統音気合

統音気合

2016.05.03
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導入部の後、唐突に主演男優の率いるタップダンサーらによるダンスシーンがあり、そこはやっぱり、唐突にダンスと歌とくるインド映画なのね、と納得。

おっと、これでせっかちな性分であることを暴露してしまうけれど、つぶやきたいこと、書きたいことがあるのに、なかなか思うに任せない状態であれば、なるべく、時間や言葉を節約せねばなるまい。
とにかく、久方ぶりに心を揺さぶられた映画に出会ったので、思わず気がせきながらも、幕を開けてしまいました。

舞台は、前世紀末、シカゴ。
マジックを主体にしたショー形式の出し物にサーカスの未来を見いだした、ある経営者が取引先の銀行家に新作を披露後、子供の見ている前で自殺してしまう。
融資を断られた挙句、頭取からこのサーカスに未来はないとの侮辱を受け、冷酷に差し押さえ宣告をされてのこと。

確かに銀行家に見せた新作は、資金詰まりで、かなりしょぼい演出ではあったが、現実の浮世では、頭取の言う、『人々の見たがるはずの猛獣ショーや血なまぐさい演出』のサーカスはいつの間にか姿を消しております。
そして、いつの頃か、スマートで美しい人間による曲芸を中心に据えたストーリー性を持つステージへと変貌し、今ではそれがサーカスとして、もてはやされております。
この頭取や銀行は、計算一本やりで、未来を見据える目を持たなかったわけですが、それにしても、子供の見ている前で破産宣告した挙句、顧客をその場で自殺させるなど、どうかと思いますね。法人とか団体にしても、人間相手の商売なのに。


成長したその時の子供、サーヒルの鍛え抜かれた肉体、あの時父親にかぶせてもらった帽子で、彼が父の遺志を継いだサーカスの芸人であり、不敵な何かを仕掛けようとしていることを暗示するシーン。
まったく意志の力はすごい、というか、人間鍛えればこうまでなるのかと思えるような肉体美をご披露いただき、インドではスターも、体作りは大変なのだと頭が下がる思いです。
いや、時と金と人材や方法を尽くしても、それができるものだけが、生き残ってスターになれるのかもしれませんね。
ほかの人にはない何かがある、だけでは、チャンスという名の、天から落ちてくる何千分の一かの黄金の雨粒に当たるのは奇跡でしょう。
だからこそ、努力とか精進とか継続することがモノを言うのですね。

件の銀行は、魔法のような手口で金庫破りをされ始めます。
思わず笑ってしまうような壁走りシーンや007ばりのバイクアクションに、映画は娯楽なのだと得心。
後に残されたメッセージから犯人はインド系と目され、インドから有能な刑事が呼び寄せられ(こちらが本来の主人公。)、手口はますます鮮やかにエスカレートしてゆきます。
バイクが空を飛び、川の中に消えては、また飛び出す。
逃走中の犯人を狙撃したので、本拠地のサーカスへ乗り込む、本来の主人公刑事トリオ。
シルク・ドゥ・ソレイユ張りの美しい舞台終了後、逮捕しようとするが、主演を務めたサーヒルには、肝心の傷跡がない。しかもステージという立派なアリバイもある。


そう、映画は娯楽。
いかにストーリー性に脆弱なところがあろうが、わけもなく歌い踊ろうが、つじつまが合わなかろうが、現実味に乏しかろうが、ナンセンスであろうが、見ているものをいかに楽しませてくれるかが、大事。
その中にいくばくかのメッセージがあれば、それで申し分ないでしょう。
映画や舞台という手段で教育されるのではなく、浮世の憂さを晴らし、夢を頂くのだから。

そうでないと、ちゃんと改造中のシーンが描かれているのに、登場したのと同じ種類のオートバイが映画館に展示されたら、『このバイクは、空を飛びませんし、水に潜れません。』等と立札を立てることになりかねないじゃないですか。―本来なら、『本作では主人公悪役のサーヒルが、展示しておりますこの型のバイクを改造したことになっております』で、ある。



ミステリーの肝心の謎を明かし、手の内をさらけ出した後は、細かい心理描写や背景、作品の抱えている問題が浮上します。

サーヒルの影武者を演じる弟のサマルは亡き父に『天使』と呼ばれておりました。
発達障害、ADHもしくは自閉気味と思われるサマルは、誰かと目を合わせてしゃべることは難しい設定。
どもったり、首を傾げたり頭を振ったり、きょときょと落ち着かず、まっすぐ立っていれないリアルな演技の素晴らしさ。
まさしく神様からの贈り物というしかない存在ではあるけれど、この手の児童は、普通に幼稚園や学校に通っても、移民であることも加わり、差別やいじめの対象になりやすく、特別な施設行き。
それゆえ、そして、日々の糧であるマジックの為に、俗世間と切り離し、閉じこめるようにして育てることにした父親の愛がうかがえます。実に細やかで深い父性愛ですね。

