事実を隠すため、軍隊を正式に派遣したがっている可能性もある。そうした部隊を派遣している国の中に日本が含まれていないとする保証はない。 ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は空中発射型巡航ミサイルの「タウルスKEPD 350」をウクライナへ供与すると主張していたが、この攻撃計画はドイツ空軍の中で議論されていることを示す会話がすでに公表されている。 ドイツ軍のインゴ・ゲルハルツ総監や作戦担当参謀次長のフランク・グレーフェ准将、そして連邦軍宇宙本部に所属する2名が2024年2月19日にリモート会議で行った会議の中で、クリミア橋(ケルチ橋)をタウルスで攻撃する計画が議論されていたのだ。イギリスの情報機関もこの橋の爆破を試み、失敗したと言われている。 ドイツ空軍幹部の音声は2024年3月にRTが公開したが、ディルク・ポールマンとトビアス・アウゲンブラウンの分析によると、ゲルハルツらは2023年10月の時点で計画の内容を太平洋空軍司令官だったケネス・ウイルスバックに伝えているという。ウィルスバックは2025年11月から空軍参謀総長だ。 ウイルスバックの後任として太平洋空軍司令官にケビン・シュナイダーが就任したのは2024年2月9日。問題のリモート会談が行われる10日前のこと。その時点でシュナイダーはウクライナでの攻撃計画について知らなかったようだ。グレーフェによると、シュナイダーは彼が何を話しているのか理解できていなかったという。太平洋空軍は独自の判断でロシア軍と戦争する準備を進めていたのだろうか? タウルスに限らず、アメリカのATACMSにしろ、イギリスのストームシャドウにしろ、オペレーター、地上や衛星からの情報、あるいはミサイルを誘導するためのシステムが必要であり、NATO諸国の軍が関与しなければ使えない。つまりメルツの発言はドイツがロシアとの直接的な戦争を始めるという宣言に等しかった。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.28

【高市発言と統合作戦司令部】 世界には多くの国が存在するが、その中でどの程度の国の政府が日本を主権国家と認識し、独自の判断で行動しているとは考えているだろうか。アメリカの属国、あるいは植民地にすぎず、日本政府を信頼できる交渉相手だとは考えていないように思える。高市早苗首相の「台湾有事発言」にしても、アメリカの軍事戦略という視点から見ているはずだ。 日本では陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊を一元的に指揮する常設組織として今年3月、敵基地攻撃能力を一元的に指揮する統合作戦司令部が編成された。これは2015年5月から18年5月までアメリカ太平洋軍の司令官を務めたハリー・ハリス海軍大将の提案に基づくという。ハリスが太平洋軍司令官から退いた2018年5月、アメリカ軍は太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更しているが、そのインド太平洋軍司令部と調整することが自衛隊で統合作戦司令部が編成された理由だという。自衛隊はアメリカ軍の指揮下に入るということだろう。統合作戦司令部が編成された理由として「台湾有事」を挙げる人もいた。 高市首相の台湾有事に関する発言を単純な「舌禍事件」だと理解するべきではない。その背後にはアメリカの対中国戦略があり、そのために中国政府は厳しい対応をしている。ウクライナでNATO軍がロシア軍に敗北したことも、東アジアの軍事的な緊張を高めている一因だ。高市首相の発言はそうした中でのことだった。【アメリカの軍事戦略と日本】 本ブログで繰り返し書いてきたことだが、自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、それに続いて2019年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。こうした施設建設の理由をアメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が2022年4月に発表した報告書で説明している。これはGBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲するというアメリカ軍の計画に基づいているのだ。こうした事態になっていることを認識しなければならない。 この報告書が作成された当時、アメリカは日本が掲げる専守防衛の建前、そして憲法第9条の制約を尊重していた。そこでASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力するという形にするとしていたのだが、2022年10月になると「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」と報道された。があった。亜音速で飛行する核弾頭を搭載できる巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。要するに、アメリカの命令だということだろう。 こうしたアメリカの計画は1992年2月にアメリカ国防総省で作成されたDPG(国防計画指針)の草案に基づいている。この指針は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツが中心になって書かれたことから、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 1991年12月のソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。 また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。 こうしたアメリカの独善的な計画が危険だということを日本の政治家も理解していたようで、1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗するが、94年4月に崩壊した。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られている。 日本側の動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令した。そのレポートには10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われている。 沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になったようだ。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。 この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。この1995年以降、日本はアメリカの戦争マシーンへ急ピッチで組み込まれていく。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.28
アメリカ海軍の空母ジェラルド・R・フォードが5隻の艦船を伴って11月16日にカリブ海へ入った。閉鎖されていたプエルトリコの海軍基地を修復、使えるようにしている。9月からドナルド・トランプ政権は少なくとも8隻の水上艦船と1隻の潜水艦を派遣、「麻薬密売船」だとして小型船を9月から約20回にわたって爆撃し、少なくとも80人を殺害している。 しかし、ベネズエラからアメリカのフロリダまで約2000キロメートルあり、破壊されている小型船では辿り着けない。アメリカへ麻薬を密輸している船ではないことを承知でトランプ大統領は攻撃している。航空母艦が到着したなら、すぐにベネズエラへの軍事侵攻を始めるとする見方もあったのだが、今のところべネルズエラ上空に飛行禁止空域を設定しただけだ。 11月上旬、威嚇のために2機のB-52爆撃機をベネズエラへ向けて飛行させたが、陸地から約100キロメートルの地点でロシア製防空システムであるS-300に照準を合わされ、基地へ戻らざるをえなくなった。そのほか中低高度の防空システムであるブークM2e、シリアで有効性が証明された近距離対空防御システムのパンツィリ-S1も配備されたようだ。 10月下旬にロシアのアヴィアコン・ジトトランス所属のIl-76TD輸送機がベネズエラへ何かを運んできた。この会社はロシア軍や傭兵会社ワグナーの貨物を輸送したとしてアメリカから「制裁」されていることから軍事物資、あるいは戦闘員を輸送したのではないかと言われている。ロシアのスペツナズ(特殊部隊)もベネズエラへ入ったとする話も伝えられている。 カリブ海の軍事的な緊張が高まる中、ロシアだけでなく、中国やイランもベネズエラへの支援を始めている。イランは航続距離が2500キロメートルだという攻撃用ドローン「シャヘド」を供与、これによってベネズエラはフロリダのアメリカ軍基地を攻撃できる。アメリカ軍がベネズエラを軍事侵攻した場合、ロシアの防空システムや対艦ミサイルの洗礼を受けることになるだけでなく、アメリカ本土も戦場になる可能性がある。 アメリカを含むNATO諸国はロシアを征服、分割して石油や天然ガスを含む資源を手に入れようとしてウクライナで戦争を始めたが、ロシア軍に負けてしまった。中東ではイスラエルがイランに勝てないことが明確になっている。東アジアで軍事的な緊張を高めているが、それと並行してベネズエラの石油を手に入れ、それを利用してロシアや中東の産油国を屈服させようと考えているのかもしれないが、その前にはロシア、中国、イランが立ちはだかっている。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.27

ロシア軍は11月22日、ウクライナとルーマニアの国境にある検問所をドローンで爆撃、その翌日にオデッサからルーマニア近くまでの地域をミサイルなどで攻撃した。ルーマニアからオデッサにかけてはウクライナ軍やNATO軍の重要な兵站線。この攻撃によってイギリス、フランス、ルーマニアの兵士も死傷したと伝えられている。イギリスやフランスがロシアに対する攻撃の拠点にしているオデッサは厳しい状況に陥った。今後、ロシア軍はオデッサの制圧に乗り出すかもしれない。 アメリカを中心としてNATOは2014年2月から22年2月にかけてウクライナのクーデター体制を軍事的に強化するため、戦闘員の育成、兵器の供与、そして反クーデター軍が支配していたドンバスの周辺に要塞線を築いていた。 その要塞線の中核がマリウポリ、マリーインカ、アブディフカ、ソレダルに建設された地下要塞。すでにこの地下要塞はロシア軍に制圧されているが、要塞線全体がここにきて崩壊しはじめたようで、ロシア軍の進撃スピードが速まっている。 11月に入ってロシア軍はポクロフスクを制圧したが、ここはウクライナ軍の補給を支えていた幹線道路が交差する場所。ドンバスのウクライナ軍への補給路が立たれることになる。さらにロシア軍は周辺地域を制圧中だ。 キエフから撤退するなと命令されているウクライナ軍は包囲され、降伏するか戦死するしかない状態に追い込まれている。降伏しようとする兵士がウクライナ軍のドローンに攻撃されている映像も流れている。 ポクロフスクではウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)が特殊部隊をUH-60Aブラックホークで送り込んでいたが、CIAの上級工作員、あるいはNATOの将校が取り残されたからだと言われている。その人たちが現在どのような状況になっているかは不明だ。 ウクライナでの戦闘はロシア軍が攻撃を始めて間もない2022年3月上旬には停戦が内定していたのだが、これを壊したのがイギリスの首相を務めていたボリス・ジョンソン、同年4月9日にキエフへ乗り込み(ココやココ)んで戦争を継続するようキエフ政権に命令した。 そのジョンソンが現在、ウクライナでの戦争を継続させようと活動している。ウクライナ人は最後のひとりになるまでロシア人と戦い、ロシアを疲弊させろというわけだ。第2次世界大戦でソ連はドイツ軍に攻め込まれ、勝ったものの疲弊、結局立ち直ることができなかった。そのドイツの役割を今回、ウクライナにさせようとしているのだが、そうした思惑通りには進んでいない。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.26

【与那国島へのミサイル配備】 与那国島へ日本がミサイルを配備しようとしていることを中国が非難したと伝えられている。与那国島へのミサイル配備計画が順調に進んでいると小泉進次郎防衛相が語ったことが引き金になったようだが、自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設している。それに続いて2019年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。【アメリカの軍事戦略と日本】 本ブログで繰り返し書いてきたことだが、こうしたミサイル配備の理由をアメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が2022年4月に発表した報告書で説明している。これはGBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲するというアメリカ軍の計画に基づいているのだ。 この報告書が作成された当時、アメリカは日本が掲げる専守防衛の建前、そして憲法第9条の制約を尊重していた。そこでASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力するという形にするとしていたのだが、2022年10月になると「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」と報道された。亜音速で飛行する核弾頭を搭載できる巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。要するに、アメリカの命令だということだろう。 こうしたアメリカの計画は1992年2月にアメリカ国防総省で作成されたDPG(国防計画指針)の草案に基づいている。この指針は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツが中心になって書かれたことから、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 1991年12月のソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。 また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。 こうしたアメリカの独善的な計画が危険だということを日本の政治家も理解していたようで、1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗するが、94年4月に崩壊した。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られている。 日本側の動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令した。そのレポートには10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われている。 沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になったようだ。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。 この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。この1995年以降、日本はアメリカの戦争マシーンへ急ピッチで組み込まれていく。【米英の対中国戦略】 台湾の与党である民進党(DPP)がいう「台湾の独立」とは、アメリカにとって対中国戦争のための「不沈空母」を手に入れることにほかならない。例えば、2019年9月から21年1月まで国家安全保障補佐官を務めたロバート・オブライエンは20年10月、台湾を要塞化するべきだと語り、アメリカ空軍航空機動軍団のマイク・ミニハン司令官は23年1月にアメリカと中国が25年に軍事衝突する可能性があるとする見通しを記したメモを将校へ送っている。 ミニハンがアメリカと中国が軍事衝突する可能性があるとした今年の5月15日、エグザビエル・ブランソン在韓米軍司令官は、対朝鮮だけでなく中国を牽制するためにも在韓米軍の役割を拡大する必要があると主張、韓国は「日本と中国本土の間に浮かぶ島、または固定された空母」だと表現している。アメリカにとって韓国も台湾も「不沈空母」、つまり大陸を制圧するための重要な拠点なのだが、日本も同じだ。また、アメリカは台湾向けにATACMS(陸軍戦術ミサイル・システム)を製造している。ウクライナにおける対ロシア戦争と同じパターンだが、ウクライナではトマホークの供与には消極的になっている。。 中国中央軍事委員会の張又俠副主席がモスクワでアンドレイ・ベロウソフ国防相と会談、ミサイル防衛と戦略的安定について協議し、両分野における協力強化で合意したというが、台湾の問題とは中国と米英との問題であり、ロシアにとっても重大な問題なのである。米英との対立は少なくとも19世紀のアヘン戦争まで遡って考えなければならない。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.25

マージョリー・テイラー・グリーン下院議員は11月21日、来年1月5日に議員を辞職すると発表した。ドナルド・トランプ大統領の同志だとされていた議員だが、ジェフリー・エプスタインに関するファイルの全面的な公開を求める彼女は大統領と対立していた。トランプ大統領がエプスタインと親しかったことを否定できない。またグリーン議員は今年初め、イスラエル軍によるガザにおける破壊と殺戮について「ジェノサイド」だと表現したが、こうした発言もイスラエルと緊密な関係にあるトランプ大統領と対立する一因になっただろう。 アメリカの政界においてイスラエル批判はタブーだ。辞職する理由について彼女は、大統領が支援する「傷つき憎しみに満ちた予備選挙」から家族を守るためだとしている。トランプ大統領はグリーン議員の辞職表明について、「国にとって素晴らしいニュースだ」と発言した。 グリーン議員はイスラエルと小児性愛の関係にも言及している。ラスベガス警察は今年8月16日、小児性愛者を標的にした囮捜査を実施、8名を逮捕した。そのうちのひとりがイスラエルの国家サイバー局で局長を務めるトム・アレクサンドロビッチ。専門家会議に出席するため、アメリカに滞在していたという。この捜査にはFBI、警察、国土安全保障省、ネバダ州司法長官事務所が参加していた。 アレクサンドロビッチは尋問後に釈放されてホテルへ戻り、2日以内にイスラエルに帰国した。警察の記録によると、この容疑者はヘンダーソン拘置所に収監され、その後判事の面前で1万ドルの保釈金を支払って釈放されている。誰が保釈金を支払ったのか、どのようにして出国してイスラエルへ戻れたのかは不明だ。 アレクサンドロビッチはイスラエルが小児性愛者を受け入れていることも知られている。CBSニュースによると、多くのアメリカ人小児性愛者がイスラエルに逃亡、彼らは法の裁きを受けていない。イスラエルには「帰還法」と呼ばれる法律があり、ユダヤ人であれば誰でもイスラエルへ移住し、市民権を取得できる。 小児性愛の容疑者を追跡しているアメリカの団体「JCW(ユダヤ人コミュニティ・ウォッチ)」は2014年から活動を開始、それ以来、60名以上がアメリカからイスラエルへ逃亡したとしているが、実数ははるかに多いと考えられている。 イスラエルのクネセト(国会)では今年6月3日、数人の女性が未成年時代に宗教儀式の一環として受けた性的虐待について証言した。イスラエル軍がイランを攻撃する10日前の出来事だ。 証言した被害者のひとりであるヤエル・アリエルによると、彼女は5歳から20歳まで儀式的な虐待を受け、ほかの子どもたちに危害を加えることを強要されたという。 警察に被害届を出したものの、数カ月で却下。しかも彼女が自分の体験を明かにすると脅迫を受けたとしているが、これは彼女だけではないようだ。別の被害者、ヤエル・シトリットによると、人身売買は全国で行われていた。薬物も使用され、レイプを含むサディスティックで残酷なことも行われ、その行為は撮影されていたとされている。被害者がそうしたことを証言しても荒唐無稽の話だと思われ、信じてもらえなかったという。 被害者たちによると、聖書の物語を模倣した虐待を受けたともいう。例えば、加害者がイサクの縛りを真似て被害者の女性を縛り付け、間に合わせの割礼の儀式を行うという儀式に強制的に参加させられたと複数の女性が証言している。 ひとりの被害者はいとこから虐待を受け、14歳になると地域社会の著名人から拷問と飢餓に苦しめられていたと主張した。「一般公開のイベントがあり、手錠をかけられて高い柱に縛り付けられる内部儀式もありました」と彼女は当時を振り返り、月経血を飲む儀式や猫などの動物の屠殺についても説明した。 1970年代にイスラエル軍の情報機関ERD(対外関係局)に所属、87年から89年にかけてイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めたアリ・ベンメナシェによると、エプスタインはギレーヌ・マクスウェルや彼女の父親でミラー・グループを率いていたロバート・マクスウェルと同様、イスラエル軍の情報機関、つまりアマンのために働いていた。ロバートは1960年代から、エプスタインとギレーヌは1980年代の後半からその情報機関に所属してたとベンメナシェは語っている。(Zev Shalev, “Blackmailing America,” Narativ, Septemner 26, 2019) エプスタインの事件を明るみに出す上で重要な役割を果たしたひとりは被害者のバージニア・ジュフリーだが、時速110キロで走行していたバスと自分の自動車が衝突、腎不全に陥ったと3月31日にインスタグラムへ投稿した。彼女の家族によると、警察に通報したものの、現場に駆けつける人がいないと言われたという。その後、容態が悪化したため病院に搬送されたとされている。彼女は退院した後、4月25日に西オーストラリア州の自宅で死亡した。「自殺」とされている。 ジェフリーはフランスのモデル・スカウト、ジャン-リュック・ブルネルがエプスタインの人身売買に協力していたと告発していた。1998年から2005年にかけての時期、ブルネルはエプスタインのプライベート・ジェットに25回搭乗した記録が残っている。 また、ブルネルは2008年にエプスタインが逮捕された際、拘置施設でエプスタインと70回以上面会した記録が残っている。そのブルネルは2020年12月、未成年者へのセクハラと性的犯罪の罪で起訴されたが、22年2月に独房内で「自殺」した。 エプスタインがロスチャイルド家と親しかったことも有名。ギレーヌ・マクスウェルによると、イギリス王室のアンドリュー王子(ヨーク公爵)をエプスタインに紹介したのはエべリン・ド・ロスチャイルドの妻、リン・フォスター・ド・ロスチャイルドだったという。リン・フォスターはエプスタインの友人だ。ビル・クリントンとエプスタインが親しかったことも知られているが、ヒラリー・クリントンがリン・フォスターと親しいことを示す電子メールも漏洩されている。 なお、アンドリューはエプスタインとの関係や子ども時代からの性生活が暴かれた(Andrew Lownie, “Entitled,” William Collins, 2025)こともあり、貴族としての称号を返上すると10月17日に表明、同月30日に国王から剥奪された。 また、エドモン・ド・ロスチャイルド・グループのCEOを務めるアリアンヌ・ド・ロスチャイルドは「2013年から2019年の間に、銀行での通常業務の一環としてエプスタインと面会していた」という。彼女はエプスタインがニューヨークに保有していた自宅を訪れたこともあるようだ。新たに公開された電子メールによると、アリアンヌはエプスタインとブロードウェイ公演や2014年のモントリオール旅行など、私的な旅行や社交を計画していた。 エプスタインはイスラエルの元首相エフード・バラクとも親しく、その関係で同国の軍事情報局特殊作戦部に所属する秘密技術部隊の81部隊の人脈と繋がっていた。またエプスタインはバラクとロスチャイルド家との間のメッセンジャーを務めていたともされている。 エプスタインがイスラエルの情報機関と深く繋がっていたのだが、あくまでもネットワークの一部であり、「中間管理職」にすぎない。エプスタインと同じようなことをしているグループはいくつも存在し、そのネットワークの罠に落ちた「世界の要人」は少なくないはずだ。弱みを握られた人間だけを出世させ、世界を操るということもできる。 西側世界を支配している人たちは、買収、恫喝、暗殺、クーデター、侵略戦争へとエスカレートしていく。弱小国はひとたまりもないが、ロシアや中国が相手になると簡単ではない。 しかし、この「犯罪集団」とも言える勢力はウクライナでロシアに敗北した。西側世界が混乱している大きな原因のひとつはそこにある。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.25
アメリカのニューズ・ウェブサイトAxiosは11月18日、アメリカ政府がウクライナ戦争の終結に向けた新たな計画を秘密裏に策定中だと伝えた。キエフのウォロディミル・ゼレンスキー政権やロシアとの戦争継続を主張しているEUの指導部だけでなく、ロシア政府が掲げている戦争の目的とは相容れない内容で、合意は難しい。ロナルド・トランプ大統領も、その計画案で戦争を終結させることはできないと思っているはずだ。 この計画案を作成したスティーブ・ウィトコフは事実上、ウラジミル・プーチン露大統領担当特使。その案ではウクライナが東ドンバス地域全体の支配権を放棄することになっているが、その一方でロシア軍に対し、ヘルソンとザポリージャで軍事作戦を凍結し、ハリコフとスーミから撤退するように求めている。 プーチン大統領はウクライナにおける戦争の目的として、ウクライナの非軍事化、非ナチ化、中立化、西側諸国が凍結したロシア資産の返還、そして領土の「現実」を認めるように求めている。この条件は一貫していて、妥協はしないだろう。もしトランプ大統領が事実を把握しているなら、今回の計画案でロシアを説得できないことを理解しているはずだ。 この文書には、NATOの拡大とミサイル配備の根本原因を認識している兆候は全くなく、「米国を仲介としてロシアとNATOの間で対話が行われ、あらゆる安全保障上の問題が解決され、緊張緩和のための条件が整えられる。それによって世界の安全保障が確保され、協力と将来の経済発展の機会が拡大する」という漠然とした約束があるだけだ。 そこで、この提案の狙いはプーチン大統領を追い詰め、ロシア側が主張する基本原則を放棄させることにあるという推測が出てくるが、そうした展開になる可能性は小さい。戦況は加速度的にロシア軍が優勢になっている。この勢いをロシア側が止めるとは思えない。戦争の真の相手であるイギリスは19世紀からロシア征服を目論んでいるのであり、その長期戦略を放棄することはないだろう。ロシアとしては、中途半端な形で戦闘をやめるわけにはいかない。 ウィトコフによると、Axiosの執筆者は計画案を「Kから入手した」という。アメリカの有力メディアはこの「K」をロシアのキリル・ドミトリエフ特使だと宣伝しているが、その可能性は小さく、ウクライナ特使を務めるキース・ケロッグだろうとされている。ケロッグはネオコンの一員で、ロシア嫌いとしても有名。ネオコンが描いているシナリオを「事実」として主張していた。 Axiosへのリークがあった翌日、そのケロッグが来年1月に退任すると伝えられた。20日にはその情報が正しいとホワイトハウスは確認している。「自然な退任時期」だとアメリカの有力メディアは伝えているが、28項目の「和平計画」に関する情報を漏洩したことから解任されたと見られている。 11月20日にはダニエル・ドリスコル陸軍長官が率いるアメリカ軍高官代表団はキエフに到着、ゼレンスキーと会い、ロシアとの和平交渉の可能性に関する協議を再開するの話し合ったという。この代表団は来週末にモスクワへ飛び、クレムリンと「和平案」について協議する見込みだとされている。ドリスコルの代表団がゼレンスキーと会談した後、でトランプ大統領はケロッグにかわる新しい特使としてドリスコルを任命した。そのドリスコルは21日にキエフでNATO諸国の大使たちに説明したとも伝えられている。 ケロッグ退任の報道に合わせるかのうように、ロシア南西部にある都市ボロネジに向かって4機のATACMSが発射された。いずれもロシア軍によって撃墜され、ふたつの発射装置も破壊された。 ATACMSに限らず、ある程度以上の性能を持つ兵器の場合、訓練の期間が必要であるだけでなく、ターゲットに関する情報の収集、衛星によるミサイルの誘導も不可欠。つまり、NATO軍が直接関与しなければならない。今回の攻撃にはアメリカ軍将校がオペレーターとして関与し、ロシア軍の反撃で戦死したとされている。 兵士不足のウクライナでは街頭で男性を拉致するだけでなく、コロンビアをはじめとするラテン・アメリカ諸国、あるいはドイツ、フランス、イギリス、ポーランドなどのヨーロッパ諸国から傭兵を連れてきていると言われているが、NATO加盟国は正規軍の将兵を送り込み、相当数の死傷者が出ていると主張する人もいる。そうした死傷者を出している国なら、正式に派兵すれば、秘密裏に行っていた戦争を誤魔化すことができるという推測もある。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.24

ジョン・F・ケネディ米大統領はテキサス州ダラスで1963年11月22日に暗殺された。62年前の出来事だ。テキサス州は副大統領だったリンドン・ジョンソンの地元であり、ダラス市長だったアール・キャベルはケネディ大統領にアレン・ダレスCIA長官と共に解任されたチャールズ・キャベルCIA副長官の弟である。 ケネディは大統領に就任して間もない段階でアメリカ軍のキューバへの軍事侵攻を止めて軍やCIAの軍事強硬派と対立、ミサイル危機は話し合いで解決してソ連との核戦争を回避することに成功した。 テキサス大学のジェームズ・ガルブレイス教授によると、統合参謀本部のライマン・レムニッツァー議長やSACの司令官だったカーティス・ルメイなどは1963年の後半にソ連を奇襲攻撃る予定だったという。その頃になればアメリカはICBMを配備でき、しかもソ連は配備が間に合わないと見ていた。楽勝できると思っていたのである。 ソ連が反撃するためにはアメリカの近くから中距離ミサイルを発射するしかない。そこで、1962年10月までにソ連はキューバへ中距離ミサイルを運び込む。これがキューバ危機だ。 またアメリカ軍をベトナムから撤退させることを決断したケネディは1963年10月にはNSAM(国家安全保障行動覚書)263を出した。アメリカ軍の準機関紙であるパシフィック・スターズ・アンド・ストライプス紙は「米軍、65年末までにベトナムから撤退か」という記事を掲載している。 しかし、この決定はケネディ大統領の暗殺で実行されていない。新大統領のリンドン・ジョンソンは1963年11月26日付け、つまり前任者が殺されて4日後にNSAM273を、また翌年3月26日付けでNSAM288を出し、ケネディのNSAM263を取り消してしまった。(L. Fletcher Prouty, "JFK," Carol Publishing Group, 1996) ジョンソンのスポンサーはハリー・トルーマンと同じアブラハム・フェインバーグ。この人物はシオニストの富豪で、彼が経営していたアメリカン・バンク・アンド・トラストはスイス・イスラエル銀行の子会社である。(Whitney Webb, “One Nation Under Blackmail Vol. 1,” Trine Day, 2022) 第2次世界大戦後、アメリカでは「反ファシスト派狩り」が展開された。いわゆる「赤狩り」だが、その中心的な人物だったジョセフ・マッカーシーの法律顧問を務めていたロイ・コーンはジョン・ゴッチを含むニューヨークの犯罪組織を顧客としていた人物で、のちにドナルド・トランプの顧問にもなっている。そのコーンはリンドン・ジョンソンも支援していた。 また、ケネディは巨大資本の横暴を批判、その一方でイスラエルの核兵器開発に厳しい姿勢をとり、CIA(中央情報局)の解体を目論み、その代わりにDIA(国防情報局)を設置した。通貨制度へもメスを入れようと考え、EO11110という大統領令を出している。 そして1963年6月10日にケネディ大統領はアメリカン大学の卒業式で「平和の戦略」と呼ばれる演説を行い、ソ連と平和共存する道を歩き始めると宣言した。 アメリカにとって都合の良い「平和」を軍事力で世界に押しつける「パックス・アメリカーナ」を否定することから演説は始まり、アメリカ市民は「まず内へ目を向けて、平和の可能性に対する、ソ連に対する、冷戦の経過に対する、また米国内の自由と平和に対する、自分自身の態度を検討しはじめるべき」(長谷川潔訳『英和対訳ケネディ大統領演説集』南雲堂、2007年)だと語りかけた。 ケネディ大統領に続き、マーチン・ルーサー・キング牧師が1968年4月4日に、大統領の弟で元司法長官のロバート・ケネディが同年6月6日に暗殺されている。ロバート・ケネディは1968年の大統領選挙における最有力候補で、キングが副大統領になるとも言われていた。 ケネディ大統領の暗殺にはナチ親衛隊の幹部だったオットー・スコルツェニーの名前も出てくる。大戦後、アメリカ政府はナチの元幹部や協力者の逃走させ、保護している「ブラッドストーン作戦」だ。そのひとりがスコルツェニーだった。 スコルツェニーは拘束される前にナチスの仲間をアルゼンチンへ逃がすための組織ディ・シュピンネ(蜘蛛)を設立、1948年7月には彼自身も収容施設から逃亡することに成功した。この逃亡にはアメリカ軍憲兵の制服を着た元親衛隊将校3名が協力しているのだが、スコルツェニーはアメリカ政府が協力したと主張している。この組織のアメリカでの暗号名がODESSAだという。 スコルツェニーは1950年までパリで生活、そしてマドリッドへ移動し、そこでイルゼ・フォン・フィンケンシュタインという女性と結婚した。2度目の結婚だ。この女性はドイツの国立銀行総裁や経済大臣を務めたヒャルマール・シャハトの姪にあたる。イスラエルでの報道によると、スコルツェニーはケネディが殺された1963年、イスラエルの情報機関であるモサドに採用された。 スコルツェニーとシャハトはドイツの高等弁務官だったジョン・マックロイに助けられた。このマックロイはウォール街の大物で、1947年3月から49年7月まで世界銀行の総裁を務めている。ケネディ大統領暗殺未遂を調査したウォーレン委員会のメンバーでもあった。 ケネディ大統領を敵視していた勢力の多くはソ連を壊滅させたいと考えていた。本ブログでは繰り返し書いてきたことだが、こうした戦略は19世紀にイギリスで始まった。そして現在まで続いている。ウクライナでの戦争を中途半端な形で「停戦」した場合、欧米諸国が近い将来に再びロシアを征服しようと仕掛けてくることは必定。ドナルド・トランプ米大統領がどのような条件を出そうとも、ロシアは自分たちの特別軍事作戦が目的を達成した場合にのみ、戦争を終結させると見られている。ウクライナでの戦争はロシアの存亡がかかっている。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.23

