浅きを去って深きに就く

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Freepage List

November 24, 2025
XML
カテゴリ: 書評

誤解を招いたとしたら申し訳な

藤川 直也

言葉と意味の表裏巡る探求

文献学者・作家  山口 謡司

「アキレスは、決して亀を追い抜くことはできない」という命題がある。と中学の時、数学の先生が話をしてくれたことがあります。「わかりやすく」と、先生は、わざわざ黒板に前を歩く 4 本足の亀と、足の速そうなアキレスのイラストを描いてから説明してくれました。左から右に進む亀を前に、亀を追いかけるアキレスを後ろに。

さて、 A 地点に亀がいる。アキレスが A に到達すると、すでに亀は歩いて B まで進んでいる。アキレスが B まで到達すると、亀は C 地点まで進んでいる。こうして亀とあきれ市の距離は無限に近くなるだろうが、アキレスは亀を追い抜くことはできない。

これな「ゼノンの理論」と呼ばれます。古代ギリシャの哲学者、ゼノンが考えたパラドックスで、この論理を覆すことがどうしたらできるのか学者たちは 2500 年間、悩んできました。

ここで理論解説をするつもりはありませんが、本書は、言語哲学の専門家による「言語」の本質的なパラドックスをめぐる話です。

しまも、興味深いのは、副題の「政治の言葉/言葉の政治」という言葉です。

政治家の言葉は国を動かす原動力です。一言一句、責任をもって使わないといけないと、誰もが思っています。でも、国会答弁を聞いても、ほとんどなにを言っているのか分かりません。

「誠心誠意」とか「極めて遺憾であります」「真摯に受け止めさせていただきます」「対応を協議します」など、言われますが、「こんにちは」「さようなら」形式の記号化した言葉が飛び交い、何を議論しているのかさえわかりません。

著者の藤川先生は書いていらっしゃいます。「意味の裏と表をめぐる本書の探求で明らかになったのはそれは意味の表と裏の区別がいかに揺らぎうるか、言質がいかに不確かなものでありうるかだ」(おわりに)と。

アキレスは亀を抜くことが現実にはできます。でも言葉と黒板の上では抜くことができません。

はたして、現実の社会と、政治の世界は、まさに言葉の上でのパラドックスを、「言葉哲学」という視点から、総合的に再構築して考える力が必要なのです。

(講談社、 2420 円)

ふじかわ なおや  東京大学大学院准教授

【読書】公明新聞 2025.4.14






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  November 24, 2025 04:47:50 PM
コメント(0) | コメントを書く
[書評] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Calendar

Favorite Blog

まだ登録されていません

Comments

聖書預言@ Re:池上兄弟とその妻たちへの日蓮の教え(10/14) 神の御子イエス・キリストを信じる者は永…
背番号のないエースG @ 関東大震災 「福田村事件」に、上記の内容について記…
とりと@ Re:問われる生殖医療への応用の可否(04/03) 面白い記事なんですが、誤字が気になる。
とりと@ Re:●日本政策研究センター=伊藤哲夫の主張(03/21) いつも興味深い文献をご紹介いただき、あ…
三土明笑@ Re:間違いだらけの靖国論議(11/26) 中野先生の書評をこうして広めていただけ…

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: