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誤解を招いたとしたら申し訳な い
藤川 直也 著
言葉と意味の表裏巡る探求
文献学者・作家 山口 謡司 評
「アキレスは、決して亀を追い抜くことはできない」という命題がある。と中学の時、数学の先生が話をしてくれたことがあります。「わかりやすく」と、先生は、わざわざ黒板に前を歩く 4 本足の亀と、足の速そうなアキレスのイラストを描いてから説明してくれました。左から右に進む亀を前に、亀を追いかけるアキレスを後ろに。
さて、 A 地点に亀がいる。アキレスが A に到達すると、すでに亀は歩いて B まで進んでいる。アキレスが B まで到達すると、亀は C 地点まで進んでいる。こうして亀とあきれ市の距離は無限に近くなるだろうが、アキレスは亀を追い抜くことはできない。
これな「ゼノンの理論」と呼ばれます。古代ギリシャの哲学者、ゼノンが考えたパラドックスで、この論理を覆すことがどうしたらできるのか学者たちは 2500 年間、悩んできました。
ここで理論解説をするつもりはありませんが、本書は、言語哲学の専門家による「言語」の本質的なパラドックスをめぐる話です。
しまも、興味深いのは、副題の「政治の言葉/言葉の政治」という言葉です。
政治家の言葉は国を動かす原動力です。一言一句、責任をもって使わないといけないと、誰もが思っています。でも、国会答弁を聞いても、ほとんどなにを言っているのか分かりません。
「誠心誠意」とか「極めて遺憾であります」「真摯に受け止めさせていただきます」「対応を協議します」など、言われますが、「こんにちは」「さようなら」形式の記号化した言葉が飛び交い、何を議論しているのかさえわかりません。
著者の藤川先生は書いていらっしゃいます。「意味の裏と表をめぐる本書の探求で明らかになったのはそれは意味の表と裏の区別がいかに揺らぎうるか、言質がいかに不確かなものでありうるかだ」(おわりに)と。
アキレスは亀を抜くことが現実にはできます。でも言葉と黒板の上では抜くことができません。
はたして、現実の社会と、政治の世界は、まさに言葉の上でのパラドックスを、「言葉哲学」という視点から、総合的に再構築して考える力が必要なのです。
(講談社、 2420 円)
◇
ふじかわ なおや 東京大学大学院准教授
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