モスクワを訪問していた中国中央軍事委員会の張又俠副主席がアンドレイ・ベロウソフ国防相と会談、ミサイル防衛と戦略的安定について協議し、両分野における協力強化で合意したという。アメリカはヨーロッパだけでなく日本列島にも大陸を攻撃できるミサイルの発射施設を建設しているが、そうした動きを意識したものだろう。 自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。アメリカの国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」が2022年4月に発表した報告書は、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画について説明している。アメリカの計画に基づいて自衛隊は軍事施設を建設したと言える。核弾頭を搭載できるトマホークを配備するともされているが、トマホークが発射されたなら、相手は核弾頭が搭載されているという前提で反応する。つまり核兵器で反撃される可能性がある。 ロシアの周辺部にもアメリカはミサイルを配備、NATOを東へ拡大させた。これはナチ時代のドイツによるソ連への軍事侵攻、バルバロッサ作戦を彷彿とさせる動きであり、ロシアが反発しただけではない。 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、リチャード・ニクソン元米大統領は1994年3月21日にビル・クリントン大統領へ手紙を出し、その中でウクライナの内部状況が非常に危険だと警告。ウクライナで戦闘が勃発すれば、ボスニア・ヘルツェゴビナでの戦争は「ガーデンパーティー」のように感じられるとしている。 また、「封じ込め政策」で有名なジョージ・ケナンは1998年、NATOが拡大について「これは新たな冷戦の始まり」であり、悲劇的な過ちだと批判、この政策を決めたアメリカ上院での議論について表面的で無知だと指摘している。 こうした政策は必然的にロシアから悪い反応を引き出すことになる見通し、NATOがロシア国境までの拡大すれば新たな冷戦を引き起こすことになるとしていた。ポーランド、ハンガリー、チェコで拡大が止まれば、そこで新たな分断線が引かれるともケナンは予測していたが、実際はそこで止まらず、ウクライナを制圧しようとする。「新バルバロッサ作戦」だ。 ヘンリー・キッシンジャーは2014年3月5日付けワシントン・ポスト紙でウクライナとロシアの関係について論じている。 ロシアの歴史はキエフ・ルーシで始まり、宗教もそこから広がり、ウクライナは何世紀にもわたってロシアの一部であり、その前から両国の歴史は複雑に絡み合っていたと指摘している。ロシアにとってウクライナが単なる外国ではないということだ。特に東部と南部はロシアとの繋がりが強い。 こうした「旧保守」の警告をネオコン(新保守)は無視、対ロシア戦争を始めてしまった。簡単にロシアを屈服させられると考えていたのだろうが、逆襲で敗北必至のNATO諸国はパニックに陥っている。NATO諸国を率いている人びとは今でもロシアの戦力、工業力を過小評価し、自分たちの戦力と工業力を過大評価しているようだ。 ウクライナで敗れたアメリカやイギリスは東アジアの軍事的な緊張を高め、自分たちの存在感を高めようとしているが、中国とロシアの同盟は強化されている。バラク・オバマ政権がウクライナでクーデターを仕掛けた当時、日本でも中国とロシアが手を組むことはありえないと主張する「知識人」が少なくなかったが、それは妄想にすぎなかった。 東アジアの均衡を保つための前提、「ひとつの中国」を高市早苗首相は否定、核を保有しない、製造しない、持ち込まないという非核3原則に否定的な姿勢を示した。台湾と中国が別の国だということは台湾にアメリカが軍事基地を建設して「航空母艦」にできるということであり、日本列島に並べられたミサイルの核弾頭を搭載することもできるということを意味する。高市は首相に就任して早々、中国を軍事侵略するかもしれないと脅したわけだ。 ネオコンは中国やロシアを脅して屈服させようとして失敗したが、高市首相も同じことをしている。EUは自分たちの経済を支えていたロシアのエネルギー資源を断ち切ることで破滅へ向かっている。菅直人政権の前原誠司と同じように、高市首相は日本にとって最大の貿易相手国である中国との関係を悪化させた。日本を破壊しようとしている。 高市首相が民族派? まさか!**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.22
次の「櫻井ジャーナルトーク」を12月19日(火)午後7時から駒込の「東京琉球館」で開催、「ウクライナ後の東アジア」について考えてみたいと思います。予約受付は12月1日午前9時からですので、興味のある方は東京琉球館までEメールで連絡してください。なお、「櫻井ジャーナルトーク」は12月で定期的開催を終了します。東京琉球館https://dotouch.cocolog-nifty.com住所:東京都豊島区駒込2-17-8Eメール:makato@luna.zaq.jp アメリカの軍事や外交をコントロールしてきたシオニストは1991年12月にソ連が消滅した直後、世界制覇プロジェクトを始めました。その計画書とも言える文書が1992年2月に国防総省のDPG(国防計画指針)草案として作成されています。1990年代以降の世界を考える場合、この文書からスタートしなければならないということになるでしょう。 その当時の国防長官はリチャード・チェイニー、文書作成の中心にはポール・ウォルフォウィッツ国防次官がいました。そこで、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれています。このドクトリンの前提はライバルのソ連が消滅、アメリカが唯一の超大国になったということであり、他国に気兼ねすることなく、国連を無視して好き勝手に行動できるとチェイニーやウォルフォウィッツを含むシオニスト、いわゆるネオコンは考えました。 しかし、21世紀に入ってウラジミル・プーチンが登場、ロシアの再独立に成功します。そこでネオコンはロシアを再属国化するため、2度のクーデターを仕掛けました。2004から05年にかけて実行された「オレンジ革命」と2013年から14年にかけてのユーロマイダンを舞台としたクーデターです。 しかし、ソ連時代にロシアから割譲された東部や南部では住民の多くがクーデターを拒否、クリミアではロシアと一体化する道が選ばれ、東部のドンバスでは武装抵抗が始まりました。旧体制の軍人や治安機関の少なからぬメンバーがクーデター体制を拒否、その一部は武装抵抗に合流したとも言われています。 抵抗運動は強く、NATOはクーデター体制の戦力を増強しなければならなくなります。そのための時間を稼ぐ必要が生じました。そこで成立させた停戦合意が2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」です。その後、8年かけてNATO諸国は兵士の育成、訓練、兵器の供与などでクーデター体制の戦力を増強しました。 2021年から25年にかけて大統領を務めたジョー・バイデンはロシアに対して軍事的な挑発を強め、クーデター体制は22年に入ると反クーデター勢力への砲撃を強め、大規模な軍事作戦が始まると噂されました。そうした中、ロシアが先手を打って2月にウクライナ軍部隊や軍事施設などを攻撃、戦闘は始まります。 出鼻をくじかれたウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアと停戦交渉を開始しました。交渉の仲介をしていたのはイスラエルとトルコで、仲介役のひとりだったイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットは交渉内容を詳しく説明しています。トルコ政府を仲介役とする停戦交渉は仮調印にこぎつけていました。 ベネットは2022年3月5日にモスクワへ飛んでプーチン露大統領と数時間にわたって話し合い、ゼレンスキー大統領を殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でドイツへ向かってオラフ・ショルツ首相と会っていますが、その3月5日、SBU(ウクライナ保安庁)のメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームで中心的な役割を果たしていたデニス・キリーエフを射殺してしまいました。そして4月9日、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとウクライナの停戦交渉を壊します。(ココやココ) ジョンソンはウクライナ人に対し、最後のひとりになるまでロシアと戦えと命令、ヨーロッパ諸国に対しては資金と長距離ミサイルをウクライナへ集中させるように求めました。ジョンソンを含むヨーロッパの嫌ロシア派やアメリカのネオコンは簡単にロシアを倒せると信じていたようですが、NATO側が8年かけてドンバス周辺に築いた要塞線も突破されてロシアの勝利は決定的です。最後のひとりになるまで戦えという号令の効果はありません。 すでにウクライナ戦争から距離を置き始めているドナルド・トランプ政権はロシア政府と停戦、安全保障、ヨーロッパの枠組み、将来の関係について水面下で話し合いを進めていると伝えられています。マイアミでアメリカのスティーブ・ウィトコフ中東担当特使とロシアのキリル・ドミトリエフ特使が会談しているようですが、これは事実上、敗者であるNATOと勝者であるロシアとの降伏交渉だと言えるでしょう。トランプ政権としては、その結果がアメリカの降伏に見えないように演出したいはずですが、プーチン政権は「ミンスク合意」の二の舞にならないよう事を進めるはずです。 それに対し、ヨーロッパの嫌ロシア派とアメリカのネオコンはそうした交渉を認めようとしないでしょう。「停戦」ではなく恒久的な和平が決まった場合、欧米諸国で戦争を推進してきた勢力は厳しい状況に追い込まれてしまいます。 権力を維持するため、欧米の「エリート」はベネズエラや東アジアで新たな戦争を始める可能性もあります。1995年以降、日本がアメリカの戦争マシーンに組み込まれ、中国やロシアと戦争する準備を進めてきたことは本ブログでも繰り返し書いてきました。そうしたことを最終回に考えてみたいと思います。櫻井 春彦
2025.11.21

国連の安全保障理事会は11月17日、ドナルド・トランプ米大統領のガザ計画を承認する決議を採択した。13カ国が賛成し、中国とロシアは棄権している。当初の決議案ではパレスチナ主権の可能性について言及されていなかったのだが、追加されたことでアラブ諸国やパレスチナ自治政府が決議を支持、ロシアは拒否権を行使するという姿勢を撤回、中国も棄権に加わった。s ガザを民族浄化して地中海リゾート開発を行うべきだとトランプが公言していたことを考えると、この決議はトランプが構想する開発を実現するための地上げを承認するためののものだと見ることもできる。 この決議によると、ガザの復興調整を担う暫定政権としての平和委員会設立を歓迎、暫定的な国際安定化部隊(ISF)を設置する権限をその委員会に与えている。その委員会を指揮するのはトランプ大統領になるため、ISFもトランプの指揮下に入る。 ガザではイスラエルによる破壊と殺戮に抵抗するため、ハマスが武装闘争を続けてきたが、そのハマスを武装解除することが決議では定められている。 ハマスが武装解除されたのち、イスラエル軍はガザから撤退するというのだが、ベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスチナ国家への反対を改めて表明し、そのような事態は決して起こらないと断言している。ハマスもこの決議について、これはガザに国際的な監視メカニズムを押し付けるものであり、パレスチナ国民はこれを拒否していると宣言、決議を拒否した。つまり、今回の決議では当事者の意思が無視されている。 ハマスが武装解除を拒否する可能性は小さくないが、そうなると、トランプが指揮する部隊とハマスの戦闘が始まる可能性がある。しかもハマスが武装解除されなかった場合、イスラエル軍はガザに居座るとしており、三つ巴の戦いになるかもしれない。イスラエルやアメリカの影響下にあるパレスチナ自治政府が出てきても、事態が複雑になるだけだろう。安定化部隊はパレスチナ自治政府と連携しないという見方をする人もいる。 パレスチナでは今回と似たような展開の出来事があった。1981年6月7日にイスラエル軍はイラクのオシラク原子炉を空爆、7月17日にはベイルートにあったPLO(パレスチナ解放機構)のビルに対して大規模な空爆を実施した。 それに対して国連のブライアン・アークハート事務次長がイスラエルを説得するようにアメリカ政府へ働きかけ、停戦が実現する。イスラエル側ではアリエル・シャロン国防相も準備不足だとして停戦を望んでいた。 シャロンは1982年1月にベイルートを極秘訪問、キリスト教勢力と会い、レバノンにイスラエルが軍事侵攻した際の段取りを決め、1月の終わりにはアメリカに送るメッセージについて話し合うためにペルシャ湾岸産油国の国防相が秘密裏に会合を開いた。イスラエルがレバノンへ軍事侵攻してPLOを破壊してもアラブ諸国は軍事行動をとらず、石油などでアメリカを制裁しないという合意を取り付けることが目的だった。 1982年6月に3名のパレスチナ人がイギリス駐在のイスラエル大使を暗殺しようとするが、この3名に暗殺を命令したのはアラファトと対立していたアブ・ニダル派だった。イスラエル人ジャーナリストのロネン・ベルグマンによると、暗殺を命令したのはイラクの情報機関を率いていたバルザン・アッティクリーティだという。(Ronen Bergman, “Rise and Kill First,” Random House, 2018) この出来事を口実にしてイスラエル軍はレバノンへ軍事侵攻するが、8月21日にアメリカの仲介で戦闘は終結、西側諸国が監視する中、パレスチナの戦闘員は9月1日までにベイルートから撤退。西側諸国は難民と難民キャンプの保護を保証していた。 撤退の直後、イスラエルのメナヘム・ベギン首相はレバノンのバシール・ジェマイエル大統領と会談し、イスラエルとの和平条約への署名を強く求めたが、イスラエルとの和平条約の締結を拒否し、残存するPLO戦闘員を掃討するための作戦を承認しなかった。 パレスチナ難民の安全を保証していた国際部隊は9月11日にベイルートから撤退、ジェマイエルは9月14日に暗殺され、その翌日にイスラエル軍は停戦協定を無視して西ベイルートへ侵攻するが、パレスチナ難民キャンプへはファランヘ党の部隊を入れることにしていた。 ファランヘ党を中心とする部隊は9月16日、イスラエル軍から提供されたジープに乗り、イスラエル軍から提供された武器を持ち、イスラエル軍の命令に従って行動、サブラとシャティーラの難民キャンプに侵攻し、大量虐殺を始めた。1万数千名の市民が殺されたとされている。その際、レイプなどの残虐行為も行われたという。 パレスチナ人を虐殺したのはレバノンのファランヘ党だが、そのファランヘ党にパレスチナ人を虐殺させたのはイスラエルであり、反イスラエル感情は世界に広がる。 要するに、イスラエルはパレスチナでの民族浄化を放棄することはなく、保護するという西側諸国の保証は信用できない。ハマスが武装解除に応じようとしないのは当然なのだ。トランプ政権もそうした展開を予想しているだろう。西側諸国にしろ、アラブ諸国にしろ、ロシアや中国にしろ、ハマスが武装解除に応じなければ、イスラエル軍がガザ占領を続けることを容認する口実ができる。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.20
モスクワのトロエクロフスコエ墓地で破壊工作グループがセルゲイ・ショイグ安全保障会議書記を暗殺しようと計画、それをFSB(連邦保安庁)が阻止したと11月14日に発表された。花瓶に偽装された爆弾を国外からの遠隔操作で作動させる仕掛けになっていたようだ。 爆弾を仕掛けようとしたグループには中央アジアからの不法移民、麻薬中毒で有罪判決を受けたロシア人ふたり、そして殺人と武器密売の容疑でロシアが指名手配していたキエフ在住の人物が含まれ、その容疑者とウクライナの情報機関GURの工作員が連絡を取り合っていたことが判明したとされているが、その背後からアメリカやイギリスの情報機関が指揮していたはずだ。 すでにNATOはロシアをテロで攻撃している。例えば、ロシア軍の放射線・化学・生物防衛部隊を率いていたイゴール・キリロフ中将は昨年12月17日にモスクワで暗殺された。電動スクーターに取り付けられた爆発物が遠隔操作で作動したという。ウクライナの情報機関が実行したとされているが、その背後にはアメリカやイギリスの情報機関がいる可能性は高い。 実は、2022年2月にロシア軍がウクライナを攻撃する前からCIAはロシア政府の高官を暗殺していた疑いが濃厚だ。バラク・オバマ政権は2014年2月にクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したが、その2年後の16年8月、マイク・モレルはチャーリー・ローズの番組に出演した際、司会者のローズに対し、ロシア人やイラン人に代償を払わせるべきだと語ってる。ローズからロシア人とイラン人を殺すという意味かと問われると、その通りだと答えたうえ、わからないようにと付け加えているのだ。モレルは2010年から13年までCIA副長官を務めた人物。退職した理由はヒラリー・クリントンを支援するためだった。 その発言の直後、2016年9月6日にモスクワでウラジミル・プーチン露大統領の運転手を40年にわたって務めた人物の運転する公用車に暴走車が衝突、その運転手は死亡。 さらにロシア政府の幹部が変死していく。例えば、2016年11月8日にニューヨークのロシア領事館で副領事の死体が発見され、12月19日にはトルコのアンカラでロシア大使が射殺されている。その翌日、12月20日にはロシア外務省ラテン・アメリカ局の幹部外交官が射殺され、12月29日にはKGB/FSBの元幹部の死体が自動車の中で発見された。2017年1月9日にはギリシャのアパートでロシア領事が死亡、1月26日にはインドでロシア大使が心臓発作で死亡、そして2月20日にはロシアの国連大使だったビタリー・チュルキンが心臓発作で急死した。モレル発言の前、2015年11月5日にはアメリカ政府が目の敵にしてきたRTの創設者がワシントンDCのホテルで死亡している。 テロを実行するのは軍事的に相手を倒すことが困難な集団、つまり弱者が採用する戦術だ。CIAやMI6には正規軍を動かす力はなく、破壊活動、つまりテロを使うしかない。ウクライナでは当初、ウクライナ軍を手先として利用していたが、兵士も兵器も枯渇してロシアに勝つことは不可能に近い状態になっている。少しでもロシアを疲弊させようとアメリカやヨーロッパの国々はウクライナ政府に対して対ロシア戦争の継続を命令してきたが、限界に達し、NATO軍が前面に出ざるをえなくなっている。 ロシア軍が掃討作戦を進めているポクロフスクではGURが特殊部隊をUH-60Aブラックホークで送り込み、救出しようとしたが、これは包囲された舞台の中にCIAの上級工作員、あるいはNATOの将校がいるからだと見られている。 また、キエフ州ボルィースピリにある特殊部隊の訓練基地をロシア軍はマッハ10という極超音速ミサイルのキンジャールで破壊したが、そこで訓練を受けていた傭兵の出身国はドイツ、フランス、イギリス、そしてポーランドだとされている。ロシア軍はスムイにある深さ50メートルという地下バンカーを極超音速巡航ミサイルのツィルコンで破壊したとも伝えられているが、そこにはイギリス軍の将軍とフランス軍の大佐、そしてウクライナのGUR(国防省情報総局)高官がいたという。キリーロ・ブダノフが公の席に現れるかどうかが注目されている。 西側ではNATOの正規軍が出てくると主張する人もいるが、アメリカ軍が出てくる可能性は小さく、ヨーロッパ諸国だけではロシア軍に蹴散らされることは必至だ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.19

【非核三原則の見直し】 高市早苗首相は11月11日、衆院予算委員会において、核を保有しない、製造しない、持ち込まないという非核3原則を堅持するかどうかを問われ、明言を避けた。見直しを検討しているという。 自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。アメリカの国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」は報告書の中で、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画について説明している。アメリカの計画に基づいて自衛隊は軍事施設を建設しているわけだ。 2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道があった。亜音速で飛行する核弾頭の搭載が可能な巡航ミサイルを日本政府は購入する意向を表明したのだ。 トマホークの射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制核攻撃できるということになる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。 そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。 高市首相は10月7日、衆院予算委員会において、台湾で軍事衝突があれば軍事介入する意思を示した。日本にしろ、アメリカにしろ、「ひとつの中国」という主張を受け入れているわけで、中国と台湾が軍事衝突したなら、それは「内戦」ということになる。その内戦に日本が軍事介入するということになる。これは少なからぬ人が指摘している。 中国との戦争を覚悟しているということになるが、ならば食糧やエネルギーをどのように確保する準備をしなければならないが、高市の行っていることは食糧生産を弱体化させ、エネルギーをどうするかも考えていない。中国に依存しているレアアースを輸入できなくなれば、日本経済は破綻するだろう。ウクライナでの対ロシア戦争で自爆したヨーロッパと同じだ。 リチャード・ニクソン大統領は1972年の中国との共同声明で、台湾海峡両岸のすべての中国人が中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張していることを認めると表明した。それが「ひとつの中国」にほかならない。2022年8月2日、アメリカの下院議長だったナンシー・ペロシが台湾を訪問してこの原則を揺さぶったが、それでも「ひとつの中国」という立場は維持している。日本も同じだ。その立場を変更するとなると、その前提で動いてきた政治や経済の関係も崩れる。【日本の核兵器開発】 1965年に訪米した佐藤栄作首相はリンドン・ジョンソン米大統領に対し、「個人的には中国が核兵器を持つならば、日本も核兵器を持つべきだと考える」と伝えたという。(NHK、「“核”を求めた日本」、2010年10月放送) 1977年に東海村の核燃料再処理工場(設計処理能力は年間210トン)が試運転に入るが、予想された通り、ジミー・カーター政権は日本が核武装を目指していると疑い、日米間で緊迫した場面があったという。 ところが、1981年にロナルド・レーガンが大統領に就任するとアメリカ政府の内部に日本の核武装計画を支援する動きが出てくる。東海再処理工場に付属する施設として1995年に着工されたRETF(リサイクル機器試験施設)はプルトニウムを分離/抽出するための施設だが、この施設にアメリカ政府は「機微な核技術」、つまり軍事技術が含まれていた。 調査ジャーナリストのジョセフ・トレントによると、東電福島第1原発が過酷事故を起こした当時、日本には約70トンの兵器級プルトニウムがあったという。自らが生産した可能性もあるが、外国から持ち込まれた可能性もある。トレントだけでなく、アメリカの情報機関は日本が核兵器を開発してきたと確信しているようだ。 第2次世界大戦後、日本を原子力を日本へ導入したのは中曽根康弘である。彼は内務省を辞め、1947年4月の衆議院議員選挙に出馬して当選し、河野一郎の配下に入り、児玉誉士夫と知り合った。 中曽根が権力の階段を登り始めるのは、1950年6月にスイスで開かれたMRA(道徳再武装運動)の世界大会へ出席してからだ。MRAはCIAとの関係が深い疑似宗教団体で、岸信介や三井高維も参加していた。そこで中曽根はヘンリー・キッシンジャーを含むCFR(外交問題評議会)のメンバーと知り合っている。 中曽根は1953年、キッシンジャーが責任者を務めていた「ハーバード国際セミナー」というサマー・スクールに参加しているが、このセミナーのスポンサーはロックフェラー財団やフォード財団で、CIAともつながっていた。 中曽根が国会に原子力予算を提出したのは1954年3月。修正を経て予算案は4月に可決された。その背景には、1953年12月にドワイト・アイゼンハワー米大統領が国連総会で行った「原子力の平和利用」という宣言がある。 1964年10月に中国が核爆発の実験に成功した3カ月後、佐藤栄作首相はワシントンDCを訪れ、リンドン・ジョンソン大統領と秘密会談を実施、もしアメリカが日本の核攻撃に対する安全保障を保証しないなら日本は核兵器を開発すると伝えた。それに対し、ジョンソン大統領は日本にアメリカの「核の傘」を差し出すと約束している。 1976年にアメリカ大統領となったジミー・カーターは潜水艦の原子炉技師を務めた経験を持つ人物で、プルトニウムと高濃縮ウランについて熟知していた。そのカーターは1978年に核拡散防止法を議会で可決させた。この法律はウランとプルトニウムの輸送すべてに議会の承認を得るように義務付け、日本からの多くの機密性の高い核技術の輸入を阻止するものだ。 当時、アメリカのエネルギー省では増殖炉計画が注目されていたが、カーター大統領はその流れにブレーキをかけた。その方針に反発したひとりが原子力規制委員会のリチャード・T・ケネディにほかならない。そのケネディを助けたアメリカ海軍大佐のジェームズ・アウアーは後にバンダービルト大学の終身教授に就任、同大学の米日研究協力センター所長にもなっている。 しかし、1980年にロナルド・レーガンが大統領に就任すると状況は一変し、ケネディたちを喜ばせることになる。そのケネディをレーガン大統領は核問題担当の右腕に据え、ケネディはカーター政権の政策の解体させていく。そして始められたのがクリンチリバー増殖炉計画。エネルギー省は1980年から87年にかけて、このプロジェクトに160億ドルを投入するが、議会は突如、計画を中止する。 世界的に見ても増殖炉計画は放棄されるのだが、日本は例外だった。その日本とアメリカの増殖炉計画を結びつける役割を果たした人物がリチャード・ケネディ。アメリカのエネルギー省と手を組んでいた日本の動力炉・核燃料開発事業団(後に、日本原子力研究開発機構へ再編された)はCIAに監視されていたが、動燃が使っていたシステムにはトラップドアが組み込まれていたとも言われている。 この計画に資金を提供することになった日本の電力業界の関係者は核兵器に関する技術を求め、兵器用プルトニウムを大量生産していたプルトニウム分離装置をリストに載せた。東海再処理工場に付属する施設として1995年に着工されたRETF(リサイクル機器試験施設)はプルトニウムを分離/抽出するための施設だが、この施設にアメリカ政府は「機微な核技術」、つまり軍事技術である遠心分離機が運び込まれている。 アメリカは日本へ技術を提供するだけでなく、日本へ限りなく核物質を輸出し、それを制限なくプルトニウムに再処理し、他国へ再移転する権利が与えられていた。イスラエルへも再移転できるということだろう。 それだけでなくイギリスやフランスの再処理業者が日本へ返却するプルトニウムも核兵器に使用できるほど純度が高く、アメリカ産の核物質はトン単位で日本へ輸送されているようだ。 高市の発言は重い。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.18

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーは2024年5月に大統領の任期が切れた後も大統領を自称している。そうしたことを可能にしているひとつの理由は彼がイギリスの対外情報機関MI-6を後ろ盾としているからだろうが、ウクライナがロシアに敗北していることを隠し切れなくなった現在、西側のメディアもゼレンスキーにとってマイナスになる情報を伝え始めている。そうした記事のひとつがイギリスの体制派メディアとして知られているスペクテイターに掲載された。 ウクライナ国家汚職対策局(NABU)の捜査により、ティムール・ミンディッチの所有物の中に、純金製のトイレや200ユーロ札が詰まった戸棚などが含まれていることが判明した。ミンディッチは家宅捜索の数時間前に国外へ脱出、イスラエルへ向かったとも言われている。 ミンディッチは不動産、肥料、銀行、ダイヤモンドの取り引きで富を築いているが、ゼレンスキーが率いるテレビ制作会社「クヴァルタル95」の共同所有者でもある。ふたりの関係は緊密だ。 アメリカ大使館が管理していたNABUとSAPO(専門汚職対策検察庁)をゼレンスキーは自分の配下に置くことに決め、自分が任命する検事総長に従属させる権限縮小法案を今年7月に可決させた。自分たちに対する汚職捜査を阻止するためだったと見られているが、この試みは国民の抗議活動を引き起こし、失敗に終わる。アメリカ政府からの圧力もあったはずだ。 NABUが注目していたのは、ロシアのミサイルやドローンからエネルギー施設を守る防空システムの建設を請け負った業者からの「キックバック」疑惑に焦点を当てていたようだ。これは1億ドル規模の汚職計画で、ウクライナの国営原子力発電会社エネルゴアトムを含む大手公営企業が関与していたとされている。 イギリス、ドイツ、フランスの政府や欧州委員会の幹部は今でもゼレンスキーを支援、これまで彼をコントロールしてきたイギリスのMI-6、ゼレンスキーに忠誠を誓っている治安機関のSBU(ウクライナ保安庁)を傘下に置いてきたCIAがどのように出るかが注目されている。 かつてロシア人を虐殺するべきだと主張していたユリア・ティモシェンコ元首相はウクライナが「主権を失いつつあり、権利を奪われた植民地」だと訴えたようだが、2004から05年にかけての「オレンジ革命」でビクトル・ヤヌコビッチ大統領の誕生を阻止された段階で主権は奪われていた。ティモシェンコ自身、ウクライナの主権を放棄した仲間のひとりだ。 西側諸国からウクライナへ流れ込んだ資金の相当部分をゼレンスキーたちが盗んだことは明確になっているが、資金を送った国々の「エリート層」へもキックバックされていた可能性もある。2013年11月から14年2月にかけてキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で展開されたクーデターの後、ウクライナはマネーロンダリングの舞台になったとも言われてきた。盗まれた資金はシティを中心とするオフショア市場のネットワークへ流れ込んでいる可能性が高い。 クーデター当時、アメリカの副大統領だったジョー・バイデンの息子であるハンターはウクライナのエネルギー企業ブリスマ・ホールディングスの取締役を務めたが、元国務省職員でFFO(自由オンライン財団)を創設したマイク・ベンツによると、ブリスマはCIAの作戦であり、ロシアのガスプロムを解体しようとしていたという。 ハンターはNDI(ナショナル民主主義研究所)の所長諮問委員会メンバーを務めていたが、この団体はIRI(国際共和研究所)、CIPE(国際私企業センター)、国際労働連帯アメリカン・センターなどと同じように、NED(ナショナル民主主義基金)の資金、つまりCIAの資金を流す役目を負っている。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.17

