hikaliの部屋

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October 9, 2006
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 特に0からのデザインは一からデザインパターンを作るし、ラフな試行段階というのは、素人目に見なくても、赤面してしまうような無邪気な所から始まる。
 1の恥ずかしい案があって、2の案があって、3の、4の、16ぐらいの案が出そろってから、徐々に取捨選択をしていき、いいとこ取りの候補が生まれる。
 この過程を見せるのは、プライドがあれば恥ずかしい。
 いかにも宙から信じられない完成型が出てくるように見える方が格好いいだろうが、実際のデザインとは、子供の落書きから始まると言って過言でない。
 仕事慣れしていない人は、この段階で迷走を始める。
 いかに混乱せずに、ブラッシュアップしていくかが腕なのだが、出発点は、おもちゃのような混乱したメモなのだ。

 この白鳥が浮き上がるまでの水面下のばたばたは、たとえばこんな例が分かり易い。
 あるphpとテーブル組のhtmlのデザインで出来た動的サイトがあったとする。

 わたしは、オープンソースCMSのブログパッケージの導入を提案し、それが採用され、わたしはそのパッケージの研究をして、環境を整えてもらい、実際に動かすためのワークフローを考える。
 しかしその中で、すでにあるサイトを全く変わらないデザインを要求される。
 既存サイトはテーブル組のhtml、かたやブログは、一見URLは変わらないように見えるのだがCSS。複雑に入り組んだデザインテンプレートを眺め、htmlをCSSで書き換える。
 ところがわたしはCSSをちっとも理解していない。
 そこで仕方ないのでCSSの本を買ってきて、2徹、3徹でなんとかものにしようとする。
 裏では、素人には想像も出来ないようなオペレーションテクニックを駆使して、DBに初期導入するデータを完全手製でインポートしていたりする。
 実際に動いているDBにSQL直書きでUpdateを掛けていたりする。
 普通に考えたら常識はずれなのだが、横で見ている人が、
「ああ、まあ、間違えさえなければ論理的に正しいって奴ですよね・・・」
 と呆れてしまうようなオペレーションを平気でやる。
 全文置換を使ってhtmlを一気に書き換える。

「なんで、そんなに時間がかかるんですか!」
 といわれて、仕方なく現状を見せる。
 すごい恥ずかしいレイアウトが崩れまくった状態。
 バックヤードは完全に仕上がっていて、後はCSSだけなのだが、この一線がどうしても越えられない。
「ここがずれるんです・・・」

「す、済みません。もうちょっと待ってください」
 そうやってなんとか恥ずかしくないものが出来て、オープンとなる。
 わたしはその完成品を見て、眉をしかめる。
「ここが2ピクセルずれている・・・」
 今でもそのサイトはわたしの完成品と寸分変わらない姿で動いている。

 わたしが長年かかっている歯医者があって、都心にある。
 かなり昔の職場からは近かったのだが、わたしの方の都合で、何ヶ月もいけなかったり、わたしの怠慢で非常に申し訳ないほど通うのがまばらになる。
 わたしもかなり長い期間、あまり自分を大切にしてこなかったのと、生理的に歯医者が怖いという性格もあって、ひどい歯の状態に、担当医は唖然とした。
 丁寧に説明し、処置法について説明する。
 わたしはこれから始まる歯医者ライフにため息をついていたが、数回先生の処置を見て、辛抱強く通おうと諦めた。

 その歯医者は、わたしが聞いているそばで、
「はい、十二万三千七百円になります」
 などと信じられない事を言っている歯医者なのだが(お金持ち相手の、保険の利かないハイエンドな治療をする歯医者なのだ)、わたしは貧乏だし、保険範囲内なので、
「はい、千二百六十円になります」
 と2桁は少ない金額しか請求されない。
 その先生も、おそらく歯科医大を出たての先生で、しかも女性である。
 怖いと言うよりはふわっとした感じで、子供相手で慣れているのか、わたしが生理的に怖いと思っている事をよく理解しているようで、なるべく恐怖を与えないように配慮してくれる。
 わたしがその先生を信じているのは、そういった側面ではない。
 一見すると軽く見られてしまう性質なのだろうが、そんな都心のハイエンドなデンタル・クリニックに勤められるのだから、もちろん、その理由があるのである。

 これはなかなか得難い事なのだが、歯を完璧な状態にするんだという情熱が並大抵でない。
 わたしなどが、
「もう、いいよ! やめてくれ! そこまでする必要がない!」
 と内心思うようなところまで、徹底的に処置を行う。
 わたしが不良児なせいか、いつも居残りのように1時間も、2時間も処置を受ける間にも、何人もの患者を処置し、手が空くとわたしの治療をする。
 抜歯の時はなかなか抜けない歯を、あらゆる手段を駆使して追い回し、抜けた際に、やった、抜けたと喜ぶ表情をわたしは見逃さない。
 どう考えても粘土の塊にしか見えない部材から、素早い手際で見事としか思えない、義歯を作っていく。
 そうやって、何時間も処置を受けても、特段に高い料金を請求されることはない。
 この人を突き動かしているのは何なのだろうと、思いを馳せ、それはわたしがWebに対して尽くしてきた仕事と同じなのかもしれないと、着地する。
 こんな酷い歯は、わたしにしか直せない、そう思っているのかもしれない。
 昔、あなたの生命を維持するためにあるソフトウェアに望むことは何ですか、という質問にある著名なエンジニアが答えた言葉が胸に残る。
「そのプログラマが、このソフトウエアは意地でも仕様通りに動かすんだと言う、狂気にも似た熱意を持っているかどうか。あとのことはどうでもいい」
 わたしはその先生を見て、あきらめる。
「ああ、そう。この歯は、先生にしか治せません」
 わたしの目の前で、次々と処置をしていく先生を見る。
 何年も手当なしに動くサイトというのは、そういう正しい処置に固執する人から生まれるものなのである。

 しかし、歯医者という職人は大変である。
 その高度な職人芸を顧客の目の前で披露しなければならないのだから。
 すぐ後ろで、見事な義歯を削りだしていく、音を聞きながら思う。
 もう少しまじめに通わなければ。






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Last updated  October 9, 2006 11:54:15 PM
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まなかなまなかな@ Re: 三井アウトレットパーク入間へ行ってきた。(01/18) 蘊蓄野郎だな!うざい。
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