サーヒルの双子の弟サマルは、常人を凌駕するサヴァンのような特異な才能を、『神様から与えられたごほうび』と受け止め、銀行への復讐のために活用してますが、かなうことなら、もっと鮮やかな方法で、早く銀行への復讐を済ませて無事逃げおおせ、人生の次のステップに活用したらどうか、と思ってしまうのです。

神様から授かったものは、自分達のためだけに使うものではないから。
そして人は誰でも、その人にしかできない何かをしていくという役目があるのだから。

サマルとサーヒルが自分の部屋でくつろぐ食事をするシーン。
外は土砂降りの雨という手で、そこが外界から隔てられた双子のプライベートゾーンであることを暗示。
負傷したサマルの手当てで始まり、五感の発達したサマルの目で見た『父が銀行に殺された日』が描かれるのです。

続いて、2人の日常生活。
料理の材料となるハーブは、幽閉されている日常を慰めるべく、いくつもの鉢で育てられており、その秘密のスパイスを使い、よりおいしい食事を作る工夫を凝らし、父の教えを忘れずお行儀よく楽しんで食事するサマル。
かたや障害のある弟を抱えて、世間に真正面から対峙してきた兄サーヒルは、それに気づいていても、「何を入れた?香りがいい」の一言を放ち、つまみぐいすると、食事中に、帳簿や請求書や企画書に目を通しながら、呑み込むように食べていく。

衣装の色使いも面白いですね。
サーカス団の運営もあり、弟のように閉じ込められているわけでもないのに、友達や恋人を作る暇もない、長子気質のサーヒルが好む私服の色は、色彩心理に忠実な、長子気質の象徴青や黒、心の奥底で願う安定の茶色。
そう、自分で作った決まりや計画の檻に囚われているという、色からのメッセージ。

他人と接する事に関して大いにストレスが溜まるサマルは、心をリラックスさせる緑や冷静になれて繊細な感覚を喚起させる水色の私服が多い。
しかも、肌触りがよいもので、気に入りものを擦り切れるまで、愛用することが見て取れます。
兄より、触覚、味覚、嗅覚などの五感が鋭く、積極的に生活そのものを楽しんでいるようです。

サマルが相手役のアーリアに恋をし、双子を逮捕しようとするジャイ・ディクシト刑事の策略によって、自我と独立心が目覚めて、兄弟間の主導権が揺らぐ時、サマルは青、サーヒルは自我を発揮しないグレイがかった水色が基調の衣類となってますね。

結べないのに、紐のあるスニーカーを好む訳はなんでしょう?
凡庸でない独特の才能の冴えを見せるアインシュタインもハリー・ポッター役のダニエル・ラドクリフなど、靴紐を結べないという人は結構いるようです。
ともかく結べないものは兄が結んでくれるということにはじまり、2人で一人を演じる二人三脚のための暗黙了解があるようです。

楽屋兼用のお家で、双子が『サーカスの子』である事もさりげなく描写されてます。
ベッドの壁には、表方を生きるサーヒルは楽屋鏡、影武者のサーヒルは天使の羽が飾られている。
サーヒルの兄としての心配りかもしれない。もしかしたら、亡き父の手で、取り付けられたものかもしれない。

それにしても、この俳優さんは、じりじりと反射をするラメより光沢のあるエナメルやレザーやメタルが実によく映えるのです。
素は、濁色よりも、ストロングトーンを含めた高彩度色でも納まりがよさそうだ。清色でも淡い色は難しそう。下手な淡色でアクが目立つより、白やそれに近いオフニュートラル色が無難。

童顔ではあるけれど、冬春タイプの色が似合う。
ピンクより明るいオレンジピンクが映えるなら、イエローベースだが、強烈な目ヂカラと濃い
顔だからと言って、やみくもに冬タイプと決めつけるのは早計でしょう。
プロの役者やモデルに多いカメレオンのような変貌ぶりを発揮する人に多い、複合タイプのような気がする。
印度という強い日差しの国に映え、目立つことのできる人なことは確かですが、どこの国でも、表方はひとつのパーソナルカラータイプに収まらない方が多い、というのは変わらないようです。

ともかく、この作品では、いろいろ想いの翼がどんどん、どんどんと広がってゆきます。
悲しい結末ですが、本来の主人公の口から、別テーマとして『夢の勝利』であることが語られ、夢に殉じた兄弟たちに花を手向けるかのように、妖艶なヒロイン率いるダンサーたちによる歌とダンスシーンで締めくくられていて、印度映画にしてはしゃれた感じの仕上り。

出会えてよかった。






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最終更新日  2016.05.04 10:11:44
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