【日本はアメリカの従属国】 日本がアメリカの植民地なのかが国会で問題になった。高市早苗首相は日本を主権国家だと主張したが、日本がアメリカの支配層に従属していることは言うまでもない。 アメリカの支配層の中核には金融資本が存在、その下に日本の外務、軍事、治安のトライアングルが存在している。その支配構造の基盤が「日米安全保障体制」にほかならない。財務省の打ち出す政策もそこから出てくる。自衛隊がアメリカに刃向かう恐れがなくなった現在、アメリカは日本国憲法の第9条を必要としなくなったどころか邪魔な存在になった。 現在の日本は単にアメリカの従属国ということだけでなく、アメリカの戦争マシーンに組み込まれていることは本ブログで繰り返し書いてきた。ソ連が1991年12月に消滅した直後、92年2月にアメリカの国防総省内でDPG(国防計画指針)の草案、いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」が作成された。 そのドクトリンの作成で中心的な役割を果たしたポール・ウォルフォウィッツはネオコンの大物だが、そのネオコンはソ連の消滅でアメリカが唯一の超大国になったと確信、世界制覇戦争を始めようとする。そして作成されたのがDPG草案だ。 その中にはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合して民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。アメリカにとっての平和地帯とは、アメリカが支配し、誰も逆らわないという地域を意味する。要するにドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。 また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。 このドクトリンが作成された時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュだが、その政権の中にもネオコンの世界征服プロジェクトが危険だと考える人もいたようで、有力メディアにリークされた。日本の政治家や官僚の中にも危険だと考える人がいただろう。 1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗するが、94年4月に崩壊。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られている。 日本側の動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令した。そのレポートには10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われている。 沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になったようだ。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。 この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。この1995年以降、日本はアメリカの戦争マシーンへ急ピッチで組み込まれていく。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後、ウォルフォウィッツ・ドクトンに従ってアメリカは世界制覇戦争に乗り出すのだが、日本もそれ追随している。 国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っている。自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。 専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていたが、すでにそうした配慮は放棄されている。 2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。 トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。 そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。 日本は中国やロシアと戦争する準備を進めてきたが、高市早苗首相はそうした動きを加速させようとしている。【明治維新から日本は米英の影響下にあった】 ところで、第2次世界大戦で敗北する前から米英の金融資本は日本に大きな影響力を持っていた。 本ブログでは繰り返し書いてきたように、関東大震災以降、アメリカの巨大金融資本の影響下に入った。復興資金調達の結果、日本の政治や経済をアメリカの巨大金融資本JPモルガンが動かすようになり、治安維持法によって思想弾圧が強化され、「満蒙は日本の生命線」と言われるようになった。その構図を象徴する存在が1932年から駐日大使を務めたジョセフ・グルーだ。 その年にアメリカでは大統領選挙があり、ウォール街が支援していたハーバート・フーバーが落選、ニューディール派のフランクリン・ルーズベルトが勝利する。1933年から34年にかけてJPモルガンを中心とするウォール街の大物たちはニューディール派政権を倒し、ファシズム体制を樹立すためにクーデターを計画したが、スメドリー・バトラー退役海兵隊少将によって阻止された。 グルーはアメリカの金融資本に属す人物である。彼のいとこ、ジェーンはジョン・ピアポント・モルガン・ジュニア、つまりJPモルガンの総帥の妻なのだ。しかもグルーの妻、アリスの曾祖父にあたるオリバー・ペリーは海軍の伝説的な軍人で、その弟は「黒船」で有名なマシュー・ペリーにほかならない。こうした背景もあり、グルーは天皇周辺に人脈を持っていた。 グルーが親しくしていた日本人には松平恒雄宮内大臣、徳川宗家の当主だった徳川家達公爵、昭和天皇の弟で松平恒雄の長女と結婚していた秩父宮雍仁親王、近衛文麿公爵、貴族院の樺山愛輔伯爵、当時はイタリア大使だった吉田茂、吉田の義父にあたる牧野伸顕伯爵、元外相の幣原喜重郎男爵らが含まれていたが、最も親しかったのは松岡洋右だと言われている。(ハワード・B・ショーンバーガー著、宮崎章訳『占領 1945~1952』時事通信社、1994年)グルーは1942年6月に離日する直前、商工大臣だった岸信介からゴルフを誘われている。(Tim Weiner, "Legacy of Ashes," Doubledy, 2007) ジョン・W・ダワーによると、「上流階級の一定の『穏健な』人々に対して、個人的な敬意と好意を抱いていることは決して隠そうとしなかった」のだが、日本人一般は人間扱いしていなかった。日本を「全員が女王蜂(実生活では天皇)に使える騒がしいミツバチの巣」に例えていたという。(ジョン・W・ダワー著、猿谷要監修、斎藤元一訳、平凡社、2001年) 豊下楢彦が指摘しているように、第2次世界大戦後、日本はダグラス・マッカーサーと吉田茂ではなく、ウォール街と天皇を両輪として動き始めた。ドイツが降伏する直前、アメリカではフランクリン・ルーズベルト大統領が急死、ニューディール派の力は急速に衰え、ウォール街が実権を奪い返していた。 そうした中、ジャパン・ロビーと呼ばれるグループが戦後日本の基盤を築き上げていく。そのグループの中核的な団体が1948年6月にワシントンDCで創設されたACJ(アメリカ対日協議会)。設立メンバーの中心的な存在はジョセフ・グルー。そのほか、ニューズウィーク誌の外信部長だったハリー・カーン、同誌東京支局長だったコンプトン・パケナム、トーマス・ハート提督、ウィリアム・プラット提督、ウィリアムキャッスル元国務次官、弁護士のジェームズ・カウフマン、ユージン・ドーマン、ジョセフ・バレンタインたちが含まれ、その支援グループにはジョージ・マーシャル国務長官、ロバート・ラベット国務次官、ジェームズ・フォレスタル国防長官、陸軍省のケネス・ロイヤル長官とウィリアム・ドレーパー次官、ジョン・マックロイ、フランク・ウィズナーなどが名を連ねている。 JPモルガンの前はイギリスの金融資本と関係が深かった。例えば、日露戦争で日本に戦費を用立てたのはロスチャイルド系のクーン・ローブを経営していたジェイコブ・シッフ。日本に対して約2億ドルを融資、その際に日銀副総裁だった高橋是清はシッフと親しくなっている。 この戦争について、セオドア・ルーズベルト米大統領は日本が自分たちのために戦っていると語り、日本政府の使節としてアメリカにいた金子堅太郎はアングロ・サクソンの価値観を支持するために日本はロシアと戦ったと説明していた。1910年に日本が韓国を併合した際、アメリカが容認した理由はこの辺にあるだろう。(James Bradley, “The China Mirage,” Little, Brown and Company, 2015) 明治維新の背後でもイギリスの怪しげな人脈が蠢いていた。アヘン戦争で清(中国)に勝利したとされているイギリスだが、内陸部を支配することはできなかった。そこで、サッスーン家と同じようにアヘン取引で大儲けしたジャーディン・マセソンは日本に目をつける。 同社は1859年にふたりのエージェントを日本へ送り込んできた。ひとりは長崎へ渡ったトーマス・グラバーであり、もうひとりは横浜のへ送り込まれてあウィリアム・ケズウィック。歴史物語ではグラバーが有名だが、大物はケズウィックだ。母方の祖母は同社を創設したひとりであるウィリアム・ジャーディンの姉なのである。 グラバーとケズウィックが来日した1859年にイギリスのラザフォード・オールコック駐日総領事は長州から5名の若者をイギリスへ留学させることを決め、井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)が選ばれる。この若者は1863年にロンドンへ向かうが、この時に船の手配をしたのがジャーディン・マセソンだ。 薩摩も1865年に留学生15名をイギリスへ派遣しているが、この時に船を手配したのはグラバー。その留学生の中には五代友厚、森有礼、長沢鼎も含まれていた。年少の長沢以外はロンドン大学へ入学した。 その後、薩摩からの送金が途絶えたことから9名の留学生は帰国したが、長沢や森を含む6名はアメリカへ渡り、ニューヨークに拠点があった心霊主義を信奉するキリスト教系団体「新生兄弟」へ入る。イギリスでこのカルトに取り込まれていたのだろう。 何人かはすぐに離脱したが、長沢と森は残る。その森も1868年に帰国したが、長沢ひとりは残った。のちに長沢は教団を率いることになるが、1890年代前半に解散している。その一方、ワインの醸造所を建設してビジネスは成功、「ワイン王」とも呼ばれている。 森は文部大臣に就任、「教育勅語」を作るなど天皇カルト体制の精神的な基盤を作るが、その一方、森の下、日本へ迎えられたルーサー・ホワイティング・メーションを中心に唱歌が作られる。安田寛によると、その目的は日本人が讃美歌を歌えるようにすることにあった。(『唱歌と十字架』音楽之友社、1993年) 日本の中国侵略は1872年に琉球を併合した時から始まる。「維新」で誕生した明治体制は琉球併合の後、1874年に台湾へ派兵、1875年に江華島へ軍艦を派遣、そして1894年の日清戦争、1904年の日露戦争へと進んだが、こうした侵略はアメリカやイギリスの外交官に煽られてのことだった。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.16
ウクライナの情報機関がイギリスの対外情報機関MI6とオランダに拠点を置く「報道機関」のべリングキャットから支援を受けてキンジャール極超音速ミサイルを搭載したロシアのミグ31戦闘機を盗もうとしたとロシアの治安機関FSB(連邦保安庁)は11月11日に発表した。べリングキャットに所属しているとしていたフリスト・グロゼフはイギリスの情報機関員だという。 FSBによると、ミグ31のパイロットは昨年秋、ベリングキャットの研究員で、セルゲイ・ルゴフスキーと名乗る男から接触を受け、300万ドルの報酬とイタリアのパスポートを提示された。盗みだした戦闘機に黒海上空を飛行させ、ルーマニアのコンスタンツァ市近郊にあるNATO空軍基地で偽旗作戦を実施、その防空システムで撃墜されるかオデッサの飛行場に着陸させる計画だったようだ。 この作戦は11月4日に実行される予定だったというが、イギリスとしては、この作戦でNATO軍とロシア軍を軍事衝突させようとしたと言われている。 それに対し、ロシア軍は11月8日、スムイ、チェルニーヒウ、ニコラエフ、ポルタバ、ドネプロペトロフスク、ハリコフ、キエフに対して大規模なミサイル攻撃を実施した。ミサイルの中には多くのキンジャールが含まれていたようだ。 イギリスとしては、この作戦でNATO軍とロシア軍を軍事衝突させようとしたと言われているが、それに対し、ロシア軍は11月10日、キエフに近いブロヴァリーにあるGUR(国防省情報総局)の主要な電子情報センターとスタロコスティアンティニフ飛行場をキンジャールで攻撃したと報道されている。この飛行場は、ウクライナへ新たに供与されたF-16戦闘機が駐留していた。 ふたつの幹線道路が通り、ウクライナ軍の補給にとって重要な場所であるポクロフスクをロシア軍は制圧、NATO/ウクライナ側の兵站線を抑え、進撃のスピードが増すと見られている。しかも包囲された地域にウクライナ軍だけでなく、NATO軍の将校やCIAの上級エージェントも閉じ込められていると見られている。GURやCIAが必死に包囲網を突破して中の人間を救出しようとしているのはそのためだ。 すでにウクライナ側はNATO各国から特殊部隊や情報機関員を入れてロシアに対するテロ攻撃を繰り返してきたが、それも限界に来ているのだろう。対ロシア戦争の中心にいると見られているイギリスはNATOの正規軍を引き込みたいのだろうが、ロシア軍に勝てるとは思えない。アメリカはすでにウクライナから距離を置いている。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.15
このブログは読者の皆様の力で支えられています。ブログを存続させるため、カンパ/寄付をよろしくお願い申し上げます。【振込先】巣鴨信用金庫店番号:002(大塚支店)預金種目:普通口座番号:0002105口座名:櫻井春彦 ドナルド・トランプ米大統領とウラジミル・プーチン露大統領が8月15日にアラスカで会談した際、平和への扉が開かれるのではないかと期待した人も少なくなかったでしょうが、そうした展開にはなりませんでした。両者の現状認識に埋めることのできない隔たりがあることが判明したからです。 そうした隔たりを生じさせた原因はトランプ大統領の現状認識が根本的に間違っているからでしょう。これもネオコンが作り出している幻影に操られているようです。 その結果、ウクライナでの戦闘でロシアは疲弊しているとトランプは信じ、少し脅せばロシアが交渉に応じると考えていたようですが、本ブログでも繰り返し書いてきたように、軍事的にも経済的にもロシアは疲弊していません。 プーチンはこれまでの条件を維持、ウクライナの非軍事化、非ナチ化、中立化、西側諸国が凍結したロシア資産の返還、領土の「現実」を認めるように求めたが、トランプはウクライナの戦況を正確には知らないようでした。ネオコンたちの御伽話を信じていたのでしょうが、トランプがその御伽話の世界から抜け出そうとしたなら、さまざまな形で攻撃されるでしょう。 プーチン大統領は自軍兵士の死傷者数を最小限に抑えるよう軍に指示しているようで、軍の進撃が遅いのもそのためです。ロシア軍がウクライナに対する攻撃を始めた2022年2月当時、その作戦に参加したのは12万5000人。約28万人と言われる地上軍の一部でした。推定13万人と言われていたウクライナ軍を下回っていたのです。 しかも、2022年までの8年間にNATOはマリウポリ、マリーインカ、アブディフカ、ソレダルに地下要塞を含む要塞線をドンバスの周辺に築き、ロシア軍との戦争に備えていました。 そうした状況でウクライナ軍と戦うため、ロシア軍が必要とする兵力はウクライナ側の4倍。つまりロシア側の兵力は決定的に足りません。ロシア軍は戦争の準備ができていないと西側の専門家も考えていたようです。それでもウクライナを攻撃しなければならない事情があったことは本ブログでも書いてきました。そこでミサイルやドローンを駆使、慎重に攻めているのです。 経済面でもロシアは疲弊していません。2022年当時から西側ではロシア経済が破綻、店頭から商品が消えているかのように宣伝していましたが、商品棚に商品が溢れている様子を示す映像を西側の人びとがインターネット上に発信していました。ロシアで仕事をしていた筆者の知人も生活に変化はないと語っていました。昨年2月にタッカー・カールソンはプーチン大統領をモスクワでインタビューしましたが、その際、モスクワの生活をレポート、荒廃したアメリカの都市と対比させていました。そうした映像を見て、アメリカ人の中には「古き良き時代」を思い出した人もいるようです。 ロシアのGDPのうち石油輸出が占める割合は15%で、石油取引に対する欧米諸国の「制裁」は限定的で、大きなダメージを受けるのは欧米諸国自身です。しかも「制裁」のおかげでロシアの産業が急成長、資源が豊富だということもあり、自給自足できます。つまり、他国への依存度が高い国とは違い、経済戦争に対しても強いということです。 ロシアは軍事的にも経済的にも脆弱だという前提で始めた欧米諸国の対ロシア戦争は失敗、自分たちを傷つけ、崩壊のスピードを増してしまいました。すでにNATOが築いた要塞線は突破され、軍事拠点は次々に陥落、武器弾薬は枯渇し、兵士不足も深刻です。 ソ連消滅後、現在のシステムが限界に達していると認識していた西側の一部支配層は新たなシステムを構築するため、現システムを崩壊させようとしていたようですが、現在、主導権を握っているのはロシアや中国にほかなりません。新たなシステムを支配するためにはロシアや中国を征服しなければならないのですが、それは困難です。 今後、世界の支配構造は大きく変化するでしょう。その世界を生き抜くためには現状を正確に認識する必要があります。本ブログがその一助になればと考えています。櫻井 春彦【振込先】巣鴨信用金庫店番号:002(大塚支店)預金種目:普通口座番号:0002105口座名:櫻井春彦
2025.11.14
ウクライナの国家汚職対策局(NABU)は11月11日、ウォロディミル・ゼレンスキーの側近として知られているティムール・ミンディッチが1億ドルを超す汚職を計画した容疑で起訴されたという。ミンディッチはゼレンスキーが設立した制作会社「クバルタル95」の共同所有者。彼の自宅などが家宅捜索されたが、本人は事前に何者かが知らせたようで、逃亡していた。逃亡先はイスラエルだと見られている。2021年から2025年までエネルギー大臣を務めたヘルマン・ハルシチェンコ法務大臣も捜索を受けたと伝えられている。 家宅捜索でアメリカの連邦準備銀行(アトランタとカンザスシティ)の包装が開封されていない状態の紙幣が押収されていることから、アメリカからウクライナへ届いた直後、銀行へ運ばれる前に盗まれた可能性がある。ゼレンスキーのライバルであるペトロ・ポロシェンコ元大統領が率いるウクライナ政党「欧州連帯」は政府解任手続きを開始すると発表した。 ウクライナを舞台とした戦争でウクライナ軍とNATO軍はロシア軍に敗北、ゼレンスキーやその背後にいるイギリスの対外情報機関MI6は追い詰められ、キエフは混乱しているようだ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.13
【不快な質問?】 イタリアの通信社ノバは特派員のガブリエーレ・ヌンツィアーティを解雇した。10月13日、欧州委員会のポーラ・ピニョ首席報道官に対して「あなたはロシアがウクライナの復興費用を負担すべきだと繰り返し述べている」と指摘した上で、「ガザ地区の民間インフラをほぼ全て破壊したイスラエルはガザ復興のための費用を負担すべきだと思うか」と質問したが、これを「不快な質問」と感じた人がいたようだ。ノバの広報を担当するフランチェスコ・チビタノバによると、「ロシアは挑発を受けずに主権国家を侵略したのに対し、イスラエルは攻撃に対応したのだと弁明している。【ウクライナ】 アメリカの場合、外交や軍事に関する政策を決めてきたのはシオニストである。ジョージ・W・ブッシュ政権、バラク・オバマ政権、ドナルド・トランプ政権、あるいはジョー・バイデン政権ではネオコンに支配されていると言われているが、そのネオコンはシオニストの一派だ。つまり、政権がかわっても外交や軍事に関する政策は変わらない。 1991年12月にソ連は消滅したが、ウクライナの問題はその年の1月から始まっている。クリミアで住民投票が実施され、クリミア自治ソビエト社会主義共和国の再建が94.3%の賛成多数で承認されたのだ。ウクライナの最高会議で独立宣言法が採択されたのは、その半年後のことである。 西側諸国はウクライナの独立を認めたものの、クリミアの住民投票は無視。キエフ政権は特殊部隊を派遣してクリミア大統領だったユーリ・メシュコフを解任、クリミアの支配権を暴力的に取り戻した。 1994年3月27日にはドンバス(ドネツクとルガンスク)でこの地域におけるロシア語の地位、ウクライナの国家構造などを問う住民投票が実施され、キエフ政権にとって好ましくない結果が出た。 ウクライナの東部や南部に住む人びとの意思はソ連時代から明確で、一貫している。ビクトル・ヤヌコビッチを排除するため、2004から05年にかけて実施された「オレンジ革命」、そして2013年11月から14年2月にかけてのクーデターに東部や南部の人びとが反発、内戦に突入したのは必然だった。 ソ連消滅後、西側諸国はミハイル・ゴルバチョフ政権との合意を守らずにNATOを東へ拡大させるが、こうしたネオコン主導の政策は危険だと前の世代の「タカ派」は警告していた。 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、リチャード・ニクソン元米大統領は1994年3月21日にビル・クリントン大統領へ手紙を出し、その中でウクライナの内部状況が非常に危険だと警告。ウクライナで戦闘が勃発すれば、ボスニア・ヘルツェゴビナでの戦争は「ガーデンパーティー」のように感じられるとしている。 「封じ込め政策」で有名なジョージ・ケナンは1998年、NATOが拡大について「これは新たな冷戦の始まり」であり、悲劇的な過ちだと思うとしている。 この政策を決めたアメリカ上院での議論について表面的で無知だと指摘、「ロシアが西ヨーロッパへの攻撃を待ち焦がれている国であるという記述には腹立たしい」とした上で、ロシアから悪い反応が出ることも見通し、NATOがロシア国境までの拡大すれば新たな冷戦を引き起こされ、ポーランド、ハンガリー、チェコで拡大が止まれば、そこで新たな分断線が引かれるとも予測していた。ケナン氏はインタビューの最後で「これほどめちゃくちゃになるのを見るのは辛い」と語ったという。 このふたりが警告した後、ビル・クリントン政権はNATOを利用して1999年3月から5月にかけてユーゴスラビアを空爆している。この攻撃で主導的な役割を果たしたのは国務長官のマデリーン・オルブライト。この時に中国大使館もB2爆撃機で空爆されているが、その建物を目標に含めたのはCIAだ。 アメリカでユーゴスラビアを解体する工作は始まったのは1984年のこと。ロナルド・レーガン大統領がNSDD133(ユーゴスラビアに対する米国の政策)に署名、東ヨーロッパ諸国のコミュニスト体制を「静かな革命」で倒そうという計画が始動したのだ。1983年は大韓航空007便が領空を侵犯してカムチャツカからサハリンまで飛行、撃墜されたとされている。その年の秋には核戦争の寸前まで行った。それほど緊迫した時期だったのである。 ヘンリー・キッシンジャーもネオコンに批判的だった。彼は2014年3月5日付けワシントン・ポスト紙でウクライナとロシアの関係について論じている。 ロシアの歴史はキエフ・ルーシで始まり、宗教もそこから広がり、ウクライナは何世紀にもわたってロシアの一部であり、その前から両国の歴史は複雑に絡み合っていたと指摘、ロシアにとってウクライナが単なる外国ではないとしている。特に東部と南部はロシアとの繋がりが強いのだが、その地域も含め、ウクライナと呼ばれる地域全てをNATO諸国は自分たちの支配下に置こうとしたのだ。 キッシンジャーも指摘しているように、人口の60%がロシア人であるクリミアは1954年、ウクライナ生まれのニキータ・フルシチョフがロシアとコサックの協定300周年記念の一環としてウクライナへ与えた場所だ。勿論、住民の意思は無視された。 クリミアだけでなく、ウクライナの東部と南部はソ連時代にロシアから割譲された。宗教はロシア正教でロシア語を話し、文化はロシア的。必然的に住民の大半はロシアに親近感を抱いていた。カトリック教徒が多く、ウクライナ語を話す西部とは異質だ。そうした国で一方が他方を支配しようとすれば内戦や分裂につながるとキッシンジャーは主張していたが、それが現実になった。 そうした警告を無視してオバマ政権は2014年2月にウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を暴力的なクーデターで倒した。そのクーデターで最前線にいたのがネオ・ナチだ。ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部の人びとはクーデターを拒否、クリミアはロシアとの統合への道を進み、東部のドンバス(ドネツク、ルガンスク)では武装抵抗が始まった。クーデター後、軍や治安機関では約7割が新体制を拒否して離脱したと言われている。 そこで西側が仕掛けたのが「停戦合意」、つまり2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」だ。NATO諸国は8年かけてネオ・ナチ体制の戦力を増強した。兵器を供与、兵士を育成、そして地下要塞を核とする要塞線をドンバスの周辺に築いた。 クーデター政権は2022年に入るとドンバスに対する攻撃を強め始めた。大規模な軍事作戦が始まると噂される中、ロシア軍が先手を打って2月24日にウクライナ軍部隊や軍事基地、あるいは生物兵器の研究開発施設を攻撃しはじめた。 ロシア外務省によると、その時にロシア軍が回収したウクライナ側の機密文書には、ウクライナ国家親衛隊のニコライ・バラン司令官が署名した2022年1月22日付秘密命令が含まれていた。これにはドンバスにおける合同作戦に向けた部隊の準備内容が詳述されていた。 ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ少将によると、「この文書は、国家親衛隊第4作戦旅団大隊戦術集団の組織と人員構成、包括的支援の組織、そしてウクライナ第80独立空挺旅団への再配置を承認するもの」で、この部隊は2016年からアメリカとイギリスの教官によって訓練を受けていたという。 つまり、「ロシアは挑発を受けずに主権国家を侵略した」とは言えない。【ガザ】 アメリカの外交や軍事をコントロールしているシオニストはパレスチナに「ユダヤ人の国」を建設することを目標にしている。シオニズムの信奉者だとも言える。その信仰が登場してくるのはエリザベス1世の時代(1593年から1603年)。当時のイギリスは海賊行為で富を蓄積していた。 その時代、イングランドの支配層の間で、アングロ-サクソン-ケルトは「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信仰が現れる。人類が死滅する最後の数日間にすべてを包括する大英帝国が世界を支配すると予言されているという妄想が広まったのだ。 イギリスや西側世界にシオニズムを広めた人物としてブリティッシュ外国聖書協会の第3代会長を務めた反カトリック派のアントニー・アシュリー-クーパー(シャフツバリー伯爵)が知られているが、17世紀初頭にイギリス王として君臨したジェームズ1世も自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。 その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されたが、その革命で中心的な役割を果たしたオリヴァー・クロムウェルをはじめとするピューリタンも「イスラエルの失われた十支族」話を信じていたとされている。クルムウェルはユダヤ人をイングランドへ入れることを許可したが、稼ぎ方を海賊行為から商取引へ切り替えるためだった灯されている。ユダヤ人は商取引や金貸しに長けていた。 エリザベス1世が統治していた時代、イングランドはアイルランドを軍事侵略、先住民を追放し、イングランドやスコットランドから入植者をアイルランドのアルスター地方へ移住させた。 ピューリタン革命の時代にもアイルランドで先住民を虐殺している。クロムウェルは革命で仲間だったはずの水平派を弾圧した後にアイルランドへ軍事侵攻して住民を虐殺したのだ。 侵攻前の1641年には147万人だったアイルランドの人口は侵攻後の52年に62万人へ減少。50万人以上が殺され、残りは「年季奉公」や「召使い」、事実上の奴隷としてアメリカなどに売られたと言われている。 ダブリン出身でプリマス・ブレザレンを創設したジョン・ネルソン・ダービー牧師は1830年代から宗教活動を始めたが、彼はキリストの千年王国がすべての文明を一掃し、救われるのは選ばれた少数のグループだけだと考えていた。 世界の邪悪な力はエゼキエル書で特定されている「ゴグ」であり、そのゴグはロシアを指すと主張、ユダヤ人がイスラエルに戻って神殿を再建したときに終末を迎えるとしている。つまりキリストが再臨するということ。シオニストにとって対ロシア戦争とパレスチナ制圧は一体のことである。 19世紀のイギリス政界では反ロシアで有名なヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)が大きな影響力を持っていた。彼は戦時大臣、外務大臣、内務大臣を歴任した後、1855年2月から58年2月まで、そして59年6月から65年10月まで首相を務めている。ビクトリア女王にアヘン戦争を指示したのもパーマストン卿だ。 このように始まったシオニズムは19世紀に帝国主義と一体化し、パレスチナ侵略が具体化してくる。イギリス政府は1838年、エルサレムに領事館を建設し、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査、イギリスの首相を務めていたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収。そして1917年11月、アーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ書簡を出してイスラエル建国への道を切り開く。いわゆる「バルフォア宣言」だ。 シオニズムを信奉する人びとはパレスチナの先住民であるアラブの人びとを虐殺してきた。ガザにおける現在の大量虐殺はそうした流れの中で引き起こされたのであり、パレスチナ人はそうした侵略者と戦い続けてきた。 今回のガザでの大量虐殺に限っても、始まりは2023年4月1日にイスラエルの警察官がイスラム世界で第3番目の聖地だというアル・アクサ・モスクの入口でパレスチナ人男性を射殺したところから始まっている。イスラエル政府が挑発したのだ。 4月5日にはイスラエルの警官隊がそのモスクへ突入、ユダヤ教の祭りであるヨム・キプール(贖罪の日/今年は9月24日から25日)の前夜にはイスラエル軍に守られた約400人のユダヤ人が同じモスクを襲撃している。そしてユダヤ教の「仮庵の祭り」(今年は9月29日から10月6日)に合わせ、10月3日にはイスラエル軍に保護されながら832人のイスラエル人が同じモスクへ侵入した。 そして2023年10月7日、ハマス(イスラム抵抗運動)を中心とするパレスチナの武装グループがイスラエルを奇襲攻撃する。この攻撃では約1400名(後に1200名へ訂正)のイスラエル人が死亡したとされ、その責任はハマスにあると宣伝された。 しかし、イスラエルのハーレツ紙によると、イスラエル軍は侵入した武装グループを壊滅させるため、占拠された建物を人質もろとも砲撃、あるいは戦闘ヘリからの攻撃で破壊。殺されたイスラエル人の大半はイスラエル軍によるものだと現地では言われていた。イスラエル軍は自国民を殺害するように命令されていたというのだ。いわゆる「ハンニバル指令」である。ハマスの残虐さを印象付ける作り話も流された。 こうしたイスラエルでの報道を無視して欧米諸国の「エリート」はパレスチナ人の抵抗を批判している。 今年1月9日、医学雑誌「ランセット」は2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数の推計値が6万4260人に達し、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表した。 「ハーバード大学学長およびフェロー」のウェブサイト「データバース」に掲載されたヤコブ・ガルブの報告書では、2023年10月7日にイスラエル軍とハマスの戦闘が始まる前には約222万7000人だったガザの人口が現在は推定185万人。つまり37万7000人が行方不明だ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.13

未成年の少女を性的に搾取/虐待することを可能にするネットワークを構築、維持したとして逮捕されたジェフリー・エプスタインは2019年8月10日にニューヨークのメトロポリタン矯正センターの独房で死亡した。自殺とされているが、他殺説は消えていない。 そのエプスタインの顧客リスト、いわゆるエプスタイン・ファイルを公表することが期待されていたドナルド・トランプ政権だが、その期待は裏切られた。トランプ大統領やカシュ・パテルFBI長官はファイルの公開を拒否したのだ。それに対し、トランプ政権を支持していたMAGA(アメリカ第一主義)の一部から批判の声が上がっている。 そうした人びとをパテル長官は非難し、彼の恋人であるアレクシス・ウィルキンスは彼女をイスラエルの情報機関モサドのハニーポットだと揶揄したポッドキャスターを相手取り、500万ドルの訴訟を起こすと伝えられている。 ウィルキンスはカントリー・ミュージシャン。1999年11月にアメリカのマサチューセッツ州ボストンで生まれ、幼少期をイギリスとスイスで過ごし、その後、アーカンソー州フェイエットビルに移住、そしてテネシー州ナッシュビルへ移り住んだ。 パテルとウィルキンスを批判している人びとの中には彼女が働いている「プラガーU」なる非営利団体に注目した。この団体は資本主義的で保守的な視点を広めるためのコンテンツを作成している。 同社を創設したひとりのデニス・プラガーはシオニスト。現在、CEOを務めているマリッサ・ストリートはアメリカからイスラエルへ移住した人物で、シオニストの活動家。それだけでなく、彼女はイスラエルの電子情報機関「8200部隊(ISNU)」に所属していた。 この部隊はアメリカのNSAやイギリスのGCHQと緊密な関係にあり、各国政府や国際機関の要人も電子的に監視、弱みを握り、操る材料を入手してきた。携帯電話の情報、例えば通話、電子メール、写真、GPSデータ、アプリ関係の情報などを盗み出せる「ペガサス」というソフトウェアを開発したNSOグループはイスラエルを拠点とする企業だが、その創設者も8200部隊の「出身」だ。 8200部隊の「出身者」が設立した企業は少なくないが、いずれも情報活動の「フロント企業」だと見られている。そうした企業を買収しているグーグルもイスラエル、アメリカ、イギリスの情報機関と緊密な関係にあるわけだが、この3カ国の情報機関はパレスチナにおける大量殺戮の共犯者だとも言える。勿論、共犯者にはこの3カ国を含む欧米諸国の政府も含まれる。 アメリカとイギリスの電子情報機関は「UKUSA」という連合体を編成、情報活動で協力している。UKUSAはアメリカのNSAとイギリスのGCHQが中心だが、その配下に同じアングロ・サクソン系国のカナダにはCSE、オーストラリアにはASD、ニュージーランドにはGCSBが存在している。このうちCSE、ASD、GCSBはNSAやGCHQの下部機関にすぐないのだが、8200部隊はNSAとGCHQと同格だ。 8200部隊の「元隊員」は少なからぬ「民間企業」を創設しているが、いずれもイスラエルの情報機関と連携している。つまり、そうした「民間企業」は一種のフロント企業だ。アメリカ系のグーグル、マイクロソフト、フェイスブックなどとも8200部隊は結びつき、グーグルとはシステムを共同開発している。 こうした電子情報機関は各国政府、国際機関、巨大企業の動きを監視するほか、要人たちの弱みを握ることも目的にしている。未成年の少女を使い、情報を入手するほかスキャンダルを握って操る仕組みもイスラエルは築いている。エプスタインの場合と同じ仕組みの組織はいくつも存在しているはず。そのネットワークは巨大だ。【参考】「チャーリー・カーク射殺事件の謎が深まる中、妻の過去が注目されている」(櫻井ジャーナル)**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.12

