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(二五)
N駅に停車した。鈍行列車は各駅停車をする。長い車列である。室内は温かいが、冷房は備えておらず、夏は外からの風が頼りだった。しかし、石炭の粉塵により顔が煤け、、窓も全開とはならず、あまり顔を外に出すことは、憚られた。
N駅は、地方都市の玄関口で、人口は30万人、港もあり、多くの運搬船が出入りし、石炭やセメント工場もあったので、各地に運搬をしていた。人も者も流通し、この地方の中核として栄えていた。停車時間は約一〇分、人の乗り降りと、売店で弁当や飲み物を買いに行く人、弁当売りから仕入れる者、僅かな時間が慌ただしく活気に満ちていた。
「嗚呼、しんど・・・御免やす」と言いながら、若い男が僕の席に乗り込んできた。
「すんません、窮屈でっしゃろうけど、横に座らせてもらいますっさ。」
角刈りで、あか抜けた、黒ジャンパーを着た若い男は、普通の勤め人には見えなかった。
男は、持っていたボストンバッグから新聞紙に包んだモノを取り出し、バッグを網棚に押し込んだ。
席に座ると膝の上で新聞紙を広げた。すると出て来たぼは、海苔で巻いた御結びだった。まるで石炭がらの様だった。
「食べますか?・・」僕が顔を横に振ると・
「そうですか・・じゃぁ・・・」
と黒い塊を口に頬張始めた。
「あっ・・俺、黒井謙治っています。」
そういうと、力強く顎を動かし、あッというまに、⒉箇とも咀嚼した。
「アンタ学生さんですな。かなり裕福な家の育ちですな。身なりで分かります。うちは貧乏でした。いつも腹空かせていたで!でもまだよかった。本当のひもじさは、戦争が終わった後です。大坂で生まれたんで、大空襲に遭いましたや。おとんも、お母んも亡くなってしもうた。残ったんわ、わて一人や、寒空に、くすぶる家の前で佇んで、心細くて泣いておりましたんや。それから3日間何も喰わずフラフラ焼け跡を歩いていましたや。でも体力が尽きて意識を無くして倒れてしもうた。・・・・・・ふと、目を開けると、真っ黒い顔した兄ちゃんがいた。・・・俺を上から見ていた」
『おお、生きとったんか!』
「周りで笑う声がきこえとった・・・」
『おい、腹減っとんじゃろ!これを喰え!』
「差し出されたのは、サツマイモじゃった。あんちゃんからもぎ取った。貪り喰っ た。しかし、半分食べて咽た。」
「馬鹿じゃのう・・飲め!」
「貰った水を一口飲むと胸のつかえが納まった。改めて兄ちゃん達を見回した。
浮浪児の集団だった。髪はボサボサ真っ黒い顔をして皆おなじに見えた。
おおき に!俺はみんなに、何度も言った。・・・
そして、俺は兄ちゃんたちと一緒に暮らし始めた。
俺達の住み家は、焼け残った小さな倉庫を継ぎはぎした場所だった。こんなあばら家でも安心して暮らせる場所だった。俺達は何でもやった。かっぱらい、盗みもやった。でも人を傷つけたり暴力はしなかった。子供が力を合わせ必死に生き抜くためには仕方ない行為だった。
リーダーの兄ちゃんは、勝といった。年は15歳だった。勇気が有った。彼が泣いてる姿は見たことがなかった。優しく頼りになった。俺達は安心して兄ちゃんについて行った。」