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ねえぇ、このごろ貴女、なんか肌すごく綺麗じゃない?まあねぇ~。化粧品替えたの?どこのなの?ちょっとねぇ~。あら、もったいぶってないで、教えなさいよ!ふふふ・・・ま、いいけど、本当にすっごく綺麗よ、真っ白でシミなんて見えないもの、うらやましい~。やっぱりこのクリーム効果があったのね。眉唾ものだったけど、こんなに効くならもっと買っておけばよかったわ。この間の飲み会の帰りに露天で買ったのよね、駅の近くだったかしら酔ったらってたしよく覚えてないけど、これを売ってたおばあちゃんの肌が本当にうっとりするぐらい綺麗だったのよ。顔は見せてくれなかったけど、毎日付けてるんだっていう腕は良く見たわ。そしたら、話しかけてくる声はいかにも年寄りって感じでぎすぎすしてる癖に、その腕ったら、もうシミひとつないそりゃ綺麗なものだったわ。つやつやなめらかで、剥きたてのゆで卵みたい。で、おばあちゃんが売ってたこのシミ取りクリーム買っちゃったけど、本当に良かったわ。あたしも若いころは肌だけは白くって透き通るようでかなわないって、みんなに言われたものなのよ、それが今じゃどう、いくら外回りの営業だっていったって、日焼け止めじゃもうぜんぜん効かないくらいもう真っ黒なんだもの、いやになるわ。だめ元って気だったけど、本当にこんなに効くなんてねぇ~、「貴女のお肌からシミなどの余分なものを除去します」か・・・本当にうそみたい。さああ、今日も張り切って稼ぐぞ~ちょっと今日はまずったわね、いくらなんでも日焼け止めなしのすっぴんで外回りはいけなかったわ、顔中ひりひりする、あら、やだ、もうそばかすみたいにポチポチ浮いてるじゃない。おっけい、よーしクリームたっぷり塗って早く寝ようっと、お肌を休ませなくちゃね・・・さああ、今日もがんばらなきゃ・・顔を洗ってっと・・きゃあああ~何これえええええええ!・・・鏡に映っているのは、剥きたてのゆで玉のような、つやつやとなめらかな顔。すなわちそれは「のっぺらぼう」
2003/11/30
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おじいさんが小さなつづらで、あたしゃ大きなつづらで、これでいいのさ。あたしが大きなつづらから出てきたお化けに脅かされて寝込んでいるって、みんなが言ってるって、ははは・・・ありゃ、かもふらあじゅってやつさね。そう思わせときゃ、あれこれと、いらんことを言ってくるやつらもいないだろうさ。そうさ、大きなつづらは大事に取ってあるよ、中のお化けたちもね。弱らせないように暗くて静かなところに大事に隠してあるのさ。えっ、どうすのかって?そりゃ、お化け屋敷を作って大もうけするに決まってるじゃないか、なにしろ本物のお化けなんだよ、話題になること間違いないさね。なんだって、えっ、小さなつづらも手に入れたのはどうしてかって?何を言ってるんだい、おまえさんは間抜けだね。お化け屋敷を作るのにどうすりゃいいのさ、うちはあたしたちが住んでんだよ、ここをお化け屋敷にするわけいかないじゃないかね。話題になるようなお化け屋敷を作らなきゃ、いけないんだよ。先立つものはお金だよお金・・・だから、おじいさんとあたしで手分けして両方のつづらをいただいたってわけさ。ほら、ここまで話たんだから、出しなよ。何をって、金じゃないよ。舌出すんだよ。舌を!他でしゃべらないように、切ってやるから。本当に、おまえさんは間抜けだね。そりゃ、そうさ、あたしゃ、元祖舌きりばあさんだよ。さぁ、舌出しな!
2003/11/29
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下賎の者どもよ、わらわの傍に寄るでない!聞こえぬのか、わらわに触れるでない、無礼者め!なにをするか、控えい控えい!えーい、愚か者め!こちらに来るなと言うに、懲らしめてくれようぞ!ほらほら、どいてちょうだい。どうしてオマエはいつもそうなの、偉そうに座り込んで・・そこは、お客さま様の座布団でしょう。どいてちょうだい、毛がつくでしょう!いっ痛いーい!なにすんのよ。やだあ、もう、だから嫌なのよ、猫は!わかったか、うつけ者め!
2003/11/28
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ここは怪獣地帯。すさまじい勢いで体をくねらせ声を上げ、私を脅かす怪獣がいる。その咆哮はあたり一面に轟き、情け容赦のない叫びで、私を追い詰める怪獣がいる。言葉が通じるわけもない、私に許されているのは、ただひたすらに宥めすかすことだけ。助けてくれ、誰か、助けてくれ。お願いだ、私をこの恐ろしい場所から救い出してくれ。おーよちよち、べろべろばぁ~いないいないばぁ~もうすぐママが帰ってくるからなぁ。もう、そんなに体をつっぱらかせて泣くなよ。手足を振り回すのはやめてくれよ、痛い痛い、髪の毛を引っ張らないでくれよ、ううぅ、泣きたいのはこっちなんだ、べろべろばぁ~はぁ~
2003/11/27
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昔々のそのまた昔、この世界にはすべての国すべてのモノを治める王様がおりました。王様のもとには、深い海の底から、高い山の頂から、ありとあらゆる所から富や財宝が集まり、その輝きは太陽と月と夜空の星々のすべてよりも勝っていました。王様の宮殿は、それはそれは見事な建物で、左右には見晴らせないぐらいに広く、雲の上に隠れて見えなくなるぐらいに高く、いくつの部屋があるのやら誰も知るものはいませんでした。そして、王様に認めてもらおうと世界中から賢者が集まり、ありとあらゆる不思議な事柄を解き明かし、その知識を記しては王様に報告していました。ですから、王様にはこの世でわからないことはなかったのです。さて、王様はその日生まれる予定のお子様の誕生を祝うため(第何番目になるかは忘れていました)、集まって誕生の瞬間を待っている人民の歓呼の声を聞きながら、ふと思いました。・・・私のところには、世界中の物や人が集まってくる、お后たちだって(何人いるのかも忘れていました)あらゆるところの生まれの者たちだ。だから、私の宮殿にはさまざまな言葉が飛び交っている。生まれて来る子は当然、母親や乳母や私の言葉を覚えるだろう。