危機的な状態に陥った人びとを救うために大活躍する「高市」を主人公とするNetflix映画「新幹線大爆破」がヒットしたようだ。主人公で車掌の高市和也を演じたのは草彅剛、高市と並ぶ作品の中心的な存在である運転士の松本千花をのん(能年玲奈)が演じた。この作品の宣伝などで「高市」という名前を嫌というほど聞かされた印象がある。 ところで、同じ高市という苗字の人物が今年10月21日から日本の総理大臣を務めている。右翼キャラの人物で、好戦的なパフォーマンスをしてきた。その高市は10月7日に衆院予算委員会において、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と発言した。 これを聞いて驚いた人は少なくないだろう。最も大きな軍艦で、強力な艦砲が装備された「戦艦」だが、すでに時代遅れで、運用している国はないとされている。軍艦の中でまだ使われている航空母艦も時代遅れで、相手国を威圧する程度のことしかできない。戦闘になれば、対艦ミサイルで簡単に撃沈されてしまう。イージス・システムを搭載した駆逐艦は使われているが、これも対艦ミサイルには脆弱。すでに海軍は潜水艦が主力になっている。高市首相のイメージは第2次世界大戦で止まっているのか、あるいは「宇宙戦艦ヤマト」が刷り込まれているかもしれない。 中国が台湾に対する軍事行動を起こすとするならば、最も可能性が高いケースはアメリカ軍が中国への攻撃を念頭に基地を建設し、軍隊を入れる場合だろう。台湾は中国を攻撃するための「不沈空母」だと考える人もいる。 中曽根康弘は総理大臣に就任して間もない1983年1月にアメリカを訪問、その際にワシントン・ポスト紙の編集者や記者たちと朝食をとっている。その際に彼はソ連のバックファイア爆撃機の侵入を防ぐため、日本は「不沈空母」になるべきだと語ったと報道された。 中曽根はそれをすぐに否定するが、インタビューは録音されていた。そこで、「不沈空母」ではなくロシア機を阻止する「大きな空母」だと言い換えたが、このふたつの表現に本質的な差はない。日本列島はアメリカ軍がロシア軍を攻撃するための軍事拠点だと中曽根は認めたのである。 中曽根は首脳会談で日本周辺の「4海峡を完全にコントロールし、有事にソ連の潜水艦を日本海に閉じ込める」、また「ソ連のバックファイアー(爆撃機)の日本列島浸透を許さない」と発言した。「シーレーン確保」も口にしたが、要するに制海権の確保だ。 国外に出たことから口が軽くなったのかもしれないが、当時、アメリカとソ連との間で軍事的な緊張が高まっていたことは事実だ。例えば、1983年4月から5月にかけてアメリカ軍はカムチャツカから千島列島の沖で大規模な艦隊演習を実施、アメリカ海軍の3空母、つまりエンタープライズ、ミッドウェー、コーラル・シーを中心とする機動部隊群が参加している。この演習を日本のマスコミは無視した。 この演習では空母を飛び立った艦載機がエトロフ島に仮想攻撃をしかけ、志発島の上空に侵入して対地攻撃訓練を繰り返し、米ソ両軍は一触即発の状態になったのだ。(田中賀朗著『大韓航空007便事件の真相』三一書房、1997年) 徳川体制を倒して成立した明治政権は1872年に琉球を併合、1874年に台湾へ派兵、1875年に江華島へ軍艦を派遣、1894年の日清戦争、そして1904年の日露戦争へと続く。その背後でイギリスやアメリカの外交官が暗躍、日本にアジアを侵略するように煽っていた。自覚していたかどうかはともかく、明治体制はアメリカやイギリスの手先として動いていたと言える。 日清戦争の結果、清朝政府は1895年に下関条約を締結し、台湾を日本へ割譲するのだが、その当時、台湾に住む人びとの間には共通のアイデンティティがなかったという。漢民族は祖先である氏族、あるいは故郷の福建省や広東省との結びつきをより強く意識、先住民族は部族的なアイデンティティで繋がっていた。日本の植民地になった後、台湾では共通のアイデンティティが形成され始めたようだ。 第2次世界大戦後、日本軍の将校、下士官、兵士が蒋介石軍によって処刑される中、日本は台湾との軍事的な協力関係を築いている。蒋介石が接近した旧日本軍大将の岡村寧次は海で戦犯として裁判にかけられたが、1949年1月に無罪の判決を受けてすぐに帰国、GHQ/SCAPの保護下に入っている。蒋介石が岡村の下へ曹士徴を密使として派遣したのは同年4月のことだ。 曹は岡村や富田直亮少将と東京の高輪で会談して「台湾義勇軍」を編成することで合意、富田少将が「白鴻亮」の名前で義勇軍を指揮することになった。そこで義勇軍は「白(パイ)団」と呼ばれている。 その白団は1950年の正月頃に台湾へ渡り、日本軍の戦術や軍事情報を台湾軍に教育して国家総動員体制を伝授した。翌年の夏までに83名の旧日本軍参謀が台湾へ渡っている。 白団へ軍事情報を渡していたのは「富士倶楽部」、つまり陸士34期の三羽烏と呼ばれた服部卓四郎大佐、西浦進大佐、堀場一雄大佐、あるいは海軍の及川古四郎大将や大前敏一大佐たちだ。服部はノモンハン事件で作戦指導を行った軍人で、1949年には市ヶ谷駅の近くに「史実研究所」をつくり、その後、約20年間に白団へ6000点ほどの資料を渡している。その中には自衛隊の教科書も含まれていた。白団メンバーのうち23名は自衛隊へ入っている。 服部や大前を含む旧日本軍の軍人、つまり有末精三陸軍中将、河辺虎四郎陸軍中将、辰巳栄一陸軍中将、服部卓四郎陸軍大佐、中村勝平海軍少将、大前敏一海軍大佐はアメリカ軍の下で活動している。このグループはKATO機関、あるいはKATOH機関と呼ばれた。 森詠によると、このうち辰巳中将を除く5名は東京駅前の日本郵船ビルを拠点にしていた。その3階には「歴史課」と「地理課」があり、歴史課は1947年5月から50年12月まで活動、地理課は朝霞のキャンプ・ドレークに移転した後、75年まで王子十条にあったアメリカ軍の施設内で活動していたと言われている。 歴史課には杉田一次陸軍大佐、原四郎陸軍中佐、田中兼五郎陸軍中佐、藤原岩市陸軍中佐、加登川幸太郎陸軍少佐、大田庄次陸軍大尉、曲寿郎陸軍大尉、小松演陸軍大尉、大井篤海軍大佐、千早正隆海軍中佐らが、また地理課には山崎重三郎陸軍中佐など参謀本部支那班の元メンバーが出入りしていた。こうした旧日本軍の軍人たちを統括していたのはGHQ/SCAPのG2(情報担当)を統括していた親ファシストのチャールズ・ウィロビー少将だ。(森詠著『黒の機関』ダイヤモンド社、1977年) ソ連が1991年12月に消滅した直後、92年2月にアメリカの国防総省内でDPG(国防計画指針)の草案が作成された。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。 また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。 1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗するが、94年4月に崩壊。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られている。 日本側の動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月になると、ジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令した。そのレポートには10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われている。 沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になったようだ。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。 この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。この1995年以降、日本はアメリカの戦争マシーンへ急ピッチで組み込まれていく。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後、ウォルフォウィッツ・ドクトンに従ってアメリカは世界制覇戦争に乗り出すのだが、日本もそれ追随している。 国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っている。自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。 専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていたが、すでにそうした配慮は放棄されている。 2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。 トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。 そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。 日本は中国やロシアと戦争する準備を進めているのだが、命令しているのはネオコン。ウクライナでロシアに戦争を仕掛けて敗北、ガザで苦境に陥り、中国との経済戦争でも負けている勢力だ。ネオコンの代理として日本人は中国やロシアと戦争させられようとしている。戦争が現実になった場合、ウクライナより凄惨な状況になるだろう。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.11
楽天ブログの「櫻井ジャーナル」へアクセスしにくくなっているという声を聞きます。そうした方は、下記へアクセスしてみてください。【Sakurai’s Substack】https://sakuraiharuhiko.substack.com/【櫻井ジャーナル(note)】https://note.com/light_coot554************************************************** 日本でBSL4施設を建設する目的のひとつとして、エボラウイルスの研究が挙げられている。 エボラ出血熱が世界的に注目されるようになったのは2013年12月のこと。アフリカ西部のギニアで感染が広がりはじめ、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリア、さらにアメリカやヨーロッパへ広がり、大きな騒動になったのだ。 その際にアメリカの研究者が注目された。アメリカにおける生物化学兵器開発の拠点、メリーランド州にあるフォート・デトリックの研究者とテュレーン大学の研究者が数年にわたり、ギニア、リベリア、シエラレオネの周辺で活動していたのである。1930年代から日本で行われて生物化学兵器に関する重要な資料が渡された相手がフォート・デトリックだ。 感染が問題になり始めた2014年7月、シエラレオネの健康公衆衛生省はテュレーン大学に対し、エボラに関する研究を止めるようにという声明を出している。9月13日には、WHO(世界保健機関)の事務局長を務めていたマーガレット・チャンはエボラ出血熱のアフリカ西部における流行がコントロール不能な状態になっていると語っている。チャンは香港出身で、中国とカナダの国籍を持つ。 9月16日にバラク・オバマ米大統領はナイジェリア、リベリア、シエラレオネへ3000名程度の部隊を派遣すると言い始める。「エボラとの戦争」だが、派兵には資源が絡んでいたとみられている。アフリカの西部に石油が存在していることは有名な話であり、シエラレオネは世界最大のダイヤモンド産出国だ。 エボラ出血熱が発見されたのは1976年。場所はザイール(後のコンゴ)。ウラニウムやダイヤモンドなど資源の宝庫で、かつてはベルギーの植民地だった。1960年2月に独立、6月の選挙でパトリス・ルムンバが初代首相に選ばれたが、アメリカの私的権力に従わず、民主化を目指すルムンバは危険だと判断された。 1960年8月にドワイト・アイゼンハワー米大統領はアレン・ダレスCIA長官に対してルムンバの排除、つまり暗殺を許可、現地のCIA支局長だったローレンス・デブリンがクーデターと暗殺の2本立て工作を開始する。結局、9月にモブツ・セセ・セコというアメリカ支配層に選ばれた人物がクーデターを成功させ、12月にルムンバは家族を助けようとして拘束されてしまう。 1961年にアメリカ大統領はジョン・F・ケネディに交代するが、就任式の3日前にルムンバは刑務所から引き出され、ベルギーのチャーター機で彼の敵が支配する地域へ運ばれて死刑を言い渡され、アメリカやベルギーの情報機関とつながっている集団に殴り殺された。ルムンバの移送をデブリンCIA支局長はケネディに知らせていなかった。1月26日にダレス長官はコンゴ情勢についてケネディ大統領に説明しているが、このときにもルムンバ殺害について触れない。(David Talbot, “The Devil’s Chessboard,” HarperCollins, 2015) エボラ出血熱が発見された後、この病気を引き起こすウィルスを含む病原体を細菌兵器にしようとする極秘の研究「プロジェクト・コースト」が1980年代の前半から南アフリカではじめられた。その中心にいた科学者がウーター・ベイソンにほかならないが、アメリカ、イギリス、スイス、フランス、イスラエル、イラク、リビアといった国々からも資金が出ていたとされている。 日本から生物化学兵器に関する資料を入手する前からアメリカでもそうした研究が行われていた。例えば1931年、ロックフェラー財団の「衛生委員会」チームの一員としてプエルトリコのサンフアンにある病院で数カ月間勤務したロックフェラー医学研究所のコーネリアス・ローズなる人物は、プエルトリコの被験者に意図的にガン細胞を人体へ入れ、うち13人を死亡させたという。 ローズは第2次世界大戦中にアメリカ陸軍の大佐となって化学兵器部門の医学部長を務め、ユタ州、メリーランド州、パナマに化学兵器研究所を設立、プエルトリコ人に対する秘密実験にも参加。そして1943年末頃、化学兵器関連の新しい医学研究所がマサチューセッツ州のキャンプ・デトリック、ユタ州のダグウェイ実験場、アラバマ州のキャンプ・シベルトに設立された。キャンプ・デトリックは1955年からフォート・デトリックに格上げされる。(了)**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.10
楽天ブログの「櫻井ジャーナル」へアクセスしにくくなっているという声を聞きます。そうした方は、下記へアクセスしてみてください。【Sakurai’s Substack】https://sakuraiharuhiko.substack.com/【櫻井ジャーナル(note)】https://note.com/light_coot554************************************************** ウクライナでロシア軍が攻勢を強めている。これまで慎重に戦ってきたロシア軍だが、兵站にとって重要な場所であるポクロフスクを制圧したこともあるのだろう。ウクライナ軍を率いているNATO軍の部隊に対する攻撃も目立つようになった。 ロシアのウラジミル・プーチン大統領は今年8月15日、アメリカのドナルド・トランプ大統領とアラスカのアンカレッジで会談したが、その後、米大統領がウクライナの戦況やロシアの経済状況について正確な情報を得ていないことを認識、話し合いでの解決を断念したのかもしれない。 ロシア軍は2022年2月24日からウクライナ軍をミサイルなどで攻撃しはじめたが、その際、アメリカの国防総省が建設していた生物兵器の研究開発施設も破壊している。国防総省のDTRA(国防脅威削減局)にコントロールされた研究施設が約30カ所あったというのだ。その前からロシア政府はアメリカがウクライナで生物化学兵器の研究開発を進めていると非難していたので、ロシア軍は意図的にDTRAの施設を攻撃したのだろう。 ロシア政府はアメリカ軍がロシアとの国境に近いウクライナ領内で生物化学兵器の研究開発を行っていることを前から知っていた。ウクライナでクーデターが始まった2013年、アメリカ国防総省がハリコフ周辺にレベル3のバイオ研究施設を作ろうとしていると訴えるリーフレットがまかれ、実際、建設されている。 ジャーナリストのディリヤナ・ゲイタンジエワによると、ドニプロ、ミコライフ、リビフ、ウジホロド、テルノポリ、ビンニツヤ、キエフにも施設があり、各研究所は2010年から13年の間に建設されたという。 ロシア軍は2022年2月の攻撃でウクライナ側の機密文書を回収している。そうした文書の分析でアメリカが「万能生物兵器」を開発していたことが判明したと2023年4月に発表された。人だけでなく動物や農作物にも感染でき、大規模で取り返しのつかない経済的損害を与える遺伝子組換え生物兵器を開発していたというのだ。そうした兵器を秘密裏に標的を絞って使い、「核の冬」に匹敵する結果をもたらすことが目的だ。 ロシア軍の攻撃でウクライナに建設されていた生物化学兵器に関する施設も破壊されたはずで、資料やサンプルをウクライナ国外へ避難させただけでなく、新たな施設を建設しているようだ。そのひとつが日本ではないだろうか。 アメリカ国防総省がウクライナにそうした施設を建設した理由のひとつは、同国がロシアの隣にあるからだと考えられる。生物兵器をロシアに撒布しやすいということだ。ロシアとならぶアメリカの敵国である中国に近く、そうした兵器を撒きやすい国には韓国、台湾、そして日本が挙げられる。 その日本には「万能生物兵器」とも考えられる「レプリコン・ワクチン」の製造工場が存在、またBSL4(バイオセーフティレベル4)というエボラウイルのような最も危険だと分類されている病原体を研究する実験施設も作られている。ひとつは国立健康危機管理研究機構(前身は国立感染症研究所、その前は国立予防衛生研究所)の村山庁舎、そして長崎大学も指定された。ただ村山庁舎は周辺住民の反対が強いということもあり、新宿区戸山にある「財務局若松住宅」へ移転させる計画がある。予防衛生研究所は1992年、新宿区戸山の厚生省戸山研究庁舎へ移転しているが、そこは陸軍軍医学校があった場所だ。軍医学校は東京帝国大学や京都帝国大学の医学部と共同で生物化学兵器の研究開発を行っていた。 日本で生物化学兵器の研究開発が始められたのは1933年のこと。正確なデータを得るために生体実験が実施されたが、そのために編成された部隊のひとつが「関東軍防疫給水部」。「加茂部隊」とも呼ばれ、責任者は京都帝大医学部出身の石井四郎中将が務めた。後ろ盾は小泉親彦軍医総監だったという。 その後「加茂部隊」は「東郷部隊」へと名前を替え、1941年には「第七三一部隊」と呼ばれるようになった。生体実験には捕虜として拘束していた中国人、モンゴル人、ロシア人、朝鮮人が利用されている。うした人びとを日本軍は「マルタ」と呼んでいた。 この部隊の隊長を1936年から42年、そして45年3月から敗戦まで務めた人物が石井四郎。途中、1942年から45年2月までを東京帝国大学医学部出身の北野政次少将が務めている。 1945年8月には関東軍司令官の山田乙三大将の名前で部隊に関連した建物は破壊され、貴重な資料や菌株は運び出された。捕虜の多くは食事に混ぜた青酸カリで毒殺される。事態に気づいて食事をとならなかった捕虜は射殺され、死体は本館の中庭で焼かれ、穴の中に埋められたという。 石井たち第731部隊の幹部は大半が日本へ逃げ帰るが、日本の生物化学兵器に関する情報はアメリカ軍も入手していた。1946年に入ると石井たちアメリカ軍の対諜報部隊CICの尋問を受けることになるが、厳しいものではなく、資料はアメリカ側へ引き渡された。1947年にはキャンプ・デトリックからノーバート・フェルという研究者がやって来るが、この頃からアメリカ軍は第731部隊の幹部たちと協力関係に入る。 尋問の過程でGHQ/SCAPの情報部門G2の部長を務めていたチャールズ・ウィロビー少将と石井は親しくなり、隊の幹部たちはアメリカの保護を受けるようになる。日本が提供した資料や研究員はドイツから提供された知識と同じように、アメリカにおける生物化学兵器開発の基盤になった。 1950年6月に朝鮮戦争が勃発する。その頃、アメリカで細菌戦プログラムの中心的存在だったのはジェームズ・サイモンズ准将。その指揮下にあった406部隊は病原体の媒介昆虫に関する研究用の「倉庫」と見なされていたが、1951年当時、309名のうち107名が日本人だったとされている。 1952年2月に朝鮮の外務大臣はアメリカ軍が細菌兵器を使用していると国連に抗議した。アメリカ側は事実無根だと主張したが、1970年代にウィリアム・コルビーCIA長官が議会で行った証言の中で、1952年にアメリカ軍が生物化学兵器を使ったと認めている。 朝鮮戦争が始まると、アメリカ軍は輸血体制を増強しなければならなくなり、「日本ブラッドバンク」が設立されたが、北野政次が顧問に就任するなど、この会社は第731部隊と深い関係がある。後に社名は「ミドリ十字」へ変更され、「薬害エイズ」を引き起こすことになる。現在は田辺三菱製薬の一部だ。 第731部隊を含む日本の生物化学兵器人脈は「伝染病対策」の中枢を形成することになる。その拠点として1947年には国立予防衛生研究所(予研)が創設された。当初は厚生省の所管だったが、1949年には国立になる。1997年には国立感染症研究所(感染研)に改名された。 大戦後、日本の生物化学兵器人脈が協力してきたフォート・デトリックの研究者はアフリカでも研究を続けている。2010年頃からギニア、リベリア、シエラレオネの周辺で研究していた。 その地域、つまりギニア、リベリア、シエラレオネで2013年12月からエボラ出血熱が広がりはじめ、ナイジェリア、さらにアメリカやヨーロッパへ伝染が拡大し、大きな騒動になった。2014年7月にはシエラレオネの健康公衆衛生省がテュレーン大学に対し、エボラに関する研究を止めるようにという声明を出している。 生物兵器の専門家として知られているイリノイ大学のフランシス・ボイル教授の説明によると、テュレーン大学やCDC(疾病管理センター)が西アフリカで運営していた研究所では生物兵器を研究していたが、同じ場所にフォート・デトリックのUSAMRIID(アメリカ陸軍感染症医学研究所)の研究者もいた。 エボラは1976年8月にザイール(現在のコンゴ)で初めて確認されているが、エイズと同じように病気の始まりが明確でない。1976年の前は気づかれなかっただけなのか、病気自体がなかったのかは不明だ。(つづく)
2025.11.09

ポクロフスクをロシア軍が制圧、ウクライナでの戦闘が大きな節目を迎えている。ポクロフスクにはふたつの幹線道路が通り、ウクライナ軍の補給にとって重要な場所。これまでロシア軍は自軍兵士の死傷者をできるだけ少なくするため、慎重に作戦を進めてきたが、この要衝を抑えたことから進撃のスピードが上がる可能性がある。 すでにロシア軍はポクロフスクで相当作戦を展開しているが、そうした状況の中、ウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)が特殊部隊をUH-60Aブラックホークで送り込み、救出しようとした。少なからぬ人が無謀だと指摘していたが、CIAの上級工作員、あるいはNATOの将校を救出するためだったようだ。同じようにロシア軍が包囲しているクピャンスクにはNATOの突撃部隊と2名のアメリカ軍将校もウクライナ軍部隊と一緒に取り残されている。 バラク・オバマ政権が2014年2月にネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した当初からCIAやFBIの専門家数十名が顧問として送り込まれたほか、傭兵会社の「アカデミ(旧社名:ブラックウォーター、Xe、2014年6月にトリプル・キャノピーと合併してコンステリス・グループ)」の戦闘員約400名もウクライナ東部での戦闘に参加したが、2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」を利用し、8年かけてNATO諸国はクーデター体制の戦力を増強している。 2022年に入ると戦力を増強したウクライナ軍がドンバスに対する砲撃を強め、大規模な軍事侵攻を計画していると言われるようになる。アメリカ国防総省はウクライナで生物兵器の研究開発を進めていたが、そこで作られた生物兵器を利用する疑いもあった。そして2022年2月にロシア軍はドンバス(ドネツクとルガンスク)周辺に終結していたウクライナ軍の部隊、ウクライナ領内の軍事基地、そして生物兵器の研究開発施設を攻撃し始めた。 しかし、3月にロシア政府とウクライナ政府は停戦で合意、仮調印している。ウラジミル・プーチン露大統領は善意の印として、キエフ北部の地域を支配していた戦車部隊を3月31日から撤退させるようロシア軍に命じた。 そうした停戦の動きをイギリスとアメリカが潰している。例えば、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンが4月9日にキエフへ乗り込んでウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対して戦争継続を命令(ココやココ)、4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めた。 交渉が決裂した後、ロシア軍は要塞戦の西端にあるマリウポリを攻撃し始め、2022年5月末までに制圧し、数千人のウクライナ兵を捕虜にすると同時に住民を解放した。 この時点ではイギリスもアメリカもロシアを簡単に打ち負かせるとまだ信じていたようだが、米英の動きを見たロシア政府は2022年9月に部分的動員を発表した。30万人の予備役を動員するということだ。2022年8月までにロシア軍では数千人の兵士が契約期限切れになることも動員を決意させた一因だろう。また消耗戦対策として、同年9月から12月にかけてヘルソン西岸から撤退し、ザポリージャとドネツクに防衛線を構築、2023年1月にはバフムートで激しい戦闘が始まる。 ドナルド・トランプ政権でウクライナにおける戦争に積極的な人物のひとりはウクライナ担当特使を務めているキース・ケロッグ退役中将。本ブログですでに書いたように、この人物はジョー・バイデン政権下の2023年2月28日にアメリカの上院軍事委員会で、「もしアメリカ軍を一切投入しないで戦略的な敵国(ロシア)を打ち負かすことができれば、それはまさにプロフェッショナルの極みだと私は考えている」と語っている。この段階でもロシアとの戦争に勝てると考えていたのだろう。 ところが、イギリスの国防相を務めていたベン・ウォレスは2023年10月1日付のテレグラフ紙に寄稿した論考の中で、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘した。この時点でウクライナ側には十分な兵士がいなくなっている。ロシア軍が本格的な戦闘を始めてまもなく、戦況はロシア軍が有利になったわけだ。この後、ウクライナ軍の壊滅が始まった。 ロシア軍が作戦を慎重に進めた理由のひとつは自軍兵士の死傷者をできるだけ少なくするためだが、ゆっくり攻めることで兵站線が伸びることを避けたと見られている。それに対してウクライナ側の兵站線は西のポーランドから伸びているため厳しい。消耗戦はNATO諸国にもダメージを与えている。 かつて日本軍は第2次世界大戦の終盤、沖縄でアメリカ軍と激しい戦闘を繰り広げた。沖縄の自然は破壊され、戦死者は日本軍が9万4000人以上、アメリカ軍が約1万2500名、さらに住民約9万4000人も殺されているという。日本軍は沖縄を「捨て石」にしたと言われている。日本の中枢は沖縄で人びとが殺されることを気にしていなかっただろう。彼らは自分たちのことしか考えていない。ウクライナをめぐり、NATO諸国は似たようなことをしている。 そのウクライナに対する支援とロシアに対する「制裁」、つまり経済戦争を続けると高市早苗首相は主張している。官民一体となってウクライナの復旧復興を支援するとも語っているが、戦争がどのように決着すると考えているのだろうか?ウクライナで戦争を始めた当時に西側諸国が妄想した利権の獲得は困難な情勢だ。ロシアは永続的な平和を実現するため、アメリカやその同盟国をウクライナから排除するはずだ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.09

ポクロフスクをロシア軍が制圧、ウクライナでの戦闘が大きな節目を迎えている。ポクロフスクにはふたつの幹線道路が通り、ウクライナ軍の補給にとって重要な場所。これまでロシア軍は自軍兵士の死傷者をできるだけ少なくするため、慎重に作戦を進めてきたが、この要衝を抑えたことから進撃のスピードが上がる可能性がある。 すでにロシア軍はポクロフスクで相当作戦を展開しているが、そうした状況の中、ウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)が特殊部隊をUH-60Aブラックホークで送り込み、救出しようとした。少なからぬ人が無謀だと指摘していたが、CIAの上級工作員、あるいはNATOの将校を救出するためだったようだ。同じようにロシア軍が包囲しているクピャンスクにはNATOの突撃部隊と2名のアメリカ軍将校もウクライナ軍部隊と一緒に取り残されている。 バラク・オバマ政権が2014年2月にネオ・ナチを使ったクーデターでウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した当初からCIAやFBIの専門家数十名が顧問として送り込まれたほか、傭兵会社の「アカデミ(旧社名:ブラックウォーター、Xe、2014年6月にトリプル・キャノピーと合併してコンステリス・グループ)」の戦闘員約400名もウクライナ東部での戦闘に参加したが、2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」を利用し、8年かけてNATO諸国はクーデター体制の戦力を増強している。 2022年に入ると戦力を増強したウクライナ軍がドンバスに対する砲撃を強め、大規模な軍事侵攻を計画していると言われるようになる。アメリカ国防総省はウクライナで生物兵器の研究開発を進めていたが、そこで作られた生物兵器を利用する疑いもあった。そして2022年2月にロシア軍はドンバス(ドネツクとルガンスク)周辺に終結していたウクライナ軍の部隊、ウクライナ領内の軍事基地、そして生物兵器の研究開発施設を攻撃し始めた。 しかし、3月にロシア政府とウクライナ政府は停戦で合意、仮調印している。ウラジミル・プーチン露大統領は善意の印として、キエフ北部の地域を支配していた戦車部隊を3月31日から撤退させるようロシア軍に命じた。 そうした停戦の動きをイギリスとアメリカが潰している。例えば、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンが4月9日にキエフへ乗り込んでウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対して戦争継続を命令(ココやココ)、4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めた。 交渉が決裂した後、ロシア軍は要塞戦の西端にあるマリウポリを攻撃し始め、2022年5月末までに制圧し、数千人のウクライナ兵を捕虜にすると同時に住民を解放した。 この時点ではイギリスもアメリカもロシアを簡単に打ち負かせるとまだ信じていたようだが、米英の動きを見たロシア政府は2022年9月に部分的動員を発表した。30万人の予備役を動員するということだ。2022年8月までにロシア軍では数千人の兵士が契約期限切れになることも動員を決意させた一因だろう。また消耗戦対策として、同年9月から12月にかけてヘルソン西岸から撤退し、ザポリージャとドネツクに防衛線を構築、2023年1月にはバフムートで激しい戦闘が始まる。 ドナルド・トランプ政権でウクライナにおける戦争に積極的な人物のひとりはウクライナ担当特使を務めているキース・ケロッグ退役中将。本ブログですでに書いたように、この人物はジョー・バイデン政権下の2023年2月28日にアメリカの上院軍事委員会で、「もしアメリカ軍を一切投入しないで戦略的な敵国(ロシア)を打ち負かすことができれば、それはまさにプロフェッショナルの極みだと私は考えている」と語っている。この段階でもロシアとの戦争に勝てると考えていたのだろう。 ところが、イギリスの国防相を務めていたベン・ウォレスは2023年10月1日付のテレグラフ紙に寄稿した論考の中で、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘した。この時点でウクライナ側には十分な兵士がいなくなっている。ロシア軍が本格的な戦闘を始めてまもなく、戦況はロシア軍が有利になったわけだ。この後、ウクライナ軍の壊滅が始まった。 ロシア軍が作戦を慎重に進めた理由のひとつは自軍兵士の死傷者をできるだけ少なくするためだが、ゆっくり攻めることで兵站線が伸びることを避けたと見られている。それに対してウクライナ側の兵站線は西のポーランドから伸びているため厳しい。消耗戦はNATO諸国にもダメージを与えている。 かつて日本軍は第2次世界大戦の終盤、沖縄でアメリカ軍と激しい戦闘を繰り広げた。沖縄の自然は破壊され、戦死者は日本軍が9万4000人以上、アメリカ軍が約1万2500名、さらに住民約9万4000人も殺されているという。日本軍は沖縄を「捨て石」にしたと言われている。日本の中枢は沖縄で人びとが殺されることを気にしていなかっただろう。彼らは自分たちのことしか考えていない。ウクライナをめぐり、NATO諸国は似たようなことをしている。 そのウクライナに対する支援とロシアに対する「制裁」、つまり経済戦争を続けると高市早苗首相は主張している。官民一体となってウクライナの復旧復興を支援するとも語っているが、戦争がどのように決着すると考えているのだろうか?ウクライナで戦争を始めた当時に西側諸国が妄想した利権の獲得は困難な情勢だ。ロシアは永続的な平和を実現するため、アメリカやその同盟国をウクライナから排除するはずだ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.09

