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はらだよしひろ

はらだよしひろ

2006.04.02
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カテゴリ: カテゴリ未分類
書きかけの小説をアップします。舞台は1945年8月の満州です。
連載とは言いながら、次何時アップするかわかりません。だいぶ重いです。
気を引き締めて読んでください。



「満陽」

 どれぐらい眠ったのだろうか。意識が覚束ないまま、草いきれの中で、汗が頬を伝うのを感じながら、僕はそう思った。日が暮れかけている。完全な闇になれば、また奉天へと歩みはじめる。それまで、あと何刻だろうか。体がむず痒い。こういうときは流石に、布団に入ってゆっくり寝たいと思う。もう何日も野宿だ。ソ連軍に見つからないように、昼間は山に身を潜めて寝、夜陰にまぎれて奉天へと向かう。ここ何日、ずっとそんな毎日だ。逃げ延びる為に歩く。月明かりだけを頼りに。はじめは、昼も夜も関係なく歩き続けた。8月9日、ソ連軍が国境を越えたあの日から一週間ぐらいたっただろうか。8月9日、あの日の牡丹江は街全体が何十万の生存の本能に包まれ、狂乱の場と化した。逃げ惑う者、奪い合う者、殺しあう者、一日にして誰もが明日をも知れぬ命の存在となり、逃げ場を捜し求めた。汽車は軍人軍属を先に逃がそうとして、民間人を乗せようとはしなかった。痺れを切らして徒歩で逃げようとする人間も多数。僕は、あの日、親とはぐれた。いつの間にか僕の前から親は消えた。あっという間だった。生きてるだろうか。死んでるかもしれない。僕は死ぬのは嫌だった。親を探し続けて牡丹江に留まっていれば、ソ連軍や、暴徒と化した満人・朝鮮人に殺される可能性が高くなるのは子供の僕でもわかっていた。逃げ行く人々に混ざって牡丹江を発ったのが8月9日。いつの間にか一つの集団となった。一日でも早く安全な場所へ、一歩でも遠く安全な場所へ。家族で纏まって逃げるものもいたが、僕のように家族と離れ離れになって、ひとりで逃げる子供もいた。とにかく、逃げる。逃げる。逃げて逃げて逃げる。それでも僕の目の前で何人も死んだ。ある時は満人に襲われた。ある時はソ連軍の飛行機が空から機銃掃射を浴びせた。ついさっきまで生きていて人が、手のないぐったりとした体となったり、半分飛び出た腸を押さえながら「助けてくれ」と細いしわがれた声を出したり。時には、僕は人の死体を弾除けにした。銃弾を何発も食らった50ぐらいのおじさんの体がそのまま僕の体に覆いかぶさって助かったこともある。その時初めて知った人の血の味。体にべっとりと付いた血糊。体なんか洗えないから、血の色と匂いが今でも僕の服に染み付いている。その匂いと色を意識するたびに生きる意志が僕の無意識の中から這い上がってくる。絶望が満ちるこの逃避行の中では、生きると言う意志だけが生きている証だ。

敵が来たら、爆弾を持って敵に向かって、飛び込め!

馬鹿らしい話だ。なんで10才の僕が死ななきゃならないのか。学校で軍事教官が言ったこの言葉・・・・・・、理解不能。爆弾もって、ばらばらになって死ぬよりも、今、血に塗れてでも生きることのほうが遥かにましだ。
「うー」
10メートルぐらい離れて寝ている年が同じぐらいの少年がうなった。名前は知らない。彼もまた一人のようだ。疲れているのだろう。すぐに深い眠りについたようだ。だが、ここは戦場なのだ。一つの気の緩みが命を落とす。僕は物音を立てないように彼のそばに近寄り、たまたま肩下げカバンの中に放り込んでいた包帯で、彼の口と鼻を何重にも巻いて塞いだ。とにかく、声を立てたら。それを聞き付けて、誰かが僕らを襲う可能性があるのだ。油断は禁物だ。他人の唸り声のために死ぬのは御免だ。

日が沈み、空の明るみもほぼ消えかける頃。僕は目を覚ました。一緒に逃げている人たちも起きはじめていた。今日もまた生きるための歩みが始まる。気がつくと、朝、呻き声を挙げていた少年はまだ起きていないようだった。僕は、彼を起こすために眠っている場所に寄り、体をさすった。反応が無い。もう一回、体をさすった。やはり反応が無い。僕は思わず右手で頬を触った。巻いてあるはずの包帯の感触は無かった。その代わりなにやらベトッとしたものが手に粘着するのを感じた。僕は右手を鼻に近づけた。強烈な血の匂いが伝わってきた。咄嗟に少年の顔をそこらじゅうに渡って、触った。少年の口からは血が溢れていた。少年は死んでいた。体はまだ温かかったので、死んでからまだ時間は経っていないだろう。どうやら舌を噛み切ったらしかった。





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Last updated  2006.04.02 22:29:29
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