『子ども達に贈る 12 章』第 8 章 ― 「食物」とは何か
真弓定夫先生の著書『子ども達に贈る 12 章』、今回は第 8 章をご紹介します。
「食は生命なり」 ― 崩れゆく日本の食文化
「食は生命なり」という言葉があります。その生命を支える食文化が、終戦後のわずか 60 年あまりで大きく崩れ、それが国民の健康を損ねる要因になっています。
終戦前の状態に戻すのは容易ではありません。しかし少なくとも、日本食の原点をとらえ直す努力は怠ってはならない ―― 真弓先生はそう語りかけます。
この章では、食の原点を 3 つの視点から見つめ直しています。
三里(四里)四方の食べものを食べる
地球上に生活するすべての動物は、自分で食べものを集め、自分の行動半径内のものを口にするという原点に則っています。人間も例外ではありません。
終戦前には「三里(四里)四方の食べものを食べれば病せず」という言葉がありました。食料自給率が 41% にまで低下した現代では、そのままを実践することは難しい。けれども、その基本的な考え方は大切にしたいと真弓先生は言います。 たとえば東京都の食料自給率はなんと 1% 。東京都で採れる食べものだけで生きようとすれば餓死するほかありません。ならば隣接地域に目を向け、まず千葉・埼玉・神奈川の産物を、それでも足りなければ茨城・群馬・静岡へと少しずつ範囲を広げていく。「地産地消」の精神は、現代にあっても大切な指針です。
四季にあった食べものを選ぶ
日本には四季があります。その季節の変化に応じた食べものを選ぶことが、健康の基本です。
真弓先生が外来で出会った母親の話が印象的です。冬のさなか、トマトや胡瓜を食べながら授乳し、子どもにグレープフルーツジュースを飲ませていた。そこで先生はあえてこう聞きました。「お宅ではクーラーをかけていませんか?」
母親は「そんなものはかけていません」と答える。しかし、トマトや胡瓜は暑い夏に身体を冷やすもの。グレープフルーツやパイナップルは熱帯の食べもの。それらを冬に口にすれば、身体を冷やすのは当然のことです。
食養家・石塚左玄の言葉は、今も色褪せません。
「春苦味、夏は酢のもの、秋辛味、冬は油(脂)と心して食え」
春にはふきのとう・菜花・せりなどほろ苦いものを食べて冬に蓄えた脂をそぎ落とし、夏は酢のものであっさりと、秋はさんまにおろし醤油のように辛みで身体を引き締め、冬はすき焼きや水炊きなど脂ののった動物性食品で寒さに備える。そして春が来たら、また魚介類中心に戻す。昭和 20 年代まで成人病・生活習慣病がなかったのは、こうした食の智恵が生活に根付いていたからなのです。
年間 1500 種類のクスリをとっている ⁉
食べものを考える上で最も大切なのは、「生きものを食べる」ということです。 4000 種類を超える哺乳動物は、生きもの以外のものを一切口にしません。生きものは死ねば腐る。つまり「腐るものを腐る前に食べること」が食の本質なのです。
ところが終戦後、腐らない食べものが氾濫するようになりました。なぜ腐らないのか。食品添加物を加えて加工しているからです。
いま平均的な食事をとっている日本人は、食べものを通して年間 1500 種類ものクスリを口にしているといわれています。これでは病気にならないほうがおかしい、と真弓先生は言い切ります。
消費者保護の立場で活躍するケヴィン・トルドーも、その著書の中でこう断言しています。「株式上場した会社で製造販売している食べものは食べてはいけない」と。かつての八百屋・魚屋・果物店に、上場企業などひとつもありませんでした。
よく噛んで、唾液の分泌を盛んに
アレキサンドル・デュマはこう言いました。「ひとは食べもので生きるのではない、消化されたもので生きるのだ」と。
どんなによい食べものを口にしても、しっかり消化吸収されなければ身につきません。自分の意志でできることは、食べものが口の中にある間だけです。つまり、小さいうちから「よく噛む」習慣を身につけることが非常に大切なのです。
よく噛むことで唾液の分泌が盛んになります。唾液には抗菌作用・抗がん作用があり、免疫力を高め、病気の予防にも役立ちます。またパロチンという老化防止ホルモンも含まれており、よく噛む習慣は長寿にもつながります。
よく噛む力を育てるには、食材はなるべく固いものを選ぶことが大切です。柔らかい食べもの、とくにジュース・ミルク・ヨーグルトのように噛まずに熱量が体に入るものは避けるべきです。終戦後に広まった「軟食文化」が、日本人の健康を静かに蝕んできたのです。
「食は生命なり」 ― 感謝の気持ちを持って食卓へ
私たちは、地球上に生きる植物や動物の生命をいただいて生きています。だからこそ食卓に向かう時には、感謝の気持ちを忘れてはなりません。
「いただきます」「ごちそうさま」 ―― この言葉を家族全員が心を込めて口にすることの大切さを、真弓先生は説きます。この感謝の気持ちが薄れるところから、食べ残し・偏食・日用品を粗末にする習慣が生まれ、やがては環境破壊にまでつながっていくのではないか、と。
真弓先生はこう締めくくっています。「かつて日本人が持っていた森羅万象をいつくしみ、大切にする精神を取り戻していただきたい」と。
脱薬薬剤師より
この第 8 章を読んで、食と薬の関係をあらためて考えさせられました。
「年間 1500 種類のクスリを食べものから口にしている」という現実は、薬剤師として衝撃的な数字です。処方箋に書かれた薬だけではなく、食卓そのものが薬漬けになっているとしたら ―― 。
三里四方のもの、四季の旬のもの、生きているもの。それを、よく噛んで、感謝していただく。その積み重ねが、薬に頼らない身体をつくる土台になるのではないでしょうか。
次回は第
9
章をご紹介します。
治療より予防。薬に頼る前に、まず健康的な生活習慣を。
子どもたちの未来のために、今できることから始めませんか。
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