ガザでの「停戦」とはイスラエルによる住民虐殺に対する人びとの怒りを緩和させることであり、ウクライナでの「停戦」とは劣勢のNATO軍が戦闘態勢を整えるための時間稼ぎに過ぎない。ガザでの停戦は形式上、合意されたものの、予想通りに幻影で終わった。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」でNATO諸国に煮湯を飲まされたロシアは「停戦」に応じていない。いずれの場合も「停戦」は新たな戦争を始めることが目的だ。パレスチナでもウクライナでも戦乱の背後にはネオコンがいる。 ネオコンとはシオニストの一派で、イスラエル至上主義者でもある。例えば、バーナード・ルイス、リチャード・パイプス、ダニエル・パイプス、デイビッド・ホロウィッツ、ロバート・ケーガン、ポール・ウォルフォウィッツ、エリオット・エイブラムス、リチャード・パール、ポール・ブレマー、ダグラス・フェイス、I・ルイス・リビー、そしてリチャード・チェイニーやドナルド・ラムズフェルドもネオコンと呼ばれている。後にネオコンで中心的な役割を演じる人たちは若い頃、ヘンリー・ジャクソン上院議員の事務所で仕事を覚えている。 ネオコンの思想的な支柱はシカゴ大学教授だったレオ・ストラウス。この学者は1899年にドイツのヘッセン州で熱心なユダヤ教徒の家庭に生まれ、17歳の頃にウラジミール・ヤボチンスキーのシオニスト運動へ接近した。 1932年にストラウスはロックフェラー財団の奨学金でフランスへ渡り、中世のユダヤ教徒やイスラム哲学、そしてプラトンやアリストテレスの研究を始めている。(The Boston Globe, May 11, 2003)カルガリ大学のジャディア・ドゥルーリー教授に言わせると、ストラウスの思想は一種のエリート独裁主義で、彼は「ユダヤ系ナチ」だ。(Shadia B. Drury, “Leo Strauss and the American Right”, St. Martin’s Press, 1997) 1934年にストラウスはイギリスへ、37年にはアメリカへ渡ってコロンビア大学の特別研究員になる。教授として受け入れられた1944年にはアメリカの市民権も獲得。1949年から73年までシカゴ大学で教えているが、教授を務めたのは68年まで。その間、1954年から55年にかけてイスラエルのヘブライ大学で客員教授にもなっている。ウォルフォウィッツはシカゴ大学での教え子だ。 ストラウスと並ぶネオコンの支柱とされている人物が、やはりシカゴ大学の教授だったアルバート・ウォルステッター。冷戦時代、同教授はアメリカの専門家はソ連の軍事力を過小評価していると主張、アメリカは軍事力を増強するべきだとしていたが、その判断が間違っていたことはその後、明確になっている。 世界征服プロジェクトである1992年のDPG草案のベースを考えた人物は国防総省内部のシンクタンクONA(ネット評価室)で室長を務めていたアンドリュー・マーシャルだ。この人物はバーナード・ルイスから世界観を学んでいる。 ルイスはイギリスで情報活動に従事したことがあり、イスラエルやサウジアラビアを支持していた。そのルイスから教えを受けたマーシャルも親イスラエル派で、ソ連や中国を脅威だと宣伝したきた人物としても知られている。(Robert Dreyfuss, “Devil’s Game”, Henry Holt, 2005) ネオコンのシンクタンク、PNAC(新しいアメリカの世紀プロジェクト)はDPGに基づく報告書、「アメリカ国防の再構築」を2000年に発表した。その中で、軍事体制の「革命的な変革」を迅速に実現するため、「新たな真珠湾」のような壊滅的な出来事が必要だとしている。(PNAC, “Rebuilding America’s Defenses,” PNAC, September 2000) 2001年1月から始まったジョージ・W・ブッシュ政権もネオコンに操られていたが、その年の9月11日からこの政権は世界征服戦争を始めている。その切っ掛けはニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)に対する攻撃。この「新たな真珠湾」のような出来事で人びとは茫然自失、その間に侵略戦争は始められた。 ウクライナ担当特使を務めているキース・ケロッグ退役中将はドナルド・トランプ政権を戦争へと導いている。このケロッグは2023年2月28日にアメリカの上院軍事委員会で、「もしアメリカ軍を一切投入しないで戦略的な敵国(ロシア)を打ち負かすことができれば、それはまさにプロフェッショナルの極みだと私は考えている」と語っている。代理戦争だと公言したのだ。 イギリスにはドイツとロシア/ソ連を戦わせ、両国を共倒れさせようとしてきた。ふたつの世界大戦はその結果だと言えるだろう。21世紀に入り、ドイツの代わり、ウクライナとロシアを戦わせている。NATOがウクライナを支援すれば簡単にロシアを倒せると考えたようだが、この見通しは甘すぎた。ロシアを見くびった結果、NATO諸国は窮地に陥っている。ケロッグはロシアを倒した後、中国に集中して倒すとしていたが、この見通しも甘すぎた。 イスラエルはハマスやヒズボラに勝てず、イランには事実上負けた。ウクライナではロシア軍によってNATOが軍事的に疲弊し、EU諸国の経済は破綻、社会は崩壊しつつある。 ネオコンは無能だということだが、その事実を認められない彼らは妄想の中へ逃げ込み、状況をますます悪化させている。欧米ではその現実に気づく人が増えているようだが、日本の反応は鈍い。「神風」が吹くとでも思っているのだろうか?**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.08
第1期目のドナルド・トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリン退役中将はロシアのメディアに対し、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した2013年11月から14年2月にかけてのクーデターで、バラク・オバマ政権が重要な役割を果たしたと語った。中でもビクトリア・ヌーランド国務次官補(当時)とジョン・ブレナンCIA長官(同)が「決定に不可欠な存在だった」という。 このクーデターはキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で始まり、最後にはネオ・ナチが前面に出てきた。ネオ・ナチのメンバーは2月18日頃から棍棒、ナイフ、チェーンなどを手にしながら石や火炎瓶を投げ、ピストルやライフルで銃撃を始めている。2500丁以上の銃を彼らは広場へ持ち込んでいたとも言われている。 まだ抗議活動がさほど暴力的になっていない2月上旬、ヌーランドとジェフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使との電話での会話とみられる音声がYouTubeに公開された。会話のテーマはヤヌコビッチ政権を倒した後に作る内閣の人事が中心だ。 ヌランドはヤッツ(アルセニー・ヤツェニュク)を推していたが、実際、そのヤツェニュクがヤヌコビッチが排除された後の政権で首相に就任している。逆に嫌われていたのがビタリー・クリチコ。またネオ・ナチを率いていたひとりのオレ・ティアニボクもクリチコと同じように政府には入れるべきでないとしている。 この会話では国連の事務次長だったジェフ・フェルトマンという名前が出てくる。ヌランドはこの人物と連絡を取り合っていた。そのフェルトマンからロバート・セリーというオランダの外交官をキエフへ派遣すると伝えられたとヌランドは話している。 この当時のEU諸国はウクライナ情勢を話し合いで鎮静化しようとしていた。そこで、国連事務総長だった潘基文の協力を得て、EUを押さえ込もうとしている。そこで出てきたのが「EUなんてクソくらえ」という発言だ。なお、そのセリーは3月初旬にクリミア半島に派遣されたものの、現地で警備担当者に拘束されている。クーデターを仕掛けた勢力がセリーを操っていることを反クーデター派は知っていたということだろう。 オバマがアメリカ大統領に就任したのは2009年1月のことだが、その翌年の8月に彼はPSD-11を承認している。中東から北アフリカにかけての地中海沿岸色の体制をムスリム同胞団を利用して転覆させる作戦を始動させたのだ。そして「アラブの春」が始まる。 その流れの中でリビアやシリアも攻撃されるが、その際、ムスリム同胞団だけでなくサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)も参加している。つまりアル・カイダ系武装集団の主要メンバーだ。 イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味すると書いている。そのムジャヒディンの供給源はムスリム同胞団やサラフィ主義者にほかならない。このシステムを作り上げたのはオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーだ。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月、アル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍によって倒されたが、シリア軍は倒れない。そこで戦闘員や兵器をリビアからシリアへ移動させると同時に、オバマ大統領はシリアのアル・カイダ系武装集団への軍事支援を強化した。 そうしたオバマ政権の政策を危険だと判断、2012年8月にそれを警告する報告書を政府へ提出したのがアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)。当時、そのDIAを指揮していたのがマイケル・フリンだった。 DIAの報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告している。 この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘った。その2014年に香港ではアメリカのCIAやイギリスのMI6が「佔領行動(雨傘運動)」なる反中国運動を展開して中国に揺さぶりをかけている。 その一方、オバマ大統領は政府の陣容を好戦派へ入れ替える。例えば2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させ、アメリカ軍をシリアで侵攻させた。そして作り上げた20以上の基地のひとつがアル・タンフである。 2015年9月25日にデンプシーが退役、その5日後にロシアはシリア政府の要請で軍事介入した。それまでアメリカはシリア政府の許可を得ることなく軍事介入していたが、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)を含むアル・カイダ系武装集団を殲滅することはなかった。その武装集団をロシア軍は敗走させ、戦況を一変させたのだが、イドリブへ逃げ込んだアル・カイダ系武装勢力にとどめを刺さなかった。その武装勢力はアメリカやトルコの支援を受けることになり、フェルトマンはシリアのバシャール・アル-アサド政権を降伏させる計画を2016年に起草した。 その後、アサド政権は欧米諸国による経済攻撃で疲弊、昨年11月27日にHTS(ハヤト・タハリール・アル・シャム)がシリア軍を奇襲攻撃すると、呆気なく倒され、HTSを率いていたアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)が暫定大統領に就任している。アル-シャラアはダーイッシュ(ISIS、IS、イスラム国などとも表記)の指導者だった人物で、その側近ラザン・サフォーというイギリス系シリア人がいる。HTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織。その前身はAQI(イラクのアル・カイダ)だ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.07
第1期目のドナルド・トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリン退役中将はロシアのメディアに対し、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した2013年11月から14年2月にかけてのクーデターで、バラク・オバマ政権が重要な役割を果たしたと語った。中でもビクトリア・ヌーランド国務次官補(当時)とジョン・ブレナンCIA長官(同)が「決定に不可欠な存在だった」という。 このクーデターはキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で始まり、最後にはネオ・ナチが前面に出てきた。ネオ・ナチのメンバーは2月18日頃から棍棒、ナイフ、チェーンなどを手にしながら石や火炎瓶を投げ、ピストルやライフルで銃撃を始めている。2500丁以上の銃を彼らは広場へ持ち込んでいたとも言われている。 まだ抗議活動がさほど暴力的になっていない2月上旬、ヌーランドとジェフリー・ピアット駐ウクライナ米国大使との電話での会話とみられる音声がYouTubeに公開された。会話のテーマはヤヌコビッチ政権を倒した後に作る内閣の人事が中心だ。 ヌランドはヤッツ(アルセニー・ヤツェニュク)を推していたが、実際、そのヤツェニュクがヤヌコビッチが排除された後の政権で首相に就任している。逆に嫌われていたのがビタリー・クリチコ。またネオ・ナチを率いていたひとりのオレ・ティアニボクもクリチコと同じように政府には入れるべきでないとしている。 この会話では国連の事務次長だったジェフ・フェルトマンという名前が出てくる。ヌランドはこの人物と連絡を取り合っていた。そのフェルトマンからロバート・セリーというオランダの外交官をキエフへ派遣すると伝えられたとヌランドは話している。 この当時のEU諸国はウクライナ情勢を話し合いで鎮静化しようとしていた。そこで、国連事務総長だった潘基文の協力を得て、EUを押さえ込もうとしている。そこで出てきたのが「EUなんてクソくらえ」という発言だ。なお、そのセリーは3月初旬にクリミア半島に派遣されたものの、現地で警備担当者に拘束されている。クーデターを仕掛けた勢力がセリーを操っていることを反クーデター派は知っていたということだろう。 オバマがアメリカ大統領に就任したのは2009年1月のことだが、その翌年の8月に彼はPSD-11を承認している。中東から北アフリカにかけての地中海沿岸色の体制をムスリム同胞団を利用して転覆させる作戦を始動させたのだ。そして「アラブの春」が始まる。 その流れの中でリビアやシリアも攻撃されるが、その際、ムスリム同胞団だけでなくサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)も参加している。つまりアル・カイダ系武装集団の主要メンバーだ。 イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味すると書いている。そのムジャヒディンの供給源はムスリム同胞団やサラフィ主義者にほかならない。このシステムを作り上げたのはオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーだ。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月、アル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍によって倒されたが、シリア軍は倒れない。そこで戦闘員や兵器をリビアからシリアへ移動させると同時に、オバマ大統領はシリアのアル・カイダ系武装集団への軍事支援を強化した。 そうしたオバマ政権の政策を危険だと判断、2012年8月にそれを警告する報告書を政府へ提出したのがアメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)。当時、そのDIAを指揮していたのがマイケル・フリンだった。 DIAの報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告している。 この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘った。その2014年に香港ではアメリカのCIAやイギリスのMI6が「佔領行動(雨傘運動)」なる反中国運動を展開して中国に揺さぶりをかけている。 その一方、オバマ大統領は政府の陣容を好戦派へ入れ替える。例えば2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させ、アメリカ軍をシリアで侵攻させた。そして作り上げた20以上の基地のひとつがアル・タンフである。 2015年9月25日にデンプシーが退役、その5日後にロシアはシリア政府の要請で軍事介入した。それまでアメリカはシリア政府の許可を得ることなく軍事介入していたが、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)を含むアル・カイダ系武装集団を殲滅することはなかった。その武装集団をロシア軍は敗走させ、戦況を一変させたのだが、イドリブへ逃げ込んだアル・カイダ系武装勢力にとどめを刺さなかった。その武装勢力はアメリカやトルコの支援を受けることになり、フェルトマンはシリアのバシャール・アル-アサド政権を降伏させる計画を2016年に起草した。 その後、アサド政権は欧米諸国による経済攻撃で疲弊、昨年11月27日にHTS(ハヤト・タハリール・アル・シャム)がシリア軍を奇襲攻撃すると、呆気なく倒され、HTSを率いていたアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)が暫定大統領に就任している。アル-シャラアはダーイッシュ(ISIS、IS、イスラム国などとも表記)の指導者だった人物で、その側近ラザン・サフォーというイギリス系シリア人がいる。HTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織。その前身はAQI(イラクのアル・カイダ)だ。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.07

リチャード・チェイニー元米副大統領が11月3日に死亡した。ジェラルド・フォード政権(1974年8月から77年1月)の時に表舞台へ登場してきたネオコンの大物だ。 フォードはリチャード・ニクソン大統領がウォーターゲート事件で失脚したことを受け、副大統領から昇格したのだが、元々の副大統領はスピロ・アグニュー。そのアグニューが1973年10月にスキャンダルで辞任に追い込まれ、選挙を経ずに副大統領、そして大統領になった。 ニクソン大統領はデタント(緊張緩和)政策を打ち出していたが、フォード政権はデタント派を粛清していく。その中でも重要な意味を持つと考えられているのは、国防長官とCIA長官の交代だ。 国防長官は1975年11月にジェームズ・シュレシンジャーからドナルド・ラムズフェルドへ交代、CIA長官は76年1月にウィリアム・コルビーからジョージ・H・W・ブッシュへ交代している。一連の粛正は「ハロウィーンの虐殺」と呼ばれている。チェニーはラムズフェルドの後任として1975年11月から大統領首席補佐官を務めた。 この粛正を主導したのは大統領首席補佐官だったラムズフェルドと大統領副補佐官だったチェイニーだとされているが、その背後にはポール・ニッツェやアルバート・ウールステッターを中心とするグループが存在した。この人脈は後にネオコンと呼ばれるようになる。ラムズフェルドとチェイニーはロナルド・レーガン政権で地下政府プロジェクトのCOGに参加。レーガン大統領は1982年にNSDD55を出してCOGプロジェクトを承認、NPO(国家計画局)が創設された。(Andrew Cockburn, “Rumsfeld”, Scribner, 2007) ジョージ・H・W・ブッシュが大統領だった1991年にソ連が消滅、その翌年の2月に世界制覇を打ち出したDPG草案(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)が作成された。作成の中心になったのはネオコンのポール・ウォルフォウィッツ国防次官だが、その時の国防長官はチェイニーにほかならない。 2001年1月にジョージ・W・ブッシュが大統領に就任、その年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃され、人びとはショックで茫然自失、それを利用してブッシュ・ジュニア政権はCOGを始動させ、軍事侵略を開始する。 ブッシュ政権は統合参謀本部の反対意見を押し切り、2003年3月にイラクを攻撃するが、計画通りには進まなかった。そこで同政権は2007年に方針を変更、ズビグネフ・ブレジンスキーのように、スンニ派の傭兵を利用することにする。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュがニューヨーカー誌の2007年3月5日号に書いた記事によると、ブッシュ・ジュニア政権は中東における最優先課題をイランの体制転覆におき、レバノンで活動しているイラン系のヒズボラ、イランの同盟国であるシリアを殲滅、そしてイランを倒すという計画を立てる。その手先としてスンニ派を使おうということだ。その中にはフセイン政権の軍人も含まれた。 この工作で中心的な役割を果たしたのは副大統領だったチェイニー、副国家安全保障補佐官のエリオット・エイブラムズ、2007年4月までイラク駐在米大使を務め、国連大使に内定していたザルメイ・ハリルザドで、ウォルフォウィッツ・ドクトリンの人脈と重なる。(Seymour M. Hersh, “The Redirection,” The New Yorker, March 5, 2007) この新しい工作にはイスラエルとサウジアラビアが参加するのだが、記事の中でジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院のバリ・ナスルはサウジアラビアが動員するサラフィ主義者やムスリム同胞団は最悪の集団だと警告している。(Seymour M. Hersh, “The Redirection,” The New Yorker, March 5, 2007) その後も状況が好転しないまま2009年1月からバラク・オバマ政権が始まる。オバマは師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーの戦法を採用し、CIAの訓練を受けた戦闘員で武装集団を編成、その集団に戦わせようというのだ。 その戦闘員の登録リストが「アル・カイダ」にほかならないとイギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックが05年7月に書いている。CIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リスト、あるいはデータベースが「アル・カイダ」だというのだ。 オバマ大統領は2010年8月にPSD-11を承認、ムスリム同胞団を使った体制転覆作戦を始動させる。そして引き起こされたのが「アラブの春」。その流れの中でアメリカ、イギリス、フランスを含む国々がリビアやシリアに対する軍事侵略を始めた。 2011年2月に侵略戦争が始まったリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は同年10月に倒され、カダフィ本人はその際に惨殺された。その際にアル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍の連携が明らかになる。反カダフィ勢力の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられていた。 ジャーナリストのロン・サスキンドによると、例えばパキスタンの科学者がアル・カイダの核兵器製造開発を支援している可能性が1%あれば、それを前提に対応するべきだと主張した。いわゆる「1パーセント・ドクトリン」だ。(Ron Ruskind, “The One Percent Doctrine,” Simon & Schuster, 2006) 気に入らない相手は捻り潰せということだが、1991年12月にソ連が消滅した段階でアメリカが唯一の超大国になったとネオコンは認識、好き勝手に振る舞える時代になったと考えたのだ。 ところが、21世紀に入り、ウラジミル・プーチンがロシアの大統領に就任した後、ロシアが急速に経済力や軍事力を回復させ、新たなアメリカのライバルとして登場してきた。アメリカは軌道修正しなければならなかったのだが、ネオコンはそのまま突っ走ろうとする。そこでロシアを再属国化させようとするのだが、全て裏目に出た。ロシアは成長し、アメリカを含む西側諸国は衰退している。そうした道を切り開いたのはチェイニーだ。**********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.06

ロシア軍がポクロフスクを制圧、掃討作戦を始めていると伝えられている。ウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)が特殊部隊をUH-60Aブラックホークで送り込み、救出しようとしたCIAの上級工作員、あるいはNATOの将校がどうなったかは不明だ。 ポクロフスクから離れた場所を訪問、ポクロフスクを視察したと宣伝していたウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー統合軍事作戦司令官はロシア軍と戦い続けるように命じていたが、投降するウクライナ兵も少なくないようだ。 ふたつの幹線道路が通っているポクロフスクは軍事的な要衝で、ここがロシア軍に制圧されるとウクライナ軍の補給路全体が危機に瀕する。これまでロシア軍は自軍兵士の死傷者を少なくするため、慎重に動いたきたが、この要衝が陥落したなら、進撃のスピードが上がる可能性もある。 そうした中、キエフ政権はドナルド・トランプ政権に対し、最大射程2500キロメートルという「トマホーク」の供与を求め、一時期、トランプ大統領はその要請を受け入れるかのような発言をしていたが、ウラジミル・プーチン露大統領と電話会談した後、姿勢を変えて消極的になった。ロシアが軍事的にも経済的にも苦しいとネオコンが説明、それを信じてトマホーク供与へ傾いたのだろうが、後に正しい戦況を聞いて方針を変えたのだろう。 トランプ大統領がトマホークを供与しないと言い始めると、イギリス政府はウクライナへ射程距離250キロメートルから560キロメートルの「ストームシャドウ」を追加供与したと伝えられている。 ウクライナ政府がロシア政府と停戦で合意した直後の2022年4月9日にイギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令(ココやココ)して依頼、イギリスは一貫してロシアとの戦争を推進している。2023年にはストームシャドウをウクライナへ供与、ロシア領の深奥部を攻撃できる態勢を整えたのもイギリスにほかならない。 トランプ政権はベネズエラを軍事侵攻する姿勢を見せていたが、そのベネズエラはロシアと戦略的パートナーシップ及び協力に関する協定」を締結、ロシアは批准している。 ロシアのアヴィアコン・ジトトランスに所属するIl-76TD輸送機がベネズエラへ何かを運んできたが、この会社はロシア軍や傭兵会社ワグナーの貨物を輸送したとしてアメリカから「制裁」されていることから軍事物資、あるいは戦闘員を運んできたと言われている。 ベネズエラにはロシア製の防空システムなどがすでに運び込まれていると考えられるが、さらに兵器を持ち込んでいる可能性がある。対艦ミサイルが配備するかもしれない。大統領の警護、あるいは治安対策でワグナーの戦闘員が輸送されたかもしれない。 ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領はロシアとの関係を誇示、アメリカが軍事侵攻した場合にロシア軍が出てくることを示唆した。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官によると、ベネズエラの主権を守るためにロシアは「どんなことでもする用意がある」という。実際にアメリカがベネズエラを軍事的に攻撃した場合、そのアメリカがウクライナを含むロシアの周辺で行っているようなことをロシア軍が行うという警告かもしれない。中国やイランもベネズエラを支援している。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.05
ウクライナ東部の都市で兵站の要衝としても知られているポクロフスクをロシア軍は包囲、残されたわずかな隙間から脱出を試みるウクライナ兵もいるが、全て阻止されていると伝えられている。降伏するか戦死するしかない状態なのだが、そこへウクライナの情報機関GUR(国防省情報総局)が特殊部隊をUH-60Aブラック・ホークで運び、不思議に思う人が少なくなかった。 まず10月28日にGURの特殊部隊11名。この部隊のメンバーがヘリコプターから降り、ロシア軍に殲滅される様子をロシア軍の偵察ドローンが撮影している。10月30日には2機のブラックホークで約20名から24名の特殊部隊員を送り込んだが、最初のケースと同じように殲滅されている。 こうした無謀な作戦を強行したのは、それでも救出を試みなければならない人物、あるいはグループが包囲網の内部にいるからだと考えられている。 NATOの将校という見方もあるが、元CIA分析官のラリー・ジョンソンは、作戦を指揮したのがキリーロ・ブダノフGUR総局長であり、GURは事実上CIAの下部機関であることから、CIAの準軍事組織に属す複数の上級エージェントが閉じ込められていると推測している。ロシア軍は10月下旬までにポクロフスクの約80%を制圧していることから、救出できないと、中にいる人たちは捕虜になるか戦死する可能性が高い。CIAの上級エージェントが拘束されることをドナルド・トランプ政権は望まないだろう。 ちなみに今年8月2日、ロシアのスペツナズ(特殊部隊)はオデッサに近いオチャコフでイギリス陸軍のエドワード・ブレイク大佐とリチャード・キャロル中佐、そしてMI6の工作員ひとりを拘束している。ロシア深奥部に対するミサイル攻撃やテロ攻撃はイギリスの情報機関が指揮していると言われているが、そのMI6はオデッサを拠点にしている。 ベトナム戦争の時に明確になったが、アメリカには二つの戦闘組織が存在している。ひとつ正規軍であり、もうひとつは情報機関と特殊部隊で、指揮系統は全く別だ。1968年3月に南ベトナムのソンミ村でアメリカ陸軍のウィリアム・カリー大尉が率いる小隊に農民が虐殺されたが、これは情報機関と特殊部隊が展開していた農民皆殺し作戦「フェニックス・プログラム」の一環だった。このプログラムを実行したCIAの秘密工作部門は東南アジアのケシを材料にして製造されたヘロインの密輸で資金を稼いでいた。 この作戦が始まったのは、ベトナム戦争が泥沼化した1967年。リンドン・ジョンソン大統領、ディーン・ラスク国務長官、ロバート・マクナマラ国防長官、ジョージ・クリスチャン報道官、ウオルト・ロストウ国家安全保障補佐官、そしてNSC(国家安全保障会議)に所属していたCIAのロバート・コマーが話し合った結果だ。 その直後にコマーはサイゴンへ入り、CIAとMACV(ベトナム軍事支援司令部)が共同でICEXを始動させ、エバン・パーカーを責任者に選んだ。このICEXはすぐに「フェニックス・プログラム」と呼ばれるようになった。その実働部隊としてCIAはPRU(地域偵察部隊)という傭兵部隊を組織している。 SEALs(アメリカ海軍の特殊部隊)の隊員だったマイク・ビーモンによると、PRUを構成していたのは殺人やレイプ、窃盗、暴行などで投獄されていた囚人たちが中心で、フェニックスは「ベトコンの村システムの基盤を崩壊させるため、注意深く計画されたプログラム」だという。 アメリカでCIAと特殊部隊が緊密な関係にあるのは第2次世界大戦中に設置された組織に起因している。 大戦でドイツ軍の主力はソ連へ攻め込んだが、西側に残った僅かな戦力と戦ったのはレジスタンスだった。西側でドイツと戦った国は存在しない。 東部戦線での戦いは1943年2月にスターリングラードでドイツ軍がソ連軍に降伏した時点で勝敗の帰趨は明らかだった。ソ連がドイツへ向かうことだけでなく、レジスタンスの影響力が強くなることが予想されたのだが、レジスタンスの主力はコミュニストだ。そこでイギリスのSOE(特殊作戦執行部)とアメリカのOSS(戦略情報局)内のSOはゲリラ戦部隊のジェドバラを編成する準備を1943年12月にスタートさせ、翌年にフランスで編成された。 大戦後にOSSは廃止されるが、ジェドバラ人脈は生き残り、アメリカでは破壊工作機関OPCや特殊部隊へ流れた。OPCは1950年10月にCIAへ吸収され、翌年1月にはSOを指揮していたアレン・ダレスがCIAは副長官として乗り込んできた。この人脈はNATOの内部へも入り込んだ。このジェドバラ人脈は現在、ウクライナでロシア軍と戦っている。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.04
ウクライナの戦況はNATO諸国の思惑とは違ってロシアの勝利は決定的な状況であり、アメリカのベネズエラへの軍事侵攻計画の前にはロシアが立ちはだかり、イスラエルによるガザでの大量虐殺は世界の庶民から批判されている。そうした中、スーダンで住民が虐殺されていると伝えられている。虐殺していると言われているRSF(即応支援部隊)は一時期、政府側の戦闘部隊として機能していたが、今は反政府軍だ。 スーダンでは1983年から内戦が始まり、2005年まで続いた。その原因は石油にある。1974年にアメリカの巨大石油会社シェブロンが油田を発見したが、1990年代の終盤にスーダンでは自国の石油企業が成長してアメリカの石油企業は利権を失っていき、しかも中国やインドなど新たな国々が影響力を強めた。 そうした時、スーダンの南部ではSPLM(スーダン人民解放軍)が反政府活動を開始。このSPLMを率いていたジョン・ガラングはアメリカのジョージア州にあるアメリカ陸軍のフォート・ベニングで訓練を受けた人物だ。ガラングは2005年に死亡するまでアメリカ政府の影響下にあった可能性が高い。結局、南部は2011年に独立した。アメリカ軍の補完部隊として機能している自衛隊は2012年1月から17年5月にかけて南スーダンへ派遣されている。 フォート・ベニングにあるWHINSEC(かつてSOAと呼ばれた)はラテン・アメリカ各国の軍人に暗殺、破壊工作などのテクニックなどを教えるために設置された施設で、ここの卒業生が帰国してからアメリカの巨大企業の代理人として軍事クーデターを実行してきた。この施設はかつてSOAと呼ばれ、パナマにあったのだが、1984年に現在の場所へ移動、2001年に名称も変更された。 アメリカでは2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃された(9/11)が、それから間もなくしてジョージ・W・ブッシュ政権は先制攻撃計画を作成している。欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の最高司令官を務めた経験のあるウェズリー・クラークによると、9/11から10日ほど後、彼は統合参謀本部で見た攻撃予定国のリストを見たという。そのリストにはイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランが記載されていた。スーダンも狙われていたわけだ。(ココやココ) スーダンでは西部のダルフールでも2003年から資源をめぐる戦闘が激化した。ダルフールの地下にも膨大な石油が眠っていると見られているのだ。 当初、欧米の国々は南スーダンの石油利権に集中、ダルフールの殺戮を無視していたが、ネオコンはダルフールへ積極的に介入している。その資源に目をつけた隣国チャドの政府が反スーダン政府のJEM(正義と平等運動)へ武器を供給したことも戦闘を激化させる一因だった。チャドの背後にはイスラエルが存在していると生前、リビアのムアンマル・アル・カダフィは主張していた。 そのスーダンで今、住民が虐殺されている。その理由としてイスラエルの置かれた状況も考えられている。パレスチナ人虐殺で苦境に立つイスラエルを救うため、新たな虐殺事件を引き起こし、人びとの視線をイスラエルからスーダンへ向けさせようとしているのではないかというのだ。 スーダンにおける戦乱ではアメリカやイスラエルが重要な役割を演じてきたが、今回の住民虐殺ではUAE(アラブ首長国連邦)が注目されている。世論を操作するほか、ソマリアのボサソを拠点にしてRSFへ軍事支援しているようだ。ここにきてボサソへはIL-76輸送機がUAEから多数飛来、降ろされた物資は待機中の別の航空機に即座に積み替えられ、近隣諸国を経由してRSFへ送られているとボサソ空港のプントランド海上警察幹部は話している。スーダンにおける虐殺の黒幕はUAEだということになるだろう。 ボサソ空港には複数の軍事施設があるほか、物資と同じように運ばれてきたコロンビア人傭兵を収容するキャンプもある。この傭兵もスーダンへ運ばれ、RSFに合流する。戦場で負傷した戦闘員を治療するための中継基地としてもここは機能している。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.03

アメリカやイギリスを中心とする西側諸国は覇権を維持するため、彼らの潜在的なライバルを潰そうとしている。アメリカの軍事や外交を支配してきたネオコンは1992年2月に作成された国防総省のDPG(国防計画指針)草案で明確に知っている。ウクライナやベネズエラでアメリカが行っていることも、そうした計画から派生しているが、ウクライナやベネズエラでアメリカやイギリスが戦っている相手はロシアと中国にほかならない。 21世紀に入ってもロシアと中国が手を組むことはないと信じるインテリが少なくなかったが、バラク・オバマ政権がウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを成功させ、香港で「佔領行動(雨傘運動)」なる反中国運動を展開した2014年から状況は大きく変化した。このふたつ工作ではイギリスも重要な役割を演じている。ウクライナと香港における米英の動きを見てロシアと中国は接近、この2カ国は現在、「戦略的な同盟関係」にある。 1992年のDPGでネオコンは新たなライバルの出現を許さないと宣言していた。潜在的ライバルとされた地域のうち西ヨーロッパは自滅、日本はアメリカに従属しているが、中東は不安定でイランという自立した国が存在、ロシアと中国はすでに強力なライバルに成長した。中露の周辺には欧米帝国主義国から自立しようとする国々は集まりつつある。 ロシアと中国は天然資源があり、生産力もある。金融マジックの世界へ入り込んだ西側諸国には資源も生産力もなく、自らが作り出す幻影の中で生きている。その幻影の中心には「通貨」という呪物が据えられている。実態のない幻影の世界で自分たちが無敵だと信じ込んだ西側諸国が実態のあるロシアと中国に戦いを挑んでいるのが現在の状況だ。 ウクライナの魅力として資源が喧伝されてきたが、穀倉地帯が広がっていることでも有名。その穀倉地帯の約4分の1を外国企業が所有している。2022年には約3分の1をカーギル、デュポン、モンサントの3社が所有、この3社は効率性を高めるため、コンソーシアムとして契約を締結して事業を開始した。このコンソーシアムは事実上、ウクライナの土地の半分以上を支配している。 カーギル、デュポン、モンサントには黒幕が存在する。3社の主要株主には巨大金融機関のブラックロック、バンガード、ブラックストーンが名を連ね、ウォロディミル・ゼレンスキーはブラックロックのほかJPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスと協力関係にある。ブラックロックは2022年後半からウクライナ政府のコンサルタントを務め、ブラックロック傘下の企業はウクライナの戦略的資産の大部分を支配するようになったと報道されている。ちなみに、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相はブラックロックで監査役を務めていた人物で、エマニュエル・マクロン仏大統領はロスチャイルド銀行で働いていた。 ロスチャイルド一族のうちイギリスを拠点にする故ジェイコブ・ロスチャイルドはソ連が消滅した後、ロシアで暗躍している。ボリス・エリツィン時代のロシアでオリガルヒとして同国の資産を略奪していたミハイル・ホドルコフスキーによると、彼が所有していたロシアの石油会社ユーコスの支配権はジェイコブ・ロスチャイルドに渡ったという。 彼はロシアの石油をほぼ手中に収めていたのだが、その野望はウラジミル・プーチンに砕かれた。冷戦時代からソ連/ロシアを支配しようと工作してきたジョージ・ソロスはロスチャイルド一族とビジネス上、緊密な関係にある。 ウクライナ軍の兵站にとって重要なポクロフスをロシア軍は包囲、その中には約5000名のウクライナ兵がいると言われている。クピャンスクも似た状況だ。ウォロドミル・ゼレンスキー政権は包囲されていることを否定しているが、西側の有力メディアでさえこの事実を否定できない。 そのポクロフスが制圧されるとドンバス地域におけるウクライナ軍の苦境はさらに強まるため注目されている。ウクライナ人をロシアと戦う代理人として使っているNATO諸国はそれでもロシアと戦い続けるように要求しているのだが、すでにウクライナ軍は崩壊状態で、死傷者の数はロシア軍の数十倍だと言われている。 すでに正規軍でロシア軍と戦う能力がなくなっているウクライナ側にはイギリスやフランスの軍人や情報機関員が入っている。西側から供与された射程距離の長いミサイルはウクライナ人だけでは使えない。オペレーターのほか、目標に関する情報、ミサイルを誘導する衛星が必要であり、すでに代理戦争の時期は過ぎ、NATOが直接ロシアを攻撃している。ロシアに対するテロ攻撃にもイギリスのMI6は参加している。 トランプ大統領が軍事侵攻するのではないかと言われているベネズエラではロシア軍が防空システムが供与されたようだが、対艦ミサイルも配備、さらにクーデター対策として傭兵を送り込んだ可能性がある。ラテン・アメリカ諸国との関係を強めている中国も何らかの形で支援するだろう。もしアメリカ軍がベネズエラへ侵攻した場合、大きなダメージを受けると見られている。**********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.02

ドナルド・トランプ米大統領がアナウンスした中国やロシアに対する政策はことごとく失敗している。外部から見ていると当然のことなのだが、トランプには状況が見えていない。そうした現実がここにきて明確になってきた。CIAでは1970年代後半から優秀な分析官が排除され、イランへ軍事侵攻した2003年頃から軍の中枢は軍需産業と癒着した将軍たちで占められるようになったようだ。 そうした人びとのアドバイスに従い、トランプはロシアが疲弊しているという前提で圧力をかけたが、軍事的に圧倒的に優位なロシアはトランプの思い通りに動かない。またロシアだけでなく中国に対しても経済戦争を仕掛けたが、アメリカを含む西側諸国にダメージを与えることになり、欧米諸国は世界で孤立することになった。 ロシアと中国には天然資源があり、生産力もあるということを理解していれば、金融マジックが作り出す幻影の中に生きている西側諸国が窮地に陥ることは見通せたはずだ。実際、そのように警告する人は少なくなかった。 トランプに限らず、アメリカ政府を動かしてきた人びとは自分たちが優秀であり、ロシアや中国は劣等だと信じ、戦争をすれば簡単に勝てると思い込んでいる。いわゆるネオコンだ。自分を天才だと信じている愚か者がトランプの周辺を固めているため、大統領はアメリカとロシアの戦力や生産力を認識できていない上、戦況に関する情報も知らない。 アメリカ政府の内部にもネオコンの「マッチョ」的な主張を批判する人もいたという。例えば国務省のINR(情報調査局)のアナリストだが、その意見を不愉快に感じたトランプは苛立ち、意に沿わない分析をする人たちは排除されていく。今年7月にはロシア・ユーラシア・グループに所属していたアナリスト3人が解雇され、もう1人のアナリストが辞任したと伝えられている。 ウクライナによるロシアの石油や天然ガスの施設に対する攻撃はイギリス政府の情報機関や軍が主導していると見られているが、アメリカ政府も容認しているのだろう。この攻撃によってロシア政府は踏ん切りがついたようで、大規模な報復攻撃を始めただけでなく、核戦争の準備を始めた。 ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャの4地域全体をロシアの支配下に置くことを認め、NATOに加盟する意思をウクライナは正式に放棄することに加え、ウクライナの非軍事化と非ナチ化もロシア政府は求めてきた。その求めに欧米諸国は応じる意思がないと判断したのだろう。 ネオコンのネットワークはアメリカだけでなく世界に広がっている。そのひとりがポーランドのラドスワフ・シコルスキ副首相。ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を2014年2月22日に排除したクーデターを現場で指揮していたネオコンのビクトリア・ヌランドの友人だ。 シコルスキは高校生だった1981年6月にイギリスへわたり、同年12月にポーランドで戒厳令が敷かれると彼は政治亡命が認められ、オックスフォード大学へ入学する。 大学では学生の結社「ブリングドン・クラブ」へ入るが、その結社のメンバーは多くがイートン校の出身、つまり富豪の子どもたちで、素行の悪さを「売り」にしていた。大学を卒業した後、シコルスキはオブザーバー紙やスペクテイター紙の記者として働くが、2003年から05年まではネオコンの拠点として知られているアメリカン・エンタープライズ研究所に所属していた。 ブリングドン・クラブが創設されたのは1780年で、シコルスキと同じ1980年代のメンバーにはボリス・ジョンソン、デイビッド・キャメロン、ジョージ・オズボーン、トニー・ブレアといった後の政治家、そして金融界に君臨しているナット・ロスチャイルドも含まれている。また帝政ロシアの有力貴族だったフェリックス・ユスポフもクラブのメンバーだ。彼は1909年から13年にかけてオックスフォード大学で学んだが、その時に入会している。 オックスフォード時代、フェリックスはクラスメートのオズワルド・レイナーと親しくなるが、この人物は後にイギリスの情報機関SIS(秘密情報局、通称MI6)のオフィサーになる。それだけでなく、ユスポフ家が雇っていた家庭教師の子どもとして1876年2月に生まれたスティーブン・アリーものちにMI6のオフィサーになった。ちなみに、フェリックスが生まれたのは1887年3月である。 フェリックスがオックスフォードでの留学を終えた翌年の1914年には第1次世界大戦が勃発するが、ロシアの支配層は戦争に反対する大地主と参戦を主張する資本家が対立していた。大地主の主張を代弁していたのがグレゴリー・ラスプーチンで、そのバックにはアレクサンドラ皇后がいた。 そうした中、ラスプーチンは腹を刺されて入院、その間にロシアは参戦を決めたが、退院後もラスプーチンは戦争に反対する。1916年の後半に入るとフランス軍やイギリス軍は疲弊、ロシア軍を離脱させるわけにはいかず、ラスプーチンの存在はイギリスにとって大きな問題だ。 その年にイギリス外務省はサミュエル・ホーアー中佐を責任者とする情報機関のチームをペトログラードへ派遣、そのチームにはフェリックス・ユスポフと関係の深いステファン・アリーとオズワルド・レイナーも含まれていた。 ペトログラードにおけるイギリスのお抱え運転手だったウィリアム・コンプトンの日記によると、彼はレイナーをユスポフの宮殿へ1916年10月の終わりから11月半ばにかけて6回にわたり運んだという。ユスポフは1916年12月19日にレイナーと会ったと書き残している。(Joseph T. Fuhrmann, “Rasputin,” John Wiley & Son, 2013) 1916年12月30日にラスプーチンは暗殺されたが、殺害に使用された455ウェブリー弾はイギリスの軍用拳銃で使われていたもので、殺害現場にいた人の中でその銃弾を発射できる銃をもっていたのはレイナーだけだったという。 そして1917年3月の「二月革命」でロマノフ朝は倒されるが、この時にボルシェビキの幹部は亡命中か刑務所に入れられていた。革命後に成立した臨時革命政府は戦争を継続、ドイツは両面作戦を続けなければならない。 そこでドイツ政府は即時停戦を主張していたボルシェビキのウラジミル・レーニンキに目をつけ、ボルシェビキの幹部32名を外務省の「封印列車」でロシアへ運んでいる。レーニンが帰国したのは1917年4月。ボルシェビキが実権を握ったのは11月の「十月革命」だ。その翌年から1920年にかけてイギリスとフランスはアメリカや日本を巻き込んでソ連へ軍事侵攻している。いわゆる「干渉戦争」だ。 レーニンはドイツとの戦争を終結させたものの、アメリカが参戦していたこともあってドイツは敗北するのだが、こうした経緯があるため、ドイツとソ連の関係は良かった。悪化するのはアドルフ・ヒトラーが率いるナチスが台頭してからだ。そのナチスにイギリスやアメリカの金融界は資金を提供していた。 ロシアを攻撃し続けてきたイギリスは19世紀からロシア征服を目論んでいる。その長期戦略を始めたと言われている政治家がヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)。ロシア征服戦略を始めただけでなく、ビクトリア女王を説得して第1次アヘン戦争(1839年9月から42年8月)と第2次アヘン戦争(1856年10月から60年10月)を始めている。この歴史をロシア人が忘れたとは思えない。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.11.01

ロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長はウラジミル・プーチン大統領に対し、ウクライナ北部のクピャンスクとドネツクに近いポクロフスクでウクライナ軍部隊を包囲したと報告した。それぞれ5000名、つまり約1万人の兵士が降伏するか全滅する運命にあるというわけだ。ウクライナ側の兵站は途絶えている。 ロシア軍はウクライナ東部の都市ポクロフスクをほぼ完全に包囲し、機動力の高いロシア軍部隊の小集団が市内に侵入した後、同市を制圧する寸前だとする情報をロイターは伝えている。 ウクライナを舞台とした戦争でNATO軍がロシア軍に負けていることは西側の有力メディアも認めざるをえない状況で、そうした事態になっても不思議ではないのだが、この包囲作戦で興味深いのは、ロシア軍の兵士が包囲しているだけでなく、航空機、ドローン、砲撃といった方法が使われていることだという。ロシア兵がいない場所でもウクライナ/NATO軍の戦闘員は包囲網を突破できない。 現在、ウクライナ大統領を自称しているウォロドミル・ゼレンスキーは2019年の大統領選挙でロシアとの関係修復を訴えて当選している。その時のアメリカ大統領はドナルド・トランプだが、その前任者であるバラク・オバマは2014年2月にネオ・ナチを使ったクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒し、ウクライナを属国化していた。 トランプ政権もウクライナを自立させるつもりはなかっただろうが、2021年にオバマ政権で副大統領を務めたジョー・バイデンが大統領に就任、新大統領はオバマ時代と同じようにロシアを敵視する政策を推進し、プーチン露大統領を挑発し続けた。そして2022年に入るとウクライナ/NATO軍は反クーデター派のドンバスに対する砲撃を激化させる。 そして同年2月24日にロシア軍はドンバス周辺に終結していたウクライナ/NATO軍や軍事基地、あるいは生物兵器の研究開発施設をミサイルなどで攻撃、ゼレンスキー政権はロシア政府と停戦交渉を開始、3月5日に両国は戦闘を終えることで合意している。当初、ロシア軍の戦力はウクライナ/NATO軍の数分の一だったが、戦況はロシア軍に有利だった。 その合意を壊したのがイギリスの首相だったボリス・ジョンソンにほかならない。2022年4月9日に彼はキエフへ乗り込んでロシアとの和平交渉を止めるように命令(ココやココ)、ゼレンスキーはその命令に従ったわけだ。 ジョンソンを含むNATO陣営のエリートたちはウクライナ人にロシア人と戦争させ、ロシアを弱体化させた上でロシアを再植民地化して資源を奪おうとしたのだろう。ナチスに支配されたドイツがソ連に軍事侵攻、疲弊させ、ソ連消滅に繋がった「成功体験」を再現し湯としたように見える。 ドイツやフランスが仲介役となり、2014年と15年にウクライナとロシアの停戦で合意する。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」だ。これらがクーデター体制の戦力を増強するための時間稼ぎだったことは、のちにアンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領が認めている。 こうした経験のあるロシア政府が現時点でウクライナとの停戦に合意するわけはない。トランプ大統領が本当に停戦させられると思っていたとするならば、基本的な情報を知らされていないということになるだろう。 ロシア軍は自軍の将兵が消耗しないよう、慎重に戦ってきた。ここにきて進軍のスピードが速まっているが、慌てなかった理由のひとつは兵站にあると見られている。早い段階でロシア軍が一部地域から撤退した理由もそこにある。2014年から8年かけて戦力を増強、地下要塞を含む要塞線を築いていたウクライナ/NATO軍が待ち構えている場所へ進撃するべきでないと考えたのだろう。おそらくこの判断は正しかった。 日本では戦争を陣取り合戦だと錯覚している人が少なくないが、それほど単純ではない。ロシア軍は着実に勝利しつつ、ウクライナ/NATO軍を引き込んで殲滅している。 しかも、新自由主義に毒された西側諸国では1970年代から生産を放棄して金融へシフトした結果、製造能力はロシアや中国に圧倒されているのだが、スラブ人やアジア人を「劣等種」だと思い込んでいる欧米のエリートは現実を認めることができていない。自分たちがアジア人であるにも関わらず欧米の「優生思想」に毒された日本も似たような状態にある。 その結果、ウクライナ/NATO軍は疲弊、その兵器庫は空になり、社会は崩壊しつつある。開戦前に描いていたシナリオとは全く逆の展開なのだろう。ウクライナ側は「総玉砕」に向かっている。中には予定稿を「報道」し続けている国もあるようだが。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.31

ロシアのアヴィアコン・ジトトランスに所属するIl-76TD輸送機がベネズエラに着陸した。この会社はロシア軍や傭兵会社ワグナーの貨物を輸送したとしてアメリカから「制裁」されている。ベネズエラにはロシア製の防空システムなどがすでに運び込まれていると考えられるが、さらに兵器を持ち込んでいる可能性がある。対艦ミサイルが配備するかもしれない。地上作戦も予想されていることから、ワグナーの戦闘員が輸送されたとも考えられている。 今年5月にモスクワで署名されたロシアとベネズエラの「戦略的パートナーシップ及び協力に関する協定」がロシアで数日前に批准された。この協定はエネルギー、鉱物資源の採掘、輸送、通信を含む政治経済分野、安全保障、テロ対策、過激主義対策における二国間協力を強化するものだとされている。 その間、8月中旬にアメリカのドナルド・トランプ大統領は、認石油埋蔵量が世界最大であるベネズエラの沖へアメリカ海軍の駆逐艦3隻を派遣、軍事侵攻する姿勢を見せた。 ロシアの石油を奪うことに失敗、中東ではイランの体制を転覆させられず、中国との資源戦争で負けているアメリカとしては、ニコラス・マドゥロ政権を倒してベネズエラを征服するしかないのかもしれないが、軍事侵攻すればロシアとの戦争に発展する可能性がある。 ベネズエラの刑務所で誕生したという犯罪組織トレン・デ・アラグアを艦隊派遣の口実にしているが、これは2003年3月にイラクへ軍事侵攻する際に使われた「大量破壊兵器」を思い出させる。この大量破壊兵器話は嘘だった。アメリカの有力メディアがトレン・デ・アラグアを初めて取り上げたのは2024年6月のことで、その頃にはベネズエラへの軍事侵攻作戦が作成されていたのだろう。 アメリカのような帝国主義国は植民地を支配するために代理人を使う。その代理人を「シャボス・ゴイム」と呼ぶ人もいるが、ニカラグアのソモサ一族もそのような役割を演じていた。その独裁体制が1979年7月、サンディニスタによって倒され、アメリカを拠点とする巨大資本の利権が揺らぐ事態になった。そこで、CIAは革命政権を倒す秘密工作を開始する。 CIAは反革命軍を編成したが、それにはソモサ体制の武装集団、国家警備隊の隊員を再編成したFDN(ニカラグア民主戦線)、元サンディにスタのエデン・パストーラをリーダーとするARDE(民主的革命同盟)が含まれていた。 こうした秘密工作を実行する際、工作資金としてCIAは麻薬取引を利用してきた。例えば、ベトナム戦争の時には東南アジア(黄金の三角地帯)のヘロイン、アフガン戦争の際にはパキスタンからアフガニスタンにかけてのヘロイン、そしてラテン・アメリカではコカインだ。その源流はイギリスが中国を侵略するために仕掛けたアヘン戦争だと言えるだろう。 1980年代に入るとアメリカではコカインの流通量が急拡大した。イギリスのオブザーバー紙によると、チリの独裁者オーグスト・ピノチェトの側近たちも関係していたようだ。言うまでもなく、ピノチェトの背後にはアメリカの国家安全保障補佐官だったヘンリー・キッシンジャーがいて、キッシンジャーの命令でCIAの秘密工作部門が動き、1973年9月11日に軍事クーデターを成功させ、民主的に選ばれたサルバドール・アジェンデ政権を倒している。 そのピノチェト体制の軍隊と秘密警察は膨大な量の麻薬を1980年代初頭からヨーロッパへ密輸出、その量は96年と87年だけで12トンに達すると言われている。その密輸を監督していたのは、ストックホルムとマドリッドのチリ大使館に赴任していた秘密警察の担当官だとオブザーバーは伝えている。稼いだ資金はチリの支配者を富ませ、秘密警察SNI(1977年まではDINA)の活動資金になった。 CIAとコントラが麻薬取引に関係しているとする話を最初に伝えたのはAPの記者だったロバート・パリーとブライアン・バーガーであろう。ふたりはコカイン取引の話を嗅ぎつけた。 ふたりは取材を通じ、マイアミのエビ輸入会社「オーシャン・ハンター」がコカイン取引に関係している疑いを持つ。コスタリカの姉妹会社「プンタレナス冷凍」から運ばれてくる冷凍エビの中にコカインが隠されているという噂を耳にしたのだ。この噂が事実だということは、後にアメリカ上院外交委員会の調査で明らかにされた。 コントラ関係者の証言を基にして、コントラが資金調達のためにコカインを密輸しているとする記事をパリーたちは1985年に書いたが、AP本社の編集者がふたりの記事に反発、お蔵入りになりかかる。ところが「ミス」でスペイン語に翻訳され、ワールド・サービスで配信されて世界の人びとに知られることになった。 その後、サンノゼ・マーキュリー紙のゲーリー・ウェッブ記者の書いたコカインとコントラを明らかにする連載記事『闇の同盟』が1996年8月に掲載された。 当初、有力メディアはこの記事を無視していたが、公民権運動の指導者やカリフォルニア州選出の議員はCIA長官だったジョン・ドッチに調査を要求し始めると状況は一変した。ウェッブを攻撃し始めたのだ。 コカインが蔓延していたロサンゼルスではジャーナリストや研究者だけでなく、警察官もCIAと麻薬との関係を疑っていた。1980年代になるとロサンゼルス市警は麻薬取引の中心人物を逮捕するために特捜隊を編成、87年に解散した。その直後からアメリカの司法省は麻薬業者ではなく警察官を調べはじめ、その警察官は1990年頃、税務スキャンダルで警察を追放されてしまう。CIAの存在に気づいていた特捜隊の隊員は目障りだったのだろう。 CIAとコカイン取引の関係を疑う声は広がり、ドッチ長官は内部調査の実施を約束せざるをえなくなる。そして1998年1月と10月、2度に分けて公表された。CIA監察室長による報告書、いわゆる『IGレポート』である。内部調査だという限界はあるが、10月に出た『第2巻』では、CIA自身がコントラとコカインとの関係を認めた。 APの記事はアメリカの議会を動かすことになり、上院外交委員会の『テロリズム・麻薬・国際的工作小委員会(ジョン・ケリー委員長)』が1986年4月、麻薬取引に関する調査を開始。1989年12月に公表された同委員会の報告書でもコントラと麻薬業者との深い関係が明確に指摘されていた。 ドナルド・トランプ大統領が本当に麻薬密輸を根絶させたいと思っているのなら、ラングレーを攻撃しなければならない。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.30
このところロシア軍はウクライナの発電施設を激しく攻撃している。その結果、キエフ、スムイ、ドニプロペトロウシク、チェルカースイ、ポルタバ、キロボフラード、ジトーミル、ハリコフなどが停電で闇に覆われた。ウクライナ/NATOによるロシアのエネルギー関連施設への攻撃に対する報復という意味もあるだろう。NATOはロシア産の石油や天然ガスを輸入している国々に対し、ロシアから買わないように圧力をかける一方、ロシアの製油所などを破壊して供給能力を低下させようとしている。 ウクライナを舞台としているものの、ロシアが戦っている相手はアメリカやEUである。これらの国々はソ連政府との約束を破り、NATOを東へ拡大させてきた。ロシアから見ると、新たなバルバロッサ作戦にほかならない。しかもボリス・エリツィン時代のロシアでは西側の巨大資本がいわゆる「シャボス・ゴイム」を利用して資産を略奪、庶民は貧困化して西側に対する幻想が崩れ、反欧米感情が強まった。そして登場してきたのがウラジミル・プーチンにほかならない。西側の巨大資本はロシアを植民地化して耕作地や資源を奪おうとしたのだが、それをプーチンは阻止した。 それでも西側諸国は諦めず、NATOをウクライナへ拡大してロシアに対してチェックメイトを宣言するつもりだったようだ。アメリカのバラク・オバマ政権はキエフでクーデターを仕掛け、2014年2月22日にビクトル・ヤヌコビッチ大統領を排除することに成功した。 それに対し、ヤヌコビッチの支持基盤だったウクライナの東部や南部ではクーデター政権を拒否、クリミアはロシアと一体化する道を選び、オデッサでネオ・ナチが反クーデター派の住民を虐殺する様子を見た東部ドンバスの人びとは武装闘争を開始、内戦になった。 クーデター直後、軍や治安機関では約7割がクーデター政権を拒否して離脱、その一部はドンバスの反クーデター軍に合流したと言われている。アメリカはCIAの要員や傭兵会社の戦闘員を送り込んだものの、反クーデター軍に勝てない。そこで西側は停戦に持ち込む。それが2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」だ。これはクーデター体制の戦力を増強するための時間稼ぎだった。これは本ブログでも繰り返し書いてきた。 そして8年。クーデター政権は2022年に入るとドンバスに対する攻撃を強め始めた。そして2月24日にロシア軍はドンバス周辺に終結していたウクライナ軍や軍事基地、あるいは生物兵器の研究開発施設を攻撃しはじめた。 ロシア外務省によると、その時にロシア軍が回収したウクライナ側の機密文書には、ウクライナ国家親衛隊のニコライ・バラン司令官が署名した2022年1月22日付秘密命令が含まれていた。これにはドンバスにおける合同作戦に向けた部隊の準備内容が詳述されていた。 ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ少将によると、「この文書は、国家親衛隊第4作戦旅団大隊戦術集団の組織と人員構成、包括的支援の組織、そしてウクライナ第80独立空挺旅団への再配置を承認するもの」で、この部隊は2016年からアメリカとイギリスの教官によって訓練を受けていたという。 NATO側は8年かけ、兵器の供与や兵士を育成するだけでなく、マリウポリ、マリーインカ、アブディフカ、ソレダルの地下要塞を結ぶ要塞線をドンバスに築いていた。ウクライナの軍や親衛隊はドンバスへ軍事侵攻して住民を虐殺、ロシア軍を誘い出して要塞線の内側に封じ込め、その間に別働隊でクリミアを攻撃するという計画だったのではないかと推測されている。 2022年4月9日にイギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令(ココやココ)する。イギリスを含む西側は簡単にロシアを打ち破れると考えていたようだが、現実は違った。地下要塞が陥落した段階でロシアの勝利は決定的だった。 ウクライナ軍の死傷者数はロシア軍の約10倍と言われ、武器弾薬だけでなく兵士の数も足りなくなる。兵士不足は2023年の段階ですでに深刻で、この年の8月31日までイギリスの国防大臣を務めていたベン・ウォレスは同年10月1日、テレグラフ紙に寄稿した論稿の中でウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘している。 西側諸国はウクライナに対して射程距離の長いミサイルを供与し始めた。ロシアのインフラを攻撃させているが、こうした種類のミサイルではオペレーターのほか、ターゲットに関する情報、ミサイルを誘導する衛星が必要。ウクライナ軍にそうした能力はなく、アメリカがイギリスが行うしかない。その段階でウクライナにおける戦争は事実上、ロシアとNATOとの間で行われている。 NATOはロシアに対する破壊活動も活発化させている。正規軍の戦いでNATO軍がロシア軍に勝てないため、テロを行うしかない。特に盛んなのはイギリスの対外情報機関MI6だと言われている。 2022年9月にはロシアとドイツがバルト海に建設したパイプライン、「ノード・ストリーム(NS1)」と「ノード・ストリーム2(NS2)」が爆破されたが、主犯はアメリカのCIAかイギリスのMI6で、NATO諸国が協力したと見られている。 イギリスの軍やMI6はクリミア橋(ケルチ橋)を破壊し、クリミアを軍事的に制圧しようともしてきた。また、NATOと共同作戦を展開しているウクライナの軍や情報機関は盛んにZNPP(ザポリージャ原子力発電所)を攻撃、外部からの電力供給を断とうとしている。 そして8月2日、ロシアのスペツナズ(特殊部隊)がオデッサに近いオチャコフでイギリス陸軍のエドワード・ブレイク大佐とリチャード・キャロル中佐、そしてMI6の工作員ひとりを拘束したと報道された。オデッサはMI6が対ロシア攻撃を実行する拠点だ。そこをロシアの特殊部隊が襲撃、イギリス側の重要人物を連れ去ってしまった。 ロシアのSVR(対外情報局)は、フランスがウクライナに約2000人の部隊を秘密裏に派遣する準備を進めていると主張した。兵士らはウクライナ国境付近のポーランドで訓練を行っているという。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.29
小泉進次郎防衛相は10月22日の記者会見で原子力潜水艦という選択肢を排除しないと語った。高市早苗が総裁に就任した自民党は日本維新の会と連立することになり、合意書を作成した。そのなかで、長射程ミサイルを発射できる垂直発射装置(VLS)を搭載し、長距離、長期間の移動を可能にする「次世代の動力」を活用した潜水艦の保有に向け政策を推進すると記載されている。 言うまでもなく、原子力潜水艦は核分裂反応で生成されるエネルギーを利用してスクリューを回転させる。沿岸海域で敵の艦船に備える攻撃型潜水艦としても使えるが、それならわざわざ高コストの原子力を使う必要がないだろう。長期にわたって潜水することができ、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射できるからこその原子力潜水艦だ。 アメリカの命令で中国やロシアとの経済的な関係が弱まり、日本企業は厳しい状況に追い詰められている。その苦境を軍需産業で切り抜けようとしているのかもしれないが、そうした政策をとったEUの経済は壊滅的な状態だ。 10月21日から総理大臣を務めている高市早苗は「右翼キャラ」の政治家だが、その高市が防衛大臣に据えた小泉進次郎はネオコンの手先として日本社会を破壊した小泉純一郎の次男で、関東学院大学を卒業した後、成績を無視する形でコロンビア大学大学院への入学が許可された。同大学院では、CIAとの関係が噂されているジェラルド・カーティスの研究室に3年間在籍したという。その後、進次郎はCSIS(戦略国際問題研究所)の研究員になる。 この研究所の創設に関わったレイ・クラインはジョージ・H・W・ブッシュに近かく、1958年から62年にかけてCIA台湾支局長を務め、引き続いて66年までは情報担当のCIA副長官を務めた。その後、1969年から1973年までは国務省情報調査局長だ。 原子力潜水艦の保有は「有識者会議」で提言されていた。つまり官僚たちは高市内閣が成立する前から原子力潜水艦を保有する方針だったと言える。また、日本はイギリスやイタリアと次世代戦闘機プロジェクトのGCAP(グローバル戦闘航空計画)を始動させている。南アルプスの地下を走る巨大建造物が地下要塞として使われるかもしれない。 日本政府は判で押したように「自由で開かれたインド太平洋の実現」を主張するが、有り体に言えば、インド太平洋をアメリカの管理下に置き、中国をはじめとする国々の海上輸送路を抑え込むこと。そうしたアメリカの戦略に日本は協力するわけだ。 アメリカは同じアングロ・サクソン系国のイギリスやオーストラリアとAUKUSを創設、アメリカ、オーストラリア、インド、日本はクワドなるグループを編成、軍事的な連携を強化してきた。 NATO(北大西洋条約機構)の事務総長だったイェンス・ストルテンベルグは2020年6月、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーとするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言している。AUKUSの後、JAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なる軍事同盟も編成した。 また、AUKUSではアメリカ製の攻撃型原子力潜水艦を売却することになっている。そうした潜水艦を動かすためにはアメリカの軍人が乗り込む必要があり、事実上アメリカ海軍の潜水艦になるとも言えるだろう。山上信吾オーストラリア駐在大使はキャンベラのナショナル・プレス・クラブで2022年11月14日、日本がオーストラリアの原子力潜水艦を受け入れる可能性があると表明している。 日本では核兵器の保有も主張されてきた。そのひとりが石原慎太郎。福島県沖で巨大地震が発生する3日前の2011年3月8日、イギリスのインディペンデンス紙に石原へのインタビューに基づき記事が掲載されている。外交の交渉力は核兵器であり、日本は1年以内に核兵器を開発できるは主張していた。そうしたチンピラ的な発想に対し、ロシアは西側を凌駕する兵器を保有していることを示し、実戦でも使用している。 佐藤栄作政権も核兵器を持とうとしていた。NHKが2010年10月に放送した「“核”を求めた日本」によると、1965年に訪米した佐藤首相はリンドン・ジョンソン米大統領に対し、「個人的には中国が核兵器を持つならば、日本も核兵器を持つべきだと考える」と伝えたという。 1977年に東海村の核燃料再処理工場(設計処理能力は年間210トン)が試運転に入るが、山川暁夫は78年6月に開かれた「科学技術振興対策特別委員会」で再処理工場の建設について発言、「核兵器への転化の可能性の問題が当然出てまいるわけであります」と発言している。実際、ジミー・カーター政権は日本が核武装を目指していると疑い、日米間で緊迫した場面があったという。 しかし、1981年にロナルド・レーガンが大統領に就任するとアメリカ政府の内部に日本の核武装計画を支援する動きが出てくる。東海再処理工場に付属する施設として1995年に着工されたRETF(リサイクル機器試験施設)はプルトニウムを分離/抽出するための施設だが、この施設にアメリカ政府は「機微な核技術」、つまり軍事技術が含まれていた。 調査ジャーナリストのジョセフ・トレントによると、東電福島第1原発が過酷事故を起こした当時、日本には約70トンの兵器級プルトニウムがあったという。自らが生産した可能性もあるが、外国から持ち込まれた可能性もある。トレントだけでなく、アメリカの情報機関は日本が核兵器を開発してきたと確信しているようだ。 第2次世界大戦後、原子力を日本へ導入したのは中曽根康弘である。彼は内務省を辞め、1947年4月の衆議院議員選挙に出馬して当選し、河野一郎の配下に入り、児玉誉士夫と知り合った。 中曽根が権力の階段を登り始めるのは、1950年6月にスイスで開かれたMRA(道徳再武装運動)の世界大会へ出席してからだ。MRAはCIAとの関係が深い疑似宗教団体で、岸信介や三井高維も参加していた。そこで中曽根はヘンリー・キッシンジャーを含むCFR(外交問題評議会)のメンバーと知り合っている。 中曽根は1953年、キッシンジャーが責任者を務めていた「ハーバード国際セミナー」というサマー・スクールに参加しているが、このセミナーのスポンサーはロックフェラー財団やフォード財団で、CIAともつながっていた。 中曽根が国会に原子力予算を提出したのは1954年3月。修正を経て予算案は4月に可決された。その背景には、1953年12月にドワイト・アイゼンハワー米大統領が国連総会で行った「原子力の平和利用」という宣言がある。 1964年10月に中国が核爆発の実験に成功した3カ月後、佐藤栄作首相はワシントンDCを訪れ、リンドン・ジョンソン大統領と秘密会談を実施、もしアメリカが日本の核攻撃に対する安全保障を保証しないなら日本は核兵器を開発すると伝えた。それに対し、ジョンソン大統領は日本にアメリカの「核の傘」を差し出すと約束している。 1976年にアメリカ大統領となったジミー・カーターは潜水艦の原子炉技師を務めた経験を持つ人物で、プルトニウムと高濃縮ウランについて熟知していた。そのカーターは1978年に核拡散防止法を議会で可決させた。この法律はウランとプルトニウムの輸送すべてに議会の承認を得るように義務付け、日本からの多くの機密性の高い核技術の輸入を阻止するものだ。 当時、アメリカのエネルギー省では増殖炉計画が注目されていたが、カーター大統領はその流れにブレーキをかけた。その方針に反発したひとりが原子力規制委員会のリチャード・T・ケネディにほかならない。そのケネディを助けたアメリカ海軍大佐のジェームズ・アウアーは後にバンダービルト大学の終身教授に就任、同大学の米日研究協力センター所長にもなっている。 しかし、1980年にロナルド・レーガンが大統領に就任すると状況は一変し、ケネディたちを喜ばせることになる。そのケネディをレーガン大統領は核問題担当の右腕に据え、ケネディはカーター政権の政策の解体させていく。そして始められたのがクリンチリバー増殖炉計画。エネルギー省は1980年から87年にかけて、このプロジェクトに160億ドルを投入するが、議会は突如、計画を中止する。 世界的に見ても増殖炉計画は放棄されるのだが、日本は例外だった。その日本とアメリカの増殖炉計画を結びつける役割を果たした人物がリチャード・ケネディ。アメリカのエネルギー省と手を組んでいた日本の動力炉・核燃料開発事業団(後に、日本原子力研究開発機構へ再編された)はCIAに監視されていたが、動燃が使っていたシステムにはトラップドアが組み込まれていたとも言われている。 この計画に資金を提供することになった日本の電力業界の関係者は核兵器に関する技術を求め、兵器用プルトニウムを大量生産していたプルトニウム分離装置をリストに載せた。東海再処理工場に付属する施設として1995年に着工されたRETF(リサイクル機器試験施設)はプルトニウムを分離/抽出するための施設だが、この施設にアメリカ政府は「機微な核技術」、つまり軍事技術である遠心分離機が運び込まれている。 アメリカは日本へ技術を提供するだけでなく、日本へ限りなく核物質を輸出し、それを制限なくプルトニウムに再処理し、他国へ再移転する権利が与えられていた。 それだけでなくイギリスやフランスの再処理業者が日本へ返却するプルトニウムも核兵器に使用できるほど純度が高く、アメリカ産の核物質はトン単位で日本へ輸送されているようだ。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.28