誰かが話しかけたのを聞くからな、それを聞いて言葉を覚えるものだ。でも、もし誰も話しかけなかったら、一番初めになんと言うだろうか、いったいどこの国の言葉を話すのだろうか・・・王様はさっそく賢者たちを集めて聞きました。しかし誰一人としてその答を知るものはなく、皆が一様に首をひねるばかりです。そこで、王様はお妃のところに急ぎ駆けつけると、ちょうど産み落とされたばかりの赤ん坊を、必死に拒むお妃から取り上げてしまいました。王様は、その赤ん坊を宮殿の一室で、誰の言葉も聞かせず育てることにしたのです。赤ん坊は誰に話しかけることなく、すくすくと育っていきました。そして、ある日王様は、その赤ん坊を連れて来るように命じました。玉座の間に連れて来られた赤ん坊は、きょろきょろとあたりを見回すのです。勿論、集まった人々は話しかけることを禁じられています。赤ん坊がなんというのか固唾を呑んで見守っているだけでした。そして、赤ん坊は、王様と目が合うと、にこっと笑って一言だけ言いました。「ひ・か・り・あ・れ」こうして、ある王様の世界は終わったのです
2003/11/26
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・・・もう、誰も来ないな・・彼はそう言いながらも、階段を昇って来るものがいないかどうか確かめるため、すぐ下の踊り場まで降りて行った。日の光は変わらず辺りに降り注ぎ、風も変わらず柔らかにそよいでいる。でも、もうこの階段を昇って来るものはいないのだ。どれほど耳を澄ましたところで、いかなる物音も聞こえては来ず、わずかに残っていた気配もとうに消え果てていた。扉のところまで戻ると、彼はもう一度地上に視線を送ってから、静かに扉を閉めた。・・・これで、やっと私の仕事も終わった。預かっていた鍵を取り出して扉の鍵を閉めて、彼はふと思う。・・・そういえば、地獄の方の門番も仕事が終わったのだろうか・・・つぶやいた彼に応えるものは誰もいない。
2003/11/25
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さあ、夢も希望も盛りだくさんの新婚パックの売り出しだよ!もちろん、愛情は袋の口からこぼれんばかり、ほぉら見えるだろうお嬢さん、おっと失礼若奥さんだね、いいねェその笑顔。幸せそのものって笑顔だね、この新婚パックを買って、もっといい笑顔になってよ。愛情も希望もたーんと大サービスで入れてあるよ、手にとってごらん、わかるだろう。ほぉら、あったかくて、やわらかって、気持ちいいだろう。なんたって、他所のとは出来が違うよ。どうしてって、ここだけの話、あきらめもほんのちょっぴりだけ入れてあるんだ。若奥さん、そんな変な顔しなさんな、こいつは、とっても必要なもんだよ。今にわかるさ、そのうちにね。どうしてって、だから、うちの新婚パックは他所のと比べて人気が高いのさ、長持ちするってね。そうそう、今にわかるさ、そのうちにね。もっとも、最近は、あきらめを増やしてくれって客も多くなって来たけど、これも、時代の流れかね~さあぁ、夢も希望も盛りだくさんの新婚パックの売り出しだよぅ!そこの新婚さんも買っていかないかい?
2003/11/24
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僕のお家の裏にはとっても広い空き地があって、僕はずっと僕んちのお庭だと思ってた。だって、学校から帰るとランドセルを置いて、すぐお家からいけるし、誰にもはいっちゃいけないって怒られたことなかったし、はしっこにある水溜りも、秋には綺麗な色になる大きな木も、みんな僕のお庭にあるんだと思っていたんだ。でも、昨日、お家とお庭の間に、僕の背よりも高い金網が張られちゃって、入れなくなったんだ。どうしてって、おかあさんに聞くと、本当は僕のお庭じゃなかったんだって、教えてくれた。誰か他所の人のお庭なんだって・・・ずっと僕が遊んでいたのに、水溜りには縁日にとってきた金魚も放してあったし、秘密基地だって木の上に作ってあったのに、ひどいや。僕のお庭を返してよ。しばらくして、僕のお庭には、どんどんいろんなものが運ばれてきて、大工さんたちもたくさん来て、他所の知らない人のお家を作り始めたんだ。水溜りは埋められちゃったし、秘密基地はどこかに持っていかれちゃったみたい、ひどいよ。僕のお庭だったのに・・ぴかぴか光るお屋根がついた、ソフトクリームみたい色のお家が建った。僕のお家がなんだかくすんで見える、お庭もとっても狭くなっちゃったし、ぜったい許さないよ、僕のお庭をとっちゃった知らない人たち、明日越してくるって、おかあさんが言ってたけど、僕はぜったい会わないからね。僕のお庭に出来ちゃったお家を見ていたら、ソフトクリーム色のお家から女の子が出てきた。あいつが僕のお庭をとったやつだ、僕は思いっきりにらんでやった。泣き出せばいいんだ、あんなやつなんか、そう思ったんだ。でも、女の子はニコニコ笑いながら、僕のそばまで来て、こんにちわ、なんていうんだ。そんな、かわいい声で笑いながら言うなよ。僕が黙っていると、女の子は自分ちのほうを指しながら、・・・あたしンちのお庭に遊びに来ない?って、言ったんだ。僕は、下を向いて、僕ンちのお庭だぞってすごく思ってた。そういってやろうと、女の子を見ると、つけてるレモン色のリボンがゆらゆら揺れてて、なんだかまぶしくって。とっても似合ってた。僕は、・・・うん、ありがとうっ!って言って、握っていたこぶしをゆっくりと開いていった。
2003/11/23
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家族の絆なんて幻想だというやつがいるでも、そんなことはない。俺の家族を見てみろ。いくら俺がギャンブルに狂おうと、他所の女に迷おうと、けして俺から離れはしない。いや、離れさせるものか、お前たちは俺の家族なんだから・・・家族の絆は、ナイロンザイルより固いのだ。そう、だからそれなのに、どうしてお前たち一致団結して、この俺を絆からはずそうとするんだ?ビルの屋上の手すりに掛けた俺の指がはがされていく。親指は女房のじーさんが、人差し指は俺の女房が、中指は一番上の子供が、薬指は二番目の息子が、小指はかわいがっていた娘が、手すりからもぎ取るように、一本一本はがしていく。あぁ、このまま落ちてしまうのか。でも、やっぱり、お前たちは俺の家族。離れはしないぞ、家族の絆は永遠なのだ・・・
