先日、読み終えた山本周五郎の「柳橋物語」。その中には江戸の大火の場面があり、その悲惨な状況の中で右往左往する庶民の姿が、抑揚のある筆致で描かれている。
着の身着のまま逃げて離れ離れになったり、筵を服の代わりにし、寄せ集めの木切れで家らしきものを拵えて当座の住まいにしたりと、どん底の中で助け合って生き抜こうとする貧しい庶民の様子が描かれている。
図らずも、今の東日本大震災の最中に読むこととなり、その内容が東日本の震災後の状況とダブって、被災者の心情が立ち上がってきてえらく身につまされた。
描かれているのは若い男女三人の純愛物語。修行に出る「床吉」に愛を告白されてから、運命という艱難に飲み込まれていく主人公「おせん」の苦悩が始まる。
貞淑な乙女と純真な若者が運命に操られながら、純真さと一途な思いがゆえに行き違ってしまう三人の姿は、それはもう涙なしでは読み進めない。全編を通して、日本人が持っていた清らかな心と下町の人情が綾なって、苦しいながらも助け合って生きていくことの素晴らしさが描かれている。
そして、若い時には気付かなかった相手の本当の心が、様々な艱難辛苦を経た後になってようやく分かるという切なく悲しい結末は、清々しく暖かい気持ちを残させてくれる。
小説の良いところは、自分だけの情景を頭(心)に思い浮かべる事が出来ることにある。場合によっては前へ戻って確認し、情景を思い浮かべては瞑目し、その時々の自分のペースでじっくりと読み進めていけるのが読書のだいご味だ。
「読書は脳のごはん」だという。よく噛んで、一字一句、ワンフレーズを噛みしめながら読んでいくのは、美味しい料理を食べるのと変わらない。
フランス料理もあればお好み焼きだってある。食材であるテーマををどう料理するかはその作者に掛かっている。
山本周五郎の小説は、心が温かくなる。心が洗われて、邪な自分を反省させて本来の自分を再認識させてくれもする。そうして、人間の素晴らしさ、生きる事の厳しさと喜びを教えてくれる。
被災地の春は未だに遠く、神は未だ艱難の手を緩めてはくれないようだ。
◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。
2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。
★ 「ジグソーパズル」 自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)
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