劇場通いの芝居のはなし

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2019.07.18
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カテゴリ: 演出ノート(3)
ここから重要な情報が語られます。
「戦争前のこたあ、俺は一切覚えてねえ」「どうしてです」「俺にも皆目わからねえのよ。気がついた時にゃあ、俺は病院のベッドの上に寝てたんだ」「シナだったんでしょ?」「シナだった。俺はそん時生まれたようなもんよ」
ジョオは記憶喪失になっていたのです。男は、思いつきました。そして心を決めて、「ぼく、親分に是非お話したいことがあるんです」
男の中で、街の女と黒マスクのジョオが結び来ました。花売娘はまだのようです。
言いかけたところで、呼び子がけたたましく鳴ります。男は逃げ道を教え、ジョオはすばやく逃げ出します。

警官が来て、「黒マスクをした顔のひん曲がって男を見かけなかったか」と訪ねます。男は、知りませんと答えます。
警官は、ジョオが逃げていった方向へ追って行きます。
男は壁を見つめながら、『巴里の屋根の下』を吹き始めます。
灰色の壁に、待ちの女とジョオと花売娘の姿が次第に浮かび上がってきます。
大事なところです。男の心の中で、三人が結びつきます。ここはシルエットで示しました。
夫婦と女の子の幸せそうな姿。ホッとする情景です。

と、突然、銃声が一発。続いて二発。
男はギクリとして凍りつきます。灰色の壁に浮かんでいたシルエットが次第に消えて行きます。
期待されたハッピーエンディングはきません。希望はこわされてしまいました。
ここは、場面にオルゴールの淋しく優しい音をかぶせて、ゆっくりと照明を落とします。

新劇人としては、この作品は非常にセンチメンタルで甘いです。ヴォードビルと名付けたのは納得できます。でも、心の琴線にしっかりと触れてきます。戦争に敗れ、人々が一様に絶望におちたとき。美しい過去はまったく消滅してしまい、将来に夢を持てないと思った時代。今日を生き、明日に希望をもつために、こんな「おとぎ話」が求められた、必要だったということが、分かる気がします。頭でなく心で作るお話です。幸せでない人達を慰め励ます作品です。励まされる火との中に、作者もいたでしょう。

この作品は、今の目から古くさいですけれど、とても素敵な作品です。上演に向けての稽古中、わたしはとても快かったです。上演した劇団の人たちも、とても気に入っていました。
時々で良いから、上演されてほしいと思います。劇団四季が、浅利慶太氏の縁で、時々上演しています。
by 神澤和明





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Last updated  2019.07.18 09:00:10


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