2003/11/22
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最初に見たときに、ビビッと来たんだよ。・・・一目ぼれってやつか。なんていったって、もう最高なんだ!・・・えらい入れ込みようじゃないか。そりゃそうさ、長いことかかって、やっと見つけたんだぞ。・・・なんども痛い目を見たしな。こんなステキなのには、もう2度と会えないぞ。・・・確かに素晴らしいよ。でも、大丈夫なのか。この前みたいにものすごく抵抗されるんじゃないか。いや、今度こそ大丈夫だ。やられる気遣いはないさ。・・・どうやっても手に入れる気なのか。ああ、誰にもとられはしない。こんな素晴らしい、見てみろ。前方のスクリーンには、漆黒の闇に瞬く宝石のような青い星がクローズアップされていた。宇宙船の主が、触角上の視覚器官で指し示しているのは、そこに住む生物のひとつが「地球」と呼んでいる星だった。見詰める視覚器官が喜びのあまり細かく震えている。
2003/11/21
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職場の近くの大通りには、レストランやコーヒーショップが建ち並んでいた。お昼時ともなれば、レストランではランチメニューを看板に仕立てて、表に持ち出すのは勿論のこと、出店の弁当屋もどこからともなく集まってきては、かまびつかしく行き交う人たちに声を掛けていた。なんともにぎやかで活気あふれる光景が毎日の様に繰り返されるのを後目に、私はいつもの店へ足を向ける。そこは、チェーン店ではなく昔からの総菜屋なのだが、お昼時だけは弁当を売っていた。総菜自体もパック売りしていて、パンを片手にしたOLなどがよく買っていく姿を見かけた。私の注文はフライ弁当と決まっているのだ、揚げたての季節モノのフライが5本も付いて、それにサラダとお新香と大盛りライスで、450円は安いと思う。支店に移ってきてしばらくは、そこいらのレストランや弁当屋を利用していたのだが、この店を見つけてからは、浮気もせずに、すっかり病み付きになってしまった。最初に店を利用したときに、店のおばちゃんに勧められたのがこのフライ弁当だった。さっくりとした揚げ方といい、いろいろと日替わりで供されるフライ各種には、毎日食べてもちっとも飽きない良さが有る。しかも、それが5本も付いてくるのだ。…おかしいな~、お前に勧められて「フライ弁当」だっけ、食べてみたけどさあ…ある日、職場の同僚が私に不思議そうに言い出した。…確かに、美味しかったよ、でもさ、フライは3本だったぜ!次の日、いつも通りに弁当を注文して、会社の机で開けてみると、やっぱり5本付いていた。デートの時、彼女にその話をすると、何にも言わずに少し眉をひそめただけだった。夢中で彼女に話しかけながら、ふと前から来た誰かに会釈をされた気がして、行き過ぎた人影を追って振り向いた。どこかで見たような後ろ姿だったが、どうしても解らなかった。月曜日、フライ弁当を頼んだときに気が付いた。弁当を詰めるときに向こうをむいたので気が付いたのだ。後ろ姿は店のおばちゃんだった。その日の弁当は、いつもと変わらず美味しかったが、季節モノのフライは3本しか付いていなかった。
2003/11/20
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みんな準備はいいか?こちらは大丈夫だ、そっちはどうだ。もうすっかり整っている、いつでも飛び立てるぞ。あとは待つばかり、期待しよう!なだらかな丘をいくつも連ねた草原に、今、どうおっと風が吹き渡った。いっせいに花軸から放たれたタネたちが、透き通る空一面に広がっていく。元気でな!思い切って、遠くまで行けよ。良い土と水と光を君に!タネたちが、綿毛に陽光をキラキラと受け、笑いさざめきながら、天空を泳いでいく。見上げる私は、いつもどおりの言葉を掛ける。良い風を・・・新しい命に・・・・
2003/11/19
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・・・今、手元には、空になったペットボトルがひとつある。こいつを何に使うのが一番いいだろうか・・・砂でも詰めて砂時計とか・・・それとも重石代わりにするか・・・振り回せばダンベルにもなるな・・・人に当たれば、結構威力がありそうだから、武器とか凶器にもなりそうだ・・・ポピュラーなところで、水を入れれば猫よけ・・・それで凍らせれば、保冷材の代わりにもなりそうだし・・・・そのまま使えば、何でも入りそう・・花瓶てのは平凡か・・・たとえば、貯金箱とか・・・長さ的にはパスタ入れに丁度いいし・・・叩いて楽器、パコパコ・・・少し間抜けな音だが・・・吹いても楽器、スコスコ・・・なかなか鳴らない・・・吊るせば、風鈴にもならないかなぁ・・・あと思い付くのは、電灯の傘とか・・・洗濯機に入れて、汚れ取りにもなるとか聞いた気がするし・・哺乳瓶代わり、赤ん坊のおもちゃのがらがら、ちょっと大きいか・・・忘れちゃいけない、つぶして再利用・・・たくさんあれば、並べていかだにも出来そうなんだが。詰まるところ、手紙でも入れて海に流すのが一番よさそうだな・・・・・・・私は、自問自答を終わらせた。そして、浜辺で拾ったペットボトルを転がしながら、はるか水平線を眺めて、ため息を付いた。今日も船の姿はどこにも見えない・・・
2003/11/18
