経堂界隈

経堂界隈

April 15, 2015
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カテゴリ: 歳時記
お堅い経済書の、それも大著であるにもかかわらず、全世界で100万部超え、日本語版も13万部のベストセラーであるトマ・ピケティの「21世紀の資本」
時間のある先輩方はしっかりお読みのようで(多くはちゃんと経済学部の卒業で、某国立大学で経済学の教鞭をおとりの方も)、議論もなかなか興味深い。

「みんながすごいって言うから読んでみたんだけど、なーんだ、そんなことかって程度だよな。あんなこと昔から誰でもわかってることじゃない」

「金持ちは、金儲けが得意だから、金持ちなんだ」

「同じことが何度も出てくるだけで、言ってる内容は十分の一ぐらいで表現できる」

「それは違う。 これまで経済学で理論といっても、仮説、近似の域を出なかった。それを実証したことに、価値があるんだ。同じ内容が繰り返されるように見えるが、それは、様々な角度から仮説なり、理論が、実際と合致することを検証していくプロセスだからね。アインシュタインの相対性理論が観測によって実証されたのと一緒だ」

「計量経済学とかいっても、社会科学は自然科学に比べ、とてもexact scienceとは言えなかった。この論文は、経済学に科学的アプローチを導入したメルクマール的存在。どれほど褒めようと、褒めすぎということはない」

「とはいえ、検証されたのは、しょせん、ある程度信頼に足るデータが、ある程度長期にわたって継続して観測蓄積できた一部先進国の範囲に過ぎない。普遍性が実証されたというにはほど遠いけどね」

「経済指標は指数だろ。資本が一部富裕層に集中していくっていうけれど、一次関数的に格差が拡大してるだけで、そもそも、それは経済統計の宿命じゃない。指数関数的に格差が拡大してるならば確かに問題だが」



「だがね。冨の集中が問題というが、貧者のほうだってレベルは上がってるじゃないか」

「冨、資本の範囲においては、貧者は引き続き貧者だ」

「俺みたいに老後の貯蓄のないヤツはしょせん貧者ということか」

「そうだ」

「だがね、確かに冨は一部富裕層に集中しつつあるが、貧者とて冨の回転の恩恵には預かっている」

「その、冨の回転である所得の再配分がうまく機能していないってのがピケティの指摘だろ。だけど、それは、社会主義的だと思うなぁ」

「過去において所得の再配分は自然発生的であった。ところが、それでは冨が過度に一部社会階層に集中してしまう結果、格差が拡大し、それが社会を不安定にし、革命とか戦争とか、極度の社会変動につながっていく。だから、さらに、人為的な冨の再配分を加速するべきである」

「だが、それはもはや経済学じゃなくて政治の領域だ」

「経済とは経世済民、ギリシャ語でoikonomikos。フランス人にも政治が含まれてるニュアンスはあるさ。政治と経済が関係無い、関係しちゃいけないと思ってるのは日本人だけだ」

「13万部も売れればそのうち何人かは読むだろう。日本の政治経済にも多少科学的なアプローチが根付くことになるかもしれないね」

「財務省は困るんじゃないか?消費税上げるなっていうんだから」



「だが、欧米だと単純に富裕層課税の強化だが、日本の場合、冨が集中してるのは、一部富裕層というより、企業の内部留保だからね。富裕層の課税を強化しても、企業課税は国際競争力とか言って、軽減の方向にある。このままではますます税収の低下を招く」

「戦争とか革命とかがなければ、富裕層と企業はますます肥え太るか」

「革命はともかく、冨の偏在の是正に戦争はニュートラルだと思うよ。そりゃあ、負ければ悲惨だけど、一人勝ちしたアメリカでは、第二次世界大戦によって、さらに冨の偏在が加速されてるじゃないか」

「結局、冨の偏在の是正には不況かぁ。そうだよな。制度破綻だもんな」

「エドモンド・バークは金持ちは貧乏人の貯金箱と言いましたが。金持ちが個人のうちは富裕層への課税強化でいいでしょうけれど、企業ばかりが金持ちとなって、そこへの課税が軽減の方向ということは、冨の再配分を進めれば進めるほど企業ばかりが儲かるということになりませんか?」



「金持ちもそうだが、企業に金が集まるのは当然だ。企業は儲けるための組織だし、そのために人も雇うし、金をつかって研究もする。貧乏人がどこまで頑張っても叶うもんか。結局所得の再配分をいかに強化しようと、最期にその金は企業に集まって内部留保となる」

「内部留保に課税せよってか?共産党だな」

「企業は個人、貧乏人を搾取してますます肥え太る」

「だがね。さっきも言ったが、少なくともピケティ本のデータとなっているような国では、格差は確かに広がってるんだろうが、最低水準の貧乏人の生活レベルだって、それなりに上がってるんだ。金持ちがさらに儲けたからと言って、貧乏人がさらに貧乏になったわけではない。生きてくため最低限の固定費以上のものは、国が保障する制度がある」

