Playmate theta

June 2, 2006
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カテゴリ: 超短編
「兄貴は今彼女いないんだよな?」佐々木洋一は兄の亮一の部屋で音楽を聴いている。

兄とは言っても二人は双子である。二人ともに「一」が付くは父親の「同着なんだからどっちも一位だろ」とかいう訳の分からない理由かららしい。二人は小学校から大学まで同じ学校に通っている。高校まではしょうがないにしても大学くらいは別の所に行ったら?というのが母の意見だったのだが、もともと二人は示し合わせてこの大学を選んだ訳ではないのだ。高校三年の頃、洋一は父に行きたい大学を打ち明けた時に、亮一と同じ所じゃないか、と言われて初めて兄の志望校を知ったのだ。全く、あの時は遺伝子が大学を選んでいるとしか思えなかった。しかし、学部は違った。亮一は理学部で洋一は工学部にした。洋一には理を突き詰めて行こうという学者的な探求心はなかったのだ、その代わり専門的な知識と技術を身につけてさっさと就職してしまおうと考えたのだ。女性関係の方も亮一が大人しいのに比べて洋一は全く間がない、というか二股も三股も平気でやってのける。ある時は「二人とも一番だ」という、これまた佐々木家の遺伝子に刻まれた殺し文句で相手も納得で文字通り公然と二股を掛けていたこともあった。

「いないよ」亮一はベッドで音楽雑誌を読みながら弟の問いに答えた。

「じゃぁ、突然可愛い子から『付き合ってもいいわよ』って言われたら付き合うか?」

「なんでその子は、お願い、じゃなくて、許可するんだ?」

「もしもだよ。」

「可愛いより綺麗な方がいい。」

「はいはい、分かったよ。綺麗な子が『付き合ってもいいわよ』って言うんだ。」

「相手とタイミングによる。俺のコンディションとかモチベーションとか。そんなミラクルが起こればの話しだが。そもそもお前みたいに俺は女なんていらないんだよ。」



実は、ついさっき学校で洋一は兄の代わりに大学で見つけた女の子に告白してきたのだ。先日のテニスサークルの新歓で目をつけた法学部の女の子だ。彼女は名前を祥子と言う。かなり美人で少し遊んでそうな感じだが、洋一にしてみればそれくらいが逆に亮一にとっては丁度良いのではないかと、勝手に考えての人選だった。初めに合った時にすぐ思いついた計画だったので言動に細心の注意を払い、新歓での自己紹介でも、名字で通した。学部は迷ったが嘘を付くことだけはフェアじゃないと思い工学部だと言った。まぁ、飲み会の自己紹介なんて誰も聞いてないだろう、との思いもあった。携帯の番号も教えてない。今日は、サークルの帰りに一緒に帰り二人になれる場所に自然に連れて行き、告白した。ここは洋一の地元であり、洋一はその道には精通してる。しかし、この場でokをもらっては全く計画の意味もなくなるので、返事はいつでも良いと言っておいた。もうテニスコートにも近づく気もない。祥子が次ぎに会うのが亮一なら亮一に返事をするだろう。同じ顔なのだ、祥子には判別のしようもない。

洋一としたら、亮一に彼女をつくってやりたい気持ちが3分の1、いつも落ち着きすぎてる兄の驚いた顔を見てやりたい気持ちも3分の1。もし、彼女が次ぎに会うのが自分でも、まぁ、付き合ってもいいかな、という気持ちも3分の一。洋一は兄の顔を見た。驚いたらどんな顔になるのだろうと想像してみたが、想像した顔は自分の顔だった。兄は驚いたりしない。驚くのは自分のいつも役割だった。今度こそは。そう思っていたら目があった。

お見通しだ。と、見えなくもなかった。

いつも本当にお見通しなのだ。いたずらが成就したためしがない。今度こそは。もう一度心の中で言った。





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Last updated  June 2, 2006 12:16:00 PM
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ぷりたん@ 超ラッキー!(* ̄ー ̄) 今まで風イ谷に金出してた俺って超バカスww…
鳥蘭丸@ うにゅぅぅぅぅ…… 可愛がってもらうだけ可愛がってもらって…
桜井心 @ Re:断髪(09/23) とりあえずお久しぶりです☆ あははっ、…
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☆真雪☆ @ 難しい子ですね 私はこういう女の子独特な性格?は持ち合…

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