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・・・えー、皆も知っているとおり、このほど、わが社では、この多様性の時代にあまたあるライバル社に打ち勝つため、能率、効果及び責任を至上とする減点主義を導入することに決定したわけだ。で、あるからして、各部門においては、ローコストで最速の生産性と最高水準の品質を確保すべく、社員一丸となって取り組んで欲しい。この社長の一言で、出来の悪い奴は、ばっさりと切り捨てていく、減点主義がお目見えしたのだ。いくら、時間を掛けて良い製品を作ろうとしても、時間が掛かることが減点対象になる、時間を掛ければ誰でも良い製品は作れるという理屈らしい。勿論、同じ理由で材料に良いものを使おったって、許されるわけもない。なんとまあ、やりがいのない仕事になったものだ。おまけに、自分の仕事について、その日の成果がその日に採点されて、持ち点が発表されると来た始末で、まったくいやになる。ちなみに、各自の持ち点は100点だ。それが、総合点数で各部署ごとにカウントされるという仕組みだ。・・・本日ノ成果ノ発表デス。コンピューターが、メリハリのない機械音でアナウンスする。まったく意気が上がらない社員たちが、ぞろぞろと講堂に集まってきた。講堂の壇上では、社長が部長以下を並べて、不機嫌そうな顔で、手元の紙を見ながら何か言っているようだ。結果を聞くまでもないほど、よほど悪い内容なのだろう。・・・総務部ハ1500点満点中0点デス。営業第1部ハ2500点満点中0点デス。営業第2部ハ2000点満点中0点デス。企画営業部ハ1000点満点中0点デス。カスタマーサービス部ハ4000点満点中0点デス。統括仕入部ハ5000点満点中0点デス・・・・合計デ、30000満点中0点デシタ。会場では、誰ともなく大きなため息がこぼれた。壇上では、真っ赤な顔になった社長は、立ち上がろうとしている。怒鳴られるのを覚悟して皆、下を向いた。コンピューターはまだ何か言っている。・・・結果ヲ元ニ減点ヲ実行シテイキマス。総務部ノ分1500点デス。営業第1部ノ分2500点デス。営業第2部ノ分2000点デス・・・合計デ、30000点ヲ減点終了シマシタ。コンピューターがしゃべり終えると、会場はシンとしたままだった。おそるおそる皆が顔を上げると、目の前の壇上には社長が着ていた洋服が積み重なっているだけで、それから、社長の姿を見た人は誰もいない。
2003/11/17
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・・・ねえ、あなた、私が死んだらどうするの?・・・馬鹿なことを考えるんじゃない、そんなことより早く良くなることを考えろよ。私は、すっかり色艶のなくなった彼女の髪を撫でながら、自分に言い聞かせるように言っていた。その答えは、私にはわかっていたから、勿論彼女も知っていたから。そして、彼女がわかっていることも、私は知っていたから。でも、命の最後の焔を燃やしてこの世にしがみついている哀れな女に、それ以上本当のことを聞かせる意味もない。答えを聞くことなく、彼女は逝った。そして、半年後私は、新しい妻を迎え、新しい暮らしを始めた。・・・あなた、これは?ある日、部屋の片づけをしていた妻が、クローゼットからジグソーパズルの箱を見つけ、私に笑いながら見せた。それは、彼女と暮らしていたときに、よく二人で楽しんだものだった。パズルの絵は「午後の庭園」という名前で、どこかのヨーロッパの貴族の庭だろうか、遠くに森が望める広々とした良く手入れのされた庭で、若い男女が芝生に座り和やかに語らっている構図だった。男は軽く片手をついて、少し体を傾けながら女を見守っている。女は優しい眼差しでそんな男のことを見詰めながら、かぶっている帽子が飛んでいかないように手で押さえてる。私はほんの数ピースを時々はめ込むだけだったが、彼女は、パズルのピースをひとつひとつはめ込んでは造りあげ、出来上がると満足そうにしばらく眺めては崩し、またはめ込んでは崩しと、何度も何度も繰り返し飽きることなくやっていた。・・・あたし、ジグソーパズルって始めてだわ。妻は、そういいながら、楽しそうにパズルをはめ込み始めた。私は手伝おうとはしなかった。数日して、見慣れた絵柄がテーブルの上に広げられていた。・・・ねえ、あなた、どうしても見つからないピースがあるんだけど・・・ほとんど出来上がっているジグソーパズルを見せながら、妻が困ったように私に言った。・・・この男の人と女の人の顔のところがないのよ。確かに、見詰め合っていたはずの男と女の顔のところが、ぽっかりと穴が開いている。・・・箱の中は良く探したけど。妻はそう言うと、とっても幸せそうな絵だから、出来上がったら玄関に飾ろうと思っていたのに、と残念がっていた。・・・ほら、この絵の男の人、なんとなくあなたに雰囲気が似ているでしょう。そういいながらもう一度残念だわ、とため息を付いてジグソーパズルを崩し始めた。・・・あら、あなたどうしたの?妻は、片付けの手を止めて、不思議そうに私を見た。私は、崩されていくパズルを見ながら、思い出していた。彼女の最期を看取ったとき、固く握り締められていた左手のこと、そしてその中に、なにが有ったのかようやく気が付いた。そうして、彼女が亡くなって、初めて涙を流していたのだった。
2003/11/16
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その村に着いたときには、街道の山向こうに日は落ちていた。なだらかな山肌に貼り付くような畑には影が濃く差し込めていて、野良仕事の村人はすっかり帰った後と見えた。どこか、泊まるところを急いで探さなくては・・私は、少しばかりあせりながら足を速めて村の中を歩き出した。見る見るうちに足元は暗くなっていく、鼻をつままれてもわからないくらいの闇となるのは、それほど掛からない。そういえば、今夜は新月だった。足元に目を凝らしていた私の耳に、なにか物音が聞こえて来た。振り向くと、いくつもの提灯の明かりが見え、それとともにざわざわと人の声がした。村人たちだ。私はホッとすると、声を上げながら、明かりに近寄っていった。一夜の宿を請うと、村人たちは互いに見合って少し困ったような顔つきをした。話しながら気が付くと村人は誰もが手に風鈴を掲げていた。提灯を片手に少し体を傾けた様が、まるで掲げた風鈴を私の目から守るように見えた。土間の片隅でもかまわないと重ねて頼むと、人ごみを分けて杖を突いて年寄が出てきた。どういうわけか彼は風鈴を持ってはいない様子であった。年寄は聞き取りづらい声で、ついて来るようにと言ってくれた。私が、お礼をいいながら彼に連れられると同時に、村人たちもまたざわめきながら歩き出し、ちらりとその方角を見ると、すっかり暗くなった村中に、ぽつんと立っている社があった。社には夜目にも鮮やかな幟が何本もはためいていた。年寄は、私に粟粥をふるまってくれた。それと漬物。熱い湯で腹に流し込むと、すっかり落ち着きを取り戻し、私は心からの礼の言葉を宿の主人に述べた。そして、祭りの晩に厄介を掛けてすまないとわびた。さきほどの村人の集まりは村の鎮守のお祭りに違いないと思っていた。主人は相変わらず聞きづらい声で、なんでもないと言った。