厚生労働省は10月24日、8月分の「人口動態統計速報」を発表した。死亡者数は12万3121人。COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)騒動が始まる前年の2019年の同じ月に比べて1万1685名増えた。 COVID-19騒動は病原体の特定から全てが「ワープ・スピード」、つまり、ありえない速度で進んできた。まともな調査、研究、分析が実施されたとは思えない。それにもかかわらず、WHO(世界保健機関)は2020年3月11日にパンデミックを宣言、COVID-19は悪霊として世界を徘徊するようになった。 悪霊としてのイメージを広げる出来事のひとつがクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での感染。2020年2月4日に横浜港から出港しようとしていたこの船で患者が見つかり、人びとを恐怖させることになるのだが、「SARSと似た重症の肺炎患者」が街にあふれ、死者が急増するという事態にはならなかった。 2020年3月11日にWHO(世界保健機関)がパンデミック宣言を宣言する直前、NIAID(国立アレルギー感染症研究所)の所長を務めていたアンソニー・ファウチもCOVID-19はインフルエンザ並みとする論文の執筆者に名を連ねていた。 死亡者が急増するのは「COVID-19ワクチン」の接種が始まってからだ。早い段階から帯状疱疹や⾎栓性⾎⼩板減少性紫斑病(TTP)が報告され、ギラン・バレー症候群による末梢神経の障害が報告されるようになった。2021年4月にはイスラエルで十代の若者を含む人びとの間で心筋炎や心膜炎が発症して注目され、接種前から懸念されていた「ADE(抗体依存性感染増強)」も起こる。 この「ワクチン」は遺伝子操作薬と言うべき薬物で、mRNAを細胞内へ送り込み、そこで細胞にSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)のスパイク・タンパク質を製造させ、抗体を作るというもの。本来短時間で消滅するmRNAを分解されにくく細工、またmRNAを細胞内へ送り込むため、LNP(脂質ナノ粒子)で包んでいる。そこで細胞は年単位でスパイク・タンパク質を製造することになり、免疫をはじめ、人体に深刻な悪影響を及ぼすことになった。 接種が始まって半年ほど後、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴ郊外にあるソーク研究所は「スパイク・タンパク質」自体が病気の原因になっている可能性があると発表している。(ココやココ)血管にダメージを与え、ウイルスでなくスパイク・タンパク質が脳へ侵入し、神経にダメージを与えている可能性を指摘したのだが、それは正しかったようだ。 そのほか、LNP自体も副作用の原因になっていると見られている。この物質は人体に有害で、肝臓、脾臓、副腎、そして卵巣に分布すると報告されている。特に懸念されているのは生殖能力へのダメージだ。人類の存続が懸念される事態になっている。 また、スペインのパブロ・カンプラ教授は2021年6月、「mRNAワクチン」の中に「酸化グラフェン」があることを電子顕微鏡などで発見したと発表、11月には周波数の分析で酸化グラフェンが「ワクチン」に含まれていることを確認したと発表している。その論文を読んだドイツの化学者アンドレアス・ノアックは酸化グラフェンでなく水酸化グラフェンだろうと解説したが、その直後に死亡したという。 こうした物質は体に炎症を引き起こすだろうが、「COVID-19ワクチン」は人間が持っている免疫を弱めることも判明している。免疫力が低下すると、通常なら問題にならない微生物が原因で病気になる。つまりAIDS(後天性免疫不全症候群)状態になるわけだ。VAIDS(ワクチン後天性免疫不全症候群)なる造語も使われ始めている。 この「ワクチン」を製造している会社のひとつ、ファイザーの関連文書をアメリカの監督官庁であるFDA(食品医薬品局)は75年間封印しようとした。明るみに出ては困ることが書いてあると認識していたわけだ。 しかし、裁判所は文書の迅速な公開を命令、その内容を分析したサーシャ・ラティポワは2022年初頭、COVID-19騒動はアメリカ国防総省の軍事作戦だと発表した。 ラティポワによると、2020年2月4日にアメリカの保健福祉長官はCBRN(化学、生物、核、放射線)緊急事態に関するふたつの宣言をしている。そのひとつがEUA(緊急使用許可)で、大量破壊兵器が関与する重大な緊急事態を想定、もうひとつはCBRN物質に対する対抗手段を安全性と有効性を確保するため、規制監督なしに使用する許可だ。 つまり医薬品会社は国防総省の契約企業であり、情報開示の義務はない。しかも「COVID-19ワクチン」の接種は軍事作戦であり、何が引き起こされても免責ということになる。 この新薬を接種させる口実に使われたSARS-CoV-2は人工的に作られた可能性が高く、このウイルスに感染した動物は北アメリカで見つかっている。北アメリカの自然界ではシカ、ノネズミ、コウモリを含む5種類の動物が感染していることが判明、それらの種はモンタナ州にあるロッキー・マウンテン研究所で実験動物として使用されていたことが突き止められた。(Jim Haslam, “COVID-19 Mystery Solved,” Truth Seeking Press, 2024) COVID-19騒動で最も重要な点は、「ワクチン」の接種がアメリカの軍事作戦として実施されたということにほかならない。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.27

政府の「インテリジェンス」に関する司令塔機能を強化するため「国家情報局」の創設を検討する方針だということを木原稔官房長官は10月24日の記者会見で明らかにした。情報を収集し、分析する機関を作るというのだ。外務省、警察庁、防衛省の出向者が新組織の中心になるとされている。 アメリカの下で日本を支配しているのはこの軍事、外交、治安のトライアングル。このトライアングルに財務省も逆らえない。1990年代に証券と金融はスキャンダルで揺れた。そのスキャンダルで財務省/大蔵省はアメリカに弱みを握られたはずだ。警察、検察、そしておそらく裁判所も裏金に関する情報をアメリカの情報機関に握られている。情報を収集分析するといってもそれはどのような情報なのか、それ以外のことは行わないのかという問題が当然、生じる。 しかも、この機関創設と並行して「スパイ防止法」を制定するというのだが、プロのスパイにとってそうした法律は意味がない。アメリカでもこの種の法律はジャーナリストがターゲットになる。日本の大手マスコミにジャーナリストと呼べるような記者や編集者がいるとは思えないが、大手マスコミ以外にジャーナリストは存在するかもしれない。 かつて、アメリカでは情報を収集分析する機関として、国家安全保障法に基づいてCIA(中央情報局)が1947年に設置されたのだが、アレン・ダレスやジョージ・ケナンのような人びとは破壊活動を実行する機関の創設を求め、48年にNSC10/2という文書が作成された。 この文書に基づいてOSP(特殊計画局)が設立され、すぐにOPC(政策調整局)へ名称は変更された。OPCの資金やスタッフはCIAから出ていたのだが、指揮系統はCIA長官の下になく、名目上はケナンが創設した国務省のPPS(政策企画本部)が管理していた。OPCは1952年8月1日にCIAの特殊作戦局(OSO)と統合され、計画局(DDP)の支柱になる。計画局の秘密工作を監督するために設置された部署が「工作調整会議」だ。(Stephen Dorril, “MI6”, Fourth Estate, 2000) 破壊工作部門は活動の実態が問題になる多部に名称が変更される。計画局は1973年に作戦局に名称が変更され、2005年からはNCS(国家秘密局)、そして2015年には作戦局へ戻された。 問題になるような活動をしているのだが、CIAは情報を収集分析する機関として創設されたのだ。そこへ破壊工作機関が潜り込み、今ではその部門にCIAは乗っ取られている。そのネットワークは「民間」の世界へも広がり、「国家内国家」として機能している。 OPCは東アジアでも活動していた。創設当初は上海に拠点が置かれていた。第2次世界大戦で日本が敗北した後、アメリカのハリー・トルーマン政権は、蒋介石が率いる国民党に中国を支配させようと計画、軍事顧問団を派遣しているのだが、紅軍(1947年3月に人民解放軍へ改称)は農民の支持を背景として勢力を拡大、1949年1月には北京へ無血入城し、その指導部も北京入り、5月には上海も支配下においた。10月には中華人民共和国が成立する。そうした状況になったため、OPCは拠点を日本へ移動、新たな拠点を厚木基地をはじめ6カ所におく。その段階でOPCは中国への反抗を計画していたはずだ。そうなれば、日本は兵站の拠点になる。(Stephen Endicott & Edward Hagerman, “The United States and Biological Warfare”, Indiana University Press, 1998) その1949年の夏、日本では国鉄を舞台とした怪事件が引き起こされた。7月5日から6日にかけての下山事件、7月15日の三鷹事件、そして8月17日の松川事件だ。これらの事件は共産党が実行したというプロパガンダが展開され、国鉄の組合は大きなダメージを受けた。ストライキによって物資の輸送が滞る心配がなくなったと言える。 海運の拠点である港も重要。特に神戸と横浜でストライキが引き起こされたなら、戦争はできない。そこで港の労働者を抑える仕組みが必要になる。そこで神戸を任されたのが山口組の田岡一雄、横浜を任されたのが藤木幸太郎だ。1949年7月には沖縄の軍事施設費を次年度予算に計上することが決定され、沖縄での本格的な基地建設への扉が開かれた。そして1950年、アメリカは朝鮮半島で戦争を始めたが、その前からアメリカの破壊工作機関は朝鮮半島で挑発活動を始めていた。 ところで、「国家情報局」は内閣情報調査室と内閣情報官を格上げして創設するというのだが、内閣情報調査室は1952年4月に設置された「内閣総理大臣官房調査室」が起源だとされている。首相だった吉田茂の意向を受け、緒方竹虎と村井順が中心になった。村井は国家地方警察本部警備第一課長だった人物で、のちに綜合警備保障を創設する。 村井は1953年9月から3カ月の予定で国外へ出ている。その名目は中曽根康弘と同じようにスイスで開かれるMRA(道徳再武装運動)大会への出席だったが、この組織はCIAの別働隊で、村井は西ドイツのボンに滞在していたアレン・ダレスCIA長官に会うことが本当の目的だったと言われている。新情報機関に関する助言を得ることにあったと推測されている。 しかし、内閣情報室には調査能力がなく、情報機関とは言いがたい存在だった。実際の調査は下請けに出していたのだが、調査を請け負っていた団体の多くはCIAともつながり、内閣調査室に提出される報告書より詳しい内容の報告書がCIAへ渡されていたと関係者は証言している。 官房調査室が設置された当時、公安調査庁も法務省の外局として作られ、旧軍人グループの「睦隣会」が発足、世界政経調査会になる。この旧軍人グループの中心になる有末精三陸軍中将や辰巳栄一陸軍中将は河辺虎四郎陸軍中将、服部卓四郎陸軍大佐、中村勝平海軍少将、大前敏一海軍大佐らと同じように、アメリカの軍や情報機関と密接な関係にあった。こうした親米派の軍人は「KATO機関」、あるいは「KATOH機関」と呼ばれている。 森詠によると、このうち辰巳中将を除く5名は東京駅前の日本郵船ビルを拠点にしていた。その3階には「歴史課」と「地理課」があり、歴史課は1947年5月から50年12月まで活動、地理課は朝霞のキャンプ・ドレークに移転した後、75年まで王子十条の米軍施設内で活動していたと言われている。(森詠著『黒の機関』ダイヤモンド社、1977年) 歴史課には杉田一次陸軍大佐、原四郎陸軍中佐、田中兼五郎陸軍中佐、藤原岩市陸軍中佐、加登川幸太郎陸軍少佐、大田庄次陸軍大尉、曲寿郎陸軍大尉、小松演陸軍大尉、大井篤海軍大佐、千早正隆海軍中佐らが、また地理課には山崎重三郎陸軍中佐など参謀本部支那班の元メンバーが出入りしていた。(前掲書) こうした旧日本軍の軍人たちを統括していたのはGHQ/SCAPのG2(情報担当)を統括していたチャールズ・ウィロビー少将。この人物は親ファシスト/反コミュニスト派として有名で、彼に関する情報はほとんど公開されていない。退役後、彼はスペインの独裁者フランシスコ・フランコの非公式顧問に就任した。 朝鮮戦争の最中、1952年6月に大分県直入郡菅生村(現竹田市菅生)で駐在所が爆破されるという事件があった。いわゆる菅生事件である。近くにいた共産党員2人が逮捕され、3人が別件逮捕されるのだが、後に警察当局が仕組んだでっち上げだということが判明する。 この事件でカギを握る市木春秋(後に戸高公徳が本名だと判明)は事件後に姿を消すものの、共同通信の特捜班が東京で見つけ出し、彼の証言から彼は国家地方警察大分県本部警備課の警察官だということが判明した。ダイナマイトを入手し、駐在所に運んだのも彼だと言うことがわかる。 警察官が爆弾テロを実行しいたわけだが、実行者で有罪判決を受けた戸高は刑は免除され、その判決から3カ月後に警察庁は彼を巡査部長から警部補に昇任させ、しかも復職させている。最終的に彼は警視長まで出世、警察大学の術科教養部長にもなり、退職後も天下りで厚遇された。戸高の事件には、警察という組織全体を揺るがす事実が隠されているということだろう。 いや、日本の警察を超えたところまで波及する可能性がある。松橋忠光元警視監によると、アメリカは1959年から「1年に2人づつ警視庁に有資格者の中から選ばせて、往復旅費及び生活費と家賃を負担し、約5か月の特殊情報要員教育を始めた」という。公式文書に記載された渡航目的は「警察制度の視察・研究」だが、実際はCIAから特殊訓練を受けるのだともされている。(松橋忠光著『わが罪はつねにわが前にあり』オリジン出版センター、1984年) 警察、特に公安はアメリカの管理下にあるわけだが、検察、自衛隊、そして外務も同様だ。これが日本を支配する軍事、外交、治安のトライアングルである。その周辺に有力メディアもある。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.26

イスラエルとイランは6月にミサイルを撃ち合った。その際、イランの攻撃でベン・グリオン国際空港は閉鎖され、コンテナ船を扱えるふたつの港、ハイファとアシュドッドのうちハイファ港は閉鎖されている。 この攻撃の後、少なからなぬイスラエル人が国外へ脱出しているが、行き先のひとつがキプロスで、イスラエル人がそこで不動産を購入していると報道されていた。キプロスのユダヤ人コミュニティは20年前の数百世帯から今では約4000世帯へ拡大、イスラエルの拠点になりつつある。その象徴的な存在が、国際空港がある港湾都市のラルナカ。空港のフェンス周辺と管制塔にイスラエルの治安部隊が駐留しているという報道もあった。 かつてのハイファと似た役回りになりつつある。不動産価格の高騰でキプロス人は締め出される一方、シオニストのためのインフラ整備が整備され、シナゴーグも建設されている。ヨルダン川西岸のような入植地が広がりつつあると懸念する人もいる。 イスラエルがガザを破壊し、住民を大量虐殺している理由のひとつはガザ沖で発見された天然ガス田だと言われているが、そこから天然ガスを輸送するパイプラインはキプロスを経由する計画になっている。 この天然ガス田が発見されたのは2010年。イスラエル北部で推定埋蔵量約4500億立方メートルの大規模なガス田を発見したとノーブル・エナジーが発表している。エジプトからギリシャにかけての海域には9兆8000億立方メートルの天然ガスと34億バーレルの原油が眠っているとUSGS(アメリカ地質調査所)の推定していた。 ちなみに、ビル・クリントン元米大統領はノーブル・エナジーのロビイストを務めたことが亜あり、ヒラリー・クリントンに選挙資金を提供していた。そのヒラリーをジョージ・ソロスが操っていることは2016年に漏れた電子メールで明らかにされたが、そのソロスはロスチャイルド金融資本と結びついている。 イギリスのロスチャイルドを率いていたジェイコブ・ロスチャイルドが戦略顧問として名を連ねていた会社、ジェニー社はイスラエルが不法占拠しているシリア領のゴラン高原で石油開発を目論んでいたことでも知られている。 天然ガスだけでなく、人の移動でもキプロスはイスラエルの重要な中継地になる。また、キプロスにはイギリス空軍のアクロティリ基地があり、そこはイギリス空軍だけでなくアメリカ空軍の偵察航空団も駐留している。ガザでの大量虐殺でも、アメリカやイギリスはイスラエルへの物資の輸送や偵察の拠点としてキプロスの軍事基地を拠点にしてきた。アメリカやイギリスにとってキプロスは地中海から中東にかけての地域における戦略的な要石のような存在だが、イスラエルにとっても重要な存在になるかもしれない。 イスラエル軍がイランを攻撃したのは6月13日のことだが、その10日前の6月3日、超正統派ユダヤ教と宗教的シオニストのコミュニティに属する数人の女性が6月3日にクネセト(イスラエル国会)の公聴会に登場、サディスティックで性的な宗教儀式について証言した。これには児童人身売買ネットワークが含まれていると認識され、大きな問題に発展する可能性があると考えられていた。そのスキャンダルをイスラエル軍のイラン攻撃によって、宗教儀式の話どころではなくなった。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.25

APEC(アジア太平洋経済協力)の年次総会が10月31日から11月1日にかけて韓国の慶州で開催される。その会議にドナルド・トランプ米大統領も出席する予定。その途中、日本に立ち寄るのだが、そこで新首相の高市早苗は恭順の意を表するのだろう。アメリカは日本に対し、サハリンにおける天然ガスの開発から手を引くように求め、日米の軍事的な連携を強化することも要求するはずだ。その矛先は中国とロシアに向けられている。 アメリカの世界戦略は1991年12月にソ連が消滅した際に変化した。その直後、1992年2月にアメリカ国防総省は新たな軍事戦略DPG(国防計画指針)の草案、いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」を作成したが、その中でドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合、要するにドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込むことや、新たなライバルが再び出現することを防ぐとも謳っている。 ソ連の消滅でアメリカが唯一の超大国になったと確信したネオコンたちは他国を気にすることなく傍若無人に振る舞えると考え、国連を無視するようになる。 それに対し、1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗したものの、94年4月に崩壊。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られた。 そうした動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月にジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令する。 その報告書には、10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われていた。沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になった。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。 そして1995年8月、アメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載される。この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆していた。この1995年に日本はウォルフォウィッツ・ドクトリンに書かれている通り、アメリカの戦争マシーンに組み込まれていく。 アメリカのビル・クリントン政権はNATO軍を使い、1999年3月から6月にかけてベオグラードを空爆、翌年の大統領選挙でジョージ・W・ブッシュが次期大統領に選ばれた。ブッシュ・ジュニア政権がスタートした2001年の4月には小泉純一郎が総理大臣に就任、その年の9月にはニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃され、人びとはショックを受けて茫然自失になる。そうした状態を利用し、アメリカ政府は戦争を開始した。 ウェズリー・クラーク欧州連合軍(NATO作戦連合軍)元最高司令官によると、2001年9月11日の攻撃から10日ほど後、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、イラン、スーダンを攻撃対象国リストに載せていた。(3月、10月) アメリカの戦略変更はソ連消滅とロシアの属国化から始まるが、21世紀に入り、ロシアではウラジミル・プーチンをはじめとする勢力が再独立に成功、ウォルフォウィッツ・ドクトリンの前提が崩れた。それにもかかわらず世界制覇プロジェクトを推進し続け、ロシアを再属国化しようと目論み、泥沼から抜け出せなくなった。 支配力が弱まったアメリカは軍事同盟を強化するため、2017年11月にオーストラリア、インド、アメリカ、日本で組織されるクワドの復活を協議。アメリカ太平洋軍は2018年5月にインド太平洋軍へ名称を変更されている。太平洋の拠点は日本、インド洋の拠点はインド、ふたつをつなぐ役割をインドネシアが担うとされた。 そして2020年6月にはNATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長はオーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言、21年9月にアメリカ、イギリス、オーストラリアのアングロ・サクソン3カ国は太平洋で軍事同盟AUKUSを築く。さらにJAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なる軍事同盟も編成した。 こうした仕組みが作られる一方、アメリカは日本列島にミサイル発射施設を建設する。アメリカ国防総省系シンクタンク「RANDコーポレーション」が2022年4月に発表した報告書で説明されているように、アメリカ軍はGBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を持っていた。 その計画に基づき、自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。 RANDは2022年4月の報告書の中で、専守防衛の建前と憲法第9条の制約を気にしている。そこで、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されていた。 ところが、ウクライナで本格的な戦闘が始まっていた2022年10月には、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道があり、23年2月に浜田靖一防衛相はトマホークを一括購入する契約を締結する方針だと語った。その年の10月には木原稔防衛相がアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官に対し、トマホークの購入時期を1年前倒しすることを決めた伝えられている。トマホークは核弾頭を搭載できる。 9月26日に自衛隊の駆逐艦「ちょうかい」がアメリカのサンディエゴへ向かって出航したが、これは艦船を改修してトマホークの発射能力を獲得させ、来年夏頃まで実射試験を実施、その一方で乗員を訓練するためだという。 RANDの報告書が出た半年後には憲法第9条を無視している。こうした日本の動きロシアや中国を刺激していることは間違いないだろう。最近の動きを見ると、すでに中露は対応し始めている。その中国とロシアは朝鮮との連携を強めているが、その朝鮮は10月22日、同国北東部に向けて短距離弾道ミサイル(SRBM)を発射した。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.24