「つまり、冨の再配分をいくら進めても儲かるのは企業ばかりで、それを負担してるのは国家財政なんだ」

「僕は、実は、ピケティはアベノミクスの正しさを証明したとも言えると思ってるんだ」

「どこがぁ?だって、ピケティは、逆進性の強い消費税は冨の偏在を助長するから適切じゃないって言ってるんだぜ」

「消費増税はアベノミクスじゃないよ」

「さっき政治と経済は不可分だって話しだったでしょ。経済に科学的アプローチを導入したってことは、政治に科学的アプローチを導入するってことでもあるわけよ。ピケティは先進資本主義国における冨の分布を時系列にミクロレベルでまとめてデータベース化した。そこでは、冨は人為的に再配分を強化せねば、さらに富裕層に蓄積され、それは格差を拡大し、社会を不安定にしていく可能性がある。
でも、日本では冨は企業に偏在する。
一方、これはどの国でもそうだが、税による冨の再配分にはコストがかかりすぎる。科学的アプローチは、もっとコストがかからず、抵抗も少ないやり方で冨を再配分する方法を提供する可能性を提示するかもしれない」

「そんなことが可能なわけがない」

「できるさ。俺だって考えついたもの。年金で株買えばいいのさ」

「そんなこと、もうやってるし、株式投資はリスキーじゃないか」

「もっと株式投資に集中すべきだと僕は思ってる」

「確かにGPIF改革はその方向だが、強烈に批判を浴びてる」

「だけど、ピケティ理論は、少なくとも日本に限っては、冨が企業に偏在していくことを証明してることになっている。偏在するのが自然なら、それを利用すればいいのさ。長期的には株はあがる。だからそこに投資する」

「僕はそうは思わない」

「しょうがないよ。ピケティを翻訳した山形君は野村総研の社員でMIT留学組。ピケティの仲間だもん」

「...............」

:::::::::::::::

「みすず書房から日本語版が発売される前は、”21世紀の資本論”の書名で紹介されていたでしょ。僕は論がついてるほうが良かったんじゃないかって思うんだ。だけど、それだとちょっと当たりすぎてて怖いかもね。同じマルクスでも資本論じゃなくて、共産党宣言のほうなんだけどね」

「一つの妖怪がヨーロッパにあらわれているってヤツね」

「まさにそれだ。共産主義をISILに、ヨーロッパを世界に置き換えてみると、まさに、それは今日の世界そのものなんだなぁ。欧米は、キリスト教の立場からISIL、あと、アルカイダとかを捉えて、イスラムという枠の中で考えてる、というか、イスラムという枠の中に押し込めておこうとしてるんじゃないか。
イスラムって枠をはずして、ISILが貧困、格差の中から出てきていることを考えると、ひょっとして、ISILは21世紀の共産主義じゃないかって。怖すぎるものなぁ」

「それとピケティとどこに共通性があるのかな?」

「所得格差の拡大は資本主義社会における普遍的傾向というのを、ちょっと変えれば、所得格差の拡大は資本主義世界における普遍的傾向となる。ピケティは個別の国ごとに、その国内社会での所得格差拡大を指摘しているけれど、ISILは国家の枠を超えて拡散している。そこで、所得格差のほうも国家の枠を超えて考えてみると、これまで国家間では相対的だった所得格差が、絶対的な格差であることが、改めて認識される」

「自明だな」

「所得格差の拡大が資本主義世界における普遍的傾向であるならば、だ。そこでピケティくんなんだが、格差是正のためには、累進課税の富裕税を導入して所得の再分配を図るという手段を提言している。ところが、しれは資本主義社会、資本主義国家のことであり、資本主義世界化しつつある今の地球において、果たして、ISILのような問題の解決に、累進課税の富裕税が有効であるだろうか?」

「税の使途のひとつであるODAは、ある意味、国家間の所得格差是正策ではあるが、国家の枠を超えた、或いは、破綻した国家にはびこるISILのような問題に対しては有効ではない」

「そこでまた、ピケティくんだ。20世紀資本主義社会において、所得格差の拡大が抑制された実績は、恐慌と戦争だった。さすれば、ISILが、ああいう形で紛争を引き起こすことは、そのように意識してのことであるかどうかはわからないが、確かに一理あるとも言える」

「怖いね」

「怖いよ。20世紀初頭に、第一次世界大戦とロシア革命が勃発した。今、21世紀の初頭に、ふたたびロシアがクリミア問題で世界に反旗を翻し、中共が事実上の覇権国家として登場している」

「変化は辺境からやってくるですね」

「20世紀の共産革命が当時の資本主義国家群からすれば辺境のロシアで勃発した。21世紀のISILは、何をもたらすのか?共産ソ連の登場から終わりまでに費やした期間と、その後遺症を考えると、恐ろしいことではあるね。幸い、僕は、それを見るところまで生きていないだろうけど」





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Last updated  April 15, 2015 04:54:38 PM
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