私が、山越え用にと持って来た、竹筒の酒を懐から取り出して進めると、年寄は酒好きらしく、筒をうれしそうに受け取ると一口含んで、目じりを下げた。酒が進むに連れ、年寄の口はすべりが良くなった。・・・今夜は風鈴さまの日なんじゃ・・ありゃ、幟の立っておったのは風鈴さまの社じゃよ。風鈴さまはなぁ、この村を守ってくれとるえらい神さまなんじゃ、だからみんなでお祭りしておる。祭りの晩には、こうして村人みんなで風鈴をお供えに行くんじゃよ。だから、毎年この村は悪いことは何も起こらずに住んでおる。・・・風鈴さまは、お供えした風鈴がことのほかお気に召すとな、お気に召した風鈴だけ、鳴らしてお喜びなさるんじゃよ。わしらは鳴った風鈴をお供えしたもンをお捧げして、村の平安を祈っておるんじゃ。神さまに呼ばれたのや・・・だから、毎年この村は悪いことは何も起こらずに住んでおる。・・・ひとりもンの村人は風鈴さまの日をせんでもいいことになっておってな、わしんとこは去年ばーさんが死んでしまったで、今年は風鈴をお供えしなくともよくなってなあ、ほら、去年お納めしたのが軒先にかかったままじゃわい。年寄は、酔いが回ったらしく、壁に体を預けてこくりこくりと転寝をし始めた。私は、炉辺の火に灰をかぶせながら、しばらくぼんやりとしていた。ふと軒端を見上げると、チリーン・・・・と、風鈴が鳴る音が聞こえてきた。そして、それまで聞こえていた年寄りの寝息が、パタリと止んだ。
2003/11/15
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ねえ、お願い食べて。食べないと死んじゃうよ。ほら、美味しいから、ねえ、食べてよう。かごの外では、少女が涙を目に浮かべ、両の手を握り締めながら、訴えている。彼女が指し示すところには、ほかほかのパンやら、あぶりたての肉やら、薫り高い果物など、山と積まれているのだ。他の時なら、私だって、涙ながらに頼まれなくても、小さな女の子の言うことなら、聞くだけの余裕はあるつもりだ。他の時なら・・・小さな女の子なら・・・食べないと、駄目だよう。せっかく捕まえたんだから、ねえ、小さな人間さん!かごの中から、見上げると大きな少女は、バケツいっぱいもあろうかと思える涙をぼたぼたと、落としながら、泣いている。俺にだって、意地があるんだ、そんな餌なんか食べるもんか。でも・・・小さな女の子の涙には、弱いんだよな~小さな女の子・・・はあ~
2003/11/14
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レストランの予約はした。夜景が一番良く見える海側の席を押さえてある。ディナーは、シェフお勧めの今月のスペシャルコースをオーダー済み。勿論、プレゼントは、バラの花束を50本と完璧だ。さあぁ、彼女に連絡しよう、待ち合わせはホテルのロビーがいいだろうか・・・と、突然電話がかかってきた。・・・あの女は俺が予約済みだ。そう一言言って電話はプツンと切れた。そして僕は、彼女がその夜、交通事故で亡くなったことを知った。
2003/11/13
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「まだ、彼は来ないのかね。」「ええ、まだ・・・」私の問い掛けに、彼女は首を振った。「いつまで待つのかね、もう君だけでも行かないか?」「いえ、彼を待ちます。」こうして彼女に問い掛けるのは、これで何度目になったことだろうか、聞く前から答えはわかっているのだが、それでも私は聞かずにはいられなかった。唇が切れているのは歯を食いしばったせい、まぶたが瞳に重くかぶさっているのは顔全体が浮腫んでいるせい、ひどく首を絞められたであろう事は、ごつごつとした手形が付いていることで、彼女に聞かなくてもすぐわかるというものだ。手形の後は浅黒く残っている。誰につけられたかも聞くまでもない。私が聞くことは、彼女が船に乗るのか乗らないのかだけ。出航の時間になった。私は、船着場からの声に呼ばれ、船に乗り込みエンジンのスイッチを入れる。笑うなかれ、いまさら手漕ぎという時代でもなかろう。いつもと同じようにダッダッダッダッと規則正しい音がする。岸辺を振り返ると、変わらずに静かにたたずんでいる彼女の後姿が見えた。彼女のために、待ち人が早く来ることを祈るべきなのかどうか、私にはわからない。
2003/11/12
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・・・人を探して欲しいのです。私の事務所に彼女が訪ねて来たのは、窓ガラスに照りつける夏の陽射しが激しさを増した7月終わりごろのことだった。・・・ある日突然行き先も告げずにいなくなった恋人を探して欲しい。依頼人は、柔らかな笑みを浮かべながら、私に探索を願った。行方不明の恋人を探して欲しいと頼む割には。切羽詰った様子ではなく、ましてや笑みを浮かべながらとは、作り笑いというにはあまりにも自然であったし、最初はどうも胡散臭い話だと思った。だから、必要以上に私は事務的な態度で対応した。ついでに法外と思われかねない金額を提示し、適当にあしらってみたのだ。それなのに、彼女は金額に驚くこともなく、静かにうなずくと、一言「どうぞ、よろしくお願いします。」というと、バックから手付金と朱書きされた分厚く膨らんだ封筒を取り出すと机に置き、丁寧にお辞儀をしてから事務所を出て行った。私は半ばあっけにとられ、彼女を見送った。そして、封筒から取り出した真新しい札束を指でさすりながら、少し興奮していた。2,3日は依頼人が記入した書類を眺めて過ごした。行方不明になった恋人の特徴が思いつくままに書いてあるもので、どれほどに彼が優しく頼りになる人物かが、そこにはくどいまでに書き並べてあった。言葉を荒げる事はなかった。いつも穏やかで気遣いをしてくれる人だった。歌がうまかった、おいしいもの好きだった。よく話題の店には連れて行ってくれた。旅行に行くとたくさん土産を買って来てくれた。土産は部屋いっぱいになってしまって、飾るためにわざわざ買った戸棚にみんな置いてある。そして、ある日、約束していた待ち合わせの場所に、彼が来なかった。あの人に限って、自分を裏切ることなど考えられない。何か起こったに違いない。・・・ある日突然行き先も告げずにいなくなった恋人を探して欲しい。彼の写真は添えられていなかった。中肉中背で特に目立つ傷やほくろはないようだった。彼も依頼人も写真嫌いとかで、一枚も写真がない。出身地もわからない、どこに勤めていたのか、通っていた学校すらも知らない。まるで、雲をつかむような話だった。・・・そりゃ、からかわれてるんだよ、それともなきゃ、依頼人の願望じゃないか、恋人が居たっていう、ほら、都会の孤独ってやつさ。いつも調査の時には協力してもらっている友人を、ビアホールに誘って話をすると、やつは大ジョッキをぐいぐいと空けながら、笑い飛ばした。・・・いいじゃないか、報告書をちょいちょいって作って、金をもらえば・・。はやいとこ見つかりませんでしたって、報告するんだね。私は、半分ほど残った黒ビールを見ながら、あいづちを打っていた。唇に残ったビールの泡を拭った苦い味が舌に残って、とても後味が悪かった。詳しい話を聞くため彼女のアパートに行くと、近くの小山からせみの鳴き声が、滝の音のように絶え間なく聞こえていた。なるほど集められていた土産は壮観だった。6畳間に飾り戸棚が3つ、その中に、まるで博物館に来たような気になるぐらい、いろいろな物が所狭しと置かれていた。カラフルな色彩が施された大きな花瓶、やしの実を加工した人形、鳥の羽で出来ていると思われる風変わりな入れ物、身に着けるにはあまりに派手なアクセサリー類はガラスやスパンコールが明かりを反射してきらきらとまばゆく光らせている。部屋の壁にもさまざまの国や地方のポスターが貼られていて、天井からは色とりどりのバナーが下げられていた。彼女は、ひとつひとつの土産物を指し示しながら、これはどこそこのもの、それを送ってくれたときにはこんなことがあった、などと楽しそうに話ながら、私に言った。・・・彼のことを知ってもらうには、これが一番ですから・・・。私は、とりとめのない土産品といつまでも続く彼女の話を聞くうちに、まるで船に酔ったかのような気持ちにさせられた。なんとか、彼の特徴やいなくなったときの様子を聞きだそうとするのだが、依頼人は私の質問に直接答えることはなく、ただ説明するばかりだった。私は、ただうなずきながら聞くばかりだった。・・・これは、今ではなかなか手に入らないものです、それはこういう風に持って吹き鳴らすものなのです。依頼人の少しかすれ気味の声が柔らかく耳に染みとおり、いつしか私は、ずいぶん前からこうしてこの部屋で、彼女の話を聞いていたことがあるような気になっていた。アパートの他の住人は、彼女の部屋の出入りには、ほとんど関心をはらっておらず、手がかりはまったくといっていいほど得られなかった。私が人を探しているとわかると、誰もが好奇心ではじけそうな目つきをするくせに、誰もなにもしゃべろうとはしない、いや、本当になにも知らないのかもしれない。アパートの全部の家を訪ね、私は疲れ果てていた。・・・○○○号室のことで・・・ちかごろなにかございませんでしたか?さぁ、あまりお付き合いをしていないので・・・何かあったのですか?繰り返される問いかけに、私は、こんなにやっかいな人探しは初めてだと感じていた。凝った肩を手で揉み解しながら、友人の言うとおり、さっさと報告書を書いて終わりにしようかと、ふと思ったりもした。よく待ち合わせをしたという喫茶店にも行ってみた。喫茶店は照り返しがきつい駅前広場にあった。敷かれているアスファルトからはゆるゆると熱い蒸気が立ち上っているようだった。店の店員は、つい先週からのアルバイトで、なんの助けにもならなからず、別の店にいるという店長を教えてもらって、いろいろと聞いてみたが、始終アルバイトが入れ替わるとかで、依頼人が来ていた時期に店にいた店員が誰かも良くわからない有様だった。・・・なにしろ、ちかごろのバイトはいい加減でね~店長は書類を書きまわしながら、いかにも面倒くさそうで、できれば私が諦めてくれればいいと思っているに違いない様子だった。ともかくも、何人かの連絡先を教えてもらうことが出来たが、そのほとんどがでたらめで、やっと会えた元店員も、自分が店で働いていたことすら、忘れている始末で、まるで覚えていなかった。こんなに手がかりのない人探しは、初めてだった。私は事務所に戻ると、ため息を付きながら、依頼人に結果を報告するための電話を掛けた。机に向こうに見える事務所の前の並木道が、ほんのりと色付いているのに気が付いた。あぁ、もう秋なんだ、明日報告を聞きに来るという依頼人の声を聞きながら、私はぼんやりととりとめもない思いにとらわれていた。翌日、私は、彼女にこれまで調べた状況を書き込んだ報告書を示し、見つけられなかったことをわびながら、心のどこかで、居もしない人間を探させたのではないかと思い、それがふと出てしまいそうで、何度も言葉を飲み込んだ。・・・見つけられなくて、お気の毒です。(貴女の想像なんでしょう?)力足らずで、申し訳ありません。(報酬はしっかりいただきますよ!)・・・長い間ありがとうございます。もういいのです。おかげで見つかりましたので・・・彼女は、報告を聞き終わると、静かにうなずいた。そして、最初に事務所に現れた時と同じように、柔らかい笑みを浮かべながら、私をじっと見つめた。私は唖然とすると、ぽかんと口を開けて、依頼人を見た。彼女は、もう一度かすかに笑うと、・・・頼りがいがあって、優しくて・・・そして彼女の唇が、続けて・・・・・・あなた・・・と、ささやくのが聞こえた。
2003/11/11
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指きりげんまん、ウソついたらハリセンボン飲~ますぅ!おにいちゃん、優しいおにいちゃん大好き。ねぇねぇ、おにいちゃんずーと優しいよね?ウソついたら・・・被告はふてぶてしい目つきを、裁判官席に投げつけると、促されて立ち上がった。連続婦女暴行犯として起訴され、今日が判決の日であった。終始、反省の色もなく、法廷に臨む態度にも粗暴なものが感じ取られ、彼のこれまでの人生が、すさんだものであったことは想像に難くない。だからといって、罪が許されるものではないのだ。私は、のろのろと立ち上がった彼を見詰めながら、判決を読み上げた。・・・被告に判決を言いわたす主文 無期懲役 検察側の求刑通り・・・(そして、ハリセンボン飲~ますぅ!)被告ははっと顔を上げて、もう一度裁判官席を見上げた。そして、何か小さく声を出したようだった。私は、被告の視線を受け止めて、静かにうなずいた。肩をすぼめて退出していく、被告の背中に、私は小さくつぶやいた。おにいちゃん、ウソついたからハリセンボン飲~ますぅ!
2003/11/10
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確か、いつも通る地下街商店街の片隅、大通りへ通じる階段の踊り場に、証明写真を撮るボックス型の機械が置かれていた。総務に提出する書類に、3ヶ月以内の顔写真を貼る必要があるといわれたのが、急なことで手持ちの写真は無く、どうしようかと悩んでいたところで、思い出したのだ。昼食を兼ねて写真を撮りに行くことにした。地下街は昼時らしく、なかなかに混んでいて、目当てのラーメン屋は入れなかった。ラーメン屋に入れなかったおかげで、どうしようかとしばらく迷って、しかたなく、隣の天丼屋で済ませたものの、味が濃かったらしく喉が渇いてしまい、向かいの喫茶店にコーヒーを飲むことにした。食べ終わって店の外に出ると、ラーメン屋の人の波は途切れているところで、もう少し待てばよかったと後悔した。ふと、壁の時計を見れば、1時を回ろうとしているところ。ゆっくりコーヒーを飲んでいたおかげで、もう少しで写真を撮るのを忘れるところだった。半開きになったカーテンを押し上げて、座席に座わり、説明書きを読む。証明写真ボックスの中は、少しすえたにおいがしていた。座った回転椅子も座席がなんとなくべたついているような気がして、何度もテイッシュで拭いていから腰を落ち着けた。お金を入れ、写真のサイズを指定し、回転椅子の高さを調節し、視線をラインに合せて、スイッチを押す。赤いライトがチカチカと瞬いて、カシャッと音がすると、撮影は終了した。プリントされるまでに少し時間がかかるらしい、表で待っていると、通行人の視線がなんとなく気になって仕方が無い。しかたなく手帳など広げてみたりした。カタンと軽い音がすると、プラスチック製の受け皿に、すっかり切りそろえられて、出来上がった写真が出てきていた。別に気取るわけではないが、まあ、それなりに写真映りは良い方だからと思いながら手に取ると、続けてまたカタンと音がした。見ると、小さな紙が受け皿に落ちていた。そこには、<あなたは、自信過剰でややうぬぼれが高い傾向にあります。また、少々周囲を気にしすぎるたちで、思い込みも激しいようです。そして、計画性のなさには注意が必要です。以上、証明します。>と書かれていた。
2003/11/09
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ほ~ら、にゃんにゃんちゃん、オマエの好きなマグロ味だよ・・・ねえ、美味しいでしょう~オマエがいつまでもかわいい子猫ちゃんでいられるように、いい成分がたくーさんたーくさん、入ってるんだよ。たんとお食べね。おや、どうして、食べないの??げ!あたしのことをなんだと思ってるの。まったく、老化を防ぐ食べ物だって?やめてよ、ほんとうに!いい加減にして!あたしたち猫族は歳を取って立派な化け猫になるのが夢なのに・・・よけいなことはしないでちょうだいよ。
2003/11/08
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第一の男が言う。あの女は俺が殺したはずだ。第二の男が、言葉に力を込めて言う。いや、確かに俺が殺した。第三の男が、首を振りながら言う。なにを言っているんだ、俺こそが殺したに違いない。第四の男が、目を怒らせて言う。お前たちいい加減なことを言うな、俺が殺したのに間違いがないんだ。そして、女が今夜も言う。あぁぁぁ~ん!あたし、死んじゃう!しんじゃうん!
2003/11/07
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そう、今日は通し稽古の日。初めて衣装を着けて、みんなで最初から最後まで、勿論カーテンコールまで演じるのよ。昨日までは、読み合わせだけだった。本当にドキドキする。なんていったって、初めてもらった大役だもの・・・そう、私は人魚姫。王子様に恋をして、切ない想いを抱きながら、この世に涙する清らかな乙女。ああ、本当にドキドキする。衣装はスパンコールで飾られた魚の尾と、貝殻で出来たブラジャーだけ。あああ、この役のために、がんばったわ。せっかくの人魚姫が貧乳じゃあねええ~、こんな風に嫌味を言っていた貴女達が、私のこのすばらしい胸を見て、びっくりするのが、目に浮かぶわ。さあ、いよいよ、出番。波が打ち寄せる岩に座って、金の櫛を使って髪をくしけずるの。この劇の一番の見せ場よ!行くわ~!カットカットカットカットカッーーートおいおい、なんてこったい!三段腹の人魚だなんて、勘弁してくれよ!
2003/11/06
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あ~ら、ターさんいらっしゃい。久しぶり・・・おっ、少し変わったね。・・・しばらくぶりで訪ねたバーは、ママの表情もすっかり変わって、めりはりの効いたものになっていた、それはそれでまあ、いいものだ。ええ、そうなの、おかげさまで新しいお客様もいらして下さるようになったので、少し流行のも入れてみたのよ。これもターさんが紹介してくださったからよ。「まさに、あなた好みのお店です。」なんて、もうどうしましょう・・・いやいや、うちの雑誌に取り上げるぐらいなんでもないさ、商売繁盛いいじゃないか。本当に、ありがとうございます。ささ、お掛けになってちょっとお待ちくださいね、今お出ししますから・・・はい、お待たせ!ママ、それちょっと化粧がきつくないか!・・・俺は、眉をひそめてママに言った。あら、ごめんなさいね、これはターさん用じゃなかったわね。ママは、ちょっと苦笑いをすると、後ろの戸棚から「ターさん用」と書かれたプレートが掛けられているネックホルダーから、別の首を取り出すと、はめていたのをスポッと抜き取って、いつものやつに付け替えると、こちらを向いてぼんやりと笑った。・・・そう、この少しけだるい表情が俺好みなんだ。
2003/11/05