アメリカ政府によると、ドナルド・トランプ米大統領とウラジミル・プーチン露大統領が近い将来、会談する計画はないという。数日前にはハンガリーのブダペストで両国の首脳が会談するとされていたが、その予定が撤回されたようだ。 トランプとプーチンは8月15日にアラスカで会談、インフラへの攻撃を停止することで合意したものの、ウクライナ軍はロシアの製油所や発電所への攻撃を継続、ロシア軍はウクライナのインフラに対する攻撃を再開した。こうした状況が続くと、ウクライナの人びとは厳しい冬を過ごさなければならなくなる。 トランプ大統領は10月21日、記者団に対して「無駄な会談」や「時間の無駄」はしたくないと語ったというが、つまり彼が望む回答をロシアから引き出せないことを理解したということだろう。西側メディアの報道によると、マルコ・ルビオ米国務長官とセルゲイ・ラブロフ露外相との「建設的な電話会談」により、会談は不要になったとホワイトハウス当局者は語り、首脳会談の中止を認めている。 少なからぬ人が指摘しているように、ロシアが求めていることは、ウクライナの非軍事化、非ナチ化、NATOに加盟しないことの保証、ロシア国境付近への西側諸国軍の展開の制限、ウクライナに対する武器供与の制限、ウクライナにおけるロシア語使用の保証、また西側諸国が凍結したロシア資産を返還し、ウクライナの中立を維持すること、そして領土の「現実」、つまりクリミア、ザポリージャ、ヘルソン、ドネツク、ルハンシクにおけるロシアの主権を国際社会が承認すること、そしてウクライナ軍がロシア領から撤退し、NATO軍がウクライナから撤退することを条件としている。 ロシア政府はこの条件を変えるつもりはないようだが、EUの元指導部はこの要求を拒否している。アメリカ政府の内部にもウクライナ担当特使のキース・ケロッグのようなロシア嫌いのネオコンもいて、今でも軍事や外交の分野で影響力を保持している。トランプ大統領が実際、どのように考えているか不明だが、そうした勢力に逆らうことは困難なようだ。ケロッグのアドバイスがあると、それに従ってきた。 しかし、国際情勢を客観的に分析できる人が近くにいれば、ウクライナでNATOがロシアに勝利できないことをトランプ大統領も知っているはず。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」で西側諸国に煮湯を飲まされたロシアが停戦に応じる可能性が小さいことも理解しているだろう。 2019年12月から24年11月にかけてEUの外務安全保障政策上級代表を務めたジョゼップ・ボレル、同じ期間に欧州理事会議長を務めたシャルル・ミシェル、19年7月から22年9月までイギリスの首相を務めたボリス・ジョンソンはウクライナ/NATOが戦場で勝利すると発言、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、ウクライナが戦争に勝利しなければならないと主張してきた。 当初は何らかの理由で彼らはロシアを簡単に打ち負かせると信じていたのだろうが、そうした展開にはならなかった。ウクライナが壊滅的な打撃を受けてもロシアを疲弊させることができ、NATOは疲弊したロシアを倒せいると信じていたかもしれないが、そうした展開にもなっていない。 ロシアには資源があるだけでなく、生産能力が欧米諸国を圧倒している。それがウクライナの戦闘で明確になった。戦場におけるロシア軍の死傷者は少ないため、大規模な動員を実施していない。戦場へ送り出すため、街頭で男性を拉致しているウクライナとは全く違う。 ジョン・F・ケネディ大統領は暗殺される5カ月前の1963年6月10日、アメリカン大学で「平和の戦略」と呼ばれる演説を行なっている。その中で彼は第2次世界大戦中にソ連が受けた苦しみほど大きな苦しみを味わった国はないと指摘している。ドイツ軍との戦いで少なくとも2000万人が命を落とし、国土の3分の1、産業基盤のほぼ3分の2が廃墟と化したとしている。ドイツ軍が1941年6月にソ連を奇襲攻撃して始められた「バルバロッサ作戦」の結果だ。ドイツは西側に約90万人だけを残し、310万人を投入するという非常識な作戦だが、これはアドルフ・ヒトラーの命令で実行されたという。 1941年7月にドイツ軍はレニングラードを包囲、9月にはモスクワまで80キロメートルの地点に到達。ヒトラーはソ連軍が敗北したと確信、再び立ち上がることはないと10月3日にベルリンで語っている。またウィンストン・チャーチル英首相の軍事首席補佐官だったヘイスティングス・イスメイは3週間以内にモスクワは陥落すると推測しながら傍観していた。(Susan Butler, “Roosevelt And Stalin,” Alfred A. Knopf, 2015) しかし、ソ連軍の抵抗でこうした予想通りにことは進まず、ドイツ軍は1942年8月にスターリングラード市内へ突入する。ここでソ連軍に敗北、1943年1月に降伏した。この段階でドイツの敗北は決定的だった。 しかし、ドイツ軍との戦いでソ連は疲弊、結局、国が消滅するまで、その痛手から立ち直ることはできなかった。1991年12月にソ連が消滅してからNATOは東へ拡大するが、それは新たなバルバロッサ作戦にほかならず、ウクライナをNATOが制圧することをロシアが許すはずもなかった。 そしてウクライナでの戦争が始まるのだが、ソ連時代とは違い、ロシアは対策を練っていたようだ。現在、ロシア経済は順調で、財政状況は西側より健全。生産力もEUがロシアの資産を凍結、没収しよと目論んでいるものの、それでもロシアの外貨準備には余裕がある。生産力が高いため砲弾やミサイルが枯渇する兆候は見られない。 この状態が続けばウクライナの被害は膨らむ。すでにヨーロッパ経済は破綻しつつあるが、社会そのものが崩壊する。被害がこれ以上膨らまないようにするにはロシアの要求を受け入れるしかないが、これまで勝てると言い続け、国民に犠牲を強いてきたエリートにとって、それは個人的な破滅を意味する。アメリカ政府の内部にも同じような立場の人もいるが、トランプ大統領はEUと距離を置き、ロシアがウクライナを滅ぼすのを傍観するつもりだろうと推測する人もいる。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.23

日本の政局は日本が破局に近づいていることを示している。「日本は素晴らしい」という宣伝が動画投稿サイトには氾濫しているが、その日本はアメリカを追いかけ、社会は崩壊しつつある。 そうした中、若い女性にスポンサーを紹介するアプリがリリースされ、世界から注目されている。そうした仕組みはこれまでも存在していたようだが、システム化され、路地裏の稼業からビジネスへと昇華されたとも言えるだろう。年収が1000万円以上あることを示す資産証明書を男性は登録時に提出、女性は「若くて可愛い」かどうかが事前にチェックされることになっているようだ。 WHO(世界保健機関)は「COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)」なる悪霊を作り出し、2020年3月11日にパンデミック宣言、人と人の繋がりを断ち切るためにロックダウンも打ち出された。実際にこの政策が採用された国もある。 日本ではそこまで強制はされなかったが、人びとが集まることだけでなく歩行方法までが規制され、経済活動は麻痺、弱者は生活が困難になり、身を売ったり、ポルノ映像に出たりするしかなくなった女性もいるようだ。人身売買も広がっていると言われている。今、世界で話題になっている若い女性にスポンサーを紹介するアプリもそうした流れの中で登場した。 こうした弱者を搾取する仕組みは新自由主義で強化されてきた。その考え方は人間を平等な存在だとはみなさず、貧富の差は神の意思に基づくもので、善行は無意味だとする信仰につながる。 富を一部の人びとに集中させる新自由主義が実際の政策に初めて取り入れられた国はチリ。1973年9月11日の軍事クーデターでその国の実権を握ったオーグスト・ピノチェトはCIAの秘密工作部門に操られていた人物で、その当時、ヘンリー・キッシンジャーが国家安全保障問題担当大統領補佐官としてその部署を指揮していた。その経験に基づき、マーガレット・サッチャー英首相がイギリスに導入した。日本で新自由主義路線へ舵を切ろうとしたのは中曽根康弘だ。国鉄や電電公社の私有化はそうした流れの中で強行された。 収入が多くない家庭の子どもから学ぶ権利を新自由主義は奪う。特にアメリカはひどい状態。出世の道が開かれている「アイビー・リーグ」と呼ばれている大学へ入るためには多額の授業料を支払う資産とコネが必要。 そうした大学へ入学させるためには私立の進学校へ子どもを通わせる必要があるが、そこでも膨大な学費を支払わねばならない。そうした支出は中産階級にとって困難。公立の学校は荒廃が進んでいるため、少しでもマシな学校へ子どもを通わせるためには不動産価格の高い地域に住む必要がある。その結果、不動産で家計が破綻する人もいる。 トルーマン・カポーティは『叶えられた祈り』の中でウォール街で働いているディック・アンダーソンなる人物に次のようなことを言わせている。 「二人の息子を金のかかるエクセター校に入れたらなんだってやらなきゃならん!」(トルーマン・カポーティ著、川本三郎訳、『叶えられた祈り』、新潮文庫) 「ペニスを売り歩く」ようなことをしなければならないというのだ。アメリカの中では高い給料を得ているはずのウォール街で働く人でも教育の負担は重い。 大学へ入れても授業料を支払うことが困難な学生は少なくない。そのために登場したのが「シュガー・ベイビー」なるシステム。女子大学生(シュガー・ベイビー)と富裕な男性(シュガー・ダディー)を引き合わせ、「デート」のお膳立てをするというビジネスだ。売春の斡旋と見られても仕方がないだろう。現代版のクルチザンヌだと言う人もいる。日本では、この仕組みをアプリにしたわけだ。 「シュガー・ベイビー」なるシステムに登録している大学のリストを見ると、有力校と考えられている南カリフォルニア大学(583名)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(614名)、コロンビア大学(1008名)、ニューヨーク大学(1676名)も含まれている。 体を売らなければ大学へ通えないという状況はアメリカ以外の国でも問題になっている。例えば2012年11月、イギリスのインディペンデント紙は学費を稼ぐための「思慮深い交際」を紹介するビジネスの存在を明らかにした。日本では「援助交際」と表現されている行為だ。 インディペンデント紙も指摘しているが、2010年代に入ってから、かなりの数の学生が生活費を稼ぐために性労働に頼っていることを示す研究報告が発表されていた。それを承知で学費は値上げされている。 体を売るような手段で学費を稼がずに済んでも、富豪の子供でもない限り、学資ローンで卒業時に多額の借金を抱えることになる。その借金を返済するためには高収入の仕事に就かねばならない。その仕事を失えば破産だ。医師や弁護士が権力者の不正に沈黙する理由のひとつはここにある。 日本でも似たような状態になっていたが、水面下で行われていた可能性がある。マスコミが取り上げなかっただけかもしれない。そうした状態が見えるようになってきた。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.22

自民党の高市早苗が日本維新の会の支援を受け、衆参両院の首相指名選挙で内閣総理大臣に選ばれた。高市に限らず、日本の政治体制は落ちるところまで落ちたと言われても仕方がないだろう。維新は閣僚は出さず、政策協定に基づいて政権運営に協力するのだというが、与党になっても高市政権とは距離を置いた方が得策だと考えたのかもしれない。 高市政権が乗り出そうとしている世界は現在、激動の時代を迎えている。アメリカやイギリスの巨大金融資本を中心とする世界秩序が揺らいでいるのだ。ネオコンは軍事力や経済力を利用してその揺らぎを抑え込もうとしたが、ロシアや中国をはじめとする国々の逆襲にあい、西側諸国の状況は悪化している。アメリカの植民地と化している日本は、その揺らいでいる西側のシステムから抜け出せない。 アメリカが日本に対して要求していることのひとつは中国やロシアと戦争する準備をすることであり、もうひとつはロシアからのエネルギー資源輸入を停止することだ。アメリカのスコット・ベッセント財務長官10月15日、日本がロシアからのエネルギー輸入を停止することを期待すると加藤勝信財務大臣に伝えたという。今月下旬に東京を訪問するドナルド・トランプ大統領に「良い返事」をしろということだろう。 ロナルド・レーガン大統領が1984年にNSDD133(ユーゴスラビアに対する米国の政策)に署名したときからアメリカの対ロシア/ソ連戦争は始まっている。この政策はユーゴスラビアを含む東ヨーロッパ諸国を「静かな革命」で倒そうというものだった。 ユーゴスラビアはIMFの要求に従って国有企業の私有化を進めたが、その結果、ユーゴスラビアのGDP(国内総生産)は1990年に7.5%、91年には15%それぞれ低下、工業生産高は21%落ち込んだ。必然的に企業は倒産し、失業者が街にあふれる。そこでアメリカはローマ教皇ヨハネ・パウロ2世や配下のネオ・ナチを利用して反乱を演出した。その際に西側はネオ・ナチに「民主勢力」というタグを、またセルビア人に「新たなナチ」というタグをつけてイメージ戦争を展開、ユーゴスラビアの解体に取り掛かった。 1991年6月にスロベニアとクロアチアが独立を宣言、同じ年の9月にはマケドニアが、翌年の3月にはボスニア・ヘルツェゴビナが続き、4月になるとセルビア・モンテネグロがユーゴスラビア連邦共和国を結成、社会主義連邦人民共和国は解体された。 さらにコソボのアルバニア系住民も連邦共和国から分離してアルバニアと合体しようと計画、それをNATOが支援する。この間、西側の有力メディアはセルビア人による「人権侵害」という偽情報を広め、それを口実にしてユーゴスラビアを攻撃するよう求めている。 1992年2月にはフランスのランブイエで和平交渉が始まるが、91年12月にはソ連が消滅している。ランブイエでの交渉セルビア側はコソボの自治権を認め、弾圧もやめることで合意、交渉はまとまりかけた。 しかし、それを嫌ったNATOは相手が受け入れられない条件、つまり車両、艦船、航空機、そして装備を伴ってNATOの人員がセルビアを自由に移動できるという項目が付け加えた。事実上、NATOがセルビアを占領するということだ。(David N. Gibbs, “First Do No Harm”, Vanderbilt University Press, 2009) 1991年12月にソ連が消滅した直後の92年2月、アメリカの国防総省は新たな軍事戦略DPG(国防計画指針)の草案を作成した。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、この文書は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 ソ連の消滅でアメリカは唯一の超大国になったとネオコンは確信、世界制覇戦争を始めようというわけだが、そのドクトリンにはドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。要するに、ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を広げるということだ。 また、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことが彼らの目的だともしている。西ヨーロッパ、東アジア、そしてエネルギー資源のある西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。 ソ連が消滅した直後から西側の有力メディアはユーゴスラビアを攻撃するように求めるが、ビル・クリントン政権は自重。クリストファー・ウォーレン国務長官が戦争に消極的だったからだと言われている。その当時、クリントン大統領はスキャンダル攻勢に苦しんでいた。 そして1997年1月、国務長官はウォーレンから反ロシア感情の強いマデリーン・オルブライトに交代、状況は一変した。ちなみに、オルブライトはコロンビア大学でズビグネフ・ブレジンスキーから学んでいる。オルブライトはビル・クリントンの妻、ヒラリーと親しい。ヒラリーは夫のビルに対し、オルブライトを国務長官にするように働きかけたと言われている。そのオルブライトは1998年秋、ユーゴスラビア空爆を支持すると表明した。 アメリカ政府は1999年3月から6月にかけ、NATO軍を使ってベルグラードを空爆。「気高い鉄床作戦」だ。4月にはスロボダン・ミロシェビッチの自宅が、また5月には中国大使館も爆撃されている。この空爆を司令部はアメリカ大使館にあり、指揮していたのはブルガリア駐在大使だったリチャード・マイルズだ。 2000年にはアメリカ大統領選挙が実施された。1999年の段階で最も人気があった候補者は共和党のジョージ・W・ブッシュでも民主党のアル・ゴアでもなく、立候補を否定していたジョン・F・ケネディ・ジュニア、つまりジョン・F・ケネディ大統領の息子。1999年前半に行われた世論調査ではブッシュとゴアが30%程度で拮抗していたのに対し、ケネディ・ジュニアは約35%だったのだ。 しかし、ケネディが大統領選挙に参加することはなかった。1999年7月、ケネディ・ジュニアを乗せ、マサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島へ向かっていたパイパー・サラトガが目的地へあと約12キロメートルの地点で墜落、ケネディ本人だけでなく、同乗していた妻のキャロラインとその姉、ローレン・ベッセッテも死亡している。 そして2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎が攻撃された。いわゆる「9/11」だ。ジョージ・W・ブッシュ政権は即座にアル・カイダが実行したと断定、イラクをアメリカ主導軍で攻撃、アル・カイダ系武装集団を弾圧していたサダム・フセイン体制を破壊した。 ウェズリー・クラーク欧州連合軍(NATO作戦連合軍)の元最高司令官によると、9/11から10日ほど後、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、イラン、スーダンを攻撃対象国リストに載せていたという。(3月、10月) このプラン通りにアメリカは戦争を進め、そして2014年2月にウクライナでネオ・ナチを利用したクーデターを実行、ロシアとの戦争を始めた。この戦争に日本も巻き込まれている。 国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っていた。自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させた。 専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていたが、すでにそうした配慮は放棄されている。 2022年10月になると、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル『トマホーク』の購入を米政府に打診している」とする報道があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。 トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートル。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。 そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることで合意したという。2025年度から27年度にかけて順次納入されることになっている。 こうした時期、思慮深いとは言えない高市早苗が首相に就任することをアメリカは歓迎しているだろう。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.22

1917年11月にアーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ「ユダヤ人の国」を建設する第一歩と言われる書簡を出して以来、パレスチナでは多くの人が殺されてきた。ドナルド・トランプ米大統領はガザにおける和平合意の第1段階をクリアさせたと誇っているが、この合意で地域に平和が訪れると考える人がいたとするならば、その人はパレスチナ問題に関する基本的な知識がないと言える。 この和平合意とは、イスラエル政府とパレスチナ人との間で2023年春から続く一連の衝突に関するものだ。その年の4月1日にイスラエルの警察官がイスラム世界で第3番目の聖地だというアル・アクサ・モスクの入口でパレスチナ人男性を射殺したところからイスラエル政府の挑発は始まった。4月5日にはイスラエルの警官隊がそのモスクへ突入、ユダヤ教の祭りであるヨム・キプール(贖罪の日/今年は9月24日から25日)の前夜にはイスラエル軍に守られた約400人のユダヤ人が同じモスクを襲撃している。そしてユダヤ教の「仮庵の祭り」(今年は9月29日から10月6日)に合わせ、10月3日にはイスラエル軍に保護されながら832人のイスラエル人が同じモスクへ侵入した。 そして2023年10月7日、ハマス(イスラム抵抗運動)を中心とするパレスチナの武装グループがイスラエルを奇襲攻撃する。この攻撃では約1400名(後に1200名へ訂正)のイスラエル人が死亡したとされ、その責任はハマスにあると宣伝された。 しかし、イスラエルのハーレツ紙によると、イスラエル軍は侵入した武装グループを壊滅させるため、占拠された建物を人質もろとも砲撃、あるいは戦闘ヘリからの攻撃で破壊、殺されたイスラエル人の大半はイスラエル軍によるものだと現地では言われていた。イスラエル軍は自国民を殺害するように命令されていたというのだ。いわゆる「ハンニバル指令」である。ハマスの残虐さを印象付ける作り話も流された。 ガザでは建造物が徹底的に破壊され、多くの遺体は瓦礫の下にあるため、何人が殺されたかは明確でない。医学雑誌「ランセット」は2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数は6万4260人と推計、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表した。 「ハーバード大学学長およびフェロー」のウェブサイト「データバース」に掲載されたヤコブ・ガルブの報告書では、イスラエル軍とハマスの戦闘が始まる前には約222万7000人だったガザの人口が現在は185万人に減少、つまり37万7000人が行方不明になっているという。状況から考え、行方不明者の大半は死亡している可能性が高いが、死亡者の約4割は子どもであり、女性を含めると約7割に達すると言われている。 襲撃の直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化している。聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのだ。 その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じたというわけだ。「アマレク人」を皆殺しにするという宣言だが、このアマレク人をネタニヤフたちはアラブ人やペルシャ人と考えているのだろう。 サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言えるだろう。ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。 ネタニヤフは8月23日、ナイル川からユーフラテス川に至る大イスラエルを創設するという「歴史的かつ精神的な使命」を宣言している。だからこそ、ネタニヤフはイランを攻撃したがっているのだ。そうした行為や計画を支援してきた欧米諸国には帝国主義的な野望がある。 イギリスは1920年から1948年の間パレスチナを委任統治、ユダヤ人の入植を進めた。1920年代に入ってアラブ系住民の入植に対する反発が強まると、イギリス政府はそうした動きを抑え込もうとする。 デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用したが、この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立され、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。そして1936年から39年にかけてパレスチナ人は蜂起する。 1938年以降、イギリス政府は10万人以上の軍隊をパレスチナに派遣する一方、植民地のインドで警察組織を率いていたチャールズ・テガートをパレスチナへ派遣、収容所を建設する一方、残忍な取り調べ方法を訓練した。イギリス軍はパトロールの際、民間のパレスチナ人を強制的に同行させていたともいう。 委任政府は外出禁止令を出し、文書を検閲、建物を占拠、弁護人を受ける権利を停止する一方、裁判なしで個人を逮捕、投獄、国外追放している。この政策はイスラエル政府の政策につながる。 反乱が終わるまでにアラブ系住民のうち成人男性の10パーセントがイギリス軍によって殺害、負傷、投獄、または追放された。植民地長官だったマルコム・マクドナルドは1939年5月、パレスチナには13の収容所があり、4816人が収容されていると議会で語っている。その結果、パレスチナ社会は荒廃、1948年当時、イスラエルの「建国」を宣言したシオニストの武装組織に対して無防備な状態となっていた。 第2次世界大戦後、パレスチナにはイスラエルなる国が作られ、そのイスラエルがアラブ系住民に対する弾圧を始める。イギリスの代理人として活動し始めたと言えるだろう。 イギリスはアメリカやオーストラリアで先住民を虐殺、自分たちの国を作り上げた。同じことが中東でも展開されている。今回の和平合意でパレスチナに平和が訪れるとは思えない。イスラエル人にしろ欧米諸国の政府にしろ、アラブ系住民をパレスチナから一掃したいのだとしか考えられない。虐殺の原因をハマスにあると主張する人は、パレスチナ人虐殺を容認しているにすぎない。パレスチナの住民は戦闘に巻き込まれていいるのではない。イスラエル軍のターゲットになっているのだ。***********************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.21

ドナルド・トランプ米大統領はウクライナへ巡航ミサイルのトマホークを供与するとしていたが、ウラジミル・プーチン露大統領と電話会談した後、供与に関して姿勢を変え、消極的になった。ソ連消滅後にロシア征服プロジェクトを始め、ウクライナにおけるロシアとの戦争を推進している西側の勢力は巻き返しを図っているようだ。 トマホークは射程距離が1500から2500キロメートルで、核弾頭を搭載できる。つまりモスクワを核攻撃することも可能だ。このミサイルをウクライナ軍が使うということは、アメリカの軍や情報機関が目標に関する情報を提供し、衛星を利用してミサイルを目標へ誘導しなけらばならない。ロシアが問題にしているこのミサイルを自衛隊とアメリカ軍は与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島に並べる計画だ。 トランプ大統領に反ロシア政策を吹き込んでいるグループの中心には筋金入りのネオコンとして知られているウクライナ担当特使のキース・ケロッグがいる。もしトマホークがウクライナに送られ、ロシア国内の標的への使用が承認されたなら、ロシアとウクライナの紛争の「力学を変える」ことになり、「不確実性」が増すだろうとケロッグは主張しているのだが、S-500やEW(電子戦)システムを含むロシアの防空能力を考えると、この巡航ミサイルが戦況を変えるとは思えない。それでもアメリカがロシアとの戦争で前面に出てくる意味は小さくない。 つまり、トマホークをウクライナへ供与するということは、アメリカの軍や情報機関がロシアを攻撃することを意味する。だからこそロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官はトマホークの供与に関し、状況の重大な変化をもたらすと語ったのだ。アンカレッジにおける米露首脳会談で生まれたウクライナ情勢解決への勢いが失速したとも彼は口にしている。 西側諸国はソ連消滅後、NATOを東へ拡大、2014年2月のクーデターでウクライナに到達した。これは新たなバルバロッサ作戦の始まりを意味するが、それをロシアが容認するわけはなかった。脅せば主導権を握れるとアメリカ側は考えたのかもしれないが、ロシアは中国と同様、脅しに屈しない。実際、ロシア政府はアメリカ政府に対し、圧力や脅迫で目的を達成することはないと伝えたようだ。 歴代のアメリカ政府は外交や軍事の分野をシオニストに任せてきた。ジョン・F・ケネディのように、その政策に逆らった大統領もいたが、政策を変えることはできていない。ケネディの場合、暗殺された。トランプ大統領の周辺もシオニストに囲まれ、その影響下にある。その行動を見る限り、彼はイスラエルに従属しているとしか考えられない。つまりシオニストに操られている。 トランプは2018年8月にINF(中距離核戦力)条約から正式に脱退、ロシアは今年8月に条約を遵守しないと発表した。ウクライナでNATOがロシアに敗北する中、アメリカが始めた行動に対し、ロシアはアメリカに対し、容赦しないことを伝えたと言えるだろう。トマホーク供与に対しても容赦しないということだ。 2020年5月、トランプは既存のミサイルと比べ17倍もの速さで飛行する「スーパーデューパー」ミサイルを開発していると宣伝した。AGM-183 ARRW(空中発射即応兵器)ミサイル、あるいはLRHW(長距離極超音速兵器)を指しているのではないかと言われているが、2023年3月にAGM-183 ARRWプログラムは中止、今のところ、この兵器は空想の産物に過ぎず、LRHWも存在しないようだ。トランプは空想の兵器でロシアと戦おうとしているのだろうか。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.20

トマホーク巡航ミサイルの供給を期待してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーはワシントンDCに乗り込み、10月17日にホワイトハウスでアメリカのドナルド・トランプ大統領と会談したが、トランプの回答はゼレンスキーを失望させたようだ。アメリカが保有するトマホークの数は限られているとして、供給に慎重な姿勢を見せたのだ。 トマホークは核弾頭を搭載でき、射程距離は最大で2500キロメートルある。迎撃されなければ、ウクライナからモスクワを容易に攻撃できる。しかも、このミサイルをウクライナが使うということは、アメリカが目標に関する情報を提供し、衛星を利用してその目標へ誘導しなけらばならない。つまり、事実上、ロシア深奥部をアメリカが攻撃することを意味する。 そうした攻撃が実行された場合、ロシアはアメリカの深奥部を報復攻撃することになるだろうが、すでにロシアはマッハ2.3で飛行できるTu-160爆撃機をアラスカやフロリダの近くを飛行させている。最高速度がマッハ1.6のF-35戦闘機では追いつかない。実際、迎撃したF-35がTu-160に置いて行かれるという醜態を演じたこともあった。 そもそもアラスカでの首脳会談は成功と言えないのだが、その後、ロシアの石油関連施設を攻撃するための情報をアメリカの情報機関はウクライナに提供、ロシアとアメリカの関係はさらに悪化した。トランプは圧力のつもりだったかもしれないが、プーチンにとってウクライナでの戦いは祖国防衛戦争であり、そうした駆け引きは適切でない。 ウクライナへトマホークを供給するという話をトランプが撤回する直前、彼はロシアのウラジミル・プーチンと約2時間にわたって電話で話したという。何が話し合われたのかは明確でないが、プーチンは多くの時間を割いてウクライナの戦況を説明したとも言われている。 ロシアを憎悪しているキース・ケロッグ特使のようなネオコンに囲まれているトランプは「ウクライナは勝っている」という彼らの御伽話に影響を受けているようで、現実を知らせたということ。公開されている情報を分析するだけでもロシアが勝っていることは明確だが、そうした情報が伝わらない態勢になっているとも言われている。 その一方、公表されていない電話会談をロシアとアメリカの首脳は行ってきたともいう。ホワイトハウスのネオコンだけでなく、ロシアとの戦争を推進、ロシアゲートを仕掛けたイギリスのMI6も警戒している可能性がある。 ともかく、トランプはプーチンと電話した後、発言内容が大きく変化した。トマホークを供給すると言えばロシアは停戦に応じるとでも思っていたのかもしれないが、屈服する見込みがないことはわかったはず。戦争がエスカレートしてアメリカとロシアが直接戦う事態になり、核戦争に発展する可能性があることも理解したのだろう。 そして決まったのがハンガリーのブダペストでの首脳会談。同国のオルバーン・ビクトル首相が何らかの役割を果たしたのかもしれないが、ロシアが停戦に応じ、NATOが戦力を回復させてロシアを攻撃する準備をする時間的な余裕を与えることはないはずだ。ウクライナが降伏し、ロシアの主張が認められた場合のみ、プーチン政権は戦争の終結に同意すると考えられている。 そうした中、戦闘能力のないEUはロシアとの戦争準備として「欧州防衛態勢ロードマップ2030」を発表した。EUのエリートを操っている勢力はすでにルビコンを渡っている。後戻りはできないのだろう。*************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.19
アメリカのドナルド・トランプ大統領は10月15日にインドのナレンドラ・モディ首相がロシアから石油を購入しなくなることを確約したと発言した。ところがその翌日、インド外務省のランディール・ジャイスワル報道官は記者会見で、10月15日にインドとアメリカの首脳が会談したとは承知していないと語り、トランプの発言を否定した。 BRICSが崩壊するという話も含め、トランプ大統領の話は何者かの作り話だということ。トランプの周辺で国際情勢について間違った情報を主張している代表格はウクライナ担当特使を務めるキース・ケロッグ退役陸軍大将だ。 トランプの発言はこれまでの流れから考えて疑問だった。誰かが彼にそう説明したとしても、疑問に思うのが当然だ。もし疑問に感じなかったとしたなら、トランプ大統領の思考力もかなり低いと言わざるをえない。自分が考えた作り話だとしても、お粗末。 ネオコンをはじめとする西側の嫌露派はロシアについて「国を装ったガソリンスタンド」、「核兵器を持ったガソリンスタンド」だと揶揄してきた。1991年12月にソ連が消滅した時、彼らは自分たちが唯一の超大国だと確信、他者を配慮することなく、好き勝手に振る舞えると考えるようになったと彼らは考えたようだ。 しかし、21世紀に入ってウラジミル・プーチンがロシアで実権を握ってから状況は一変、ロシアは再独立に成功し、アメリカを中心とする西側世界のライバルになった。そこからロシアを潰そうと必死になるのだが、全て裏目に出ている。ロシアに対する彼らの判断が間違っていることを認識できないほど愚かなのか、認識できても一度決めた道筋を変更できないのかもしれない。ロシアには戦略も生産力も技術力もない「後進国」だという思い込みから抜け出せず、自滅への道を爆進中だ。そうした思い込みの背景には、自分たちが優秀な種族であり、神から選ばれた民だという信仰があるのだろう。**************************************************【Sakurai’s Substack】【櫻井ジャーナル(note)】
2025.10.18
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