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おじいさんが裏山で拾ってきた子供は、かぐや姫と名づけられ、大事に育てられていた。かぐや姫を見つけた前後に、おかしなことがいくつか起こったのは事実だ。地の底から轟くような音を聞いた者、天まで届くような火柱を見た者も居た。村の共同の倉庫からねずみが群れを成して逃げていくのを見たと言う者も居た。そのねずみを追いかけて、何か大きなモノが村中を駆け巡っていたという者も居た。拾って来た時の様子を、おじいさんは言葉少なにしか語らなかった。竹やぶの中で・・・一本だけ光った太い竹が在って・・・それを割ってみると・・・・何を言っているのか、よくはわからなかった。でも、誰も、何も言わなかった。拾われてきたかぐや姫が、とてもかわいらしい子供だったから。人見知りもせずこちらに小さな手足を伸ばして笑いかけてくる様に、顔がほころばない者は無かった。いたずらで口に指をくわえさせた村の若者が、すっかり生え揃った歯に指の先を噛み千切られても、驚く者は誰もいなかった。むしろ、いたずらの当然の報いと、痛さの余り声も出せずに苦しんでいる若者に同情する者もいなかったぐらいだ。かぐや姫は大事に大事に育てられていた。おじいさんとおばあさんは、もともと村一番の分限者であったから、手に入らぬものはなかった。かぐや姫の欲しいものはなんでも与えることが出来たのだ。そして、年頃になったかぐや姫に、おじいさんとおばあさんは、好い殿方を娶わせようと思った。本当は、かぐや姫のほうから、欲しいと言い出したことだったのだが、そこはそれ、村のお祭り場に掲げられた掲示板には、それには触れず、ただお見合いをするので希望者は、体を清めていついつに、かぐや姫の住まう館まで来るようにと書かれているだけだった。村一番の力自慢がまず名乗りを上げた。かぐや姫は一番奥の座敷で待っていた。力自慢は、かぐや姫が待っている座敷に通されると、力自慢らしく威勢良くどっかと座った。かぐや姫は彼に嬉しそうに笑いかけると、おじいさんとおばあさんに出て行くようにと促した。おじいさんとおばあさんは、黙ってぴたりと扉を閉め出て行き、隣の部屋で固唾を呑んで様子を伺っていた。うおぉ!とかあぁ!とか、言う声が2度ほどした後は、しんと静まりかえった部屋の扉が、しばらくしてスルスルッと開かれると、オジイサマ オバアサマ コンドハモット ヤワラカイオニクガ イイワ部屋から出てきたかぐや姫は、こう言って少し汚れた口の周りを、3枚の長い舌でペロリと舐めあげるのだった。
2003/11/04
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「あたしってくじ運がいいのよね。また当たっちゃったわ!」うちの奴は、景品として送られてきた万華鏡の3点セットを箱から取り出しながら、得意そうに俺に言った。なにしろ、一ヶ月に500通は懸賞葉書を出しているのだから、数打てば当たると言うとおり、くじ運もなにも無いと思うのだが・・・彼女は、連続テレビの主題歌をハミングしながら万華鏡をサイドボードの上に並べ、こちらを振り返るといかにも得意そうに腰に手を当てると胸をそらして、「見て!」と言った。確かに壮観な眺めかもしれない。万華鏡の隣のアンチックな置時計もガラスの花瓶も勿論生けられている花も、それからいろいろ並べられているサイドボードも、その中に飾られている世界の人形も、サイドボードが置かれている床のカーベットも、壁に立てかけてあるカーペット専用のブラシも、ようは部屋の中のほとんどが、懸賞で当てたものなんだから・・・・ほとんどというのは、つまり違うのは、景品じゃないのはうちの奴と俺ぐらいってこと。ビー!ビー!呼び鈴が鳴っている。万華鏡の位置を直しているうちの奴に「あなたお願い!」と言われて、出てみると、両手で抱えられるぐらいの小包だった。また、どこからかの景品だろう。箱中に[壊れ物][取り扱い注意]と赤いシールがベタベタ貼られている。忙しそうな彼女に俺が開けると声をかけ、ガムテープをはがしてフタを取ると、中に詰められていたクッション材をとりだした、とうわあああ~これはなんだあああああ!「あら、当たったのね!やったわ。」うちの奴は俺から、箱を取り上げると、中に入っていた赤ん坊を取り出すと、頬すりしながらうれしそうに言った。「これ、欲しかったのよね!あたしって本当にくじ運いいんだから・・・」うーんうーんうーん・・うわ!ソファーでうたた寝をしていたらしい。目が覚めると、俺の横ではうちの奴が、今日もまたセッセと、懸賞葉書を書いているところだった。
2003/11/03
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・・・あたしの生まれた国ではね、行きたいところには、自分の足で歩いて行かなくても、そこまで運んでくれるものがあった。水の中だって、それに空だって飛ぶことが出来た。ある日、浜辺に打ち上げられていた男は、ようやく起きられるようになると、毎日のように、自分が助けられた浜辺に膝を抱えて座り込み、ぼんやりと遠く海のかなたを見ていた。そして、話しかけられるたびに、なんとも不思議な話をした。最初は得意そうに、そして最後には必ず涙を流しながら話し終わるのだった。・・・あたしの生まれた国はね、とても強かった。どんな国にだって負けなかった。いくら強い敵が攻めてきても必ずやっつけた。たくさんの兵士が国を守っていた。いろいろな武器が周りの国に恐れられていた。だから、けして負けたことは無かった。・・・あたしの国には、美味しい食べ物も綺麗な水も湧き出していて、どこまでも豊かだった。だから、あたしの国を負かそうと、あたしの国から何もかも奪おうと、周りの国はどんどん強くなっていった。・・・たくさんの強い兵士にはもっとたくさんの強い兵士を、威力のある武器にはもっと威力のある武器を、あたしの国はますます強くなった。周りの国もどんどん強くなった。そしてあの日・・・男はここで必ず目を潤ませると、顔を膝に埋めて、肩を震わせ始めるのだった。そして、繰り返される嗚咽の声が、浜辺に打ち寄せる波の音と混じって、いつまでも聞こえていた。・・・あなたのお国は一体どうなったのですか?男は寂しそうに笑って、はるかかなたを指差した。男が指差した先は、茫々たる大海原がひろがっているだけ、そんなところに住む人などありはしないのに・・・・あの火柱が空高く届いた日の後、このしょっぱい水の先は、地の底に流れ落ちるすごい滝になったのだから・・・
2003/11/02
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昔昔あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。おじいさんが山で柴刈りをしていると、巡回していた動物愛護団体(無認可)が、山の生態系を著しく阻害する行為であるから、今すぐにやめるようにと詰め寄って来ました。おばあさんが川で洗濯をしていると、観察を続けていた自然保護団体(自称)が、それは川の自然を乱す行為であるからと、こんこんと説得を始めました。いくらおじいさんが、程々な伐採が樹木の生育には欠かせないと訴えても、いくらおばあさんが自然に優しい成分の洗剤しか使っていないと説明しても、誰も言うことは聞いてくれません。それどころか、おじいさんとおばあさんのしていることが、どれほど罪悪であることかと、まるで最初から罪人のような扱いでした。しかたなく、おじいさんは山で柴刈りをするのをやめました。しょうがなく、おばあさんも川で洗濯をするのをやめました。それから、おじいさんとおばあさんは家にずっといます。だから、桃太郎のことは誰も知らないのです。
2003/11/01
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